※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。
【技術論】「整数問題」はセンスではない。上位層がやっている「捜査網(ドラグネット)」の張り方(Case: 大阪数学C問題)
序論:「あてずっぽう」という名の敗着
「整数問題は苦手だ。数字のセンスがないから」
そう嘆く受験生は多い。彼らは問題を前にして、$x = 1, 2, 3 \dots$ と適当な数字を代入し、「見つかった」「見つからない」という運試しに時間を溶かす。
断言する。それは数学ではない。ただのギャンブルである。
難関校の整数問題は「ひらめき」を問うものではない。
曖昧な日本語の条件を数式に翻訳し、候補を狭め、逃げ場を物理的に消して確保する作業である。
これが本稿で言う「捜査網(ドラグネット)」だ。
今回は、大阪府公立入試・数学C問題の良問(2024年度)を題材に、運に頼らず正解をもぎ取るための「3つの手順」を示す。
1. 失敗するアプローチ(2024年の事例)
まず、典型的な「解けない思考」を確認する。
3桁の自然数 $a$ と、その百の位と十の位を入れ替えた数 $b$ がある。
$\sqrt{\frac{a-b}{2}}$ が自然数となり、かつ各位の数の和が20となる $a$ をすべて求めよ。
センス頼みの受験生は、ここで「和が20になる3桁の数」を思いつきでリストアップし始める。
「983ならどうだ?」「875は?」……。
これは時間を浪費するだけで、正解に近づく保証がどこにもない。
必要なのは偶然ではなく、必然である。
2. 再現可能なアルゴリズム:3つの鉄則
難関校の整数処理は、次の3ステップに集約される。
- 【定義】 日本語を「文字式」に翻訳する
- 【変形】 構造が見える形(因数分解・素因数)にする
- 【捜査】 変域で絞り込み、候補を確保する
3. 実演(2024):ドラグネットで“逃げ場”を消す
このアルゴリズム通りに手を動かせば、誰でも自動的に正解へ到達できる。
Step 1:【定義】文字で置く
百の位を $x$、十の位を $y$、一の位を $z$ と置く。
$$a = 100x + 10y + z$$
$$b = 100y + 10x + z$$
これが出発点である。
Step 2:【変形】構造をあぶり出す
まず中身の計算を行う。
$$a – b = 90x – 90y = 90(x – y)$$
よって、問題の式は次のように変形できる。
$$\sqrt{\frac{a-b}{2}} = \sqrt{\frac{90(x-y)}{2}} = \sqrt{45(x-y)} = 3\sqrt{5(x-y)}$$
ここで景色が変わる。これが自然数になるためには、ルートの中身が平方数でなければならない。
$5$ は素数なので、ペアを作るために $5(x-y)$ にはもう一つ $5$ が必要である。
したがって、
$$x – y = 5 \times t^2 \quad (t \text{は自然数})$$
が必要条件となる。
なお、結果が自然数である以上、中身は正の数でなければならないため、$a > b \Rightarrow x > y$($x-y$ は0ではない)ことも確定する。
Step 3:【捜査】変域で“確保”する
ここから包囲網を狭める。
$x, y$ は1桁の自然数なので、その差は最大でも $9$ ($9-0$) である。
$$1 \leqq x – y \leqq 9$$
候補となる $x – y = 5 \times t^2$ のうち、この範囲に収まるものは?
- $t = 1$ のとき: $x – y = 5$ (OK)
- $t = 2$ のとき: $x – y = 5 \times 4 = 20$ (範囲外・即死)
よって、$x – y = 5$ という事実が確定する。
あとは、もう一つの条件「各位の和が20 ($x + y + z = 20$)」と連立するだけだ。
$x = y + 5$ を代入して、
$$(y+5) + y + z = 20 \Rightarrow 2y + z = 15$$
$y$(十の位)に数字を入れ、$z$(一の位)が1桁(0〜9)になるものを探す。
- $y = 3 \Rightarrow z = 9$ (OK) $\rightarrow x = 8 \Rightarrow a = 839$
- $y = 4 \Rightarrow z = 7$ (OK) $\rightarrow x = 9 \Rightarrow a = 947$
- $y = 5 \Rightarrow z = 5$ (OK?) $\rightarrow x = 10$ ($x$は1桁なので不適)
以上より、答えは 839, 947 の2つに定まる。
ここに、ひらめきの入り込む余地はない。
4. もう一段上げるコツ:「偶数」を式で固定する
もう一つ、頻出パターンを紹介する。
今回の応用として、「平方根が偶数になる」という条件が出題されることもある。
その場合は、「平方根が整数になる条件」で絞り込んだ後、さらに結果を $= 2m$(偶数)と置くことで、係数の因数(2の倍数など)を特定する二段構えの捜査が有効である。
結論:数学は「言語」である
整数問題で起きていることは、計算ではない。翻訳である。
曖昧な日本語条件(3桁、入れ替え、偶数…)を、厳密な数式という言語に翻訳できれば、候補は勝手に狭まり、答えは向こうから歩いてくる。
もしまだ「適当な数字を入れて祈る」運用をしているなら、即座に改めるべきだ。
その姿勢こそが、入試当日における最大のリスク要因なのだから。

コメント