【思考論】計算用紙を黒くするな。「グラフの概形(ビジュアライズ)」で見れば、その問題は1秒で解ける。(Case: 大阪数学C問題)

※本記事は、客観的分析のため『だ・である調』で統一しています。

目次

序論:「計算」は最後の手段である

「数学=計算」だと思っている受験生は多い。

彼らは問題を見た瞬間、反射的に鉛筆を走らせ、計算用紙を真っ黒に塗りつぶす。そして、「計算ミスで落ちた」と言い訳をする。

断言する。計算ミスをするのは、計算しすぎだからだ。

難関校の入試、特に関数分野において、上位層は「計算」から入らない。

彼らは式の形から「グラフの概形(ビジュアライズ)」を脳内に投影し、視覚情報として解の当たりをつけている。

計算(代数処理)は、最後の最後に数値を確定させるための「確認作業」に過ぎない。

今回は、大阪府公立入試・数学C問題のデータを用い、「計算を捨てる勇気」がもたらす圧倒的な速度差について解説する。


1. 計算できない問題(2016年の事例)

まず、「計算力」が通用しない問題を提示する。

問題の概要(2016 大阪C 大問1-4)

図のような、直線 $m: ax+by=1$、放物線 $l: y=cx^2$、双曲線 $n: y=\frac{d}{x}$ のグラフがある。

このとき、係数 $a, b, c, d$ の符号(正・負)の組み合わせとして正しいものを選べ。

この問題には、具体的な数値が一切与えられていない。

したがって、計算で解くことは物理的に不可能である。

ここで問われているのは、「数式という言語」から「グラフという形状」を瞬時に変換する「定義の理解度」である。

「視る」だけで解くプロセス

上位層の脳内処理は、以下の「入力→変換→出力」のプロセスを辿る。計算用紙は使わない。

  • 放物線 $y=cx^2$ を見る
    • 【入力】グラフが上に開いている
    • 【出力】$c > 0$ (確定)
  • 双曲線 $y=\frac{d}{x}$ を見る
    • 【入力】グラフが第2・第4象限にある
    • 【出力】$d < 0$ (確定)
  • 直線 $ax+by=1$ を見る
    • 【変換】式を $y = -\frac{a}{b}x + \frac{1}{b}$ とみなす
    • 【入力】y切片がプラス(上側にある)
    • 【出力】$\frac{1}{b} > 0$ つまり $b > 0$ (確定)
    • 【入力】傾きがマイナス(右下がりである)
    • 【出力】$-\frac{a}{b} < 0$。$b$ はプラスなので、$a$ もプラスでなければならない。 $a > 0$ (確定)

所要時間は約10秒。

これを「aがプラスだから…」と文字式だけでこねくり回そうとするから、時間がかかり、混乱する。

2. 泥沼にはまるアプローチ(2023年の事例)

次に、計算でも解けるが、計算で解くと「落とし穴」にはまる問題を見る。

問題の概要(2023 大阪C 大問1-4)

関数 $y=ax^2$ と $y=bx+1$ について、$x$ の変域が $-2 \leqq x \leqq 1$ のとき、$y$ の変域が一致する。

このとき、定数 $a, b$ の値を求めよ。

「反射的計算」を行う受験生は、こう考える。

「端っこの $x=-2$ と $x=1$ を代入して、連立方程式だ!」

これが地雷である。

2次関数 $y=ax^2$ は、原点を通るため変域の端が単純な代入では決まらない。さらに、1次関数 $y=bx+1$ の傾き $b$ がプラスかマイナスかも不明だ。

結果、場合分けの計算地獄に陥り、解の一つを見落とすことになる。

「箱」を描けば、解は2つ見える

この問題を解くのに必要なのは、計算力ではない。「グラフの箱(フレーム)」を描く力だ。

Step 1:2次関数の「箱」を作る

$x$ が $-2$ から $1$ まで動くとき、$y=ax^2$ ($a>0$) は原点 $0$ をまたぐ。

最小値は必ず $0$。最大値は原点から遠い $x=-2$ のときなので $4a$。

よって、$y$ の変域(箱の高さ)は $0 \leqq y \leqq 4a$ で確定する。

Step 2:直線の「傾き」を2通りイメージする

1次関数 $y=bx+1$ も、この箱($0 \leqq y \leqq 4a$)に収まらなければならない。

切片は $+1$ で固定されている。ここから「最小値 0」を作るには、グラフはどう伸びるべきか?

ここで脳内に2本の直線を走らせる。

  • (i) 右上がりの場合 ($b>0$)$x=-2$ で最小値 $0$ をとるはずだ。$$0 = -2b + 1 \Rightarrow b = \frac{1}{2}$$このとき最大値は $x=1$ で $4a$ となるので、$$b(1) + 1 = 4a \Rightarrow \frac{1}{2} + 1 = 4a \Rightarrow a = \frac{3}{8}$$
  • (ii) 右下がりの場合 ($b<0$)$x=1$ で最小値 $0$ をとるはずだ。$$0 = b(1) + 1 \Rightarrow b = -1$$このとき最大値は $x=-2$ で $4a$ となるので、$$-2(-1) + 1 = 4a \Rightarrow 3 = 4a \Rightarrow a = \frac{3}{4}$$

計算自体は暗算レベルだ。

しかし、「右上がり」と「右下がり」の2つの可能性が見えていなければ、正解( $(a, b) = (\frac{3}{8}, \frac{1}{2}), (\frac{3}{4}, -1)$ )を完答することはできない。

結論:脳を動かしてから、手を動かせ

入試数学において、計算用紙が真っ黒になることは「努力の証」ではない。「効率の悪さの証明」である。

式を見たら、反射的に計算を始めるのをやめろ。

ペンを置き、目を閉じて、その式が描く「放物線の開き具合」や「直線の傾き」を脳内にスクリーンショットとして映し出すのだ。

「概形(ビジュアライズ)」が見えた瞬間、複雑に見えた関数問題は、驚くほど単純な図形問題へと姿を変える。

その快感を知った時、君の数学力は「計算マシーン」から「分析官」のレベルへと進化するだろう。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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