導入:知的な枠組みと記事の分析軸
評論文における「二項対立」を読み解く際、一方を「旧弊・悪」、もう一方を「刷新・善」といった単純な図式に還元してしまうと、高度な論説文が持つ真の論理展開を見落としやすい。とくに現代の臨床心理学や精神医学の思想的展開を扱う文章では、ある枠組みを一方的に退けて別の枠組みを礼賛するのではなく、それぞれの臨床的機能を見極めたうえで、両者の要素がどのように関係づけられているかを客観的に追跡する視座が求められる。
2026年度の東京大学前期日程・国語第1問で出題された松本卓也『斜めの論 空間の病理学』は、フロイト以来の「精神分析」とフィンランド発祥の「オープンダイアローグ」という二つの治療的アプローチを、単なる技法の違いにとどまらず、臨床現場における「空間配置(関係性の幾何学)」と人間の内面的変容との関わりという視座から論じた文章である。
本文を読み解く最大の軸となるのは、「水平」と「垂直」という概念が持つ多層的な機能である。
- 第1の次元(対人関係の力学):対等・平等な関係(水平) ↔ 権威と服従・反抗/超越者と主体(垂直)
- 第2の次元(臨床空間の規模):分析家と患者の二者関係(垂直) ↔ 多様な関係者が集う車座の多数者関係(水平)
- 第3の次元(対話の方向性):参加者間の外的なコミュニケーション(水平) ↔ 個人の内部で生じる「内なる声」との向き合い(垂直)
筆者は、精神分析が持つ「垂直性(寝椅子と背面椅子の配置による権威化)」の治療的意義を客観的に跡づけたうえで、オープンダイアローグにおける「水平的な多声(ポリフォニー)」の特徴を対置している。しかし議論はそこで終わらない。オープンダイアローグの臨床空間においても、「リフレクティング」という技法を通じて、個人の内部に「垂直的な対話」が弱毒化された形で生じ、水平的な対話と垂直的な対話が協同して個人の変容を促すという結論へと至る。
東京大学の記述設問では、傍線部の直前直後を切り取るだけでは十全な解答とならず、文章全体の論理的連鎖を俯瞰したうえで、因果関係や対比関係を過不足なく構文化する力が求められる。本稿では、各設問の要求を分解し、初見でも再現可能な客観的思考手順を提示する。
『斜めの論 空間の病理学』(松本卓也)の要約と論理構造
本文は、臨床空間における物理的配置の分析から、患者の内面に生じる心理的力学、そして二つの対話形式の統合へと、論点を深めながら次の4段階で展開している。
- 第1段階:精神分析における「水平」から「垂直」への転換(4〜5ページ)日常的な対人関係は、対等に向き合う「水平的」なものである。しかし精神分析の創始者フロイトは、患者を寝椅子(カウチ)に横たわらせ、治療者はその傍らに座るという背面椅子の空間配置を採用した。患者が寝椅子に横たわり、分析家がその背後に位置することで、患者は分析家を自分の「頭上」にいるような権威的存在(超越者)として経験する。本来対等であるはずの関係が「人工的な垂直的関係」へと作り変えられ、幼少期の養育者との関係を再現する「転移」や「退行」が生じやすくなる。
- 第2段階:精神分析の治療原理――超自我の同定と像の更新(5〜6ページ冒頭)精神分析では、この垂直的関係を治療の原動力として用いる。患者は分析家を、自己を上から規制する「超自我」として同定し、分析家の解釈を受ける。このプロセスを通じて、幼少期に形成された抑圧的な超自我像が「より抑圧的でないもの」へと更新され、その超自我との関係の中で患者の自我もまた根底から変化する。
- 第3段階:オープンダイアローグにおける「水平的な多声(ポリフォニー)」(6〜7ページ中段)一方、オープンダイアローグでは、患者・家族・親戚・医師・看護師・心理士らが車座になって座り、すべての参加者に平等な発言の機会と権利が与えられる。分析家が一人で解釈を下す垂直的二者関係とは異なり、患者の語りを頭ごなしに否定せず、他者が新たな語りを付け加えていく。こうして、患者一人の閉じた語り(独語的モノフォニー)は解体され、多様な声が互いに響き合い並存する「ポリフォニー」が成立する。
- 第4段階:垂直性の再導入と「ふたつの対話の協同」(7ページ下段〜8ページ)しかしオープンダイアローグは、単なる水平関係の導入にとどまらない。専門家同士が患者の目の前で顔を見合わせて話し合う「リフレクティング」という技法によって、若干の垂直的な契機が再導入される。患者は直接の応答プレッシャーから解放され、専門家の会話を聞きながら、自己の内部に生じる声と向き合う「垂直のダイアローグ」を開始する。このとき、周囲を取り巻く多数者の「水平的ダイアローグ」が存在することによって、内部の垂直的な声が一つの絶対的・超越的な権威となって個人を支配することが抑えられる。水平と垂直という「ふたつの対話の協同」こそが、個人の変容を引き起こすのである。
本文を貫く「水平」と「垂直」の対比構造表
| 比較項目 | 精神分析(第1〜2段階) | オープンダイアローグ(第3〜4段階) |
| 臨床空間の配置 | 寝椅子と背面椅子(患者が横たわり、分析家がその背後に座る)。 | 車座(患者・家族・専門家が対等に円環状に座る)。 |
| 人間関係の構造 | 分析家と患者の「二者関係」。 | 多様な関係者が集う「多数者(ネットワーク)の関係」。 |
| 空間性の基本的特徴 | 本来対等な関係を**「人工的な垂直的関係」**へ作り変える。 | 権力関係を排した**「水平的な関係」**を基盤とする。 |
| 発言・語りの性質 | 分析家の解釈を通じて超自我像を更新する。 | 参加者全員に平等な発言機会があり、語りを付加し合う(ポリフォニー)。 |
| 変化の力学(メカニズム) | 分析家を「超自我」と同定し、解釈を通じて超自我像を更新する。 | 水平的な他者との対話が、個人内部の「垂直的な対話」を触発する。 |
| 「垂直性」の位置づけ | 治療の中心的な原動力として直接用いる。 | リフレクティングにより**「弱毒化された形」**で再導入される。 |
| 最終的な変容の契機 | 超自我との関係の変化によって、自我の変容を促す。 | 「水平的ダイアローグ」と「内なる垂直的ダイアローグ」の協同による。 |
全問解答一覧
| 設問 | 正答・解答骨格 | 形式・条件 |
| (一) | 本来対等な分析家と患者の関係を、寝椅子の配置によって、分析家を権威ある上位者とし、患者に服従や反抗を生じさせる関係へ変えること。 | 記述説明(傍線部アの内容説明・64字) |
| (二) | 分析家を超自我として体験し、その解釈を受けることで、幼少期に形成された抑圧的な超自我像をより抑圧的でないものへ更新し、それとの関係の中で自我も変化できるから。 | 記述説明(傍線部イの理由説明・79字) |
| (三) | 患者を含むすべての参加者に平等な発言機会が与えられ、患者の語りに他者の新たな語りが加わって、多様な声が互いに響き合いながら並存すること。 | 記述説明(傍線部ウの内容説明・68字) |
| (四) | 精神分析では分析家を超自我とする垂直的な二者関係を変化の原動力とするが、オープンダイアローグでは、多数者の水平的な対話によって権威的な内なる声を弱めつつ、その内なる声との垂直的な対話を生じさせ、両者の協同によって個人の変容を促すこと。 | 記述説明(本文全体の趣旨を踏まえて100字以上120字以内・117字) |
| (五) | a 変貌 b 親戚 c 幻覚 | 漢字書き取り(3問) |
【第1問】各設問の解答解説と思考手順
(一)傍線部アの内容説明(空間配置と力関係の転換)
- 手順1(設問要求)傍線部ア「人間どうしのごくふつうの水平的関係を人工的な垂直的関係へと作りかえている」とはどういうことか、内容を説明する。 物理的な姿勢の描写にとどまらず、それが「どのような人間関係の質的変化」を意味するのかを過不足なく言語化する必要がある。
- 手順2(根拠範囲の探索)傍線部アの前後の記述を確認する。
- 直前:「精神分析が、汝と我(お前と俺)という、それなりに対等な――空間的に表現すれば『水平的』な――関係ではなく、〈他者〉と主体という権威とそれに対する服従ないし反抗が生じやすい『垂直的』な関係を、治療のための原動力として用いていることを意味する。」
- 傍線部直前:「分析家のオフィスで寝椅子に横になることは、『横』になってリラックスできるというよりも、むしろ本来ならば『横』にいるはずの分析家という他者を自分の『頭上』にいるようにすることにほかならない。」
- 直後:「このことは当然、精神分析の過程で生じることにも関わってくる。たとえば、転移……のことを考えてみるとよいだろう。」
- 手順3(論理整理:対比と機能の言語化)
- 【水平的関係の具体化】:汝と我という、日常的で本来「対等な」関係。
- 【転換の手段】:患者が寝椅子に横たわり、分析家がその背後に位置する空間配置。
- 【垂直的関係の具体化】:分析家を権威ある「上位者(超越者)」とし、患者側に「服従や反抗」といった感情(転移)を生じさせる上下関係。
- 手順4(答案の構成と字数調整)「本来対等な関係を」「寝椅子の配置によって」「分析家を権威ある上位者とし、患者に服従や反抗を生じさせる関係へ変えること」という要素を合成する。
- 答案例:本来対等な分析家と患者の関係を、寝椅子の配置によって、分析家を権威ある上位者とし、患者に服従や反抗を生じさせる関係へ変えること。(64字)
- 結論正答例:本来対等な分析家と患者の関係を、寝椅子の配置によって、分析家を権威ある上位者とし、患者に服従や反抗を生じさせる関係へ変えること。(64字)
(二)傍線部イの理由説明(超自我の更新による自我の変容)
- 手順1(設問要求)傍線部イ「分析家を、垂直方向における『上』に存在する他者(=超自我)として同定することによってはじめて、自らが根底的に変化する可能性を得る」について、「それはなぜか」という理由を説明する。
- 手順2(根拠範囲の探索)傍線部の直前にある精神分析家ストレイチーの治療原理の説明を確認する。
- 「ジェームズ・ストレイチー……に従うならば、精神分析の治療原理は、患者が、分析家を厳しい超自我(これは患者の幼少期における養育者の権威的な像に由来するとされる)として体験することに始まり、」
- 「超自我と同一視された分析家が患者に対して解釈を行うことによって、患者が徐々に過去に形作られた超自我のイメージをより抑圧的でないものへと更新することによって終わると考えられている。」
- 傍線部直後:「精神分析において、寝椅子に横たわった患者の自我は、本来であれば水平的な他者(=隣人)であるはずの分析家を、垂直方向における『上』に存在する他者(=超自我)として同定することによってはじめて、自らが根底的に変化する可能性を得るのである。」
- 手順3(論理整理:因果連鎖の抽出)なぜ超自我と同定することで自我が変化するのか。本文の論理連鎖を整理する。
- 患者は分析家を、幼少期に由来する権威的・抑圧的な「超自我」として体験する。
- その分析家から「解釈」を受ける。
- それにより、過去に固定化された抑圧的な超自我のイメージが「より抑圧的でないもの」へと更新される。
- 自我は超自我との関係の中で成立しているため、超自我像が更新されることで、自我自身も根底から変容することが可能になる。
- 手順4(答案の構成と推敲)「分析家を超自我として体験し、その解釈を受けることで、幼少期の抑圧的な超自我像をより抑圧的でないものへ更新し、それとの関係の中で自我も変化できるから」という因果関係を一文にまとめる。
- 答案例:分析家を超自我として体験し、その解釈を受けることで、幼少期に形成された抑圧的な超自我像をより抑圧的でないものへ更新し、それとの関係の中で自我も変化できるから。(79字)
- 結論正答例:分析家を超自我として体験し、その解釈を受けることで、幼少期に形成された抑圧的な超自我像をより抑圧的でないものへ更新し、それとの関係の中で自我も変化できるから。(79字)
(三)傍線部ウの内容説明(モノフォニーからポリフォニーへの転換)
- 手順1(設問要求)傍線部ウ「多数の声が響きあうポリフォニーになる」とはどういうことか、内容を説明する。本文の具体的な対話のあり方へと換言する。
- 手順2(根拠範囲の探索)傍線部ウの直前におけるオープンダイアローグの説明を精査する。
- 「すべての参加者に平等に発言の機会と権利が与えられ、医師などの専門家の発言に患者や家族が従わなければならないということは一切ない。」
- 「患者はゲンカクや妄想などの病的体験について話すことになるが、その病的体験は他の参加者によって頭ごなしに否定されることはなく、むしろそこに他の参加者が新たな語りを付け加えていくことになる。」
- 「こうして、ミーティングの語りは、患者の独語的モノフォニーではなく、多数の声が響きあうポリフォニーになる。」
- 手順3(論理整理:対比と構成要素の抽出)
- 【対比される概念】:患者の「独語的モノフォニー(孤立し、閉じた一人の語り)」。
- 【ポリフォニーの成立要件】:
- 患者を含む全参加者に「平等な発言の機会と権利」が与えられていること。
- 患者の語りを否定・排除せず、他者が「新たな語りを付け加える」こと。
- 単一の声に支配されることなく、「多様な声が互いに響き合いながら並存・共存する」こと。
- 手順4(答案の構成と推敲)本文は「平等に発言の機会と権利が与えられ」と述べているため、「全員が実際に発言する」と断定するのではなく、「平等な発言機会が与えられ」として正確にまとめる。
- 答案例:患者を含むすべての参加者に平等な発言機会が与えられ、患者の語りに他者の新たな語りが加わって、多様な声が互いに響き合いながら並存すること。(68字)
- 結論正答例:患者を含むすべての参加者に平等な発言機会が与えられ、患者の語りに他者の新たな語りが加わって、多様な声が互いに響き合いながら並存すること。(68字)
(四)全体趣旨を踏まえた要約記述(二つの対話の協同と個人の変容)
- 手順1(設問要求と条件確認)傍線部エ「このふたつの対話の協同こそが重要なのである」とはどういうことか、「本文全体の趣旨を踏まえて」100字以上120字以内で説明する(句読点も1字に数える)。 「ふたつの対話」の内容を特定するだけでなく、本文全体の骨格である「精神分析における垂直的な二者関係」および「オープンダイアローグが個人の変容を促すメカニズム」を統合して記述する。
- 手順2(根拠範囲の探索:指示内容と全体論理の照合)
- 「ふたつの対話」の定義(7ページ):
- 「すべての参加者のあいだで行われる『水平のダイアローグ』」
- 「それによって触発された個人の内部での『垂直のダイアローグ』」
- なぜ「協同」なのか(7〜8ページ):
- リフレクティングにより、専門家の会話を聞く患者の内面に「内なる声との対話(垂直性)」が生じる。
- 一方で、その内なる声が「超越的な権威」となって個人を支配しないよう、「水平方向のダイアローグを用いること」が「抑え」として機能する。
- 本文全体の趣旨との連動(4〜6ページ):
- 精神分析:分析家を超自我とする「垂直的な二者関係」によって変容を促す。
- オープンダイアローグ:多数者の「水平的関係」を基盤としつつ、内部の「垂直的対話」を生じさせ、権威化を抑えながら個人の変容を促す。
- 「ふたつの対話」の定義(7ページ):
- 手順3(答案に必要な構成要素の分解)
- 【要素①:精神分析のあり方】:分析家を超自我とする垂直的な二者関係を変化の原動力とする。
- 【要素②:オープンダイアローグの水平的対話】:多数者による水平的な対話を行う。
- 【要素③:内なる垂直的対話の生成と抑制】:水平的対話が内なる声との垂直的対話を生み出しつつ、それが権威的な支配となるのを抑える。
- 【要素④:帰結・変容】:両者が協同することで個人の変容を引き起こす。
- 手順4(字数推敲:100〜120字の枠組みへの合成)
- 下書き:精神分析では分析家を超自我とする垂直的な二者関係を変化の原動力とするが、オープンダイアローグでは、多数者の水平的な対話によって権威的な内なる声を弱めつつ、その内なる声との垂直的な対話を生じさせ、両者の協同によって個人の変容を促すこと。
- 字数カウント:精(1)神(2)分(3)析(4)で(5)は(6)分(7)析(8)家(9)を(10)超(11)自(12)我(13)と(14)す(15)る(16)垂(17)直(18)的(19)な(20)二(21)者(22)関(23)係(24)を(25)変(26)化(27)の(28)原(29)動(30)力(31)と(32)す(33)る(34)が(35)、(36)オ(37)ー(38)プ(39)ン(40)ダ(41)イ(42)ア(43)ロ(44)ー(45)グ(46)で(47)は(48)、(49)多(50)数(51)者(52)の(53)水(54)平(55)的(56)な(57)対(58)話(59)に(60)よ(61)っ(62)て(63)権(64)威(65)的(66)な(67)内(68)な(69)る(70)声(71)を(72)弱(73)め(74)つ(75)つ(76)、(77)そ(78)の(79)内(80)な(81)る(82)声(83)と(84)の(85)垂(86)直(87)的(88)な(89)対(90)話(91)を(92)生(93)じ(94)さ(95)せ(96)、(97)両(98)者(99)の(100)協(101)同(102)に(103)よ(104)っ(105)て(106)個(107)人(108)の(109)変(110)容(111)を(112)促(113)す(114)こ(115)と(116)。(117)⇒ 117字となり、指定条件(100字以上120字以内)を満たす。
- 結論正答例:精神分析では分析家を超自我とする垂直的な二者関係を変化の原動力とするが、オープンダイアローグでは、多数者の水平的な対話によって権威的な内なる声を弱めつつ、その内なる声との垂直的な対話を生じさせ、両者の協同によって個人の変容を促すこと。(117字)
(五)漢字書き取り
- a ヘンボウ:関係が別の状態へ変わることを意味する文脈。 ⇒ 変貌(「貌」の旁は「皃」)
- b シンセキ:家族とともに本人を支える血縁・親族関係の人々を指す文脈。 ⇒ 親戚(「戚」の字形に注意)
- c ゲンカク:妄想と並列され、現実には存在しない知覚が生じる精神症状を表す文脈。 ⇒ 幻覚
授業ではここまで扱う:対立項の再導入・協同という論理構造
実際の授業では、単に正答の根拠を確認するにとどまらず、本問で確認できる「対立項の再導入・協同という論理構造」を整理する。
本文では、精神分析の垂直的関係が持つ治療的機能を説明したあと、オープンダイアローグの水平的関係が提示される。しかし筆者はそこで議論を止めず、オープンダイアローグの内部に弱毒化された垂直的対話が再導入され、水平と垂直の両者が協同する構造を描き出している。
本文における論理の展開図式
【第1段階:精神分析における垂直的関係の機能】
分析家を超自我として経験することが、そのイメージの更新と自我の変化につながる。
↓
【第2段階:オープンダイアローグにおける水平的関係】
多数の参加者が平等な発言機会を持ち、異なる声を響き合わせる(ポリフォニー)。
↓
【第3段階:垂直的対話の再導入と協同】
リフレクティングを通じて、水平的対話から個人内部の垂直的対話が触発される。
同時に、その内なる声の権威化も水平的対話によって抑制され、両者の協同によって変容が促される。
初見の抽象論説文を処理するための4段階点検手順
- 空間・関係の表現を具体的な人間関係へ戻す「水平」「垂直」という抽象概念をそのまま捉えるのではなく、「水平=対等に向き合う/発言機会が平等にある」「垂直=分析家を権威的存在として経験する/自己を規制する」というように、実際の人間同士の関係性や対話の様式へと置き換えて把握する。
- 対比された概念が後半でどのように形を変えて現れるかを追跡する文章の前半で対比された概念(本問における「垂直性」)が、後半でどのような形のもとに現れているか(本問では「弱毒化された形での再導入」「内なる声との垂直的対話」)を追跡する。この転換点を捉えることが、全体要約問題の成否を分ける。
- 全体趣旨を踏まえる設問では、前半と後半の主題を統合する(四)のように本文全体の趣旨を踏まえることが指定されている場合、傍線部の置かれた最終段落(オープンダイアローグ)の言葉だけで枠を埋めようとしてはならない。本文前半で詳細に論じられた比較対照(精神分析)との本質的な違いを前置きとして組み込むことで、設問に必要な要素を整理しやすくなる。
- 設問要求に応じた答案パーツの配分を設計する内容説明や理由説明の記述では「主たる根拠+結論」、字数制限のある要約では「前提・対比項+主論・メカニズム+結末・機能」というように、要求内容に応じたパーツ配分をあらかじめ設計してから文章化に入る。
本問に見られる主な失点パターン
| 失点パターン | 具体的な誤り | 対策 |
| 物理的配置の単なる引き写し | **(一)**で「寝椅子に横になり、分析家が傍らに座ること」とだけ書き、権威と服従・反抗という人間関係の質的変化を落とす。 | 空間的配置が心理的・対人関係的に何を意味するのかまで踏み込んで記述する。 |
| 変化の因果連鎖の欠落 | **(二)**で「分析家を超自我と思うから」とだけ書き、解釈を通じて「超自我像がより抑圧的でないものへ更新される」というプロセスを省く。 | 「なぜ変化できるのか」という問いに対し、原因から結果に至る論理の鎖をすべて繋ぐ。 |
| 実際の行動の過剰な断定 | **(三)**で「すべての参加者が発言すること」と書き、本文の「平等な発言の機会と権利が与えられる」という留保を落とす。 | 本文の客観的な表現(発言機会の付与)に即して記述する。 |
| 一方の対話の脱落 | **(四)**で「多数者の水平的な対話」だけを書き、個人の内部で生じる「垂直的な対話」に言及しない。 | 傍線部の「ふたつの対話」が何を指しているかを本文から厳密に特定する。 |
| 単純な二項対立への矮小化 | **(四)**で「精神分析は否定されオープンダイアローグが肯定される」という皮相な善悪論で答案を構成する。 | 精神分析の垂直性の意義と、オープンダイアローグにおける垂直性の再導入という協同構造を記述する。 |
東京大学 現代文の対策と復習手順
東京大学の現代文(第1問)を解くためには、単に文章の内容を理解するだけでなく、筆者が構築した論理構造を正確に把握し、設問の要求に合わせて論理的に再構成する客観的な記述力が必要となる。本問を復習する際は、次の4点を確認しておきたい。
- 答案を書く前に論理の主軸を整理する設問(一)〜(三)のような説明問題では、修飾語に惑わされず、「AによってBをCへと変えること(内容説明)」「AがBをCすることによってDとなるから(理由説明)」という論理の骨格を答案作成前に整理する習慣をつける。
- 全体要約は「文章全体の対比構造」から逆算する本問の(四)は本文全体の趣旨を踏まえることが指定されている。傍線部周辺の言い換えだけで字数を埋めるのではなく、「前半の論理(精神分析) ↔ 後半の論理(オープンダイアローグ)」という構造を組み込むことで、設問に必要な要素を漏れなく整理する。
- 対比された概念の「形を変えた再登場」に着目して読む「水平」「垂直」のように、本文中で繰り返し登場しながらその意味範囲が展開していくキーワードに注目する。「対人関係の垂直性」と「精神内部の垂直性」の違いのように、概念の次元が展開した箇所を見落とさない読解習慣を身につける。
- 基本的な漢字での失点を防ぐため、正確な表記を確認する(五)の漢字書き取りは、基本的な得点源としたい。「変貌」「親戚」「幻覚」のように、読みやすく、正しい字形で書く訓練を日頃から行っておく。

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