導入:知的な枠組みと記事の分析軸
古文の物語文学において、登場人物の内面的な心情は、現代の心理描写のように地の文で直接的に説明されるとは限らない。盛大な仏事のありさま、それを見守る周囲の人々の反応、現実と夢の往還、情景描写(夕暮れや月光)、そして作中人物がそれぞれに詠む和歌などを通じて、言葉の背後にある感情や関係性が間接的かつ重層的に表現される。
2026年度の東京大学前期日程・国語第2問で出題された『狭衣物語』の一節は、主人公の狭衣大将が、密かに愛し合いながらも先立たれた飛鳥井の女君の一周忌に際し、盛大な追善法要を営む場面から始まる。周囲には隠されていた二人の関係であったが、相手の正体は知らないまま、大将の並々ならぬ供養の姿勢を通して人々はその深い思いを感じ取る。そこから夜更けの夢の中で生前と変わらぬ姿の女君と再会し、目覚めた大将が独り月光に向かいながら読経に至る後半部へと、物語は展開していく。
本文を読み解く中心軸となるのは、次の3つの視座である。
- 心情の主体の峻別:大将自身の悲嘆と、大将の様子を見て女君の境遇に涙する「周囲の人々(参列者)」の心情を厳密に区別すること。
- 「夢」と「現実」の境界把握:亡き女君との再会はまどろみの中の夢であり、目覚めた大将の前には女君ではなく「澄みわたる空の月光」が存在するという不在の対比を捉えること。
- 和歌の文脈的連動:女君の和歌(カ)および大将の和歌(キの直前)を単体で解釈するのではなく、法要の功徳(追善供養)や生前の約束、死後の三途の川(三瀬川)での佇まいといった前後の状況と結びつけて把握すること。
各設問を解くにあたっては、敬語や古語の文脈的意味の特定から、夢の状況描写、和歌の比喩的意味の換言、読経という行動の動機説明に至るまで、本文の客観的な叙述を論理的に組み立て直す手順が求められる。本稿では、設問ごとの要求を分解し、初見の文章でも再現可能な思考手順を提示する。
『狭衣物語』のあらすじと論理構造
本文は、昼の公的な法要から夜の私的な追憶、夢の中の再会、そして目覚め後の供養へと、時間の推移とともに次の5段階で展開している。
- 第1段階:飛鳥井の女君の一周忌と盛大な法要(12ページ冒頭)女君が亡くなって1年が経ち、大将はその一周忌の法要を営む。経典や仏像の装飾を並々ならぬほど立派に整えさせ、比叡山の座主を講師に迎え、多数の僧を集めて手厚く供養する。二人の関係は生前秘されていたため、相手の正体は知らないものの、大将の並外れた尽くし方と、泣きながら読み上げる願文の悲痛さに、参列した人々は「これほど深く思われていた人は誰なのか」と驚き、女君の死を惜しんで涙を流す。
- 第2段階:法要の終了と夜の静寂(12ページ中段)僧や参列者が退出したあとも大将は堂に残り、女君の伯母である尼君と尽きせぬ悲しみを語り合う。日没の鐘が響く夕暮れの心細い空を簾を上げて眺め、大将は夜明け近くまで居明かす。
- 第3段階:夢の中の再会と女君の和歌(12ページ下段〜13ページ冒頭)心労から端近でまどろんだ大将の夢に、亡くなった女君が生前の姿のまま傍らに現れ、言葉をかける。「暗きより暗きに惑ふ死出の山 とふにぞかかる光をも見る(死後の暗闇をさまよっていましたが、あなたがこうして弔ってくださるおかげで、成仏へと導く光を見ることができました)」と詠みかける女君の愛らしさに、大将が言葉を返そうとした瞬間、目が覚める。
- 第4段階:目覚めと現実の月光(13ページ上段)目覚めて見上げると、女君の姿はなく、澄み渡った空の月光が顔を照らしているばかりである。傍らにまだ女君がいるような錯覚を抱きながら見渡すが、人々は遠く離れて眠っている。夢の余韻と現実の不在との落差のなかで、大将は独り空を眺める。
- 第5段階:生前の約束と読経(13ページ中段〜末尾)大将は、生前に交わした「後れまい」という約束を思い起こす。そして、先に死んだ女君が今も三途の川(三瀬川)で自分を待ち続け、冥土へ進めずにいるのではないかと想像し、枕が涙で浮きそうに思われるほど深く悲しみ、女君を供養するために経を読む。
本文の場面展開と心情・事象の対応構造表
| 場面の区分 | 具体的な出来事・描写 | 人物・心情の所在 | 読解・解法上の着眼点 |
| ① 一周忌の法要 | 仏具や経典の豪華な装飾、高僧による法要、大将自らの願文拝読。 | 大将の亡き人への深い思い。 | 豪華な飾り付けは財力の誇示ではなく、大将の並々ならぬ愛情の表れ。 |
| ② 参列者の反応 | 参列者が涙を流し、「口惜しかりける命」と嘆く。 | 法要に集まった周囲の人々の惜別の情。 | 大将自身の感情ではなく、大将の嘆きを見た「他者」の感情である点に着目。 |
| ③ 大将の夢 | 亡き女君が生前の姿で傍らに現れ、和歌を詠みかける。 | 夢の中における束の間の再会。 | 現実の出来事ではなく、大将の「夢の中」であることを明確にする。 |
| ④ 女君の和歌 | 「暗きより……とふにぞかかる光をも見る」 | 供養に対する感謝と救済の認識。 | 「光」は自然の月光ではなく、大将の法要(とふ)による「成仏への導き」。 |
| ⑤ 目覚めと月光 | 目覚めると女君はおらず、澄み渡る月光と静寂が広がる。 | 現実における死別の決定的な再認。 | 夢の親密さと現実の隔絶(不在)の対比。 |
| ⑥ 大将の和歌と読経 | 「後れじと……三瀬川にや待ちわたるらん」と詠み、経を読む。 | 女君の冥福を願い、成仏を祈る哀憐の情。 | 女君が三途の川で大将を待ち続けて進めずにいる境遇を思いやる。 |
全問解答一覧
| 設問 | 正答・標準解答例 | 形式・条件 |
| (一)ア | 経や仏の飾りを、並々でないほど立派に飾り付けさせなさる。 | 現代語訳(文脈把握・使役と敬語の処理) |
| (一)イ | 涙で袖を濡らさない人もめったにいないようである。 | 現代語訳(否定・重要古語「ありがたし」の処理) |
| (一)エ | その様子をそのまま書き伝えられないのは、かえって情けないことだ。 | 現代語訳(不可能表現「え〜ぬ」・重要古語「なかなか」「かひなし」の処理) |
| (二) | 大将にこれほど深く思われていながら亡くなった女君の命を、法要に集まった人々が惜しみ悲しむ気持ち。 | 心情説明(傍線部ウの内容説明) |
| (三) | 大将がまどろんで見た夢の中で、亡くなった女君が生前と変わらぬ姿で大将の傍らに座り、話しかけてきたということ。 | 状況説明(傍線部オの状況の明確化) |
| (四) | 死後の暗い道をさまよっていた女君が、大将の営んだ一周忌の法要の功徳によって、成仏へ導く光を今夜見ることができたということ。 | 和歌の内容説明(傍線部カの比喩・換言) |
| (五) | 生前の約束を思い返し、女君が自分を三途の川で待ち続け、冥土へ進めずにいるのではないかと案じ、その境遇を哀れんだから。 | 理由説明(直前の和歌を踏まえた読経の動機) |
【第2問】各設問の解答解説と思考手順
(一)現代語訳(重要語・構文・敬語の客観的処理)
ア「なべてならずせさせ給ふ」
- 手順1(設問要求と対象箇所の分解)傍線部ア「なべてならずせさせ給ふ」を現代語訳する。
- 「なべてならず」:「なべて」は「普通に・一様に」の意。「ならず」は打消を含み、全体として連語的に「並一通りではない」「格別である」の意味になる。
- 「せさせ給ふ」:サ変動詞「す」の未然形「せ」+使役の助動詞「さす」の連用形「させ」+尊敬の補助動詞「給ふ」。助動詞「さす」には使役・尊敬の両用法があるが、本問は大将が人に法要の飾り付けを行わせている文脈であるため、使役を含む「飾り付けさせなさる」と解釈する。
- 手順2(文脈の照合)直前の文脈は「心ざしのしるしには、何事をかはと思せば、経、仏の御飾りを、[なべてならずせさせ給ふ]」である。目的語である「経や仏の飾りを」という文脈を踏まえ、装飾を普通ではないほど立派に整えさせる様を訳出する。
- 手順3(訳出の決定)「経や仏の飾りを、並々でないほど立派に飾り付けさせなさる」としてまとめる。
- 結論正答:経や仏の飾りを、並々でないほど立派に飾り付けさせなさる。
イ「袖濡らさぬ人もありがたげなる」
- 手順1(設問要求と対象箇所の分解)傍線部イ「袖濡らさぬ人もありがたげなる」を現代語訳する。
- 「袖濡らさぬ」:袖を(涙で)濡らさない。「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形。
- 「ありがたげなる」:形容詞「ありがたし」の語幹+接尾語「げなり(〜のようだ)」の連体形。古語の「ありがたし」は「めったにない」「稀である」の意。現代語の「感謝したい」と混同してはならない。
- 手順2(文脈の照合)大将が泣く泣く読み上げる願文の悲痛さに心を打たれ、周囲の参列者で「涙で袖を濡らさない人はめったにいないようだ(=誰もが涙を流している)」という状況を表している。
- 手順3(訳出の決定)打消と「ありがたし」の原義を厳密に直訳する。
- 結論正答:涙で袖を濡らさない人もめったにいないようである。
エ「えまねばぬは、なかなかかひなし」
- 手順1(設問要求と対象箇所の分解)傍線部エ「えまねばぬは、なかなかかひなし」を現代語訳する。
- 「えまねばぬ」:「え」は直後の打消表現と呼応して不可能を表す副詞(え〜ず=〜できない)。「まねぶ」は見聞きしたことを「そのまま伝える」「書き記す」の意。「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形。したがって「えまねばぬ」は「そのまま書き伝えることができない」という意味になる。
- 「なかなか」:副詞。「かえって」「むしろ」の意。現代語の「かなり・相当」とは意味が異なる。
- 「かひなし」:形容詞。「甲斐がない」「不甲斐ない」「どうしようもない」「情けない」。
- 手順2(文脈の照合)直前に「さまざま尊き事どもは多かれど(さまざま尊い仏事の営みは多いけれど)」とある。語り手が、大将の催した法要の素晴らしさを筆舌に尽くしがたいと述べる場面であり、「その様子をそのまま書き伝えることができないのは、かえって情けない(言葉を尽くす甲斐がない)」という意になる。
- 手順3(訳出の決定)文脈上補うべき対象(その様子・仏事のありさま)を明確にしつつ、不可能の構文と重要語を正確に訳出する。
- 結論正答:その様子をそのまま書き伝えられないのは、かえって情けないことだ。(別解例:そのまま書き伝えられないのは、むしろ不甲斐ないことだ。)
(二)「げに口惜しかりける命のほどかな」の心情説明
- 手順1(設問要求)傍線部ウ「げに口惜しかりける命のほどかな」とはどのような心情か、説明する。
- 手順2(心情の主体の特定)傍線部を含む一文を確認する。
- 「見たてまつる人なども、『誰ならん、いとかばかり思されたりけるは。げに口惜しかりける命のほどかな』と、見おどろかぬはなし。」この感慨を抱いているのは大将自身ではなく、法要の様子を見ている「人々(周囲の参列者)」である。
- 手順3(語句と理由の分析)
- 「げに」:本当に、なるほど。
- 「口惜し」:残念だ、惜しまれる。「命のほど」は「寿命・命の長さ」を指す。
- 人々は相手の正体こそ知らないものの、大将のあまりに深い悲哀と並々ならぬ供養を見て、「これほど大将に深く愛されていたのに、早くに亡くなってしまった女君の命」を非常に惜しく、痛ましく思っている。
- 手順4(答案の合成)「大将にこれほど深く思われていながら亡くなった女君の命を」「法要に集まった人々が惜しみ悲しむ気持ち」としてまとめる。
- 結論正答例:大将にこれほど深く思われていながら亡くなった女君の命を、法要に集まった人々が惜しみ悲しむ気持ち。
(三)「ただありしさまにて、かたはらに居て」の状況説明
- 手順1(設問要求)傍線部オ「ただありしさまにて、かたはらに居て」とはどういうことか、「状況がわかるように」説明する。
- 手順2(文脈の確認:現実と夢の境界)傍線部の直前直後を確認する。
- 直前:「あまり苦しければ、やがて端にうち休みて、まどろみ給へるに、[ただありしさまにて、かたはらに居て]、かく言ふ。」
- 直後:女君の和歌のあと、「『物言はん』と思すに、ふと目覚めて見上げ給へれば……」したがって、この出来事は現実に女君が生きて現れたのではなく、「大将が見たまどろみの中の夢」である。状況説明において「夢の中であること」の明記は必須要件となる。
- 手順3(語句の換言)
- 「ただありしさまにて」:「ありし」は過去・生前を表す。「生前の姿そのままで」「生前と変わらぬ姿で」。
- 「かたはらに居て」:大将のすぐそばに座って。
- 手順4(答案の合成)「大将がまどろんで見た夢の中で」「亡くなった女君が生前と変わらぬ姿で大将の傍らに座り」「話しかけてきたということ」として構文化する。
- 結論正答例:大将がまどろんで見た夢の中で、亡くなった女君が生前と変わらぬ姿で大将の傍らに座り、話しかけてきたということ。
(四)「とふにぞかかる光をも見る」の内容説明
- 手順1(設問要求)傍線部カ「とふにぞかかる光をも見る」とはどういうことか、説明する。
- 手順2(和歌全体の構造分析)和歌全体を確認する。
- 上句:「暗きより暗きに惑ふ死出の山」⇒ 死後の冥途の暗闇に迷い惑っている境遇を示す。
- 下句:「とふにぞかかる光をも見る」⇒ 係助詞「ぞ」による強意結び。「とふ」によって、このような「光」を見るのだ。
- 手順3(比喩と文脈の換言)
- 「とふ(訪ふ・弔ふ)」:大将が女君の一周忌を思い、手厚く供養(追善法要)をしてくれたこと。
- 「かかる光」:目覚めたあとに見る現実の月光ではなく、死出の山の暗闇を照らし、女君を「成仏へと導く仏の功徳・救いの光」を意味する。
- 手順4(答案の合成)「死後の暗い道をさまよっていた女君が」「大将の営んだ一周忌の法要の功徳によって」「成仏へ導く光を今夜見ることができたということ」として因果関係を整える。
- 結論正答例:死後の暗い道をさまよっていた女君が、大将の営んだ一周忌の法要の功徳によって、成仏へ導く光を今夜見ることができたということ。
(五)「経を読み給ふ」の理由説明
- 手順1(設問要求と指定条件の確認)傍線部キ「経を読み給ふ」とあるが、それはなぜか、「直前の和歌の内容をふまえて」説明する。単に「女君を供養するため」と書くだけでは不十分であり、直前の和歌に詠まれた大将の認識・想像を答案に反映させなければならない。
- 手順2(直前の和歌の精査)大将が詠んだ歌を確認する。
- 「後れじと契りしものを死出の山 三瀬川にや待ちわたるらん」
- 「後れじと契りしものを」:生前に、相手に後れまいと約束していたのに。
- 「死出の山 三瀬川にや待ちわたるらん」:「三瀬川」は注釈より三途の川。「待ちわたる」はずっと待ち続ける、「らん」は現在の推量。「女君は死後の三途の川で、私を今も待ち続けているのだろうか」。
- 手順3(読経に至る心理的因果の復元)大将は、生前の約束を思い返し、女君が三途の川のほとりで自分を待ち続けているために、冥土へ進めずにいるのではないかと想像する。枕が涙で浮きそうに思われるほど深く悲しみ(「枕浮き給ひぬべき心地し給ひて」)、女君を供養するために「経を読み給ふ(読経する)」のである。
- 手順4(答案の合成)「生前の約束を思い返し」「女君が自分を三途の川で待ち続け、冥土へ進めずにいるのではないかと案じ」「その境遇を哀れんだから」という因果関係を明確にする。
- 結論正答例:生前の約束を思い返し、女君が自分を三途の川で待ち続け、冥土へ進めずにいるのではないかと案じ、その境遇を哀れんだから。
授業ではここまで扱う:本問に見られる「法要・夢・和歌・行動」のつながり
実際の授業では、単に各設問の逐語訳や正答を確認するにとどまらず、本問に見られる「法要の場面 → 私的な夢の場面 → 和歌による心情の形象化 → 読経という行動」という一連の回路を読み解く手順を確認する。
本問のように、現在の対話を説明するために夢や和歌が配置されている場合、それらを独立した断片として読むのではなく、登場人物の内面がどのように動いて次の行動(読経など)を引き起こしたのかを捉えることが重要である。
本問における心情・和歌・行動の連動図式
【第1段階:公的な供養と周囲の視線】
大将の並外れた法要準備と願文拝読
⇒ 参列者が大将の深情けを察知し、女君の早世を惜しむ(設問二)
↓
【第2段階:私的な空間と夢への移行】
参列者が去り、大将独りの静寂とまどろみ
⇒ 夢の中で生前の姿の女君と再会する(設問三)
↓
【第3段階:和歌による死生観の交錯】
女君の歌:「とふにぞかかる光をも見る」=供養による成仏の光(設問四)
大将の覚醒:女君は消え、澄み渡る夜空の月光のみが残る
大将の歌:「三瀬川にや待ちわたるらん」=女君が自分を待って冥土へ進めずにいるのではないか
↓
【第4段階:心情の行動化】
三途の川で待ち続ける女君の境遇への哀憐
⇒ 独り涙を流しながら「経を読み給ふ」(設問五)
初見の古文を処理するための4段階点検手順
- 敬語と助詞から「主語・心情の主体」を峻別する主語が省略されやすい古文では、「せさせ給ふ」「思し掟てたり」などの敬語表現を手掛かりに、身分の高い人物(大将)の行動を特定する。ただし、敬語だけで主語を決めつけず、前後の文脈と合わせて判断する。一方、「見る人多かり」「見たてまつる人なども……見おどろかぬはなし」のように、観察者の視点が導入された箇所では、心情の主体が大将自身から「周囲の人々」へ切り替わっていることを見逃さない。
- 場面転換の合図(眠り・夢・覚醒)を追跡する「端にうち休みて、まどろみ給へるに」で夢の空間に入り、「ふと目覚めて見上げ給へれば」で現実へ復帰する。古文では夢の中の出来事も地の文と同じ調子で語られるため、どこからどこまでが夢の描写であるかを意識的に線引きする。
- 和歌の比喩を直前の散文の事象へ還元する和歌中の重要語(「光」「三瀬川」など)を鑑賞的な解釈にとどめず、直前で大将が何を行い(盛大な法要=とふ)、どのような背景があったのか(生前の約束=契りしもの)という散文の文脈とダイレクトに照合して意味を確定させる。
- 理由説明は「和歌の内容 + それを受け止めた人物の心理」を言語化する「なぜ読経したのか」という問いに対して、「和歌を詠んだから」で終わらせず、「和歌の中で相手がどのような状況にあると想像し、それに対してどのような感情を抱いたからその行動に出たのか」という心理的動機を過不足なく文章化する。
本問に見られる主な失点パターン
| 失点パターン | 具体的な誤り | 対策 |
| 敬語・使役の未処理 | (一)アを「並々でない飾り付けをしなさる」と訳し、使役の要素を落とす。 | 「せさせ給ふ」の使役・尊敬の構造を確認する。 |
| 現代語の意味の当てはめ | (一)イの「ありがたし」を「感謝したい」と解釈する。 | 古語の多義性(めったにない)を基本語彙として押さえる。 |
| 構文の見落とし | (一)エの「え〜ぬ(不可能)」を訳出せず、単に「書き伝えない」とする。 | 「え」+打消による不可能構文を確実に処理する。 |
| 心情の主体の取り違え | (二)を「大将自身の悲しみ」として説明してしまう。 | 直後の「見たてまつる人なども……見おどろかぬはなし」から、周囲の人々の反応であることを見抜く。 |
| 現実と夢の混同 | (三)で「女君が実際に姿を現した」と説明する。 | 直前の「まどろみ給へるに」から、夢の中の光景であることを明記する。 |
| 和歌の語句の誤った引きずられ | (四)の「光」を目覚めたあとの「月光」と混同する。 | 女君の和歌は夢の中の発言であり、「とふ(法要)」によってもたらされた成仏の光であることを特定する。 |
| 理由説明の論理不足 | (五)を「女君を供養するため」だけで済ませる。 | 「三途の川で大将を待ち続けて進めずにいる女君を哀れんだ」という和歌の内容を踏まえた心情を盛り込む。 |
東京大学 古文の対策と復習手順
東京大学の古文(第2問)を攻略するためには、単語や文法の知識を機械的に当てはめるだけでなく、人物関係や場面の転換、和歌の修辞が物語全体の展開とどのように連動しているかを的確に捉える読解力が必要となる。本問を復習する際は、次の4点を確認しておきたい。
- 重要古語と文脈に応じた訳出の精度を高める「なべてならず」「ありがたし」「口惜し」「え〜ず」「なかなか」「かひなし」のように、基本古語・構文でありながら前後の文脈によってニュアンスを補うべき語句について、文意に即した自然な現代語へと置き換える訓練を積む。
- 「誰が誰に対して抱いた心情か」を常に明確にする古文の心情説明問題では、感情の言葉(悲しい、惜しい等)を書くだけでは十分ではない。「誰が」「誰のどのような境遇に対して」「なぜその感情を抱いたのか」という3点をセットで整理する記述手順を定着させる。
- 夢・現実・情景描写の役割を整理する本問では、夢の中で亡き女君との再会が描かれ、目覚めたあとには澄み渡る夜空と月光が広がる。夢の始まりと終わり、そして目覚めたあとの自然の情景が、人物の心情をどのように引き立てているかを意識して構造を整理する。
- 和歌を含む設問では「散文との往還」を意識する和歌の内容理解や和歌を踏まえた行動の理由説明では、和歌の語句の意味や詠み手の心情を確認しつつ、直前の会話や出来事、直後の登場人物の振る舞い(本問における読経)と和歌がどのようにつながっているかを言語化する復習を徹底する。

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