導入:この大問を解くための2つの分析軸
2026年度の宮崎県公立高校入試・国語の大問1は、まはら三桃の小説『疾風の女子マネ!』を題材に、語彙・漢字の知識、登場人物の過去の経験と現在の言動の因果関係、対話を通じた考え方の変化、および表現上の特徴を読み解く問題であった。
小説文の設問において、登場人物の性格や場面の雰囲気を大まかに捉えるだけでは、身体反応の理由や対話相手の心情変化を正確に特定するには十分ではない。問題文と設問から確認できる客観的な構造は、主に以下の2つの軸で整理できる。
- 「過去の経験 $\rightarrow$ 現在の感覚刺激 $\rightarrow$ 心情 $\rightarrow$ 言動」の因果連鎖本文では、体育館から聞こえるバレーボールの音や匂いという現在の刺激をきっかけに、咲良の中学時代の苦い記憶(全国大会準決勝での敗戦と、責任をマネージャーに押しつけた過去)が呼び起こされる。傍線部の発言(問三)や身体反応の変化(問四)、表現の効果(問六)を解くうえでは、身体反応そのものから感情を推測するのではなく、直前の心理描写や直後の指示語(「そうしないと」)、および過去を打ち明ける行動とのつながりを本文から確認する処理が有効である。
- 対話における「経験の語り手(咲良)」と「気づきを得た聞き手(大黒)」の区別物語の前半から中盤は咲良の過去の告白が中心となるが、後半(問五)では、その話を聞いた3年生の大黒の心情変化が問われている。誰の発言であり、誰の考え方がどう変化したのかを、リード文に示された大黒の前提状況と照らし合わせて整理する必要がある。
あらすじを把握するだけでは、各設問へ正確に答えるには十分ではない。本文・リード文・設問条件・選択肢をどの順序で確認し、どの根拠と照合するかという客観的な思考手順を再現することが重要である。
『疾風の女子マネ!』(まはら三桃)の要約と人物関係
本文は、高校1年生で陸上部マネージャーの咲良が、大会前にタイムが下がりリレーメンバーから外されて部活に来ていない3年生の大黒を励ますため、体育館裏を訪ねる場面から始まる。場面ごとの展開と二人の言動・心情は、下表のように整理できる。
| 場面・展開 | 出来事・感覚刺激と発言 | 咲良の受け止めと心情 | 大黒の状況と心情変化 |
| 導入(リード文〜体育館裏) | 咲良が体育館裏にいる大黒の隣に座る。体育館からボールの音やかけ声、ボールの皮やシューズのゴム、汗やシップなどの匂いが伝わってくる(問六)。 | 中学時代の記憶が迫り、「体の中身がきゅっと縮むくらいの恥ずかしさ」がこみ上げて胸の鼓動が速くなる(問四(1))。地団駄を踏むみたいに足をばたばたさせる(問二)。 | いきなり隣でもがき苦しみ出した咲良を見て、「どうした?」と驚く。 |
| 前半(中学時代の説明) | 咲良が中学時代にバレー部で全国大会まで行ったこと、「鋼の咲良(ハガサク)」と呼ばれていたことを話す(問一ⓐ)。 | 体育館からもれてくるバレーボール(過去の苦い記憶)に負けてしまいそうになり、「咲良は気持ちが強い」という点を特に強調する(問三)。 | 咲良の学校名や名前に思い当たり、少しだけ感情の乗った返事をする。 |
| 中盤(準決勝の敗戦と告白) | 咲良が全国大会の準決勝で自分のミスから負けたこと、自分の「鋼」で自分もチームワークもぶった切ったこと、負けたことをマネージャーのせいにしたことを打ち明ける。 | 過去の恥ずかしい振る舞いを大黒に話したことで、小刻みに打っていた動悸がおさまり、音や匂いも気にならなくなる(問四(2))。 | 涙をこらえたマネージャー(シューコ)の目を思い出しながら絞り出すように語る咲良に、横目を流して耳を傾ける。 |
| 後半(大黒の気づき) | 大黒が「鋼は、自分を切ることがある」と静かに言い、宙を見つめて自身の考えを語る(問一ⓑ・ⓒ、問五)。咲良は「諸刃の剣」のしぐさをして空笑いをする。 | 反省を込めるには勢いがつきすぎた声になり、照れくささから空笑いをするが、気分は悪くなかった。 | 強いメンタルこそが試合を制すると思っており、本番に弱いのは心が弱いからだと思っていたが、強さが災いすることもあるのかと気づく(問五)。最後に咲良の顔を見て笑う。 |
全問解答一覧
| 設問 | 正答・答案 | 形式・条件 | 設問条件の概要 |
| 問一ⓐ | 呼 | 漢字記述 | 傍線ⓐ「ヨばれて」のカタカナ部分を漢字に直す。 |
| 問一ⓑ | 制 | 漢字記述 | 傍線ⓑ「セイする」のカタカナ部分を漢字に直す。 |
| 問一ⓒ | わざわ | 読み記述(ひらがな) | 傍線ⓒ「災い」の漢字部分の読みをひらがなで書く。 |
| 問二 | エ「地団駄」 | 記号選択 | 空欄に入る言葉として最も適当なものを1つ選ぶ。 |
| 問三 | エ | 記号選択 | 傍線①「咲良は気持ちが強い、というところを特に強調した。」理由として最も適当なものを1つ選ぶ。 |
| 問四(1) | 中学時代の失敗を思い出して恥ずかしい (別解:過去の苦い経験を思い出して恥ずかしい) | 記述(20字以内 / 18字) | 傍線②「小刻みに打っていた動悸がおさまっている」理由の説明文の空欄(1)を20字以内で書く。 |
| 問四(2) | 自分のせいで負けたのをマネージャーのせいにしたと告白すること (別解:自分のせいで負けたのにマネージャーのせいにしたと話すこと) | 記述(30字以内 / 30字・28字) | 傍線②の理由の説明文の空欄(2)を30字以内で書く。 |
| 問五 | イ | 記号選択 | 傍線③「かみしめるようにつぶやいて、宙を見つめる。」ときの大黒の心情として最も適当なものを1つ選ぶ。 |
| 問六 | ウ | 記号選択 | 本文の表現について説明したものとして最も適当なものを1つ選ぶ。 |
【大問1】各設問の解答解説と思考手順
問一(漢字の書き取り・読み)
手順1(設問要求の確定)
二重傍線ⓐ・ⓑのカタカナ部分を漢字に直し、二重傍線ⓒの漢字部分の読みをひらがなで記述する。解答欄の送り仮名表記を確認する。
手順2(根拠範囲と文脈の確認)
- ⓐ:「アタッカーで、『ハガサク』なんてⓐヨばれてました。」
- ⓑ:「今きみが言ったように強いメンタルこそが、試合をⓑセイするのだと思っていた。」
- ⓒ:「本番に弱いのは、俺の心が弱いからだとばかり思ってたんだが、強さがⓒ災いすることもあるのか」
手順3(論理整理:語義と表記規則の照合)
- ⓐ:周囲からある呼び名で「呼ばれる」という文脈であり、解答欄は「( ばれて)」となっているため、漢字1字で「呼」を書く。
- ⓑ:「試合をセイする」は、試合の主導権を握る・抑えて勝利を収めるという意味の「試合を制する」である。同音異義語(「成」「正」「勢」など)と区別し、「制」を書く。
- ⓒ:「災い」は全体で「わざわい」と読むが、設問文に「漢字の部分はその読みをひらがなで書きなさい」とあり、解答欄も「( い)」と送り仮名が印字されているため、漢字「災」に対応する「わざわ」のみを記述する。
結論
- ⓐ:呼
- ⓑ:制
- ⓒ:わざわ
問二(慣用句の空欄補充・記号選択)
手順1(設問要求の確定)
本文中の空欄に入る言葉として、最も適当な選択肢を1つ選ぶ。
手順2(根拠範囲の限定)
空欄を含む1ページ目の文「咲良は両手で腕を抱えて、[ ]を踏むみたいに足をばたばたさせた。」および直前の心理描写を確認する。
手順3(論理整理:慣用句の意味と動作描写の照合)
直前では、咲良が過去の記憶を思い出して「体の中身がきゅっと縮むくらいの恥ずかしさがこみ上げて」おり、「うわーっ」と声をあげている。その直後に「[ ]を踏むみたいに足をばたばたさせた」と続くため、悔しさや恥ずかしさ、もどかしさなどから実際に足を踏み鳴らす動作を表す語が必要となる。
手順4(設問形式に応じた処理:選択肢の照合)
4つの選択肢はいずれも「〜を踏む」という慣用句を作るが、意味と動作が文脈に合致するかを検討する。
- ア「二の足」(不適切):「二の足を踏む」は、ためらって進み出せないことを意味し、「足をばたばたさせた」という激しい動作と合わない。
- イ「薄氷」(不適切):「薄氷を踏む」は、極めて危険な状況に身を置くことのたとえであり、文脈と無関係である。
- ウ「場数」(不適切):「場数を踏む」は、多くの経験を積むことを意味し、この場面の動作描写と合わない。
- エ「地団駄」(適切):「地団駄を踏む」は、悔しさや腹立たしさなどから足を激しく踏み鳴らすことを意味し、「足をばたばたさせた」という描写と直接一致する。
結論
正答は エ(地団駄) である。
問三(行動の理由・記号選択)
手順1(設問要求の確定)
傍線①「咲良は気持ちが強い、というところを特に強調した。」について、その理由の説明として最も適当なものを1つ選ぶ。
手順2(根拠範囲の限定)
傍線①の直後の一文、および次の発言の直前にある地の文を確認する。
手順3(論理整理:指示表現「そうしないと」の追跡)
傍線①の直後には次のように書かれている。
「そうしないと体育館からもれてくる、バレーボールに負けてしまいそうだったのだ。」
さらに数行後、咲良が当時の話を続ける場面には次の描写がある。
「胸にこみ上げてくる苦みを呑み込みながら、咲良は続けた。」
「そうしないと」は、直前の「咲良は気持ちが強い、というところを特に強調した」という行動を指している。体育館から聞こえるバレーボールの音によって中学時代の苦い思い出がよみがえり、その感情に押し流されそう(負けてしまいそう)になったため、自分自身のこみ上げる感情を抑えようとして「気持ちが強い」と強調したと整理できる。
手順4(設問形式に応じた処理:選択肢の照合)
- ア(不適切):「本当はバレーボールをしたいという気持ちをごまかすため。」とあるが、咲良は過去の苦い記憶と恥ずかしさに動揺しているのであり、バレーボールをしたい気持ちをごまかしているのではない。
- イ(不適切):「アタックが強く期待された選手だったことを強調するため。」とあるが、選手としての実績を誇示することが目的ではない。
- ウ(不適切):「自分の話に興味を示さない大黒の気持ちをひきつけるため。」とあるが、直前で大黒の返事には「少しだけ感情が乗った」と描写されており、また強調した理由は大黒の関心を引くためではなく自分の動揺を抑えるためである。
- エ(適切):「中学での思い出に対する感情がこみ上げるのを抑えるため。」は、「バレーボールに負けてしまいそうだった」「胸にこみ上げてくる苦みを呑み込みながら」という本文の記述と一致する。
結論
正答は エ である。
問四(理由説明記述:(1) 20字以内 / (2) 30字以内)
手順1(設問要求の確定)
傍線②「小刻みに打っていた動悸がおさまっている」理由を説明した次の文について、空欄(1)を20字以内、空欄(2)を30字以内で記述する。
「胸の鼓動が高まっていたときには、( 1 )気持ちになっていたが、( 2 )ができて、気持ちが落ち着いたから。」
手順2(根拠範囲の限定)
- 空欄(1):1ページ目で「胸の鼓動がスピードを上げた」と描写されている直前の場面を確認する。
- 空欄(2):3ページ目の傍線②「動悸がおさまっているのに気がつく」の直前で、咲良が大黒に何を話したかを確認する。
手順3(論理整理:変化前の心情と変化の契機となった行動)
- 空欄(1)の要素抽出(変化前の心情):1ページ目冒頭で、体育館の音や匂いから中学時代のバレー部の記憶を思い出した咲良は、「うわーっ、思い出すわ」と膝に顔をうずめ、「実際これ以上思い出したくなかった。つらいというより、苦しいに近かった。いや苦しいというより、痛い。でもいちばん強く感じるのは恥ずかしさだった。体の中身がきゅっと縮むくらいの恥ずかしさがこみ上げて、胸の鼓動がスピードを上げた。」と描写されている。 したがって、(1)には「中学時代の失敗(過去の苦い経験)を思い出して恥ずかしい」という内容を入れる。
- 空欄(2)の要素抽出(変化をもたらした行動):2ページ目末尾から3ページ目にかけて、咲良は大黒に「全国大会の準決勝で負けました。私のせいです。……自分の鋼で自分をぶった切ったんです。……チームワークもぶった切った。」と語り、さらに「なのに私、チームが負けたことをマネージャーのせいにしました」と絞り出すように打ち明けている。その直後に傍線②「小刻みに打っていた動悸がおさまっているのに気がつく」と続く。 したがって、(2)には「自分のせいで負けたのに(負けたのを)、マネージャーのせいにしたと話す(告白する)こと」という行動を入れる。
手順4(設問形式に応じた処理:構文接続と字数の確認)
- (1)の構文確認:直後に「〜気持ちになっていたが」と続くため、形容詞の連体形「〜恥ずかしい」で結ぶ。
- 答案例:「中学時代の失敗を思い出して恥ずかしい」(18字)
- 別解(公式解答例):「過去の苦い経験を思い出して恥ずかしい」(18字)
- (2)の構文確認:直後に「〜ができて、気持ちが落ち着いたから。」と続くため、名詞句「〜こと」で結ぶ。
- 答案例:「自分のせいで負けたのをマネージャーのせいにしたと告白すること」(30字)
- 別解(公式解答例):「自分のせいで負けたのにマネージャーのせいにしたと話すこと」(28字)
結論
- (1) 答案:中学時代の失敗を思い出して恥ずかしい(18字) (別解:過去の苦い経験を思い出して恥ずかしい/18字)
- (2) 答案:自分のせいで負けたのをマネージャーのせいにしたと告白すること(30字) (別解:自分のせいで負けたのにマネージャーのせいにしたと話すこと/28字)
問五(登場人物の心情・記号選択)
手順1(設問要求の確定)
傍線③「かみしめるようにつぶやいて、宙を見つめる。」とあるときの大黒の心情の説明として、最も適当なものを1つ選ぶ。咲良ではなく大黒の心情が問われている点に注意する。
手順2(根拠範囲の限定)
傍線③の直前における大黒の発言と、直後に続く大黒の独白的なセリフを確認する。
手順3(論理整理:大黒の「以前の考え」と「新たな気づき」の対比)
咲良が「自分の鋼で自分をぶった切った」「チームワークもぶった切った」と経験を語った後、3ページ目後半で次のように展開する。
「鋼は、自分を切ることがある」
大黒が静かに言った。それはなにかに気がついたような声でもあった。
「なるほど」
③かみしめるようにつぶやいて、宙を見つめる。
「俺はもっと強くなるべきだと思っていた。今きみが言ったように強いメンタルこそが、試合をセイするのだと思っていた。本番に弱いのは、俺の心が弱いからだとばかり思ってたんだが、強さが災いすることもあるのか」
- 変化前の考え:強いメンタル(心の強さ)こそが試合を制するのであり、もっと強くなるべきだと思っていた。
- 変化後の気づき:咲良の話を聞いて「鋼は、自分を切ることがある」と言葉にし、心の強さが常に良い結果をもたらすとは限らず、時には災いする(よくない結果につながる)こともあるのだと気づいている。
手順4(設問形式に応じた処理:選択肢の照合)
- ア(不適切):「咲良の話に共感するとともに、過去の経験を乗り越えて前に進もうとしている咲良の強さに圧倒されている。」とあるが、大黒は咲良の強さに圧倒されているのではなく、強さが自分を傷つけることもあるという点に気づいている。
- イ(適切):「自分が求めてきた心の強さが絶対のものではなく、時にはよくない結果につながることもあると感じている。」は、大黒の「強いメンタルこそが、試合を制するのだと思っていた……強さが災いすることもあるのか」という発言と完全に一致する。
- ウ(不適切):「心が強くても本番では勝てないということに改めて気づいている。」とあるが、単に勝敗の話をしているのではなく、「強さそのものが自分や周囲を傷つけ、災いすることがある」という点に気づいている。
- エ(不適切):「もっと強くなろうとすることを諦めて自分の心の弱さを受け入れようと決意している。」とあるが、強くなることを諦めたとも、弱さを受け入れる決意をしたとも本文には書かれていない。
結論
正答は イ である。
問六(表現の効果・記号選択)
手順1(設問要求の確定)
本文の表現について説明したものとして、最も適当な選択肢を1つ選ぶ。
手順2(根拠範囲の限定)
本文全体の視点、比喩表現(「鋼」)、および1ページ目と3ページ目にある「音や匂い」の描写を確認する。
手順3(論理整理:音・匂いの描写と心情変化の連動)
本文中では、体育館の音や匂いが咲良の記憶と心情に次のように関わっている。
- 冒頭(1ページ目):「ボールの音やかけ声は、はっきりと聞こえる」「ボールの皮とシューズの裏のゴムがすれる匂い、汗と、シップと、サポーターの内側の匂い。……それらが、記憶と一緒にまざまざと迫ってきていた。」$\rightarrow$ 強い恥ずかしさと動悸が生じる。
- 中盤(3ページ目):「体育館から、ボールが床に叩きつけられる音とともに、かけ声が響いている。……自然、シューコの顔が思い出された。」$\rightarrow$ マネージャーに責任を押しつけた過去を告白する。
- 告白後(3ページ目):「さっきまで、耳に激しく響いていた音や匂いが、さほど気にならなくなっている。それどころか、すんなりと体に入ってくるようだ。……練習の心地よいテンション。」$\rightarrow$ 動悸がおさまり、心が落ち着く。
このように、過去を想起させる音や匂いの描写を通じて、咲良の心情が激しく動揺し、やがて落ち着いていくまでの揺れ動きが印象づけられている。
手順4(設問形式に応じた処理:選択肢の照合)
- ア(不適切):「咲良が過去を話す場面で体言止めを用いることで、咲良の中学時代の経験を懐かしい思い出として印象づけている。」とあるが、準決勝での敗戦やマネージャーへの責任転嫁は「恥ずかしさ」「苦み」を伴う記憶であり、単なる「懐かしい思い出」ではない。
- イ(不適切):「咲良の思い出を三人称の視点で語ることで、中学時代の咲良を取り巻く人々の思いを客観的に捉えて印象づけている。」とあるが、本文は咲良の内面に寄り添った三人称視点で描かれており、周囲の人々の思いを客観的に描いているわけではない。
- ウ(適切):「咲良の過去を想起させる音や匂いを描写することで、思い出によって咲良の心情が揺れ動く様子を印象づけている。」は、本文の表現構成と一致する。
- エ(不適切):「咲良の意志の強さを『鋼』の比喩で表現することで、咲良が過去の思い出にとらわれていないことを印象づけている。」とあるが、咲良は過去の思い出に激しく動揺しており、「過去の思い出にとらわれていない」という説明は本文と逆である。
結論
正答は ウ である。
授業ではここまで扱う:小説読解における「感覚刺激・過去の記憶・現在の言動」の照合手順
小説文において、過去の回想が現在の対話場面に挿入される問題では、「いつの時点の心情か」「誰の発言・気づきか」を混同すると失点につながりやすい。
実際の授業では、感覚的な読みを避けるため、以下の3段階の手順で本文の根拠を整理する。
【第1段階:現在の感覚刺激・身体反応と「直前の原因」の結合】
「足をばたばたさせる」「動悸がする」といった身体反応そのものから心情を推測せず、
その直前にある感覚刺激(音・匂い)と明示された心情語(「恥ずかしさ」「苦み」)を確認する。
↓
【第2段階:指示語・接続表現による「発言・行動の目的」の特定】
傍線部の発言や行動の直後にある指示表現(「そうしないと〜」等)や、
状態が変化する直前の行動(過去の告白)を確認し、行動の理由・契機を特定する。
↓
【第3段階:対話相手(聞き手)の「変化前」と「変化後」の対比】
聞き手の心情が問われた場合は、語り手の経験と聞き手自身の発言を区別し、
リード文の前提状況および「〜と思っていたが、〜こともあるのか」という対比構造から変化を捉える。
今回の2026年宮崎県公立高校入試・大問1における各設問をこの手順に当てはめると、下表のように整理できる。
| 設問 | 問われている対象 | 着目した本文の客観的根拠 | 導き出される判断・答案 |
| 問一 | 漢字・読み(ⓐ・ⓑ・ⓒ) | ⓐ「ハガサクと呼ばれて」/ⓑ「試合を制する」/ⓒ「災(わざわ)い」 | ⓐ 呼 / ⓑ 制 / ⓒ わざわ(送り仮名を除く) |
| 問二 | 動作を表す慣用句(空欄補充) | 直前の「恥ずかしさ」+「[ ]を踏むみたいに足をばたばたさせた」 | 実際の足の動作と感情に合致する エ「地団駄」 を確定 |
| 問三 | 傍線①「気持ちが強い」と強調した理由 | 直後の指示表現「そうしないと……バレーボールに負けてしまいそう」+「苦みを呑み込みながら」 | こみ上げる感情を抑えるためとする エ を確定 |
| 問四(1) | 鼓動が高まっていたときの心情(20字以内) | 1ページ目「体の中身がきゅっと縮むくらいの恥ずかしさがこみ上げて、胸の鼓動がスピードを上げた」 | 「中学時代の失敗を思い出して恥ずかしい」(18字) |
| 問四(2) | 気持ちが落ち着いた契機(30字以内) | 傍線②直前の発言「私のせいです」「チームが負けたことをマネージャーのせいにしました」 | 「自分のせいで負けたのをマネージャーのせいにしたと告白すること」(30字) |
| 問五 | 傍線③の大黒の心情 | 大黒の発言「鋼は、自分を切ることがある」+「試合を制すると思っていた……強さが災いすることもあるのか」 | 強さがよくない結果につながることもあると感じる イ を確定 |
| 問六 | 本文の表現の効果 | 冒頭・中盤・後半における「ボールの音やかけ声」「匂い」の描写と咲良の動揺・鎮静の連動 | 音や匂いの描写で心情の揺れ動きを印象づける ウ を確定 |
重要なのは、特定の解法パターン名を暗記することではなく、本文中の指示語や心理描写、空欄直後の言葉といった具体的な条件を見て、どの範囲から根拠を拾うかを別の問題でも再現できるようにすることである。
宮崎県公立高校入試 国語(小説文)の対策と復習手順
小説文の演習において、「物語を読んで登場人物の気持ちがなんとなく分かった」という状態と、「指定字数内で減点されない記述答案を作れる」「紛らわしい選択肢を根拠をもって消去できる」という状態には差がある。
今後の過去問演習や復習では、以下の手順を意識して反復することが有効である。
1. 身体反応の理由は「直前の心理描写」と「直後の指示語」から特定する
小説文では、「足をばたばたさせた」「胸の鼓動がスピードを上げた」「宙を見つめる」といった身体的な動作・反応に傍線や空欄が設定されることがある。このとき、動作だけを見て自分の感覚で理由を考えるのではなく、必ずその直前に明記されている感情語(問四(1)の「恥ずかしさ」)や、直後に続く理由説明の指示語(問三の「そうしないと〜」)を確認する習慣をつけたい。
2. 記述問題は「空欄直後の言葉」に合わせて文末の形を決める
問四のように、あらかじめ与えられた説明文の空欄を補う記述問題では、空欄の直後に続く言葉が答案の文末表現を決定づける。
- 空欄(1)の直後:「〜気持ちになっていたが」 $\rightarrow$ 名詞「気持ち」を修飾する連体形(「〜恥ずかしい」)で結ぶ。
- 空欄(2)の直後:「〜ができて、気持ちが落ち着いたから」 $\rightarrow$ 助詞「が」に続く名詞句(「〜と告白すること/〜と話すこと」)で結ぶ。 要素を抽出した後は、必ず空欄に代入して一文として自然につながるかを確かめること。
3. 表現の効果を問う選択肢は「表現技法」と「効果(内容)」に分けて検証する
問六の選択肢エのように、「『鋼』の比喩で表現することで」という前半の技法説明は本文と一致していても、「過去の思い出にとらわれていないことを印象づけている」という後半の効果説明が本文の事実と矛盾している選択肢が作られることがある。表現効果の問題では、選択肢を「どのような表現か」と「どんな効果があるか」の2つに区切り、両方が本文と合致しているものを選ぶ練習を重ねることが重要である。
今回の大問1では、文脈に即した漢字・慣用句の選択、指示語「そうしないと」による行動理由の特定、動悸が生じる前後の心理描写と告白行動の対比、および大黒の発言における「変化前・変化後」の整理を組み合わせることで、すべての設問を客観的に処理できる。本文の具体的な記述と設問条件を丁寧に対応させる手順を身につけることが、本番での安定した得点につながる。

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