滋賀県のリスニングテストにおいて問われているのは、英語を正しく聞き取る耳の良さではない。音声という消えゆく情報から「数字」や「条件」を抽出し、リアルタイムで計算や言い換え処理を行う「情報処理能力」である。
「毎日英語を聞いて耳を慣らす」「話の全体像を掴む」といった漠然とした学習法は、本県の入試においてはノイズでしかない。音声を一つの物語としてなんとなく記憶しようとする受験生は、複数の数字や人物の条件が交差した瞬間に頭の中が混線し、失点パターンに直行するよう設計されているのだ。
当研究所が直近4カ年分の過去問音声を独自に文字起こしし、構造を分解した以下のデータを見てほしい。本県のリスニングが「算数」と「言い換えのパズル」によって、高い再現性をもって反復されていることが一目でわかるはずだ。
滋賀県公立入試 英語・リスニング 構造分析リスト(2022〜2025年度統合版)
| 年度 | 大問 | ジャンル | テーマ | 解法の型(初手) | 設問の決定的特徴(トラップの構造) |
| 2025 | 1(その1) | 短対話 | 経路案内、日程計算 | 【数値演算と条件整理の手順】 | カレンダー上の滞在日数計算(加算)、地図上の経路追跡 |
| 2025 | 1(その2) | 説明文 | スクールバスの安全 | 【テーマ抽象化の手順】 | 具体的な安全対策から「生徒を守る方法」への抽象化 |
| 2025 | 1(その3) | 長対話 | ボランティア体験 | 【言い換え照合/定型英作文】 | 音声「respected」から「sacred」への変換。文脈に合う6語以上の質問作成 |
| 2024 | 1(その1) | 短対話 | 時間逆算、グラフ比較 | 【数値演算と条件整理の手順】 | 「9時から2時間前」の減算、割合(1/4)と大小比較によるグラフ特定 |
| 2024 | 1(その2) | 説明文 | 茶葉の再利用 | 【テーマ抽象化の手順】 | 掃除等への活用例から「お茶を入れた後の使い方」への抽象化 |
| 2024 | 1(その3) | 長対話 | ミシガンへの旅行 | 【言い換え照合/定型英作文】 | 質問に対する応答を6語以上で作成 |
| 2023 | 1(その1) | 短対話 | 時間加算、条件絞込 | 【数値演算と条件整理の手順】 | 「7:50のバスが10分遅れ」の加算。「20ドル+白+花柄」の条件照合 |
| 2023 | 1(その2) | 留守電 | 野球の助っ人依頼 | 【要件のコア抽出】 | 長文から「結局、何をしてほしいのか(試合への参加)」を抽出 |
| 2023 | 1(その3) | 長対話 | 高校の部活動 | 【情報整理/定型英作文】 | 米国の季節ごとのスポーツ数(3つ)の計数。5語以上の応答作成 |
| 2022 | 1(その1) | 短対話 | 機能推測、人数計算 | 【数値演算と条件整理の手順】 | 「絵を描くためのもの」から色鉛筆を特定。「5人-2人+1人」の複合演算 |
| 2022 | 1(その2) | スピーチ | 家族の役割分担 | 【テーマ抽象化の手順】 | ゴミ出しや料理といった具体例から「家族内の役割」への抽象化 |
| 2022 | 1(その3) | 長対話 | 市役所職員への取材 | 【言い換え照合/定型英作文】 | 「架け橋(bridge)」という比喩を「繋ぐ(connect)」へ変換。5語以上の質問作成 |
法則の解説:滋賀県リスニングを支配する「3つの型」
上記のデータから、滋賀県が受験生に要求する情報処理の手順が、かなり強く固定化されていることがわかる。
1. 算数への強制切り替え(演算ルールの徹底)
《その1》の前半では、毎年必ず「人数の増減」や「時間の計算」が出題される。
2022年は「5人に頼んで2人来ない、でも私が代わりに行く(5-2+1=4)」、2023年は「7時50分のバスが10分遅れた(7:50+10分=8:00)」、2024年は「夜9時の時点で2時間経過している(9:00-2時間=7:00)」という加減算である。これを記憶力だけで処理しようとするのは危険だ。
- 【決定ルール】:音声の中で「時刻」「人数」「金額」「日数」などの数字が聞こえた瞬間、あらすじを追うのをやめ、問題用紙の余白で「筆算」を開始せよ。
2. 選択肢を見破る「言い換え・抽象化」の視点
《その2》や《その3》において、音声で発音された英単語そのものが正解になることは少ない。
例えば2022年では、音声中の「架け橋(bridge)」という言葉を、選択肢では「繋ぐ(connect)」と言い換えている。2025年では「敬意を払われる(respected)」を「神聖な(sacred)」に変換させている。また、2023年の《その2》のように、細かな状況説明から「結局、何をしてほしいのか(試合への参加)」という『要件のコア』を抽出させるパターンの出題もある。
- 【決定ルール】:聞こえた単語との「同一語一致」に飛びつくのではなく、まずは「言い換え・抽象化」や「要件の抽出」が行われていないかを優先して疑え。
3. 即興英作文における「最小リスク」の防衛戦術
《その3》の最後に待ち構える「5〜6語以上の英作文」で、独創的な質問や気の利いた文章を考えるのは賢明ではない。ここは文法ミスによる失点を防ぐための「防衛戦」だ。
- 【決定ルール】:「Why did you ~?(なぜ〜したのですか)」や「I want to ~(私は〜したい)」といった、確実に書ける中1レベルの基本テンプレートを事前に用意し、指定語数ギリギリでパズルのようにはめ込んで終わらせよ。
結論とチェックリスト
リスニングテストでの得点は、生まれ持った英語の才能ではなく、決められた手順を実行する「作業」である。出題者の意図を逆算し、以下の行動を無意識レベルで実行できるようになるまで過去問演習を繰り返してほしい。
今日からリスニングの過去問を解く際は、必ず以下の手順を実行すること。
- 数字が出たら即座に数式化する: 数字が2つ以上聞こえたら「算数の時間」と認識し、余白に「+」や「-」を使ったメモを残す。
- 言い換え・抽象化のトラップを警戒する: 選択肢を読む際、聞こえた単語そのままの選択肢より「別の言葉でどう表現されているか」を探す視点を持つ。
- 英作文の鉄壁テンプレートを準備する: 疑問詞(Who, Where, Why, What)を使った5〜6語の短い構文を3パターン暗記し、本番の解答欄に流し込む。
漠然とした「聞き流し」を今すぐやめ、これらの明確な作業手順を身につけること。それこそが、本県のリスニングを攻略する最短ルートである。

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