【2025年度】岩手県公立高校入試・国語大問1 青谷真未『ステイ!』解答解説|心情変化を因果関係で読む手順

目次

はじめに

入試の小説読解では、登場人物に感情移入しただけで答えを決めることはできない。心情は、本文に示された出来事・発言・表情・行動を根拠として、因果関係から客観的に判断する必要がある。本問では、主人公である千草の「反省」と「決意」が、どのような出来事から生じ、どのような発言や行動として表れたかが精密に描かれている。

しかし、このような読み方の原則を知っているだけでは、実際の入試本番で得点することは難しい。制限時間内に安定して正答を導くには、本文の記述から客観的な『思考手順』を用いて解答を組み立てる技術が不可欠である。本記事では、その具体的な解法の型を示す。

解答一覧

正答
(1)
(2)
(3)キャンディが信頼してくれている
(4)自分が褒められたいという思いで厳しい訓練をしていたことを反省する気持ちから、キャンディのために時間をかけて訓練し、自慢の飼い主になろうとする前向きな気持ち
(5)

青谷真未『ステイ!』の要約と全体構造

本問を解くにあたり、まずは文章全体を貫くマクロな視点を提示する。

本文は、飼い犬の訓練に行き詰まった千草と、それを見守る善治、大我のやり取りを描いている。この文章を読み解く上で前提となるのは、千草の心情が「原因」と「きっかけ」によって段階的に変化していく因果の連鎖構造である。

段階原因・出来事心情・行動
初期訓練が思うように進まない自信を失い、落ち込む
転換キャンディが千草を信頼していると知らされる自分本位な訓練だったと気付き、反省する
きっかけキャンディが千草の手を舐めるキャンディに寄り添われたことで気持ちを立て直す
結末キャンディとの関係を改めて捉える時間をかけて訓練し、自慢の飼い主になろうと決意する

また、本文は第三者の語りで進むが、善治の心情や考えは直接示されている。一方、千草の心情は、主に表情・発言・行動を通して間接的に描かれている。この語り方の違いも、設問を解くうえで重要な構造的特徴となる。

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

(1)傍線部①「もどかしく」とは、善治のどのような様子か

  • 手順1(設問要求): 「もどかしく」という言葉が表す善治の状態を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 直前の善治の状況「励ましたいところだが上手い言葉が見つからない」と、直後の行動「リードを握りしめていた」に限定する。
  • 手順3(論理整理): 「励ましたい(目的)」に対し「言葉が見つからない(障害)」が合わさることで、「もどかしい(心情)」が生まれ、「リードを握りしめる(行動)」へとつながる因果関係として整理する。
  • 手順4(選択肢比較): ア(諦め)、ウ(平然)、エ(戸惑い)は、目的と障害の板挟みによる「じれったさ」という客観的な心情の定義から外れるため排除する。
  • 結論: 正答はイ(じれったく感じている様子)に決定。

(2)傍線部②で、善治が黙っていられなくなって声を上げたのはなぜか

  • 手順1(設問要求): 善治が「声を上げた」という行動の直接の原因を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 行動の直前にある事象「千草がゆっくりと顔を上げる。予想外に無防備なその表情を見たら」に限定する。
  • 手順3(論理整理): 以前からあった「励ましたい」という目的に、「千草の無防備な表情を見る」という直接のきっかけが加わり、「声を上げる(行動)」に至った因果関係を確認する。
  • 手順4(選択肢比較): 選択肢の排除において、事実の有無だけでなく、因果関係が論理的につながるかを基準とする。イ(千草が深く傷ついた)、ウ(言葉に喜んでいる)、エ(不満を言おうとした)は本文の事実関係や善治の目的と合致しない。アは行動に至るまでの因果関係を正確に説明している。
  • 結論: 正答はに決定。

(3)大我が千草に伝えようとしたことは何か

  • 手順1(設問要求): 大我が、千草にトレーニングを続けるべきだと伝えた理由を、15字以内で記述する。
  • 手順2(根拠範囲): 大我の台詞の結論部分「その信頼があったから、〜ついてきたんだよ」「その信頼に応えるべきだ」に限定する。
  • 手順3(論理整理): 千草の指示に従えば状況がよくなるという経験から、キャンディは「千草を信頼」して厳しい訓練についてきた。だからこそ、千草はその信頼に応えて訓練を続けるべきである、という論理を抽出する。
  • 手順4(条件照合): 設問文の「〜から、」に自然に繋がるよう構文を調整し、指定字数内に収める。
  • 結論: 正答はキャンディが信頼してくれているに決定。

(4)千草の気持ちは、傍線部④から⑤にかけてどのように変化したか

  • 手順1(設問要求): 傍線部④(顔を覆う)から⑤(手を下ろす)までの心情の変化を、70〜85字で記述する。
  • 手順2(根拠範囲): ④の直前の千草の台詞、および⑤の直後の千草の台詞と行動に限定する。
  • 手順3(論理整理): 変化前は「自分が褒められたかっただけだと気付き、反省する」。変化のきっかけは「キャンディが手を舐める」。変化後は「キャンディのために時間をかけて訓練し、自慢の飼い主になろうと決意する」。これらを論理的につなぐ。
  • 手順4(条件照合): 心情変化を成立させる要素として、「変化前の気持ち」と「変化後の気持ち」が過不足なく入っているかを確認し、字数を調整する。
  • 結論: 正答は自分が褒められたいという思いで厳しい訓練をしていたことを反省する気持ちから、キャンディのために時間をかけて訓練し、自慢の飼い主になろうとする前向きな気持ちに決定。

(5)本文の表現の特徴として最も適当なものを選びなさい

  • 手順1(設問要求): 本文の視点(誰を中心とするか)と、描かれている内容を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 本文全体における心情描写のされ方に着目する。
  • 手順3(論理整理): 語り手は第三者であるが、善治の心の中は直接示されている。一方、千草の心情は主に表情・発言・行動から読み取る形で描かれている。また、物語の軸は「千草の成長」と「犬の不思議さへの善治の気付き」である。
  • 手順4(選択肢比較): ア(善治が昔を思い出す)、イ(千草が語り手)、ウ(千草が訓練をやめようとする)は、視点の構造や事実関係が明確に誤っている。エは、善治の心の中が分かる語り方と、本文で描かれている千草の成長・犬の振る舞いへの気付きの両方を正確に説明している。
  • 結論: 正答はに決定。

授業ではここまで扱う:心情の因果関係の追跡

ここまでの解説から、心情問題を感覚だけで処理するのではなく、出来事・心情・行動の因果関係として整理する基本手順を確認できる。しかし、当研究所の実際の授業では、初見の問題に直面した際、自らの力で素早く論理構造を整理できるよう、さらに汎用的な分析の手順を身につけさせる。

今回の『ステイ!』のような小説文において、授業では「原因」→「心情」→「結果(行動・発言)」の論理的な因果の連鎖として処理する型を徹底的に訓練する。

段階分析の手順(型)本文への適用例(千草の心情変化)
第1段階初期の心情の確定自分が褒められたいだけだったと気付き、反省して顔を覆う。
第2段階変化の原因(きっかけ)の特定キャンディが千草の手に寄り添い、舐め始める(原因の発生)。
第3段階後の心情(結果)の確定キャンディのために時間をかけて訓練しようと決意する。

重要なのは、「犬がけなげで感動的だった」という感想だけで本文を処理しないことである。千草の心情が、どの出来事を原因として変化し、その変化がどの発言や行動に表れたかを確認する必要がある。これを別の小説文にも転用できる読解手順として整理することが、安定した得点につながる。

【岩手県公立高校】小説の対策と復習手順

本文の内容を理解することと、初見の設問に対して正答までの手順を自力で再現することは、まったく別の次元の作業である。解説を読んで納得するだけでは、試験本番で同じ手順を再現できるとは限らない。

岩手県公立高校の国語において上位校を目指すのであれば、小説文を感覚や雰囲気だけで読む習慣から離れ、本文の客観的な事実に基づいた因果関係として説明できる読み方へ切り替える必要がある。復習の際は、本記事で示した手順(設問要求の確定、根拠範囲の限定、因果関係の照合など)を別の問題でも反復し、なぜその選択肢が正解になるのか、なぜ他の選択肢が消えるのかを、自らの言葉で明確に説明できる状態まで精度を高めてほしい。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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