2025年度 香川県公立高校入試 国語 大問1 寺地はるな『月のぶどう』解説|原因と行動の因果関係をたどる小説読解の手順

目次

小説の心情は「想像」ではなく因果関係で読む

小説読解では、「登場人物ならきっとこう感じるはずだ」と自由に想像するだけでは、安定して正答にはたどり着けない。少なくとも小説の本文理解を問う設問では、読者自身の共感や道徳的な判断ではなく、本文の記述が判断基準となる。本文に客観的に記述された「原因(出来事・状況)」と「結果(行動・発言)」の因果関係を結びつけ、その間に生じる「心情・認識」を本文の言葉に基づいて正確に捉えることが求められる。

2025年度の香川県公立高校入試・国語大問1で出題された寺地はるな『月のぶどう』は、家業であるワイナリーで働き始めた主人公・歩(あゆむ)が、熟練の職人である日野への気後れや作業の失敗を経験しながら、周囲の大人たちとの関わりを通じて仕事の本質に向き合っていく過程を描いた文章である。

本文を読み解く鍵となるのは、主人公の内面で起きる認識の推移である。歩は最初から高い志や自信を持っていたわけではない。作業がうまくいかない焦りや、日野に対する気後れから目をそらし、自分なりに失敗の原因を探ろうとしている段階から出発している。そうした歩が、祖父のからかい混じりの指摘によって「相手を直視する」姿勢へと転換し、職人の身体の使い方を観察して自力で課題を発見する。さらに、濾過されたワインの美しさに魅了され、父との対話を通じて、仕事の大変さを自覚しながらも、続けていく意思を示すに至る。

本問で高得点を確保するためには、こうした物語の推移を感覚で追うのではなく、「設問の指定条件」「本文の文脈」「選択肢の記述」を照合する客観的な手順を確立していなければならない。本稿では、各設問の構造を分解し、試験本番で再現可能な解法手順を提示する。

『月のぶどう』(寺地はるな)の要約と人物関係

本文は、場面ごとの出来事と歩の認識の変化に応じて、大きく次の4つの展開に整理できる。

  1. 導入部(バトナージュの失敗と祖父の観察)歩はワインをかき混ぜる「バトナージュ」の作業で焦りから空回りし、醸造長の日野に棒を奪われて作業を交代させられる。その夜、風呂場で湯かき棒を使って一人で練習していたところ、祖父にその姿を見られる。歩は昔から祖父のいたずらの標的にされてきたため反射的に棒を隠すが、祖父から「目を合わせないでお前はいつ日野を見るのか」と問われ、職人を直視していない自分の姿勢に気づかされる。
  2. 展開部(日野の観察と課題の自力発見)翌週の作業で、歩は日野の動きを詳細に観察する。日野が足に体重をかけ、腰を落とし、全身を使って棒を操作している姿を見て、自分が「腕だけで動かそうとしている」という身体の使い方の誤りに気づく。日野は歩の申し出に応じ、再挑戦を認める。
  3. 転換部(ワインの美しさと作業の奥深さ)歩は白濁していた液体が「澱引き」や「濾過」を経て変化していく工程を観察する。濾過機を通って現れたワインの美しさを「澄んだ黄金の海」と捉え、職人の手仕事が生み出す成果に強く圧倒される。
  4. 結末部(父との対話と仕事の受容)夜中に台所でレモンの皮・果肉・指先の香りを嗅ぎ分けていた歩は、父から突然声をかけられる。父はパジャマの布地(絹・麻・ガーゼ・ウール)に触れさせながら、感覚を言葉で捉えることの大切さを教える。父から仕事がつらいかを問われた歩は、仕事がしんどいという率直な認識を隠さずに認めた上で「しんどいよ。でもやる」と答え、逃げずに仕事へ向き合う心を定める。

人物関係と主人公の認識変化

登場人物歩に対する関わり方・言動歩の初期の受け止め関わりを通じた歩の認識・変化
日野(醸造長・職人)未熟な歩から棒を奪うが、歩の再挑戦を認める。視線が合うたびに目を逸らし、畏縮している。腕だけでなく全身を使う職人の技術を観察し、学ぶ対象となる。
祖父練習姿をにやにや見てからかいながら、「いつ日野を見る?」と問う。いたずらを警戒し、思わず道具を隠して身構える。日野を恐れて目を背けていた自分を自覚し、観察を始める契機となる。
父パジャマの布地の感触を通じて、五感の差異を捉える感覚を教える。集中していたところを不意に声をかけられ、びくっとする。仕事の大変さを認めた上で、自らの意志で続ける覚悟を伝える。

全問解答一覧

問正答形式・条件
(一)aこば漢字の読み(送り仮名「む」は枠外)
(一)bなげ漢字の読み(送り仮名「く」は枠外)
(一)cふく漢字の読み(送り仮名「んで」は枠外)
(一)dしげき漢字の読み(二字熟語)
(二)2(連用形)記号選択(下一段動詞「混ぜる」の活用形)
(三)(おもしろがっているような祖父の表情を見て、)どう混ぜればよかったのかと考えながらバトナージュの練習をする姿を見られ、昔からくだらないいたずらの標的にされてきたため、警戒態勢に入る癖がでてしまった(から。)記述完成(指定の書き出しに続けて70字程度/末尾「から」に接続)
(四)ア畏縮している抜き出し(五字程度/説明文の空欄補充)
(四)イ腕だけで動かそうとしている抜き出し(十五字以内/説明文の空欄補充)
(五)4記号選択(傍線部における歩の心情)
(六)1記号選択(父の発言「そうか」に含まれる心情)
(七)澄んだ黄金抜き出し(比喩を用いた一文の初めの五字)
(八)3記号選択(本文全体を通じた歩の心情の変化)

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

(一)漢字の読み(a〜d)

  • 手順1(設問要求と指定条件の確認)本文中の二重線部a〜dの漢字の読みをひらがなで書く。設問の解答枠を確認すると、送り仮名があらかじめ枠外に印刷されている(a「__む」、b「__く」、c「__んで」、d「__」)。したがって、漢字一字ごとの読みを正確に切り分け、送り仮名を含めずに解答する必要がある。
  • 手順2(根拠範囲の探索)
    • a:本文「絶対嫌や、とa拒むと」
    • b:本文「つまらんなあ、とb嘆く」
    • c:本文「その香りは皮よりも甘さをc含んでいる」
    • d:本文「ぴりりとしたd刺激が走る」
  • 手順3・4(規則と表記の確認)
    • a「拒む」:辞書形は「こばむ」。送り仮名「む」を除いた漢字部分は「こば」となる。
    • b「嘆く」:辞書形は「なげく」。送り仮名「く」を除いた漢字部分は「なげ」となる。
    • c「含んで」:辞書形は「含む(ふくむ)」であり、撥音便形「含んで」となっている。送り仮名「んで」を除いた漢字部分は「ふく」となる。
    • d「刺激」:二字の音読み熟語であり、送り仮名はない。そのまま「しげき」と書く。
  • 結論a:こば b:なげ c:ふく d:しげき

(二)文法:活用形の識別

  • 手順1(設問要求)傍線部①「円を描くように①混ぜてみた」における「混ぜ」の活用形として適当なものを、未然形・連用形・連体形・仮定形の選択肢から1つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲)傍線部の一文「まだ半分ほどしか溜まっていない浴槽に挿し入れて、円を描くように①混ぜてみた。」に着目する。
  • 手順3(論理整理:文法規則の適用)動詞「混ぜる」の基本形・活用の種類・活用表を確認する。
    • 活用の種類:ザ行下一段活用
    • 活用表:
      • 未然形:混ぜ(混ぜない・混ぜよう)
      • 連用形:混ぜ(混ぜます・混ぜて・混ぜた)
      • 終止形:混ぜる
      • 連体形:混ぜる(混ぜるとき)
      • 仮定形:混ぜれ(混ぜれば)
      • 命令形:混ぜろ・混ぜよ
  • 手順4(直後の接続助詞による判定)未然形と連用形は語形がともに「混ぜ」で一致する。これを区別するためには、直後に接続している語句を確認する。本文では「混ぜ」の直後に接続助詞「て」が続いている。接続助詞「て」は用言の連用形に接続する規則がある(未然形であれば「混ぜ+ない」「混ぜ+よう」となる)。
  • 結論接続助詞「て」に連なる形であるため、正答は2(連用形)である。

(三)理由説明記述(指定字数・条件付き)

  • 手順1(設問要求と指定条件の分解)傍線部②「思わず湯かき棒を背に隠した」について、歩がその行動を取った理由を説明する。
    • 条件1:祖父に気がつくまでの歩の気持ちを踏まえること。
    • 条件2:指定の書き出し「おもしろがっているような祖父の表情を見て、」に続けて書くこと。
    • 条件3:解答枠末尾に印刷されている「から。」に自然につながる文末にすること。
    • 条件4:指定の書き出しに続く部分を70字程度でまとめること。
  • 手順2(根拠範囲の探索)
    • 祖父に気づく直前(歩の気持ち・行動):本文「どう混ぜれば良かったんだろう、と今日の自分の動きを思い出しながら、歩は湯かき棒……を手に取る。まだ半分ほどしか溜まっていない浴槽に挿し入れて、円を描くように混ぜてみた。」
    • 祖父に気づいた瞬間:本文「背後で、笑い声がした。振り返ると、にやにやしている祖父と目が合う。」
    • 祖父との過去の関係・心理:本文「昔からくだらないいたずらの標的にされてきた歩は祖父を見ると警戒態勢に入る癖がついてしまっている。」
  • 手順3(論理整理:二つの原因の結合)この行動は単一の原因から生じたものではない。次の2つの要素が組み合わさって起きた行動である。
    • 【原因A(目前の出来事と直前の反省)】:バトナージュがうまくできず、自分の動きを思い返して湯かき棒で練習していたところを祖父に見られたこと。
    • 【原因B(過去の事情・警戒する癖)】:昔から祖父のくだらないいたずらの標的にされてきたため、祖父を見ると警戒態勢に入る癖がついていること。
    • 【結果(反射的行動)】:警戒する癖が出て、とっさに湯かき棒を背中に隠した。
  • 手順4(答案作成と字数・接続の点検)
    • 指定の書き出し:おもしろがっているような祖父の表情を見て、
    • 組み込む要素:
      1. どう混ぜればよかったか考え、バトナージュを一人で練習していた姿を見られた(原因A:条件への対応)
      2. 昔からくだらないいたずらの標的にされてきた(原因B)
      3. 警戒態勢に入る癖が出てしまった(結果)
    • 文末:印刷された「から。」に直結する形(〜ため、……癖が出てしまった[から。])
    • 答案作成例:「どう混ぜればよかったのかと考えながらバトナージュの練習をする姿を見られ、昔からくだらないいたずらの標的にされてきたため、警戒態勢に入る癖がでてしまった」(75字)
    • 字数点検:75字であり、「70字程度」という条件に収まっている。
  • 結論(おもしろがっているような祖父の表情を見て、)どう混ぜればよかったのかと考えながらバトナージュの練習をする姿を見られ、昔からくだらないいたずらの標的にされてきたため、警戒態勢に入る癖がでてしまった(から。)

(四)空欄補充・抜き出し(ア・イ)

  • 手順1(設問要求と説明文の構造把握)傍線部③「ふん、と鼻を鳴らして歩から離れる」における「日野の気持ち」を説明した誘導文があり、その空欄ア・イに当てはまる言葉を本文から抜き出す。
    • 説明文:「日野と目を合わせず、日野にあきらかに[ ア(五字程度) ]様子だった歩が、もう一度やりたいと申し出たので釈然としなかったが、日野を観察し、[ イ(十五字以内) ]からうまくいかないのだと自力で気づいた歩の様子を見て、褒める気にはならないまでも、歩のやりかたを少しは認めている」
    • 条件:アは「五字程度」、イは「十五字以内」、本文中からそのまま抜き出す。
  • 手順2(根拠範囲の探索と文法的照合)
    • 空欄アの特定:説明文の文脈は「日野と目を合わせず、日野にあきらかに[ ア ]様子だった歩」。直後の「様子だった歩」に自然につながる語句を本文から探す。本文に「日野さんがこちらを見るたびに、目を逸らしてしまう。それとわかるほど、自分は日野さんの前で畏縮しているのだろう」とある。「畏縮している」を代入すると、「あきらかに畏縮している様子だった歩」となり、意味・文法ともに完全に一致する。文字数は6字で「五字程度」の条件を満たす。
    • 空欄イの特定:説明文の後半は「日野を観察し、[ イ ]からうまくいかないのだと自力で気づいた歩」。直後に「からうまくいかないのだと」という理由・原因の接続がある。本文で歩が日野を観察した直後を確認すると、「腕だけで動かそうとしているからいけないのだ、と日野さんを見ていて気がついた」とある。本文の「[腕だけで動かそうとしている]からいけないのだ」と、説明文の「[イ]からうまくいかないのだ」の構文が完全に合致する。文字数は13字で「十五字以内」を満たす。
  • 結論ア:畏縮している(6字)イ:腕だけで動かそうとしている(13字)

(五)傍線部における心情把握(記号選択)

  • 手順1(設問要求)傍線部④「なにしとんねん、と声をかけられてびくっと肩を震わせる」における歩の気持ちとして最も適当なものを1つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲の確認)直前の状況:歩は台所でレモンを取り出し、「皮を爪を立てると、ほんのり苦さの混じった香りがする」「果肉の部分を嗅ぐと、その香りは皮よりも甘さを含んでいる」「レモンを切った後の指先についた香りも……すこし違う」と、香りの嗅ぎ分けに没頭している。直前の記述:本文「皮、果肉、指先と順繰りに匂いを嗅いでいた歩は、台所の戸が開いていることに気がつかなかった。」直後の反応:突然背後から声をかけられ、「びくっと肩を震わせる」。
  • 手順3(論理整理:原因と結果の一致)レモンの香りの違いを確かめることに没頭していた(原因)ため、戸が開いて人が入ってきたことにすら気づかず、突然声をかけられて不意を突かれ、我に返った(結果)という心理の流れが確認できる。
  • 手順4(選択肢の吟味と誤答の排除)
    • 選択肢1(誤答):「香りの違いが判別できず、むきになっていた」「すっと冷静さを取り戻した」とあるが、本文では「すこしずつ、それぞれのワインの違いがわかるようにはなってきた」と書かれており、判別できずに苛立っている事実はない。また、「びくっと肩を震わせる」という驚きの反応を「すっと冷静さを取り戻した」とする点も合致しない。
    • 選択肢2(誤答):「一人で問題を解決しようと意地を張っていた」「父にはすべて見透かされていたことを察し、じわりと恥ずかしさが込み上げてきた」とあるが、歩が意地を張っていた記述も、父に見透かされて羞恥を感じた記述も本文に存在しない(心情の捏造)。
    • 選択肢3(誤答):「秘密の特訓をとがめられた」「ワインの味の区別がいまだにつかないことで父をうんざりさせていると感じ、ふとつらくなった」とあるが、父は歩をとがめておらず、うんざりしてもいない。存在しない因果関係を作り出している。
    • 選択肢4(正答):「レモンの香りの微妙な違いを嗅ぎ分けることに没頭していたところに声をかけられ、不意を突かれた形になって、はっと我に返った」は、本文の「戸が開いていることに気がつかなかった」および「びくっと肩を震わせる」という事実と完全に一致する。
  • 結論正答:4

(六)発言の意図と心情把握(記号選択)

  • 手順1(設問要求)傍線部⑤「そうか、とまた父は言う」における「父の気持ち」として最も適当なものを1つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲の確認)直前の会話のやり取りを確認する。
    • 父の問いかけ:「しんどいか、仕事」
    • 歩の内省:「取り繕ってもしかたがない。父は今どんな顔をしているのだろうと思う。」
    • 歩の返答:「しんどいよ。でもやる」
    • 父の応対:「そうか、とまた父は言う。歩は布の感触を確かめ続けた。」
  • 手順3(論理整理:対話の二重構造)歩の返答は2つの要素から成り立っている。
    1. 「しんどいよ」=仕事の大変さに対する率直な認識
    2. 「でもやる」=大変さを自覚した上で、逃げずに続けるという前向きな意志の表明父は息子の仕事の大変さを気にかけて問いかけたが、歩が率直に認めた上で「でもやる」と続ける意思を示したため、その成長の意志を静かに受け止めて「そうか」と発言している。
  • 手順4(選択肢の吟味と誤答の排除)
    • 選択肢1(正答):「歩の前向きな姿を喜ぶ一方、つらい思いをさせているのではないかと気にしていたが、歩の成長への意志を感じてその思いを受け止めている」は、父の事前の気遣いと、歩の「でもやる」という意志を受け止めた受容の姿勢を過不足なく説明している。
    • 選択肢2(誤答):「歩は心中を明かそうとしなかったために寂しく思っている」とあるが、歩は「しんどいよ。でもやる」と率直に胸中を打ち明けており、記述と矛盾する。
    • 選択肢3(誤答):「ワインづくりに不要な助言を与えてしまい、父親としてのふがいなさを感じている」とあるが、父が自身の助言を後悔したり、ふがいなさを感じたりしている描写はない。
    • 選択肢4(誤答):「将来の目標がやっと見つかったと知り感動している」とあるが、歩が明確な将来目標を定めたという記述はなく、「感動している」という解釈も本文の抑制されたやり取りから逸脱している。
  • 結論正答:1

(七)比喩表現の抜き出し(条件付き)

  • 手順1(設問要求と指定条件)
    • 条件1:職人が惜しみなく手をかけてつくり上げたワインに魅せられ、その美しさに圧倒されている歩の気持ちが読み取れる光景であること。
    • 条件2:比喩を用いて表している一文であること。
    • 条件3:該当する一文を見つけ、その「初めの五字」を抜き出すこと。
  • 手順2(根拠範囲の探索)本文後半、ワインの濾過作業の場面を探索する。「急いで階段をのぼり、その隣にしゃがんだ。濾過機を通されたワインが、ホースから勢いよく迸(ほとばし)る。」に続く箇所を確認する。
  • 手順3(論理整理:主観的反応と情景描写の比喩の区別)
    • 一文目:「歩は目を瞠る。」⇒ 歩の身体的リアクション(驚き・感銘)を示す文であるが、比喩は含まれていない。
    • 二文目:「澄んだ黄金の海がそこにあった。」⇒ タンクの中に注がれる透明なワインの広がりを、実在の海ではない「黄金の海」と比喩(隠喩)で表現している。職人の手仕事によって白濁した液体が透き通った美しさに変化した光景そのものを表している。
    • 続く叙述:「海は新たなワインが注ぎこまれるたびに、波打つ。あちらこちらに小さな泡と虹が生まれて、また消える。すごいな、と呟き、歩はタンクの中に視線を落とす。」⇒ 「澄んだ黄金の海がそこにあった。」が比喩を用いた起点の一文であることが確定する。
  • 手順4(抜き出し字数の確認)該当の一文「澄んだ黄金の海がそこにあった。」の初めの五字を数える。
    • 1字目:澄
    • 2字目:ん
    • 3字目:だ
    • 4字目:黄
    • 5字目:金正確に5字を抽出する。
  • 結論澄んだ黄金

(八)全体を通じた心情変化の把握(記号選択)

  • 手順1(設問要求)本文全体を踏まえ、歩の気持ちについて述べたものとして最も適当なものを1つ選ぶ。
  • 手順2(本文全体の展開整理:認識の変化プロセス)
    • 第1段階(初期状態):日野の前で畏縮し、バトナージュの作業がうまくいかず空回りして道具を奪われる。失敗の原因を自力で探ろうと、風呂場で一人練習する。
    • 第2段階(契機①:祖父の指摘と観察):祖父から「いつ日野を見る?」と問われ、日野を直視していなかった姿勢を改める。日野の体の使い方を観察し、「腕だけで動かそうとしている」という自己の誤りに気づいて修正を試みる。
    • 第3段階(契機②:手仕事の美しさへの感嘆):澱引き・濾過を経て仕上がったワインの「澄んだ黄金の海」を目にして圧倒され、職人の仕事の奥深さに引き込まれていく。
    • 第4段階(契機③:父との対話と受容):感覚を言語化する学びを得るとともに、仕事の大変さを自覚しながらも「しんどいよ。でもやる」と答えて、真摯に向き合う心を定める。
  • 手順3(選択肢の照合と誤答の排除)
    • 選択肢1(誤答):「日野への反感からワインづくりを嫌っていた」「社会人として責任の重さを認識し始めている」とするが、歩が抱いていたのは日野への気後れ(畏縮)であり、「反感」や「作業への嫌悪」ではない。また、「社会人としての責任」という抽象的な道徳論へ一般化する根拠も本文にない。
    • 選択肢2(誤答):「職人としての成長に確かな手応えを感じている」とするが、歩は失敗の原因に気づき、香りの違いを学び始めた途上であり、「確かな手応えを得た」と断定する記述はない(成長の過大評価)。
    • 選択肢3(正答):「日野に認められようとワインづくりに打ち込むうちに、その奥深さに触れて引き込まれていき、真摯に仕事に向き合おうと心を定めている」は、日野への意識から始まり、ワインの美しさに惹かれ、最後の「しんどいよ。でもやる」に至る本文全体の流れを客観的に総括している。
    • 選択肢4(誤答):「誰にも頼らずにワインづくりの技術を向上させた」「自分には優れた才能があると確信している」とするが、歩は祖父の示唆、日野の身体観察、父からの感覚の教えなど、周囲の関わりの中で学んでおり、「誰にも頼らず」は事実に反する。また、「才能の確信」を示す記述も存在しない。
  • 結論正答:3

授業ではここまで扱う:本文中の具体物と歩の変化を対応させる

実際の授業では、文章中に登場する具体的な事物が、歩の行動や認識の変化とどのように結びついているかも整理する。ここで重要なのは、「この道具は○○を象徴している」と作者の意図を推測することではない。その事物が登場する前後で、歩が何をし、何に気づき、どのような発言をしているかを本文から確認することである。

本問に登場する具体的な事物と、歩の行動・認識の変化を対応させると下表のようになる。

具体物と歩の行動・認識の推移

本文中の具体物その場面における歩の行動・発言その場面で確認できる歩の状態・課題次の展開への結びつき
湯かき棒風呂の浴槽でバトナージュの練習をし、祖父に見られて背中に隠す。作業の失敗を振り返り、自分なりに改善しようとしている一方、日野の前では畏縮して目をそらしている。祖父に指摘され、日野の身体の使い方を直接「観察する」姿勢へ転じる。
濾過されたワイン濾過機から流れ出る様子を見て「澄んだ黄金の海」「すごいな」と呟く。白濁した液体が透き通る工程を見て、職人の手仕事の成果に圧倒されている状態。単なる作業への焦りから、ワインづくりそのものの奥深さに引き込まれていく。
レモンと布地夜中にレモンの香りを嗅ぎ比べ、父からパジャマの布地の違いを教わる。感覚の違いをどう言葉で表せばよいか考えている状態。父からの問いかけに対し、「しんどいよ。でもやる」と継続の意思を示す。

重要なのは、「具体物の意味」を固定的に覚えることではなく、登場人物がその事物と接した際に「どのような行動を取り、どのような認識の変化を起こしているか」を、本文の叙述に基づいて整理できるようにすることである。

2025年度大問1から確認できる小説問題の復習手順

この大問では、あらすじを大まかに捉えるだけでなく、設問要求を正確に読み、本文の表現と照合する処理が必要であった。今回の問題を復習する際は、次の4点を確認しておきたい。

  1. 「行動の理由」は目の前の出来事と背景事情を分けて整理する理由説明の記述問題(問三)では、直前の出来事(目前のきっかけ)だけに目を奪われやすい。本問のように「祖父に気がつくまでの気持ち」という条件が課されている場合、直前の状況(一人での反省と練習)と、人物関係の背景(昔からのいたずらと警戒の癖)という複数の要素を過不足なく抽出し、文末表現まで整合させる練習を徹底する。
  2. 抜き出し問題は「前後の文法的なカタチ」を照合する空欄補充形式の抜き出し問題(問四)では、意味が合いそうな言葉を感覚で探すのではなく、空欄の直前・直後にある接続助詞や体言を確認する。「[ ]様子だった」「[ ]からうまくいかない」といった文の構造(カタチ)を本文の表現と一致させることで、客観的かつ機械的に抜き出し範囲を確定させる手順を確立する。
  3. 選択肢の誤答パターンを客観的に排除する心情選択問題では、正解を探しに行くだけでなく、不正解の選択肢が「本文にない感情を作り足している(捏造)」「成長の程度を誇張している(過大評価)」「本文と合致しない因果関係にしている(矛盾)」のどれに該当するかを言語化して消去する。
  4. 全体把握問題は「初期状態」から「到達状態」への変化の筋道をたどる本文全体の心情を問う問題(問八)では、最後の場面の印象だけで判断してはならない。主人公がどのような不十分さ・課題を抱えて出発し、誰のどのような言動を契機として認識を改め、最終的にどのような心境に至ったのかという「変化の筋道」を客観的に確認する。
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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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