「直立」と「過度な依存」の狭間にある、互いに寄りかかり合う関係を捉える
小説・物語文の読解において、登場人物の間で交わされる道具や技術に関する会話を前にした際、多くの学習者はそれらを単なる物語の背景や小道具として受け流してしまいがちである。しかし、高校入試の国語において問われるのは、登場人物が取り組んでいる具体的な対象(本問ではイスの設計)が、いかにして人間関係のあり方や主人公の認識を映し出す比喩として機能しているかを論理的に読み解く力である。
2025年度の徳島県公立高校入試・国語の大問2で出題された佐藤まどかの『一〇五度』は、学生チェアデザインコンテストに挑む中学生の真(デザイナー志望)と梨々(モデラー)の衝突を契機として、真の祖父(元モデラー)が語る「イスの角度」を手がかりに、対等な協働と、互いに少しずつ寄りかかり合う関係へと考えを深める物語文である。梨々から「デザイナーが上で、モデラーが下みたい」と受け取られる態度をとっていた真が、祖父から「仕事はフィフティ・フィフティ」「一〇五度の角度」という教えを受け、自らが梨々に大きく寄りかかっているにもかかわらず、えらそうにふるまっていた事実に気づくプロセスが描かれる。
本問を確実に攻略するためには、本文中の言葉を文脈に合わせて適切に活用する字数指定記述(10〜15字、30〜35字)、比喩元の描写を的確に同定する15字抜き出し、設問の指定形式(「〜という態度」「〜関係であるということ」)への文法的・意味的な接続確認、そして否定極性(適切でないもの)の表現識別における部分一致トラップの排除という、実戦的な解法手順が必要である。本稿では、全問についてその思考プロセスを分解・明示する。
『一〇五度』(佐藤まどか)のあらすじと論理構造
本文は、デザインコンペに取り組む中学生の作業上の対立から出発し、祖父による技術論と人間関係に関する講話を経て、主人公が自己の依存と態度のずれを自覚して行動を起こすまでの変化を描いている。
- 場面の展開構造
- 導入(真と梨々の対立と決裂)真は模型制作を担当する梨々に対し、「デザイン段階はもっと重要」「手作業とはちがう」と強い物言いで急かす。梨々は「デザイナーが上で、モデラーが下みたいな言い方」「上から目線」と憤慨し、作業を中断して帰宅してしまう。
- 祖父の介入(仕事における対等性の提示)元モデラーである祖父は、真の態度を見抜き、「仕事はフィフティ・フィフティだ。どっちが上も下もねえぞ」「職人を怒らせるようなデザイナーに、ろくなやつはいねえ」とさとす。模型を自分で作れない真は、梨々の技能に頼らざるを得ない立場であることを指摘される。
- イスの比喩(「一〇五度」の角度が持つ意味)祖父は、真が設計しようとしているイスの背もたれの角度「一〇五度」を取り上げ、「軽く寄りかかるのにいいあんばいだ」と評する。九〇度(一人で直立)では人間関係は成り立たず、ソファのように思いきり寄りかかれば相手が支えきれなくなる。互いに困ったときに少しずつ寄りかかり合って支え合う関係こそが望ましいと説く。
- 真の内省と気づき(事実と態度のずれの自覚)祖父から「おまえは今、あの子にかなり寄りかかってんだよ。なのに、直立して一人で立ってるような顔してやがる」と指摘され、真は自らの姿を省みる。自分は梨々に大きく寄りかかっているにもかかわらず、一人で立っているかのようにえらそうにふるまっていたというずれを自覚し、梨々のもとへ向かう。
イスの角度と人間関係の対比マトリクス
| 比較項目 | 九〇度(直立) JPG | 寝椅子・ソファ(過度の傾斜) JPG | 一〇五度(適度な傾斜) JPG |
| イスの機能・状態 | 背もたれに頼らず、一人でまっすぐ立っている状態。 | ごろっと思いきり寄りかかる状態。 | 軽く寄りかかるのにいいあんばいの角度。 |
| 人間関係への置換 | 他者に寄りかからず、一人で立っている状態。 | 一方が相手に全面的に頼り切り、相手が支えきれなくなる依存。 | お互いに少し寄りかかり合う関係。 |
| 物語における対応 | 「一人で直立してるみたいにふるまっている」真の態度。 | 真が実際には「思いっきり梨々に寄りかかっている」依存の現実。 | デザイナーとモデラーがフィフティ・フィフティで協働する関係。 |
全問解答一覧
| 問 | 正答・答案 | 形式・条件 |
| (1) | お互いの立場に上も下もない | 内容説明(本文中の言葉を用いる・10字以上15字以内・13字) |
| (2)a | 軽く寄りかかるのにいいあんばい | 抜き出し(本文から15字) |
| (2)b | お互いに少し寄りかかり合う | 条件記述(本文中の言葉を用いる・10字以上15字以内・13字) |
| (3) | 自分だけが梨々に寄りかかっているのに、えらそうにふるまっていたこと。 | 内容説明(本文中の言葉を用いる・30字以上35字以内・34字) |
| (4) | ア | 表現・描写選択(適切でないものを1つ) |
【大問2】各設問の解答解説と思考手順
(1)「一流のデザイナー」が職人に接する考え(10〜15字記述)
- 手順1(設問要求と指定条件の確認):
- 傍線部①「一流のデザイナー」について、祖父は職人に対してどのような考えで接するものだと考えているかを説明する。
- 条件①:本文中の言葉を用いて書く。
- 条件②:10字以上15字以内で書く。
- 条件③(指定枠):「『一流のデザイナー』は、『職人』に対して、( )という態度で接するものだという考え。」の空欄に入るよう文末を整える。
- 手順2(根拠範囲の精査):傍線部①の直前直後を精査する。
- 「あんな態度で職人にあたらねえよ。仕事はフィフティ・フィフティだ。どっちが上も下もねえぞ。」
- 手順3(言葉の選定と文末の調整):
- 祖父が述べている核心は、「対等であること」「上下関係を作らないこと」である。
- カタカナ語の「仕事はフィフティ・フィフティ」をそのまま置くよりも、本文直後で日本語として言い換えられている「上も下もねえ」を利用する。
- 話し言葉の「上も下もねえ」を標準的な表現「上も下もない」に整え、誰と誰の関係かを明示するために「お互いの立場に」を補う。
- 答案:お互いの立場に上も下もない
- 手順4(指定形式への接続と字数計算):
- 枠への挿入確認: 「『一流のデザイナー』は、『職人』に対して、[お互いの立場に上も下もない]という態度で接するものだという考え。」 $\to$ 意味・文法ともに自然に接続する。
- 文字数:お(1)・互(2)・い(3)・の(4)・立(5)・場(6)・に(7)・上(8)・も(9)・下(10)・も(11)・な(12)・い(13)=13字(10字以上15字以内を充足)。
- 結論:お互いの立場に上も下もない
(2)a イスにとっての一〇五度(15字抜き出し)
- 手順1(設問要求と指定条件の確認):
- 傍線部②「いい角度」について、イスでいう一〇五度とはどのような角度かを説明する。
- 条件:本文中から15字で抜き出す。
- 枠組み:「『一〇五度』という角度は、イスで言うと( a )であり……」
- 手順2(根拠範囲の探索):傍線部②を含む祖父の発言を精査する。
- 「おまえさっき、一〇五度にしたいって言ってたな。②いい角度だ。軽く寄りかかるのにいいあんばいだ。人間関係だってそうだぞ。」
- 手順3(該当文字列の抽出と字数計算):
- 「いい角度」の具体的な内容を直後から探すと、「軽く寄りかかるのにいいあんばいだ」が該当する。
- 枠文が「〜であり」と接続するため、文末の「だ」を除いた部分を抜き出す。
- 文字数: 軽(1)・く(2)・寄(3)・り(4)・か(5)・か(6)・る(7)・の(8)・に(9)・い(10)・い(11)・あ(12)・ん(13)・ば(14)・い(15)=15字(指定と完全に一致)。
- 結論:軽く寄りかかるのにいいあんばい
(2)b 人間関係に置き換えた一〇五度(10〜15字記述)
- 手順1(設問要求と指定条件の確認):
- 一〇五度という角度を人間関係に置き換えた場合、どのような関係になるかを説明する。
- 条件①:本文中の言葉を用いて書く。
- 条件②:10字以上15字以内で書く。
- 条件③(指定枠):「……人間関係で言うと( b )関係であるということ。」の空欄に直接つながる連体形・動詞述部で結ぶ。
- 手順2(根拠範囲の精査):祖父による人間関係への比喩展開を精査する。
- 「九〇度なら一人で立ってられる。」(=極端な自立)
- 「思いきりだれかに寄りかかると、相手が支えきれなくなっちまう。」(=一方的依存)
- 「ちょいと寄りかかる程度がいいんだ。」
- 「でな、向こうも困ったら、こっちにちょいと寄りかかる。向こうとこっちで寄りかかり合って『人』って漢字ができてるみたいだろ。」
- 手順3(要素の抽出と答案の作成):
- 人間関係における理想は、一方が一方に頼るのではなく、双方が互いに少しずつ頼り合うことである。
- 本文中の言葉「寄りかかり合って」「ちょいと(少し)」を拾い、「お互いに少し寄りかかり合う」とまとめる。
- 手順4(指定形式への接続と字数計算):
- 枠への挿入確認: 「……人間関係で言うと[お互いに少し寄りかかり合う]関係であるということ。」 $\to$ 「〜寄りかかり合う関係」と名詞「関係」へ自然に修飾接続する。
- 文字数:お(1)・互(2)・い(3)・に(4)・少(5)・し(6)・寄(7)・り(8)・か(9)・か(10)・り(11)・合(12)・う(13)=13字(10字以上15字以内を充足)。
- 結論:お互いに少し寄りかかり合う
(3)真が理解した内容(30〜35字記述)
- 手順1(設問要求と指定条件の確認):
- 傍線部③「突然、すべてを理解できた気がした」について、真は何を理解できたのかを説明する。
- 条件①:本文中の言葉を用いて書く。
- 条件②:30字以上35字以内で書く。
- 条件③:文末は「〜こと。」で結ぶ。
- 手順2(根拠範囲の精査):傍線部③の直前にある真の内省を精査する。
- 祖父の指摘:「おまえは今、あの子にちょっとどころか、かなり寄りかかってんだよ。なのに、直立して一人で立ってるような顔してやがる。」
- 真の気づき:「そうか、一〇五度どころじゃなくて、ぼくは思いっきり梨々に寄りかかっているんだ。しかも梨々が寄りかかってくることはない。なのに、ぼくはえらそうに、一人で直立してるみたいにふるまっているんだ。」
- 手順3(対比構造の抽出と逆接による結合):
- 真が直面したずれは、以下の二つの要素の食い違いである。
- 要素A(客観的事実):自分だけが梨々に寄りかかっている(依存している)。
- 要素B(主観的態度):それなのに、一人で直立しているようにえらそうにふるまっていた。
- この二つの事態を接続助詞「〜のに」で対比・統合し、文末を「〜こと。」とする。
- 真が直面したずれは、以下の二つの要素の食い違いである。
- 手順4(答案の合成と字数計算):
- 答案:自分だけが梨々に寄りかかっているのに、えらそうにふるまっていたこと。
- 文字数計算: 自(1)分(2)だ(3)け(4)が(5)梨(6)々(7)に(8)寄(9)り(10)か(11)か(12)っ(13)て(14)い(15)る(16)の(17)に(18)、(19)え(20)ら(21)そ(22)う(23)に(24)ふ(25)る(26)ま(27)っ(28)て(29)い(30)た(31)こ(32)と(33)。(34) $\to$ 句読点を含めてちょうど34字(30字以上35字以内を充足)。
- 結論:自分だけが梨々に寄りかかっているのに、えらそうにふるまっていたこと。
(4)本文の表現についての識別(否定極性)
- 手順1(設問要求と極性の確認):
- 本文の表現について述べたものとして適切でないもの(否定極性)をア〜エから一つ選択する。
- 手順2(選択肢の精査と消去ロジック):
- ア(適切でない・正答):「擬態語を用いることで、梨々の心情を丁寧に表現し、じいちゃんと真の会話の場面への展開をスムーズにしている。」
- 本文冒頭には「ずんずん歩いて」「さっさと帰ってしまった」という擬態語が存在する。
- しかし、これらは梨々の外形的な動作や去り際の様子を描写したものであり、梨々の心情そのものを「丁寧に表現」しているわけではない。したがって選択肢全体の説明が本文の叙述と合致せず、不適切である。
- イ(適切・消去):「真の心の声を挿入することにより、じいちゃんとの会話を通して変化する真の気持ちに読み手を引き込んでいる。」
- 祖父との会話の合間に「ぼくが想い描いているのは……」「そうか、一〇五度どころじゃなくて……」といった真の内面の言葉が挿入され、認識の変化が追えるため合致する。
- ウ(適切・消去):「『……』を多用することにより、自分の思いをうまく伝えることができない真のもどかしさや葛藤を印象づけている。」
- 「……。」「……わかってるよ。」「あやまりたいような、あやまりたくないような。」など、「……」によって真の迷いや言葉に詰まる様子が表されているため合致する。
- エ(適切・消去):「じいちゃんが真に言い聞かせる言葉を繰り返し用いることで、真を温かく見守り、背中を押す様子を表現している。」
- 「わかるか?」「ほれ、さっさと行けって」など、祖父が真の納得を促し行動を促す様子が描かれており合致する。
- ア(適切でない・正答):「擬態語を用いることで、梨々の心情を丁寧に表現し、じいちゃんと真の会話の場面への展開をスムーズにしている。」
- 結論:ア
授業ではここまで扱う:物語文における「具象物の比喩機能と主人公の心理的成長」読解手順
実際の指導においては、単に各設問の正答を合わせるにとどまらず、物語文において「登場人物が扱う具体的な事物(イスの角度)が、人間関係を考える比喩としてどのように機能し、主人公の認識の変化と結びついているか」を体系的に整理させる。
本文における場面の4段階展開プロセス
本問では、「イスのデザイン」という具体的な創作活動が、主人公が自分と梨々との関係を捉え直すきっかけとなっている。
| 段階 | 本文における物語の展開 | 読解・解法上の着眼点 |
| ① 衝突と態度のずれ (冒頭) | デザインが手作業より上だと言い放ち、モデラーの梨々を怒らせて帰してしまう。 | 梨々から「上から目線」と受け取られた真の態度を客観的に把握する。 |
| ② 職人倫理の提示 (中盤①) | 祖父が「仕事はフィフティ・フィフティ」「上も下もない」と対等性を諭す。 | カタカナ語の直後にある日本語の言い換えを捉え、記述の軸を固める(問1)。 |
| ③ 具象物から人間関係への転換 (中盤②) | イスの「一〇五度」を、九〇度(直立)やソファ(寄りかかりすぎ)と対比し人間関係へ広げる。 | イスの機能的描写(問2a)と、人間関係への置換(問2b)の対応関係を結ぶ。 |
| ④ 事実と態度のずれの自覚 (結末) | 真は「自分だけが頼っているのに、直立している顔をしていた」というずれを悟る。 | 「実際の依存関係」と「えらそうな態度」を逆接で結ぶ記述の構文を再現する(問3)。 |
重要なのは、「一〇五度」という角度が、単なるイスの設計上の数値にとどまらず、「一人で直立するのでもなく、相手が支えきれないほど寄りかかるのでもない、互いに少しずつ寄りかかり合う関係」の比喩として機能していることを見抜くことである。この比喩の構造を捉えることで、この場面で描かれている真の気づきと、人間関係についての考え方がつながって見えてくる。
【徳島県】国語・物語文の対策と復習手順
2025年度の徳島県公立高校入試・国語の大問2は、短い字数指定の中で過不足のない言葉選びが求められる記述問題から、抜き出し、認識と態度のずれを捉える記述、そして表現技法を吟味する識別問題まで、物語文の精読に必要な基本技能が試された。今後の入試対策においては、以下の手順を定着させることが重要である。
- 1. 短文記述における「本文の言い換え表現の活用」と「枠への接続」 (1)のように「本文中の言葉を用いて10〜15字」でまとめる場合、会話文中のカタカナ語(「フィフティ・フィフティ」)をそのまま置くのではなく、直後にある平易な言い換え(「上も下もねえ」 $\to$ 「上も下もない」)に着目する。さらに設問枠の末尾(「〜という態度で接するものだという考え」)に文法的に直接つながるよう整える点検を欠かさない。
- 2. 比喩問題における「具象と抽象の対応関係の整理」 (2)のように、ある事物(イスの角度)が別の事柄(人間関係)に重ねられている場合、それぞれのレベルでどのような言葉が対応しているのかを整理する。「イス=軽く寄りかかるのにいいあんばい」と「人間関係=お互いに少し寄りかかり合う」というように、比喩元と比喩先の述語関係を正確に対応させて記述する。
- 3. 認識・気づき記述における「対比・逆接構文の活用」 (3)のように主人公の気づきを説明する場合、「自分が梨々に寄りかかっていたこと」という客観的事実の半分だけを書いても不十分である。主人公が気づいたのは、「依存している事実」と「一人で立っているようにふるまっていた態度」とのずれである。こうした二面性を持つ気づきは、「〜のに、〜こと。」という逆接の型を用いて一文に収める訓練を重ねる。
- 4. 表現問題における「部分一致に惑わされない全体照合」 (4)のアのように、選択肢中に「擬態語」という本文に実在する要素が含まれていても、「心情を丁寧に表現」という機能説明が本文の描写実態(動作の様子)とずれていれば即座に誤答と判断する。選択肢は単語レベルの部分一致ではなく、文末までの一文全体が本文の叙述と合致しているかを冷静に吟味する姿勢を徹底する。
過去問演習の復習においては、「単に正解を選べたか」で終わらせず、「(1)でなぜ『上も下もない』を選んだのか」「(3)で事実と態度の対比を逆接で表現できたか」「(4)でなぜアが誤りなのかを説明できるか」を客観的に検証することが、初見の物語文でも本文根拠に基づいて安定して判断するための確かな土台となる。

コメント