2025年度 愛媛県公立高校入試 国語 大問1 岩立康男『直観脳』解説|論理・批判・直観の三項関係と構文照合の手順

目次

論説文における複数概念の接続関係を捉える

論説文では、複数の概念が登場したとき、それらを単純な「どちらが正しいか」という二択で捉えないことが重要である。本問では、「論理的思考」「クリティカル・シンキング」「直観思考」がそれぞれどのような役割を持ち、どのようにつながっているかを追うことが読解の軸となる。

2025年度の愛媛県公立高校入試・国語大問1で出題された岩立康男『直観脳』は、これら3つの思考法について、単なる優劣を競わせるのではなく、論理的思考の強みと限界を起点として、それをクリティカル・シンキングや直観思考とどのように結びつけるかを論じた文章である。

筆者の論理展開の骨格は、次の流れで整理できる。まず、物事を言語化して筋道を立てる「論理的思考」の有効性を認めつつも、言葉にすることによる「複雑な現実の単純化・矮小化」という限界を指摘する。その弱点を補うために、前提やデータの妥当性を疑い直す「クリティカル・シンキング」が導入される。さらに、物事を安易に言語化せず、複雑なまま捉えて記憶ネットワークと結びつける「直観思考」の重要性が提示され、最終的にクリティカル・シンキングが提起する「本質的な問い」を介して、論理と直観が結びつく構造が説明される。

設問に正答するためには、文章の大意を追うだけでは不十分である。漢字の画数や品詞の識別といった基礎事項から、説明文の構文(文のカタチ)に合わせた抜き出し、二重の条件を満たす一文の特定、そして字数制限内で要素を過不足なくまとめる記述力まで、設問要求を客観的に処理する手順を確立していなければならない。本稿では、各設問の論理的構造を解体し、試験本番でも再現できる思考手順を提示する。

『直観脳』(岩立康男)の要約と論理構造

本文は、段落ごとの役割と論理の展開に応じて、大きく次の4段階に整理できる。

  1. 第1段階:論理的思考の強みと限界(1〜6段落)課題に対する主張や根拠を言語化して筋道を立てる「論理的思考」は、他者への説明や合意形成において強力な道具となる。しかし、言語化は複雑な現実を単純なモデルに落とし込む作業でもあるため、問題を一面化・矮小化させ、複雑な世界の本質を見落とす根本的な弱点を持つ。また、論理的思考は脳の「集中系」を中心に使用し、問いの範囲を狭めてしまう性質がある。
  2. 第2段階:前提を再検討するクリティカル・シンキング(7〜10段落)論理的思考がもつ単純化の弱点を補い、前提そのものを点検するため、手元のデータや自らの判断の偏りを客観的に点検し、前提を問い直す「クリティカル・シンキング」が求められる。前例や慣習に縛られた思考から脱却し、データの正しい解釈と物事の本質に近い最適解へ至るための近道として、前提の事実を再検討する視点が不可欠となる。
  3. 第3段階:複雑さを保つ直観思考と記憶ネットワーク(11・12段落)「直観思考」は、物事を安易に言語化せず、複雑なものを複雑なまま捉えて本質的に理解する。このようにして脳内に深く定着した記憶は、その後の思考において多くの情報を引き付けるハブ(結びつきのための突起)となり、新たな解釈や思考を生み出す基盤となる。
  4. 第4段階:三項の接続と本質的な問い(13・14段落)クリティカル・シンキングの「前提を疑う」姿勢は、課題設定そのものを問い直し、論理的思考と直観思考を橋渡しする。課題設定そのものを疑うことで導かれる「本質的な問い」が、脳を広く使う分散系を刺激し、記憶ネットワークを活性化させて優れた直観をもたらす。

思考法ごとの特徴と位置づけの対比表

比較軸論理的思考 JPG他 1 件クリティカル・シンキング JPG他 1 件直観思考 JPG他 1 件
基本的機能主張と根拠を言語化し、筋道を立てて整理する。課題設定、データ、解釈の前提を疑い、再検討する。複雑な物事を言語化せず、複雑なまま本質的に捉える。
強み・効果他者に伝わりやすく、判断の理由を明確にできる。個性や癖による判断の偏りを点検する。脳内の記憶ネットワークを活性化し、優れた意思決定を導く。
本文で示される注意点・位置づけ言語化による単純化が、表面的・一面的な理解につながることがある。課題設定そのものを問い直すことで、「本質的な問い」につながる。本文では独立した弱点は示されていない。理解した内容が記憶ネットワークへ組み込まれる過程が説明される。
問いとの関係「AかBか」と問いの範囲を限定・狭小化する。「その課題設定は正しいのか」と根本的な前提を疑う。「本質的な問い」を契機として、広範な情報を結び付ける。
脳の使い方集中系(脳の一部)を集中的に用いる。特定の系として固定されず、論理から直観への橋渡しをする。分散系を活性化させ、脳を広範囲に使用する。

全問解答一覧

問正答形式・条件
1ア(統)記号選択(楷書における総画数の一致)
2ウ(副詞)記号選択(傍線部中に含まれていない品詞)
3エ(客観的)記号選択(文脈に即した語句空欄補充)
4-a言語化抜き出し(4〜6段落/3字)
4-b表面的・一面的な問題の矮小化抜き出し(4〜6段落/12字以上15字以内)
4-c世の中を正しく理解し、最適解に近い方向性を見いだす抜き出し(4〜6段落/20字以上25字以内)
5データの正抜き出し(8〜10段落/条件を満たす一文の最初の5字)
6-a言語化せず複雑なまま捉え、捉えたことをもとに考えて物事や課題を本質的に理解する記述完成(11・12段落の言葉を使用/35字以上40字以内)
6-b多くの情報を引き付ける抜き出し(11・12段落/11字)
7本質的な問い抜き出し(13・14段落/二単語・6字)
8ウ記号選択(本文全体の趣旨に合致するもの)

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

問1:漢字の総画数識別

  • 手順1(設問要求と指定条件の確認)傍線部①「筋」を行書で書いたものが提示されており、これと「楷書で書いた場合の総画数が同じになるもの」を、選択肢ア〜エ(行書体)から1つ選ぶ。行書の筆順や省略に惑わされず、楷書の標準的な構成要素に分解して画数を算出する必要がある。
  • 手順2(基準となる漢字の画数分解)「筋」を構成要素(部首および旁)に分解する。
    • 竹冠(⺮):6画
    • 月(肉月):4画
    • 力:2画
    • 合計:6 + 4 + 2 = 12画
  • 手順3(選択肢の楷書画数計算)
    • ア「統」:偏「糸(6画)」+ 旁「充(6画)」= 12画
    • イ「閉」:門構え「門(8画)」+ 内部「才(3画)」= 11画
    • ウ「照」:上部「昭(日4+刀2+口3=9画)」+ 下部「れんが・れっか(4画)」= 13画
    • エ「振」:偏「扌(手・3画)」+ 旁「辰(7画)」= 10画
  • 結論総画数が12画で一致するのはアである。 正答:ア

問2:品詞の識別(否定条件への注意)

  • 手順1(設問要求の確認)傍線部②「その主張と事実を結ぶ根拠がなければならない」の中で、「使われていない品詞」をア(形容詞)、イ(名詞)、ウ(副詞)、エ(助詞)から1つ選ぶ。含まれている品詞ではなく、含まれていないものを除外する否定条件の設問である。
  • 手順2(傍線部一文の形態素・品詞分解)文を構成するすべての単語を品詞および活用形に分解する。
    • その:連体詞(体言「主張」を修飾)
    • 主張:名詞
    • と:助詞
    • 事実:名詞
    • を:助詞
    • 結ぶ:動詞(バ行五段活用・連体形)
    • 根拠:名詞
    • が:助詞
    • なけれ:形容詞「ない」の仮定形
    • ば:助詞
    • なら:動詞「なる(ラ行五段活用・未然形)」
    • ない:助動詞(打消・終止形)
  • 手順3(選択肢との客観的照合)
    • ア(形容詞):「なけれ」が存在する。
    • イ(名詞):「主張」「事実」「根拠」が存在する。
    • エ(助詞):「と」「を」「が」「ば」が存在する。
    • ウ(副詞):文中に修飾すべき用言を修飾する副詞は存在しない。
  • 結論正答:ウ

問3:文脈に即した空欄補充

  • 手順1(設問要求)7段落の空欄[ A ]に当てはまる最も適当な言葉を、ア(間接的)、イ(包括的)、ウ(恣意的)、エ(客観的)から1つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲の探索)空欄を含む一文とその直前の文脈を確認する。
    • 直前の叙述:「課題設定の段階での単純化は、データの扱いにも影響する。果たして目の前のデータだけで物事を判断してしまっていいのか、そのデータの解釈に自分の個性・癖・強みが色濃く反映されて偏った判断になっていないか、そういったことに疑いの目を持つことが必要なのだ。」
    • 空欄の一文:「常に、こういった批判的な目で自分の判断を[ A ]に評価していることを『クリティカル・シンキング(批判的思考)』と呼ぶ。」
  • 手順3(論理関係の整理)文脈上、求められているのは「自己の個性や癖による偏り(主観)」を疑い、距離を置いて点検する態度である。
    • ア(間接的):「直接媒介なしに行うのではない」という意味であり、偏りの点検という論理とずれる。
    • イ(包括的):「全体をひっくるめている」という意味であり、視点を広く持つことには触れているが、自己検証の性質を直接表す言葉ではない。
    • ウ(恣意的):「自分勝手・思いつき」という意味であり、本文で戒められている主観的偏りそのものであるため文脈と矛盾する。
    • エ(客観的):「個人的な感情や利害から離れて公平に観察するさま」を意味し、自己の偏りを疑う批判的評価の姿勢に完全に合致する。
  • 結論正答:エ

問4:説明文の構文照合と抜き出し(a・b・c)

  • 手順1(設問要求と指定条件)3段落の「論理の強みであると同時に、根本的な弱点」について説明した誘導文の空欄a〜cに当てはまる言葉を、4〜6段落の本文からそのまま抜き出す。
    • 条件:aは3字、bは12字以上15字以内、cは20字以上25字以内。
    • 誘導文:「論理的思考においては、[ a ]によって課題とその回答・主張をわかりやすくするが、[ a ]は、課題設定において、複雑な世界を単純化させ、[ b ]につながるおそれがあるため、[ c ]ことが難しくなるということ。」
  • 手順2(各空欄前後の構文照合)
    • 空欄aの特定(3字):誘導文「[ a ]によって課題とその回答・主張をわかりやすくするが」に着目。 本文6段落に「論理的思考において、言語化が必須である一方で……」とあり、3段落にも「課題に対する回答・主張を言葉によって明確化する」とある。 「言語化」は3字であり、文意・字数ともに合致する。
    • 空欄bの特定(12〜15字):誘導文「複雑な世界を単純化させ、[ b ]につながるおそれがある」に着目。 本文4段落の構文を確認すると、「単純化となると、表面的・一面的な問題の矮小化につながりやすいので注意が必要だ」とある。 直後の接続「につながる」が完全に一致する。「表面的・一面的な問題の矮小化」は14字であり、指定条件(12〜15字)に収まる。
    • 空欄cの特定(20〜25字):誘導文「[ c ]ことが難しくなる」に着目。 本文4段落の続く記述を確認すると、「世の中を正しく理解し、最適解に近い方向性を見いだすには論理だけでは難しい」とある。 「〜には論理だけでは難しい」が、誘導文の「[ c ]ことが難しくなる」と構文的・意味的に呼応している。文字数は読点「、」を含めて25字となり、指定条件(20〜25字以内)を満たす。
  • 結論a:言語化(3字) b:表面的・一面的な問題の矮小化(14字) c:世の中を正しく理解し、最適解に近い方向性を見いだす(25字)

問5:二重条件を満たす一文の特定

  • 手順1(設問要求と指定条件の分解)8〜10段落から一文を抜き出し、その「最初の五字」を書く。設問には以下の二重条件が課されている。
    • 条件1:クリティカル・シンキングが注目されている「理由」を述べていること。
    • 条件2:論理的思考においてクリティカル・シンキングがもたらす「効果」を示していること。
  • 手順2(候補範囲の精査と文構造の比較)10段落にある2つの文を比較検証する。
    • 候補A(10段落1文目):「このクリティカル・シンキングのような考え方が注目されている背景には、変化の激しい現代では、前例や慣習に縛られた思考をしていたのでは物事の本質に近づくことはできないという危機感があるからだ。」 ⇒ 注目される「背景・危機感(理由)」は述べているが、クリティカル・シンキングを行うことで得られる具体的な「効果」が明示されていないため不十分である。
    • 候補B(10段落2文目):「データの正しい解釈と物事の本質に近い最適な結論にたどり着くためには、批判的な目でその前提となっている事実を再検討していくことが近道になるからだ。」 ⇒ 「データの正しい解釈と物事の本質に近い最適な結論にたどり着く(=もたらす効果)」と、「前提となっている事実を再検討していくことが近道になるからだ(=注目される理由)」の双方が1つの文の中に論理的に完備されている。
  • 手順3(文字数の点検)候補Bの冒頭から5字を抽出する。「デ・ー・タ・の・正」5字目までを過不足なく抜き出す。
  • 結論データの正

問6:直観思考の定義と機能(記述・抜き出し)

6-a(記述問題:35字以上40字以内)

  • 手順1(設問要求と誘導文の構文把握)11段落冒頭の傍線部⑤「直観思考では複雑な物事は複雑なまま理解し」について、「複雑なまま理解する」とはどういうことかを、11・12段落の言葉を使って説明する。
    • 接続条件:会話文の「複雑な物事は[ a ]ということだね。」に直接代入して文意が通じること。
    • 字数制限:35字以上40字以内。
  • 手順2(根拠範囲からの必須要素抽出)11段落の該当箇所に着目する。 「論理的思考だけに頼って問いや主張を常に言語化して単純化していると、自分の経験知の意味記憶ネットワークにすんなりと組み込まれにくくなる。言語化することなく複雑なものを複雑なまま捉え、それをもとに考えることによって、はじめて物事や課題を本質的に理解することにつながり、ネットワークに組み込まれやすくなるのである。」 必要な論理要素は以下の4点である。
    1. 言語化しない(言語化することなく)
    2. 複雑なまま捉える(複雑なものを複雑なまま捉え)
    3. 捉えた内容をもとに思考する(それをもとに考えることによって)
    4. 物事や課題を本質的に捉える(物事や課題を本質的に理解する)
  • 手順3(要素の統合と字数枠への圧縮)抽出した要素を、会話文の「複雑な物事は[ a ]ということだね」に接続する形に圧縮・整形する。
    • 「言語化することなく」⇒「言語化せず」
    • 「複雑なものを複雑なまま捉え」⇒「複雑なまま捉え」
    • 「それをもとに考えることによって」⇒「捉えたことをもとに考えて」
    • 「物事や課題を本質的に理解する」⇒「物事や課題を本質的に理解する」
    • 答案素案:「言語化せず複雑なまま捉え、捉えたことをもとに考えて物事や課題を本質的に理解する」
  • 手順4(字数点検)文字数を計数する。「言(1)語(2)化(3)せ(4)ず(5)複(6)雑(7)な(8)ま(9)ま(10)捉(11)え(12)、(13)捉(14)え(15)た(16)こ(17)と(18)を(19)も(20)と(21)に(22)考(23)え(24)て(25)物(26)事(27)や(28)課(29)題(30)を(31)本(32)質(33)的(34)に(35)理(36)解(37)す(38)る(39)」計39字となり、指定された「35字以上40字以内」に厳密に収まる。会話文への接続も極めて自然である。
  • 結論言語化せず複雑なまま捉え、捉えたことをもとに考えて物事や課題を本質的に理解する(39字)

6-b(抜き出し問題:11字)

  • 手順1(設問要求と構文把握)会話文「脳内に記憶されて定着し、[ b ]ようになるからだね。」の空欄bに当てはまる言葉を、11・12段落から11字でそのまま抜き出す。
  • 手順2(根拠範囲の探索とカタチの照合)直後の形式名詞「よう」に接続する動詞の連体形(現代語では終止形と同形)を12段落から探す。 本文12段落:「この『考えて、理解する』ことこそが重要だ。理解したことであれば脳内にしっかりと記憶され、その後で思考する時に多くの情報を引き付けるような『結びつきのための突起』を持っている……」 「多くの情報を引き付ける」を代入すると、「多くの情報を引き付けるようになる」となり、文法・意味ともに完全に整合する。
  • 手順3(字数点検)「多・く・の・情・報・を・引・き・付・け・る」で11字となり、条件を満たす。
  • 結論多くの情報を引き付ける

問7:三項を結ぶ概念の抜き出し(二単語・6字)

  • 手順1(設問要求と指定条件)13段落の空欄[ B ]に入る最も適当な言葉を、13・14段落からそのまま抜き出す。
    • 条件:「二単語」であり、かつ「6字」であること。
  • 手順2(根拠範囲の探索と論理関係の把握)空欄を含む13段落の一文を確認する。 「『前提を疑う』というクリティカル・シンキングの精神は非常に重要であり、論理思考と直観思考をつなぐ橋渡しの役を果たすことになる。その課題設定は正しいのかと問うことは、直観を得るために必要な[ B ]につながるからである。」 続く14段落冒頭を確認すると、「本質的な問いを考える時には、脳を広く使うことにならなければならない。それが、脳の記憶ネットワークを活性化して優れた直観につながっていくはずだ。」とある。 「直観を得るために必要な[本質的な問い]につながる」と代入することで、13段落と14段落の論理が完全に結びつく。
  • 手順3(指定条件の監査)
    • 単語数:「本質的な(形容動詞の連体形)」+「問い(名詞)」の二単語。
    • 文字数:「本(1)・質(2)・的(3)・な(4)・問(5)・い(6)」の6字。 指定条件をすべて過不足なく満たしている。
  • 結論本質的な問い

問8:本文全体の内容合致(誤答パターンの客観的排除)

  • 手順1(設問要求)本文全体の内容と最もよく合っているものを、ア〜エから1つ選ぶ。
  • 手順2(各選択肢の検証と消去プロセスの言語化)
    • 選択肢ア(誤答:逆転トラップ)「脳の集中系は、論理的思考において複雑な事象を扱う際に、問いの範囲を広げるために用いられる。」 ⇒ 本文5段落では、論理的思考において脳の集中系を用いる際、「『AかBか』『イエスかノーか』と問いの範囲を狭める」と明記されている。選択肢の「広げる」は本文の叙述と正反対である。
    • 選択肢イ(誤答:過度な限定トラップ)「クリティカル・シンキングは、論理的思考におけるデータ分析の時だけ必要で、適切な根拠を導く。」 ⇒ 本文7・9段落において、クリティカル・シンキングはデータ分析のみならず「課題設定そのものは正しいのか」「前提となっている事実は正しいか」といった思考全体の土台を再検討するために用いられると述べられている。「データ分析の時だけ」という限定は本文の射程を不当に狭めている。
    • 選択肢ウ(正答)「脳の記憶ネットワークを活性化することで得られる直観は、意思決定において重要な役割を果たす。」 ⇒ 本文冒頭1段落で「脳を広く使った直観力で物事を判断することは重要であり、……良い意思決定につながる」と提示され、最終14段落でも「脳の記憶ネットワークを活性化して優れた直観につながっていく」と結論づけられている。文章全体の論旨を過不足なく要約している。
    • 選択肢エ(誤答:本文と矛盾する強い断定)「大規模なデータや象徴的な具体例に、批判的な視点の裏付けが伴えば、直観を得る必要はなくなる。」 ⇒ 本文後半では、論理や批判的思考が最終的に「直観を得るために必要な本質的な問い」へと接続し、直観思考と結びつくことの重要性が論じられている。「直観を得る必要はなくなる」という排除の断定は、筆者の主張と明確に矛盾する。
  • 結論正答:ウ

授業ではここまで扱う:三つの思考法はどのようにつながるか

実際の授業では、単に設問の正誤を確認するだけでなく、文章全体を通じて「前の議論を受けて、次の思考法がどのような役割を担っているか」という論理関係を整理する。

本問では、一つの思考法を絶対視して他を排除するのではなく、それぞれの特徴と限界を示しながら、三つの思考法の関係が論じられている。本文における論理の推移を4段階で整理すると、下表のようになる。

三つの思考法の展開と接続関係

段階本文の展開次につながる理由
① 論理的思考言語化して主張と根拠を筋道立てて整理する。複雑な現実を過剰に単純化・矮小化してしまう限界が生じる。
② クリティカル・シンキング手元のデータや解釈、自らの判断の前提を批判的に再検討する。単純化の弱点を補い、そもそもの課題設定まで問い直す必要が生じる。
③ 直観思考複雑なものをすぐに言語化せず、複雑なまま捉えて記憶ネットワークへつなぐ。言語化以前の現実の複雑さをそのまま保持し、深い理解を可能にする。
④ 三者の接続クリティカル・シンキングによる「本質的な問い」が論理と直観を橋渡しする。脳を広く使って記憶ネットワークを活性化させ、優れた直観による意思決定へ至る。

重要なのは、これらの思考法をバラバラの知識として覚えることではない。「ある思考法がどのような長所を持ち、どこに限界があるのか」「それを補うためにどのような別の思考法が導入され、最終的にどう結びつくのか」という、文章内の論理のつながりを客観的にたどれるようにすることである。

2025年度大問1から確認できる説明的文章の復習手順

この大問では、漢字や文法の厳密な知識から、構文の一致に着目した抜き出し、二重条件を満たす一文の特定、そして字数制限に適合させる記述まで、多岐にわたる処理能力が試された。本問を復習する際は、次の4点を確認しておきたい。

  1. 品詞識別は「一文全体の形態素分解」で客観的に証明する「何となくこの品詞はなさそうだ」という直感で選ぶと失点しやすい。問2のように「使われていない品詞」を問われた場合は、一文を単語単位に区切り、各語の品詞(連体詞、助詞、形容詞の活用形など)を確定させた上で、消去法により該当品詞の不存在を客観的に証明する手順を身につける。
  2. 抜き出し問題は「意味の一致」と「構文のカタチ」を同時に照合する問4や問6-bのように誘導文の空欄を埋める問題では、意味内容の探索だけでなく、空欄直前・直後の助詞や接続(「[ ]によって」「[ ]につながる」「[ ]ようになる」)に着目する。本文の文法的カタチと完全に合致する箇所を特定することで、抜き出し範囲のミスを機械的に防ぐことができる。
  3. 一文抽出問題では「設問が課したすべての条件」を照合する問5のように「理由」と「効果」という複数の要素が指定されている場合、一方のみを述べた文(10段落1文目)に飛びついてはならない。各文の述語や接続表現(「〜からだ」「〜ためには」)を厳密に分析し、すべての条件を満たしている文を確定してから先頭字数を抽出する。
  4. 記述問題は「必須要素の抽出」から「字数内への圧縮」へ2段階で進める問6-aのような記述問題では、いきなりマス目に書き始めてはならない。まず本文から必要な論理パーツ(①言語化しない、②複雑なまま捉える、③それをもとに考える、④本質的に理解する)をすべて抜き出し、それらを会話文の文末表現に整合させながら、無駄な修飾語を削って指定字数枠(35〜40字)に収めるという論理的な作成手順を徹底する。
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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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