【2007年度中央大文学部】国語大問2(『大鏡』)解答解説|主語の追跡と和歌の論理構造

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解答一覧

設問正答
問一うぐひすの宿
問二(2)A / (3)D / (6)B
問三d
問四何か理由があるのだろう
問五B
問六アB・イA・ウB・エB・オA・カB

平安時代後期に成立したとされる歴史物語『大鏡』から、語り手の一人である夏山繁樹の体験談を取り上げる。作者不詳の本作は、百数十歳を超える二人の老人(大宅世継と夏山繁樹)の対話形式で歴史が語られるという特異な構造を持つ。

古文において、身分差を踏まえた応答や、和歌を介した婉曲な意思表示は重要な読解ポイントの一つである。本問でも、天皇からの勅命に対し、直接拒絶するのではなく、和歌によって相手への敬意を保ちながら自らの意向を伝えている点が重要となる。

こうした文学史の知識や背景となる文化的な思想を知ることは、読解の前提として大いに役立つ。しかし、本番で確実に正答を導き出すためには、知識に依存するのではなく、本文の構造から客観的な「思考手順」を抽出し、選択肢を厳密に処理する技術が不可欠である。本稿では、その具体的なプロセスを提示する。

『大鏡』(夏山繁樹の体験談)の要約と全体構造

本文は、天皇の命によって梅の木を探し出した結果、その木に結び付けられていた和歌によって事態の様相が反転するという構造を持っている。読解にあたっては、以下のマクロな視点と、場面ごとの行為者の推移を整理しておくことが大前提となる。

場面の展開状況の変化(マクロな視点)行為者と主な行動
発端権力者からの命令と探索天皇が命じ、繁樹が都中を探す
展開目的の達成と暗示の付与繁樹が梅を見つけ、家の主人が、歌の書かれた紙を木に結び付けるよう求める
反転和歌の解読と真実の発覚天皇が歌を読み、家の主を尋ね、その家が紀貫之の娘の住まいだと知って気まずさを覚える
結末外面的な報酬と内面的な苦悩繁樹は衣を得るが、事情を知り複雑な心境に至る

【大問二】各設問の解答解説と客観的プロセス

本番で受験生が再現すべき、客観的な思考手順を以下に明示する。各設問の結論(正答)をアンカーとし、そこへ至る処理の型を提示する。

問一 傍線(1)「梅の木」

  • 手順1(設問要求): 「梅の木」と同じ対象を指す別表現を探す。ただし「木」を含む表現は除外する。
  • 手順2(根拠範囲): 後半の和歌まで読み、梅を別の言葉で表した箇所を探す。
  • 手順3(論理整理): 鶯が梅を宿としているため、「梅の木」=「うぐひすの宿」と対応する。
  • 手順4(条件確認): 「うぐひすの宿」は「木」を含まず、本文と完全一致する6字である。
  • 結論: 正答は「うぐひすの宿」。

問二(2)「いますがりし」

  • 手順1(設問要求): 敬語動詞の文脈的意味を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 該当語の周辺の文脈から基本動作を読み取る。
  • 手順3(論理整理): 「いますがり」は「あり・をり」の尊敬語であり、存在を示す表現である。
  • 手順4(選択肢比較): 尊敬表現として適切であり、かつ存在を表すものを探す。
  • 結論: 正答はA(いらっしゃった)。

問二(3)「え見知らじ」

  • 手順1(設問要求): 呼応の副詞と助動詞の複合解釈。
  • 手順2(根拠範囲): 天皇が繁樹に命じる場面の発言ブロック。
  • 手順3(論理整理): 「え」は打消表現と呼応して「~できない」を表す。「じ」はここでは打消推量なので、「え見知らじ」=「見分けることができないだろう」と処理する。
  • 手順4(選択肢比較): 不可能の要素を正確に含み、この文脈における「見知る(見分ける)」の意味を正しく反映しているものを選ぶ。
  • 結論: 正答はD(見分けがつくまい)。

問二(6)「あまえ」

  • 手順1(設問要求): 古語の文脈的意味を確定する。
  • 手順2(根拠範囲): 歌を読んだ後から「遺恨のわざをもしたりけるかな」という天皇の発言に至る流れ。
  • 手順3(論理整理): 歌の内容と家の持ち主を知った結果、天皇が自分の行為のまずさに気付き、きまり悪く感じていると判断する。
  • 手順4(選択肢比較): 現代語の「甘える」という語感に依存するダミー(Eなど)を排除し、事後の気まずい心理状態に合致するものを選ぶ。
  • 結論: 正答はB(きまりわるがって)。

問三 傍線(4)の「ば」

  • 手順1(設問要求): 接続助詞「ば」の用法識別。
  • 手順2(根拠範囲): 各選択肢と傍線部の直前の活用形を確認する。
  • 手順3(論理整理): 傍線部は「しか+ば」であり、「しか」は過去の助動詞「き」の已然形であるため、「已然形+ば(確定条件)」であると特定する。
  • 手順4(選択肢比較):
    • a「しかば」→已然形+ば
    • b「しかば」→已然形+ば
    • c「なれば」→已然形+ば
    • d「問はば」→未然形+ば
  • 結論: 用法が異なるのは、仮定条件を表すd(問はば)。

問四 傍線(5)「あるやうこそは」

  • 手順1(設問要求): 省略を補った平易な現代語訳の作成。
  • 手順2(根拠範囲): 家の主人から和歌の紙を渡された直後の繁樹の思考部分。
  • 手順3(論理整理): 「やう」を「事情・理由」と捉える。「こそ」は強意の係助詞で、後ろには「あるだろう」に相当する述語が省略されていると考える。
  • 手順4(訳の完成・条件確認): 前後の出来事から「わざわざこんなことをする以上、何か理由があるのだろう」と自然な形に補って直す。
  • 結論: 正答例「何か理由があるのだろう」。

問五 和歌の主意

  • 手順1(設問要求): 和歌全体の主意を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 和歌の前半と後半の内容。
  • 手順3(論理整理): 前半では勅命への畏敬を示し、後半では梅を宿とする鶯への配慮を述べている。
  • 手順4(選択肢比較): 設問は歌全体の主意を問うため、前半の「天皇への畏敬」(A)は部分的な一致にとどまる。後半まで含めて中心内容を判断し、梅を失う鶯を心配する心情に合致するものを選ぶ。
  • 結論: 正答はB(生き物への愛情)。

問六 本文内容との一致判定

  • 手順1(設問要求): 本文との合致・不一致の判定。
  • 手順2(根拠範囲): 本文全体の出来事と主語の推移。
  • 手順3(論理整理・選択肢比較):
    • ア=B(不一致): 「桜」とする記述が本文にない。探したのは梅である。
    • イ=A(合致): 命を受けて都中を探したという本文の記述と一致する。
    • ウ=B(不一致): 見つけたのは若者ではなく繁樹である。
    • エ=B(不一致): 貫之本人が娘を装って書いたとは本文にない。
    • オ=A(合致): 勅命への敬意を保ちながら和歌で婉曲に意向を示している。
    • カ=B(不一致): 天皇が繁樹を恨んだのでも、繁樹が褒美を返したのでもない。
  • 結論: 誤答の選択肢には、「対象のすり替え」「主語のすり替え」「本文にない行動の追加」が含まれており、これらを個別に見抜いて排除する。

授業ではここまで扱う:主語の追跡と状況判断の型

本記事で解説した問六の「主語のすり替え」や「本文にない行動の追加」を見抜く力は、古文読解において極めて重要な技術である。実際の授業では、単に「この問題の主語は誰か」と結果を教えるのではなく、初見問題に転用できる「型」として、さらに次の段階に分けて構造を追跡する訓練を行っている。

分析手順授業で身につけさせる「読解の型」本文への適用例
第1段階発言者と動作の相手の特定敬語や会話表現から「誰が話したか」「誰に対する動作か」を絞り込む。
第2段階接続助詞を起点とした主語の再確認「て・で・とて」なら主語が継続する可能性を予測し、「を・に・ば」などを主語再判定の合図として意識し、前後で主語が変わっていないか確認する。

重要なのは、古文常識やあらすじの暗記だけに依存することではない。敬語や接続助詞、前後の出来事から「誰が・何を・どうしたか」を復元する手順を身につけることである。このように主語の流れを追跡する習慣を身につければ、初見問題でも判断根拠を再現しやすくなる。

【中央大学文学部】古文(国語)の対策と復習手順

以上の客観的な分析から明らかなように、古文の解答は「なんとなく意味が通る」という判断ではなく、本文根拠(助動詞の接続や主語の流れ)と論理関係を確認する習慣によって導き出されるべきである。

本文の内容を理解することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは全く別である。今後の復習では、正解・不正解だけを記録するのではなく、「どの語をマーカーとして、どの本文箇所を根拠に、どの誤答要素(主語のすり替えなど)を排除したか」まで再現できる状態を目標にしたい。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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