小説の読解において、登場人物の心情を「かわいそう」「うれしい」といった個人の印象や単純な感情語だけで処理すると、本文にはない意味を選択肢へ補ってしまいやすい。特に本作品のように、人物の感情が「鼻声」や「うなずき」、あるいは「反応の速さ」といった間接的な表現に託されている場合、何が起こり、それを人物がどう受け取り、どのような行動につながったのかという因果関係を客観的に追う必要がある。
しかし、ただ漠然と文章を読むだけでは、正答を安定して導くことは難しい。本番で安定して得点するには、本文の因果関係をたどる「思考手順」を言語化しておくことが有効である。
オオタカの巣立ちを描く小説の要約と論理構造
本作品は、小学六年生の「ぼく」が、同級生の椰や鳥の研究者である葛城さんたちとともに、オオタカのヒナ「アオナギ」の巣立ちを見守る場面を描いている。
「ぼく」は初めてアオナギの全身を目にして強く心を揺さぶられ、その直後の巣立ちによる別れに寂しさを感じるが、椰の励ましを受けて前を向こうとする。さらに、葛城さんから夏休みの山へ誘われたことで、喜びを爆発させる。
読解の前提として、アオナギの巣立ちという出来事を軸に、周囲とのやり取りを通して変化していく「ぼく」たちの心情と行動の因果関係をマクロな視点から整理することが重要である。
| 人物 | 出来事・認識 | 心情 | 行動・間接表現(結果) |
| ぼく | アオナギが巣立ち、空になった巣を見て「もう会えない」と感じる。椰から「また会える」と励まされる。 | 寂しさから気持ちを切り替えようとする。 | 大きくうなずく。 |
| ぼく | 葛城さんから夏休みの山での生活に誘われる。 | 予想外の誘いに対する抑えきれない喜び。 | 普段とは異なって即答し、飛び上がる。 |
| 椰 | アオナギが巣立ってしまった現実。 | 別れに対する喪失感と寂しさ。 | 鼻声で「行っちゃったよ」とつぶやく。 |
| 葛城さん | テントでの「ぼく」の無意識な反応の記憶。 | 「ぼく」という人物の性質に対する興味。 | 鼻の横をかきながら「ぼく」をじっと見る。 |
【大問3】各設問の解答解説と思考プロセス
問1
- 手順1(設問要求):傍線部(1)「そのアオナギと視線が合った、と思ったその瞬間、ぼくの心はズキュンと射抜かれた。」の表現から読み取れる「ぼく」の様子として最も適切なものを選択する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部だけでなく、直前の「スポットライトをあびたスターのように」「はじめてその全身を見せてくれた」という描写を確認する。
- 手順3(論理整理):表現方法とその表現が示す心情の両方を確認する。「スターのように」という明確なたとえと、視線が合ったことによる強烈な衝撃・感動(心が射抜かれた)の因果関係を整理する。
- 手順4(選択肢比較):アは「威嚇している」、イは「戸惑った顔を思い出し感慨にふける」、ウは「巣立つ瞬間を待ちわびている」としており、いずれも、全身を現したアオナギと視線が合った瞬間に「ぼく」の心が強く揺さぶられたという描写とは異なるため、客観的に排除する。
- 結論:エ
問2
- 手順1(設問要求):傍線部(2)「ぼくの隣で椰がつぶやいた。」の表現から読み取れる椰の様子として最も適切なものを選択する。
- 手順2(根拠範囲):アオナギが巣立った直後の椰の「行っちゃったよ」という発言と「鼻声」、その後の「ぼく」との会話。
- 手順3(論理整理):アオナギの巣立ちという出来事に対し、椰が「鼻声」でつぶやいていることから、別れの寂しさや喪失感を感じ、「ぼく」とそれを語り合おうとしていることが分かる。
- 手順4(選択肢比較):アは「『ぼく』がどう受け止めているか聞いてみようとしている」、イは「自分たちのほうを向いたか確かめようとしている」、エは「精一杯『ぼく』を励まそうとしている」としているが、「鼻声でつぶやいた」という描写に表れた椰自身の寂しさと、それを「ぼく」と分かち合う様子を捉えきれていないため排除する。
- 結論:ウ
問3
- 手順1(設問要求):傍線部(3)「葛城さんが鼻の横を指でかきながらぼくを見ている。」の描写から読み取れる葛城さんの様子として最も適切なものを選択する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部直前の葛城さんの発言(無意識に動物の気配に反応していたことへの言及)と「あおばくんっておもしろいな」という発言。
- 手順3(論理整理):葛城さんは「ぼく」が野生動物を見られなかったことを心配しているのではなく、本人は覚えていない無意識の反応に対し、「おもしろい」と人物への興味を抱いている。
- 手順4(選択肢比較):イは「不満をなだめる」、ウは「迷っている」、エは「心配している」としており、いずれも「ぼく」の反応への興味・面白さを示した直前の言葉と矛盾するため排除する。
- 結論:ア
問4
- 手順1(設問要求):傍線部(4)「ぼくは息を吸って、大きくうなずいた。」ときの「ぼく」の心情として最も適切なものを選択する。
- 手順2(根拠範囲):空になった巣を見て「もう会えないんだ」と寂しさを感じる「ぼく」から、椰の「また会えるよ」という励まし、そして傍線部まで。
- 手順3(論理整理):心情問題では傍線部の直前に何を言われたかを確認する。アオナギにはもう会えないという寂しさに対し、椰がまた会える可能性があると伝えた。それを受けて「大きくうなずいた」のだから、自分に言い聞かせるように気持ちを切り替えようとしている。
- 手順4(選択肢比較):アは「情けなく思い、申し訳なく感じている」、ウは「現在の時間を大切にしようと思った」、エは「周囲の人々との別れも近いと実感」としており、いずれも直前の椰の「また会える」という励ましの言葉と、それに対する「ぼく」の反応の因果関係から外れているため排除する。
- 結論:イ
問5
- 手順1(設問要求):傍線部(5)「葛城さんが言い終わる前に、ぼくは叫んでいた。」ときの「ぼく」の気持ちとして最も適切なものを選択する。
- 手順2(根拠範囲):葛城さんが山へ誘う場面から、「ぼく」の即答と普段の姿の記述(反応がおそい)、その後の「ヤッター」という行動まで。
- 手順3(論理整理):この問題では、発言だけでなく発言までの速さと、その直後の行動を一緒に見る。葛城さんが言い終わる前に叫ぶ(普段は「反応がおそい」と言われているのに即答する)、「ぜったいに行きます」と答える、「ヤッター」と飛び上がる、という三つの反応がそろっている。ここから、迷いやためらいが一切なく、予想外の誘いに対する抑えきれない喜びが読み取れる。
- 手順4(選択肢比較):アは「戸惑いつつ自分自身を勇気づけようとしている」、イは「周囲への感謝の思いを伝えたい」、ウは「祖父に認めさせたいと思う気持ち」としており、いずれも「即答」と「飛び上がるほどの喜び」という行動の事実と一致しないため排除する。
- 結論:エ
授業ではここまで扱う:間接表現から心情の因果を追う
本記事で示した解説だけでも、設問の正答を論理的に導き出すことは十分可能である。しかし、当研究所の実際の授業では、単に「この問題が解ける」状態に留まらず、初見の小説問題に転用できる「読解の型」の習得まで踏み込む。
例えば、今回の文章では問2の「鼻声」、問4の「大きくうなずいた」、問5の「言い終わる前に」といった間接表現が登場する。授業では、こうした動作や音声情報だけで感情を推測するのではなく、以下の段階に分けて「何が起こり、どう受け取り、どう行動したか」という因果関係を客観的に追跡する訓練を行う。
| 段階 | 思考手順 | 本文(問5「ぼく」の反応)での適用例 |
| 第1段階 | 現象・出来事(原因)の特定 | 葛城さんから夏休みの山での生活に突然誘われた。 |
| 第2段階 | 受け取り方(解釈)の把握 | 予想もしていなかった誘いに対し、迷いなく参加したいと強く望んだ。 |
| 第3段階 | 普段との違いや前後の変化の抽出 | 普段は「反応がおそい」と言われているのに、今回は「言い終わる前」に即答している。 |
| 第4段階 | 実際の行動(結果)との接続 | 「ぜったいに行きます」と叫び、直後に「ヤッター」と飛び上がって喜びを爆発させた。 |
重要なのは、「ヤッターと言ったから嬉しい」と単純に結果だけを結びつけることではない。今回のような小説問題では、人物の「言葉」だけでなく、言わなかったこと、黙ったこと、声のトーン(鼻声)、表情や動作の変化(うなずき、飛び上がる)、さらには「反応の速さ」といった間接的な表現も心情を判断する強力な手掛かりになる。状況の変化(普段との違いなど)を捉え、別の問題にも転用できる読解手順として整理することだ。
この大問から確認する小説文の復習手順
今回の大問3では、発言の表面や単純な感情語だけで心情を決めつけず、本文の因果関係(特に間接表現と原因のつながり)を正確に把握できるかどうかが、読解問題を処理する鍵になっている。
「本文の内容を理解すること」と、「初見の設問で正答までの手順を客観的に再現すること」は全く別の作業である。復習では、正誤だけを確認するのではなく、直前の出来事を確認する、受け取り方を考える、動作等の間接表現を確認する、普段との違いを確認する、行動と矛盾しないか確かめる、という手順を自分で再現できたかを確認したい。解答根拠を自分の言葉で論理的に説明できる状態まで戻すことで、初見問題でも同じ処理を使いやすくなり、失点を減らすことにつながる。

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