【2006立教大学文学部】国語大問1 栗山嘉樹『雹害』解答解説|自然と人為の関係を読み解く客観的プロセス

栗山嘉樹『雹害』では、丹精して育てた農作物が突然の天災によって大きく損なわれる現実と、それに向き合う農民の姿が描かれている。さらに本作では、自然現象である雹害だけでなく、「雌鶏の抱卵」という生命の営みに対する人間の介入も描かれており、自然と人間の関係性という重層的なテーマが提示されている。

こうした文学的な枠組みは、文章の背景を深く理解するために有効である。しかし、テーマや背景知識を知っているだけでは、入試本番で正答を導き出すことはできない。正答へ近づくために重要なのは、本文に描かれた具体的な出来事から人物の心情や因果関係を拾い上げ、客観的な「思考手順」として言語化することである。

目次

【大問1】解答一覧

本記事では読解の核心となる主要な設問に絞って解説を行うが、参考として全設問の解答一覧を以下に提示する。

  • 問(A) (イ)逸 (ロ)有頂天 (ハ)点景 (ニ)労苦
  • 問(B) (a) あわ (b) かぶ
  • 問(C) ①=5 ②=2 ③=1
  • 問(D) 4
  • 問(E) 珍しい
  • 問(F) 4
  • 問(G) 3
  • 問(H) 5
  • 問(I) 5
  • 問(J) 4
  • 問(K) イ=2、ロ=2、ハ=2、ニ=1、ホ=1、ヘ=2

栗山嘉樹『雹害』の要約と論理構造

本文では、人間による働きかけと、人間の思いどおりにはならない自然との関係が、鶏の抱卵と雹害という二つの場面を通して描かれている。前半では、鶏の抱卵(自然の本能)に介入する「私」の行為と、それに対する複雑な心情が描かれる。後半では、突然の雷と雹によって、長い時間をかけた農作業の成果が、ごく短時間の天災によって大きく損なわれる様子が描かれている。

小説の一節を読み進める際は、単にストーリーを追うだけでなく、本文が「どのような出来事を通じて、自然と人間の関係性をどのように描いているか」という構造を追跡することが、読解の前提となるマクロな視点である。

分析ステップ対象箇所・テーマの論理構造抽出される中心的な論点
1. 自然の猛威と恐怖雷鳴と雹の襲来に対する「私」や子供たちの反応。人間の力では防ぎきれない圧倒的な自然の力。
2. 人為の介入と矛盾純粋種の卵を買い、雌鶏に抱かせる「私」の行為。生命の自然な営み(母性愛)を人間が「ゆがめる」ことへの葛藤。
3. 破壊された成果翌朝の田圃で、なぎ倒された稲とこぼれた籾を目の当たりにする。長い時間をかけた人間の努力が、短時間の天災によって大きく損なわれる現実。
4. 自然との向き合い方「自然が相手だからね」「天災には勝てないぞ」という老人の言葉。自然の不確実さを認識しながら、それでも農作業を続ける農民の姿。

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

問(F) 線部(1)で「私」が怒った理由

手順1(設問要求):「私」が鶏に対して怒った理由として最も適切なものを選ぶ。

手順2(根拠範囲):卵を抱いている雌鶏に対して、別の雌鶏が近づき、頭をつつく直前の場面。

手順3(論理整理):「何ということをするんだ」という怒りの直接的な原因は、「一羽の雌鶏が卵をかえそうとしている」ところに「別の雌鶏が来て邪魔をする」という出来事に対し、「私」が理不尽さを感じたことにある。

手順4(選択肢比較):1の「一家の生活が困窮する」、2の「悪意を感じ取った」、3の「不敵な挑戦を感じた」、5の「自暴自棄になった」は、いずれも出来事を過大解釈しており、本文の直接的な感情描写から逸脱しているため厳密に排除する。

結論:4(卵をかえそうとする雌鶏にちょっかいを出す、別の雌鶏の行為に理不尽さを感じたから)

問(G) 線部(2)「人為でゆがめる」とはどのようなことか

手順1(設問要求):「人為でゆがめる」が具体的にどの行為を指すのかを特定する。

手順2(根拠範囲):「私」が雌鶏の本能について考えている傍線部周辺と、その前提となる直前の行動描写。

手順3(論理整理):本来、雌鶏の抱卵は自然な繁殖行動である。しかし「私」は、「近所から純粋のロード種の卵を買ってきて、それを雌鶏に抱かせる」という人間の都合による介入を行っている。この行為自体を「ゆがめる」と表現している。

手順4(選択肢比較):1の「巣箱の移動」は環境の変更であり介入の本質ではない。2の「人工の卵」は本文に記載がない。4の「卵を取り上げる」、5の「寒中に向かって抱かせる」も、「別の卵を用意して抱かせた」という具体的な人為的介入の核心からずれているため排除する。

結論:3(純粋のロード種の卵を抱かせたこと)

問(J) 線部(5)「勝敗は最後の五分間」の意味

手順1(設問要求):老人の発言を、前後の状況を踏まえて説明したものを選ぶ。

手順2(根拠範囲):老人の発言「勝敗は最後の五分間というじゃないかね」と、その直後に続く「八十年も米を作っていても、天災には勝てないぞ」という発言。

手順3(論理整理):稲作では長い時間をかけて作物を育てるが、収穫目前の「ごく短時間(最後の五分間)」の突然の雹によって、それまでの丹精が大きく損なわれる。直後の「天災には勝てない」という言葉から、これは人間の努力では制御しきれない不可抗力としての自然の不確実さを表していると整理できる。

手順4(選択肢比較):1の「最後の五分間を油断したために」は、被害の原因を「人間のミス」に帰着させており、直後の「天災には勝てない」という文脈と整合しにくいため排除する。2・3・5も、被害の最大化や時間の法則など、本文にない情報を作り出しているため不適である。

結論:4(雹による被害は正確には予測できないもので、丹精こめたものが瞬時に無駄になること)

問(K) 本文内容との一致・不一致(イについて)

手順1(設問要求):記述(イ)が本文と合致するかどうかを判定する。

手順2(根拠範囲):「私んとこじゃ、もう夏から、稲熱病でいけないってことが分かっている」という発言と、これから田圃へ被害を見に行くという状況。

手順3(論理整理):「私」の田圃が稲熱病にかかっていること自体は事実である。しかし、雹と突風の被害については、まだ自分の田圃を直接確認していない段階である。

手順4(選択肢比較):選択肢(イ)は「私の田圃の稲は稲熱病という病気にかかり(事実)」と前半は正しいが、「雹と突風の被害で全滅してしまった」という後半部分は、本文の記述時点では未確認の情報である。前半が正しくても後半に誤りや未確認情報が含まれていれば不一致となる。

結論:2(合致しない)

授業ではここまで扱う:内容一致における「部分一致」の判定手順

本記事では、問(J)に見られるような因果関係の特定プロセスや、問(K)の内容一致判定の論理を解説した。しかし、実際の授業においては、これを単なる「今回の問題の解説」として終わらせることはない。他の小説や論説文にも応用できる選択肢の読み方を、客観的で汎用的な手順として整理する。

内容一致問題では、選択肢の一部が本文と一致していても、別の部分に本文と異なる情報や本文から断定できない情報が含まれていることがある。以下の枠組みを用いて、選択肢をパーツごとに分解し、本文と照合する。

  1. 主体の確認(誰が・何が)
  2. 事実の確認(どのような状態・行動か)
  3. 因果・結論の確認(その結果どうなったか、断定できるか)

今回の問(K)イの選択肢にこの判定手順を当てはめると、次のように可視化される。

分析ステップ選択肢(イ)の記述内容本文との照合結果と判定
1. 主体の確認私の田圃の稲は一致(「私」自身の田圃の話である)
2. 事実の確認稲熱病にかかり、不作であるうえに一致(夏から稲熱病でいけないことが分かっている)
3. 因果・結論の確認雹と突風の被害で全滅してしまった。不一致(これから見に行く段階であり、全滅したとは断定されていない)

重要なのは、「稲熱病にかかっているからこの選択肢は正しい」と固定して覚える(感覚で判断する)ことではない。選択肢内の情報状況の変化を文節ごとに捉え、一つでも本文から断定できない要素が含まれていれば厳格に排除する、という読解手順として整理することだ。この判定手順を整理しておけば、別の内容一致問題でも本文との照合を同じ手順で再現しやすくなる。

【立教大学】国語(現代文)の対策と復習手順

今回の2006年度立教大学(文学部)の大問1では、具体的な情景描写や人物の会話から、自然と人間の関わりという構造を抽出し、因果関係を正確に読み解く論理的な情報処理が求められている。対策において、感覚的な感情移入や、文学的な一般常識のみに頼る学習は避けるべきである。

本文の情景を思い浮かべることと、初見の設問で正答までの手順を客観的に再現することは別である。問(J)で見られた「直後の発言を根拠にダミーを排除する手順」や、問(K)の「選択肢を分割して部分一致を弾く手順」を他の過去問にも適用すると、読解手順の再現性を確認できる。

感覚だけで判断せず、常に「本文上の根拠はどこか」「どの出来事が原因で、どのような感情や結果が生じたのか」を本文と照合し、自らの言葉で明確にできる状態にすること。こうした客観的な手順(設問要求の確定、根拠範囲の限定、誤答パターンの徹底的な排除など)を繰り返すことが、初見問題に対する読解と得点の再現性を高める。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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