失敗やエラーを「完全に排除すべきもの」と捉えるか、あるいは「起こることを前提にうまく対処するもの」と捉えるか。今回の文章では、こうした安全や失敗に対する捉え方の違いが、文章全体を貫く重要な対比となっている。
しかし、そうしたテーマを知っているだけでは、入試本番の問題は解けない。正答の根拠は背景知識ではなく、あくまで本文中の定義・対比・因果関係に置かなければならない。初見の文章と設問に対し、本番で確実な得点源とするには、本文と選択肢を照合する客観的な「思考手順」の言語化が不可欠である。本稿では、その具体的な解法手順を徹底的に解剖していく。
『間違い学』等の要約と論理構造
本大問の構造的な特徴と全体像を以下の表に整理する。
| 項目 | 内容 |
| 対象年度・都道府県 | 2025年度 群馬県公立高校入試 |
| 教科・大問 | 国語・大問1 |
| 出典・著者名 | 【文章1】松尾太加志「間違い学『ゼロリスク』と『レジリエンス』」/【文章2】畑村洋太郎『やらかした時にどうするか』 |
| 出題テーマ | 失敗やエラーの捉え方の転換と、そこから得られる学び |
| 論理構造の特徴 | 【文章1】二つの安全観の対比/【文章2】自身の指導経験に基づく、表面的な知識と真の理解の対比 |
【要約と全体構造】
【文章1】では、エラーをなくすことを目指す「Safety-I」の考え方と、エラーが起こることを前提にうまく対処しようとする「Safety-II」という、対立する二つの安全観が提示される。
【文章2】では、筆者自身の教育経験をもとに、効率よく正解を教えるだけでは表面的な知識しか得られず、あえて失敗や思い通りにならない経験をさせることが真の理解につながると述べられている。
二つの文章はいずれも、失敗を単に避ける対象として扱うのではなく、その後の対処や学びに目を向けており、この「対照と重なり」を整理することが設問処理の前提となる。
【大問1】各設問の解答解説と客観的思考プロセス
(一)A 空欄に入る接続語
- 手順1(設問要求):空欄Aに入る接続語として最も適切なものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):空欄Aの前後の一文。
- 手順3(論理整理):前文の「システムが比較的単純であれば(中略)エラーの防止は可能」という内容に対し、後文で「システムが複雑になると(中略)エラーそのものをなくすことは困難」と、反対方向へ展開している論理構造を整理する。
- 手順4(選択肢比較):前後が逆方向であるため、逆接関係を示す接続語を残す。並列や追加などを表す文脈の方向性が異なる誤答を客観的に排除する。
- 結論:正答は「ウ(しかし)」。
(一)B 空欄に入る接続語
- 手順1(設問要求):空欄Bに入る接続語として最も適切なものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):空欄Bの前後の一文。
- 手順3(論理整理):前文の「ヒューマンエラーを防止するという観点」と、後文の「エラーに目を向けて防止しようという考え方」が同じ内容の言い換え関係(イコール関係)であることを整理する。
- 手順4(選択肢比較):換言(言い換え)を表す接続語を残す。逆接や追加など、関係性が異なる誤答を客観的に排除する。
- 結論:正答は「イ(つまり)」。
(二)① 表の空欄補充
- 手順1(設問要求):Safety-Iが人間をどのような存在として捉えているかを、【文章1】から12字で抜き出す。
- 手順2(根拠範囲):【文章1】の中で、Safety-Iの考え方における人間への評価が述べられている箇所。
- 手順3(論理整理):Safety-Iの説明部分を読み、人間の不完全さについて記述している部分を特定する。
- 手順4(選択肢比較):(抜き出し形式のため比較なし)該当箇所から「間違いを生じさせてしまう」という表現を抽出し、指定の文字数(12字)と過不足なく一致することを確認する。
- 結論:正答は「間違いを生じさせてしまう」。
(二)② 表の空欄補充
- 手順1(設問要求):Safety-IIにおいて安全とはどのようなことかを、【文章1】から12字で抜き出す。
- 手順2(根拠範囲):【文章1】の末尾、Safety-IIの考え方についてまとめられている箇所。
- 手順3(論理整理):Safety-Iの「安全=エラーがないこと」という考え方に対し、Safety-IIが安全をどう再定義したかの対比を整理する。
- 手順4(選択肢比較):(抜き出し形式のため比較なし)該当箇所から「事がうまくいくようにする」という表現を抽出し、指定の文字数(12字)と一致することを確認する。
- 結論:正答は「事がうまくいくようにする」。
(三) 【文章2】のまとめ
- 手順1(設問要求):【文章2】の内容をまとめ、空欄に入る語句を記述する。
- 手順2(根拠範囲):【文章2】の終盤にある、筆者の教育経験を通した気づきの箇所。
- 手順3(論理整理):空欄の前の「効率的な方法で表面的な知識を得るのではなく」という言葉と対比される、筆者の最終的な主張(思い通りにならない経験を通して、真の理解の大切さに気づくこと)を整理する。
- 手順4(選択肢比較):(記述形式のため比較なし)本文の該当箇所を利用し、「思い通りにならないことを体験する中で、真の理解の大切さを痛感する」というように、前後の文脈に自然につながる形へ整える。
- 結論:正答例「思い通りにならないことを体験する中で、真の理解の大切さを痛感する」。
(四) 二つの文章の比較
- 手順1(設問要求):二つの文章で述べられている「失敗」に着目し、内容や特徴として適切なものをすべて選ぶ。
- 手順2(根拠範囲):【文章1】および【文章2】の論旨と構造全体。
- 手順3(論理整理):【文章1】は二つの考え方の対比を用いた安全観の違い、【文章2】は筆者の指導経験に基づく学びのあり方というそれぞれの中心テーマを整理する。
- 手順4(選択肢比較):選択肢を意味のまとまりごとに分け、両方の本文と照合する。アとオは文章の構造や考察対象を正確に捉えているため残す。イ(見本を大切にする傾向がある)、ウ(失敗を避ける手順・対応の手順)、エ(準備をしておくことが重要)は、本文にない主張の追加、文章の中心テーマの取り違え、共通点の誤認があるため厳密に排除する。
- 結論:正答は「ア・オ」。
授業ではここまで扱う:条件作文における「材料整理」の手順
本記事の(五)条件作文で問われているように、複数の文章を踏まえて自分の考えを書く問題では、いきなり書き始めて途中で論理が破綻するケースが多い。実際の授業では、与えられた条件を整理し、以下の段階に分けて記述の「パーツ」を構築する汎用的な確認手順を提示している。
| 段階 | 思考プロセス | 構築する記述パーツの具体例 |
| 段階1:二文章から使う材料を抽出する | 【文章1】【文章2】から、自分の考えにつなげる要素をそれぞれ拾う。 | 【文章1】失敗やエラーは完全にはなくせないため、起きたときの対応が重要である。 【文章2】思い通りにならない経験を通して、真の理解につながる。 |
| 段階2:将来の姿への接続 | 抽出した材料を、自分が将来直面する具体的な課題や行動に当てはめる。 | 将来、未知の課題に直面した際、失敗を恐れずに原因を振り返り、次の行動を工夫するという姿。 |
| 段階3:パーツの結合と調整 | 抽出した内容を因果関係に沿ってつなぎ、指定字数に合わせて全体の文字数を調整する。 | 上記の要素を順に並べ、150字以上180字以内という条件に合致するよう文章を整える。 |
重要なのは、思いつきで文章を書き始めることではない。二つの文章から材料をそれぞれ拾い、論理的な構成案(パーツ)を立ててから記述を行うという手順を捉え、別の記述問題にも転用できる読解手順として整理することだ。
群馬県公立高校 国語の対策と復習手順
高校入試の国語において、本文の表面的なあらすじを理解することと、初見の設問に対して正答までの手順を試験会場で再現することは、全く別の作業である。なんとなく選択肢を絞り込んだり、雰囲気で文章を書いたりするのではなく、客観的な根拠に基づく処理が求められる。
今後の対策としては、本記事で示した客観的な手順(接続語における意味の方向性の確認、選択肢を意味のまとまりごとに分けて照合する排除プロセス、条件作文での材料整理など)を別の過去問演習でも反復してほしい。なぜその選択肢が消えるのか、設問の条件が何を要求しているのかを自らの言葉で明確に言語化する訓練を重ねることが、初見問題でも判断根拠を再現できる安定した得点力につながる。

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