【2026筑波大】国語大問1『悪い言語哲学入門』解答解説|「定義→反例→修正」で解く論理の型

日常的に使用する「嘘」という言葉を、言語哲学的な観点から厳密に定義し直そうとするのが本文章の主題である。今回の問題では、「嘘」という日常語を定義し、その条件を具体例によって検証するという、抽象度の高い論証を正確に追うことが求められている。

しかし、哲学的な文章だからといって、特別な背景知識が要求されているわけではない。テーマ(知識)を知っているだけでは、入試本番で正答を導き出すことはできない。正答へ近づくために重要なのは、提示された定義と具体例の関係を、条件・対比・因果関係に基づいて客観的に処理する「思考手順」を言語化することである。

目次

『悪い言語哲学入門』(和泉悠)の要約と全体構造

本文章全体を貫く構造的な特徴は、「定義の提示」と「反例による定義の修正」という論証のプロセスである。筆者はまず、一般的な「欺瞞としての嘘の定義(条件①〜③)」を提示する。その後、条件③を満たさない「大戸島さんのカンニング(真っ赤な嘘)」という具体例を挙げることで、既存の定義の限界を指摘し、新たな条件の構築へと論理を展開している。

文章を読み進める際は、この「ルール(定義)」と「イレギュラー(反例)」の関係性を正確に追跡することが、読解の前提となるマクロな視点である。

設問問われる内容・スキル対象箇所・テーマの論理構造
問一(a)語句の抜き出し(同義表現の抽出)「純粋でない意図」と対応するマイナス要因
問一(b)語句の抜き出し(同義表現の抽出)「有害な帰結」と対応するマイナス要因
問二理由説明(客観的事実と主観のズレ)偶然事実と一致した発言が嘘となる理由の検証
問三理由説明(定義の条件欠落と成立)相手に発言内容を信じ込ませる意図のない発言が嘘となる理由(反例)
問四条件の修正と理由説明(論理の拡張)「真っ赤な嘘」を包摂するための条件の再構築

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

問一 傍線部①のa・bの抜き出し

手順1(設問要求):傍線部①のa「純粋でない意図」、b「有害な帰結」とほぼ同じ意味の語句をそれぞれ本文中から六文字以内で抜き出す。

手順2(根拠範囲):まず傍線部を含む第一段落を確認する。そこに直接対応する表現があるため、それ以上探索範囲を広げる必要はない。

手順3(論理整理):複雑な対比構造を探すまでもなく、第一段落に対応表現が存在する。aは「意図(行為を引き起こす内面的な理由)」に対応する否定的な性質、bは「帰結(結果)」に対応する否定的な性質を特定する。

手順4(要素検証):「邪悪な動機」(5字)、「恐ろしい結果」(6字)がそれぞれ意味上対応し、字数条件も満たす。抜き出す文字列が本文と完全一致していることを確認して記述を確定する。

結論:(a) 邪悪な動機 / (b) 恐ろしい結果

問二 傍線部②の評価が適切である理由

手順1(設問要求):実際には国産品である野菜を「国産だ」と売る行為に対して、「嘘をついている」という評価が適切となる理由を説明する。

手順2(根拠範囲):該当の具体例の段落と、「欺瞞としての嘘の定義」の条件②および③。

手順3(論理整理):客観的な事実(実際は国産)と、発話者の主観的な認識(輸入品だと思っている)の間にズレがある。筆者の定義の条件②は「pが正しくない」ではなく「Aはpが正しくないと思っている」であるため、発話者の主観において偽であれば条件を満たす。

手順4(要素検証):答案には「客観的には偶然真であること」「本人の主観では偽であること」「相手をだます意図があること」という必須要素を過不足なく統合し、単なる事実の羅列にならないよう因果関係を整える。

結論:発言内容は偶然事実と一致しているが、本人はそれを事実に反すると考えながら、その発言内容が正しいと相手に信じ込ませる意図で発言しているから。

問三 傍線部③「明らかに『ウソをついた』」と考えられる理由

手順1(設問要求):大戸島さんのカンニングの事例が、条件③を満たさないにもかかわらず「明らかにウソをついた」と判定される理由を説明する。

手順2(根拠範囲):大戸島さんの事例段落と、その直後の解説段落。

手順3(論理整理):大戸島さんの事例は、定義の条件③「相手をだましてpだと思わせようとする意図」が欠落している。大学側に証拠があるため、自分の発言を大学側が本当に信じるとは本人も考えていない。しかし、本人は自分がカンニングしたことを知っており(偽だと認識している内容)、そのうえで意図的に「していない」と発言している。

手順4(要素検証):「相手に発言内容を信じ込ませる意図の不在」と、それに代わる「不正認定や単位没収・退学といった不利益を避けるための意図的な発言」という論理構造を対比させて答案を構築する。

結論:相手に発言内容を信じ込ませる意図はないものの、不正認定や単位没収・退学といった不利益を避けるため、自ら偽だと認識している内容を意図的に述べているから。

問四 傍線部④を含めるための条件③の修正と理由

手順1(設問要求):「真っ赤な嘘」を定義に含めるよう条件③を修正し、自身の考えを理由とともに説明する。

手順2(根拠範囲):大戸島さんの事例段落から最終段落まで。

手順3(論理整理):「相手をだます意図」がなくても嘘が成立する状況を言語化する。言質を取られないために、相手が信じるかどうかに関わらず事実と異なる内容を「事実として主張しようと意図した」場合も嘘となるよう、従来の条件に新たな条件を並立させる(OR条件への拡張)。

手順4(要素検証):修正案には「だます意図」と「事実として主張する意図」の両方を組み込む。さらに、修正した条件が広すぎないかを検証する。単に「偽だと思う内容を言う」だけでは、冗談や演技まで含みかねないため、「事実として主張する意図」という限定を置く。理由部分には、相手を信じさせる意図の不在でも成立する意図的な虚偽の主張を論理的に説明し、解答を仕上げる。

答案例:条件③を「Aはpだと言うことで、Bにpだと思わせようと意図したか、Bがpを信じるかどうかにかかわらず、pを事実として主張しようと意図した」と修正する。相手が信じないと分かっていても、言質を取られないため、自分では偽だと考える内容を意図的に主張する「真っ赤な嘘」があるから。

授業ではここまで扱う:定義の検証と拡張を追跡する手順

本記事では問四において、定義の条件を修正するプロセスを解説した。しかし、実際の授業においては、これを単なる「この問題だけの正解」として終わらせることはない。他の論説文にも応用できる「定義の検証と拡張」という論理構造を、客観的で汎用的な手順として身につけさせる。

評論文において「既存の定義(一般論)」と「それに当てはまらない具体例」が登場した場合、感覚で読み流すのではなく、以下の3段階の枠組みを用いて論理の推移を構造化する。

  1. 既存定義の確認:既存の定義(ルール)の条件を整理する。
  2. 反例の検出:具体例が、既存の条件の「どこ」を満たしていないのか(不足分)を特定する。
  3. 定義の拡張:不足分を補い、新たな条件をOR条件として追加し、定義を再構築する。

今回の『悪い言語哲学入門』の論理展開にこの手順を当てはめると、次のように可視化される。

分析ステップ対象となる要素抽出される論理構造
1. 既存定義の確認欺瞞としての嘘の定義(条件③)Bをだましてpだと思わせようと意図した
2. 反例の検出大戸島さんの「真っ赤な嘘」相手が信じるとは考えていない(条件③の欠落)。しかし、言質を取られないために意図的に偽を主張している。
3. 定義の拡張条件③の修正案「だます意図」または「事実として主張する意図」というOR条件へ広げる。冗談などを排除するため「事実として主張する」と限定する。

重要なのは、特定の解釈や解答を固定して覚えることではない。状況の変化を捉え、具体例が既存のルールのどこをはみ出したのかという差分を客観的に見極め、別の問題にも転用できる読解手順として整理することだ。こうして整理すると、別の記述問題でも同じ手順を再現しやすくなる。

【筑波大学】現代文の対策と復習手順

今回の2026年度問題では、抽象的な概念や定義を具体例に当てはめ、その妥当性を検証する論理的な読解が求められている。しかし、対策において「哲学的なセンス」や「ひらめき」に頼る学習は避けるべきである。

本文の内容を理解することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは別である。問二で見られた「客観的事実と主観的認識のズレ」の整理や、問四の「既存の定義に対するOR条件の追加(論理の拡張)」といった客観的な手順を、他の過去問演習でも徹底して反復してほしい。

感覚だけで判断せず、「本文上の根拠は何か」「条件と具体例はどう対応しているか」を本文と照合し、自分の言葉で説明できる状態にする。こうした客観的な手順(設問要求の確定、根拠範囲の限定、答案の要素検証など)を繰り返すことが、初見問題に対する読解と記述の再現性を高める。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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