【2026年度明治大学政治経済学部・国語】大問2解答解説|茨木のり子の文章・「美しい言葉」と経験の組織化

目次

導入:言葉の背後にある「人間的実在」と客観的処理

難関大学の現代文では、言語論と人間論が交錯する抽象度の高い随筆・評論が出題されることがある。本問(茨木のり子の文章)においては、美しい言葉を単なる形式美や論理的に整った表現としてではなく、生活の隅々に息づき、弱さや未整理な部分を抱えた「一人の人間の生の実在」が反映されたものとして捉え直している。さらに筆者は、大人と子供をめぐる成長観への疑問や、日本人の記録愛好癖へと論点を広げ、個々の経験をどのように組み立てるかが、言葉の力強さや重みにどう関わるのかという思索を展開していく。このように、身近な言葉への着目から人間の実在や経験のあり方へと論理が深まっていく枠組みを押さえておくことは、随筆的な文章を正確に読み解く有効な視点となる。

しかし、そうした主題や背景を知っているだけで、入試本番の精緻な選択肢を即座に見極められるわけではない。問われているのは感覚的な鑑賞力ではなく、筆者の評価や問題意識の所在を本文から客観的に抽出し、設問の論理関係と厳密に照合する「思考手順」の再現性である。本記事では、多面的な具体例から論点を抽出する読解手順を提示する。

茨木のり子の文章の要約と全体構造

本文は、「美しい言葉」に対する考察の乏しさを問題提起とし、多様な具体例を検討しながら、言葉の重みと人間の経験の組織化について論じた文章である。

読解の前提として、文章全体が以下のように「具体例の検討から経験の組織化へ(マクロな視点)」という論理的な連鎖で構成されていることを整理しておくことで、各設問が全体のどの段階を根拠としているかを客観的に位置づけやすくなる。

構造の展開具体的な論理内容該当する設問
問題提起と美しい言葉の性質美しい言葉に対する考察が乏しい理由について、筆者は、生活の中でひっそりと息づき、掬いがたい性質を持つためではないかと考えている。問6
言葉における実在と弱さの開示単に整った言葉ではなく、弱さを隠さない言葉や、整理された中に未整理の部分を含む言葉に美しさ(人間の実在)が宿る。問1、問2
言葉の成立条件森鴎外『最後の一句』のように、発し手と受け手がぴたりと切り結んだ瞬間に、言葉は真に成立する。問3
常識的な成長図式への疑問「未熟な子供が一人前の大人になる」という一般的な成長観を疑い、子供の輝きが黄昏れていくのが大人ではないかと問い直す。問4
経験の組織化という課題日本人には膨大な記録愛好癖があるものの、個々の経験がうまくよりあわされず、組織化を欠いてきたと指摘する。問5

このように、一見すると話題が多岐にわたる随筆であっても、「言葉に一人の人間の実在がどのように表れるのか」「人間の経験をどのように捉え、組み立てるのか」といった問題意識が、異なる話題をつなぐ軸となっている。この論理の展開を把握することが、各設問を処理する基盤となる。

【大問2】全問解答一覧

各設問の解答は以下の通りである。

設問解答
問1
問2④「四苦八苦」
問3②『明暗』
問4①「子供は能なしの大人ではない」
問5② C「あざなえる縄」/D「行雲流水」
問6

以下では、このうち他大学の難関現代文にも転用しやすい、抽象語の客観的特定、文脈による四字熟語の意味固定、設問の極性確認、成長図式の転倒の処理、述語と連動した比喩の判定、および事実と解釈の峻別を中心に、解答までの客観的な思考手順を詳しく解説する。

【大問2】各設問の解答解説と思考手順

問1 抽象概念の客観的特定

  • 手順1(設問要求):傍線1「美しい言葉」について、筆者がどのような言葉として説明しているか、最も適切な選択肢を選択する。
  • 手順2(根拠範囲):筆者が「美しい言葉」の特徴や条件を明示的に述べている本文10ページの記述に限定する。
  • 手順3(論理整理):本文には「整理されたなかに、未整理の部分を含んだ言葉も、或る緊張を強いて美しい」とある。筆者は完璧に整った論理的な言葉ではなく、人間の整理しきれない部分を内包した言葉を肯定的に評価しているという論点を整理する。
  • 手順4(選択肢比較)
    • ①「政治家や実業家がいう前向きな言葉」は、本文で「なんらの実体も感じさせない」「下の下」と否定されているため正反対である。
    • ②「学者が語る極めて論理的で語彙力にあふれた言葉」は、作家の言葉との比較において論理的整然さが美の絶対条件ではないとされているため不適切である。
    • ③「若い女性の言葉」は具体例の一つに過ぎず、美しい言葉の定義ではない。
    • ④「むしろそれをさらけ出しながら」は、本文の「さらけだす必要もないが、しかし、自分の弱さを隠すな」という記述に反して過剰である。
    • ⑤「整理されているのだが、さらにその中に整理されていない部分もある言葉」は、本文の表現を過不足なく言い換えている。
  • 結論:⑤を正答とする。

問2 文脈による四字熟語の意味固定

  • 手順1(設問要求):空欄Aに入る最も適切な四字熟語を選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文9ページ末尾から10ページ冒頭の「文学者の場合は、答は、はっきりしている。美しい言葉を掴み出そうとして、[ A ]したありさまと成果は、その作品をみれば明らかだから……」という文脈に限定する。
  • 手順3(論理整理):空欄直前の「美しい言葉を掴み出そうとして」と、直後の「したありさまと成果」をつなぐ表現として、「作家が言葉を生み出すために苦しみ、懸命に努力する」という意味内容を先に固定する。
  • 手順4(選択肢比較)
    • ①「孟母三遷」は教育環境の重要性を説く故事であり文脈に合わない。
    • ②「手練手管」は人を操る巧みな手段であり不適切である。
    • ③「因循姑息」は古い習慣に固執してその場しのぎをすることであり、文脈と逆である。
    • ⑤「哀訴嘆願」は事情を訴えて必死に頼み込むことであり文脈が異なる。
    • ④「四苦八苦」は、非常に苦労し苦心する様子を表し、作家の創作の苦しみを表す語として完全に合致する。
  • 結論:④を正答とする。

問3 設問の極性確認と文学史知識

  • 手順1(設問要求):傍線2「鴎外」に関連して、森鴎外が書いたもの「以外」の小説を一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):設問文の否定条件(〜以外)を厳密に確定する。
  • 手順3(論理整理):選択肢に並ぶ近代文学の作品群から、森鴎外の著作と他作家の著作を峻別する。
  • 手順4(選択肢比較)
    • ①『阿部一族』、③『高瀬舟』、④『山椒大夫』、⑤『ヰタ・セクスアリス』は、いずれも森鴎外の代表作である。
    • ②『明暗』は夏目漱石の未完の絶筆小説であり、森鴎外の作品ではない。
  • 結論:②を正答とする。

問4 常識的図式の転倒と筆者の批評

  • 手順1(設問要求):空欄Bに入る、筆者の考えを表す最も適切な表現を選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文11ページの加藤千代の詩句「大人とは、子供の夕暮ではないのか」を引いた前後の段落に限定する。
  • 手順3(論理整理):世間一般では、「仕込まれた子供が、やがて一人前の大人になって成熟してゆく」という一方向の成長観が自明視されている。しかし筆者は、「人間存在の輝き放つのは子供時代から青春前期くらいにかけてであって、それが次第にくだらなく黄昏れていったのが大人かもしれない」と、その常識的な成長図式そのものに疑問を向けている。したがって、子供を単なる「能力の足りない未完成の大人」とみなす見方を否定する表現を選ぶ。
  • 手順4(選択肢比較)
    • ②「大人はあどけない幼児ではない」は単なる事実確認に留まり、筆者の問題意識を反映していない。
    • ③「大人は子供の夕暮ではない」は、筆者が共感しつつ反芻している詩句を全面的に否定してしまっており文脈に合わない。
    • ④「子供は黄昏れた大人ではない」は比喩の関係を混乱させている。
    • ⑤「大人はゆれ動く子供ではない」の「ゆれ動く」は筆者自身の思考状態(「いまだにゆれ動いていて決着がつかない」)を指しており、大人の定義ではない。
    • ①「子供は能なしの大人ではない」は、子供を能力不足の未完成体とみなす常識的な見方を否定し、子供そのものの固有の価値を捉え直す筆者の姿勢に完全に合致する。
  • 結論:①を正答とする。

問5 述語と連動した比喩表現の特定

  • 手順1(設問要求):空欄C・Dに入る表現の最も適切な組み合わせを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文12ページの「それらのことどもが、[ C ]のごとくに、うまくよりあわされてこなかった」「結果としては、[ D ]、てんでばらばらに散らばっているのである」という前後の文脈に限定する。
  • 手順3(論理整理):空欄前後の述語・動作に注目する。
    • Cは直後に「うまくよりあわされて」とあるため、「よりあわせる」対象である「縄」と直結する。
    • Dは直後に「てんでばらばらに散らばっている」とあるため、組織化されず定まりなく流れていく状態を示す表現が入る。本文では記録そのものが消滅したとは言っておらず、大量に存在しながらまとまっていない状態を問題にしている。
  • 手順4(選択肢比較)
    • ①「一寸先は闇/朝三暮四」は将来の不安や目先の詐術であり、よりあわせる文脈と無関係である。
    • ③「一喜一憂/群雄割拠」は感情の揺れや対立であり不適切である。
    • ④「盗人を捕らえて縄をなう/猪突猛進」は準備の遅れや無謀な突進であり合わない。
    • ⑤「塞翁が馬/雲散霧消」は、記録そのものは大量に残されているという本文の記述(「多種の記録が大切に保存されること」など)と「雲散霧消(跡形もなく消える)」が矛盾する。
    • ②のC「あざなえる縄」は、「うまくよりあわされて」という述語と直接対応するため最も強い根拠となる。D「行雲流水」は、雲や水のようにとどまらず流れゆくことを表し、「てんでばらばらに散らばっている」という後続文脈にも他の候補より適合する。
  • 結論:②を正答とする。

問6 事実と解釈の峻別による内容合致判定

  • 手順1(設問要求):本文の内容と最も合致する選択肢を選択する。
  • 手順2(根拠範囲):文章全体の要点、特に各具体例における「発言者の言葉(客観的事実)」と「筆者がそこから読み取った解釈」が述べられている箇所を網羅的に対照する。
  • 手順3(論理整理):本文冒頭で提示された「美しい日本語に対する発言や考察がひどく乏しい」という問題提起と、その理由として挙げられた「美しい言葉は生活の隅々で意識されず、ひっそりと息づき、光り、掬いがたいものであるため」という核心的説明を整理する。
  • 手順4(選択肢比較)
    • ①は、知人女性の発言事実(夫が「野心を持たないこと」が良い)と、筆者が読み取った社会批評(拝金主義への抵抗)を混同し、女性自身が「夫は拝金主義者でもない」と話したかのように記述している点が誤りである。
    • ②は「日本人は数少ない記録愛好家であるが」とする点が本文の「記録愛好癖」「記録を書き続ける人口の多いこと」と真っ向から矛盾する。
    • ③は「嫌な言葉を叩きつぶしていけば美しい言葉は残っていく」とする点が、本文冒頭の「その否定的な面を指摘することで尽きている場合が多い。いやな日本語を叩きつぶせば、美しい日本語が蘇るというものでもないだろう」という記述と逆転している。
    • ④は「意見が重なった時に裁判が成立すること」に論点をすり替えており、言葉の発し手と受け手の切り結びを論じた本文の趣旨と異なる。
    • ⑤「美しい言葉に対する発言や考察が乏しいのは、それが生活の隅々で意識されず掬いがたいからかもしれない」は、本文冒頭の論理を正確に抽出している。
  • 結論:⑤を正答とする。

授業ではここまで扱う:随筆・論説における「具体例から論点への抽象化」

本記事で解説した問1や問6のように、随筆的な文章において上位層が失点しやすいパターンの一つは、文章中に次々と登場するエピソード(知人の言葉、歴史的小説、詩句、記録の例など)を単なる挿話として受け流し、筆者がそこから何を抽出して論点を形成しているのかを見落としてしまうことである。

実際の授業では、こうした多面的な具体例が並ぶ文章に対して、さらに次の3段階に分けて「具体例から論点への抽象化」を客観的に追跡する手順(型)を身につけさせる。

分析の段階思考手順今回の問題(茨木のり子の文章)における適用例
段階1:具体的事実の固定提示されたエピソードにおいて、誰が実際に何を発言・行動したかを切り分ける。知人女性が「夫のよいところは野心を持たないこと」と述べた事実を客観的に確定する。(問6・選択肢①の排除)
段階2:筆者の評価・解釈の抽出その具体的事実に対して、筆者がどのような価値判断や批評的意味を見出したかを抽出する。その言葉の背後に、自己顕示や拝金主義への抵抗という「一人の人間の生の実在」を読み取る。(問1・問6)
段階3:より広い問題意識への接続個別のエピソードを超えて、筆者が人間の実在や経験のあり方についてどのような問題を提起しているかを捉える。美しい言葉、人間の成長観、記録のあり方といった異なる話題が、それぞれ既成の見方を問い直し、人間の経験をどう捉え、組み立てるかという問題へつながっている。(問4・問5)

重要なのは、個々の具体例の内容を単なる雑学として覚えることではない。具体的な挿話から筆者がいかなる批評的視点を取り出し、人間の実在や経験のあり方をめぐる、より広い問題意識へとつなげているのかという論理の展開を、別の初見問題にも転用できる読解手順として整理することだ。

【明治大学政治経済学部】現代文の対策と復習手順

「随筆において具体例から筆者の論点が抽象化されていく構造」を解説されて理解できることと、入試本番の初見の設問において自力で正答までの思考手順を「再現できる」ことは全く別である。論理的な解説を読んで納得した段階にとどまっていては、難関私大でも見られる「事実と筆者の解釈をすり替える選択肢」を制限時間内に冷静に見抜くことは難しい。

初見問題でもブレずに正答を導くためには、本記事で示した客観的な手順(語彙問題における前後の述語・コロケーションの特定、選択肢における主語と述語の峻別、設問の極性確認)を反復することが求められる。過去問演習で失点した際には、単に解説の正答番号を確認するのではなく、「具体的事実と筆者の解釈の切り分け(問6)」や「前後の文脈からの意味固定(問2・問5)」のどの段階で判断を誤ったのかを確認し、同じ手順を別の文章でも再現できるようにすることが、復習の中心となる。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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