【2025年度】宮城県公立高校入試・国語大問3解答解説|額賀澪『競歩王』反発から共鳴を読む

目次

はじめに

小説の心情問題において、「かわいそう」「優しい」といった道徳的な感情論で正答を選ぼうとするのは、上位校を目指す上で避けるべき失点パターンである。

本問で取り上げられた額賀澪の『競歩王』の根底には、「残酷な現実を書く作者」と「それを読まされて怒る読者」の対立から始まり、最終的に「それでも自分の真実が書かれているから惹かれる」という共鳴(相互理解)へと至る、感情のダイナミズムが存在する。

しかし、こうしたテーマの構造を知っているだけでは、入試本番の制限時間内で正確に得点することはできない。正答を導くには、本文中の行動や台詞から、人物の感情の推移を客観的に仕分けし、因果関係として組み立てる『思考手順』の言語化が不可欠である。本記事では、その具体的な解法の型を示す。

額賀澪『競歩王』の要約と論理構造

本問を解くにあたり、まずは文章全体を貫くマクロな視点を提示する。

本文は、スランプに陥った小説家(忍)と、その小説のモデルとなった元競歩選手(八千代)とのやり取りを描いている。この文章の論理を追う上で前提となるのは、残酷な現実を描いた小説への「反発(怒り)」から始まり、最後には自分自身の姿を重ね合わせて「共鳴」し、励まし合うという感情の推移である。

段階人物の行動と心情背後にある感情の推移
第1段階(緊張)忍:原稿を渡し、八千代の評価を待つ。自分の作品がどう評価されるかという不安と緊張。
第2段階(反発)八千代:主人公たちが報われない展開に腹を立てる。現実の厳しさを突きつけられたことへの拒絶と怒り。
第3段階(共鳴)八千代:怒りつつも、小説に自分を重ねて原稿を抱きしめる。
忍:八千代の励ましを受け止める。
怒りの裏側にある深い感情移入。互いの「戦い続ける姿勢」への共感と決意。

このように、表面的な怒りの裏にある「感情移入(共鳴)」を読み取ることが、本問を攻略する最大の鍵となる。

【大問3】各設問の解答解説と思考プロセス

問一

  • 手順1(設問要求): 傍線部①で八千代が珍しく声を張ったときの心情を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 「珍しく声を張った」という行動の直前直後の描写に限定する。
  • 手順3(論理整理): 八千代が忍を探して小走りで近づき、見つけるなりすぐに小説の感想を話し始めているという事実から、「早く自分の思い(感想)を伝えたい」という行動の目的を抽出する。
  • 手順4(選択肢比較): ア(不安)、イ(心苦しさ)、エ(怒り)は、一直線に感想を伝えようとする行動の目的と乖離しているため厳密に排除する。ウは「早く伝えたいという気持ち」という目的に合致する。
  • 結論: 正答はに決定。

問二

  • 手順1(設問要求): 傍線部②で忍が両手の力を抜けなかった理由を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 両手を握り締めるという身体反応の直前、忍が八千代に「……どうだった」と尋ねた場面に限定する。
  • 手順3(論理整理): 因果関係を整理する。「元競歩選手である八千代に小説を読ませた」→「いよいよその評価を聞く瞬間が来た」→「強い緊張から体の力が抜けない」という流れである。
  • 手順4(選択肢比較): ア(からかわれて冷静さを失う)、ウ(感情的になり言い負かそうとする)、エ(一方的に非難され警戒する)は、評価を聞く前の忍の状況として事実と異なるため排除する。イは「感想を聞く状況が迫り、緊張を緩められない」という因果関係に完全に一致する。
  • 結論: 正答はに決定。

問三

  • 手順1(設問要求): 傍線部③で原稿を掲げた八千代の心情を25字以内で記述する。※公立入試の記述では原則として文末の句点(。)も字数に含めてカウントされるため、超過しないよう設計する。
  • 手順2(根拠範囲): 八千代が「辛すぎますよ」などとまくし立てている台詞全体に限定する。
  • 手順3(論理整理): 八千代の強い反応(怒り)の原因は、「主人公たちが勝利や成功を得られず引退・停滞する展開」にある。これを「腹立たしさ」としてまとめる。なお、この腹立たしさは単なる悪口ではなく、「読んでいてナイーブになる」ほど作品がリアルで、激しく感情移入してしまったことの裏返しでもある。
  • 手順4(選択肢比較・条件照合): 「主人公たちが報われない」という理由と「腹立たしさ」という心情を組み合わせ、句点を含めて25字以内に圧縮・調整する。
  • 結論: 正答は報われない小説の展開に腹立たしさを感じている。(23字)に決定。

問四

  • 手順1(設問要求): 八千代が忍の小説を「面白かった」と感じていたことが表れている様子を、本文中から10字で抜き出す。
  • 手順2(根拠範囲): 八千代が主人公に自分自身を重ね合わせ、「この中にいた」と語る場面の周辺の動作描写に限定する。
  • 手順3(論理整理): 批判的な言葉とは裏腹に、原稿を大切に扱うポジティブな「身体的動作」を抽出する。
  • 手順4(選択肢比較・条件照合): 該当箇所の動作から、ぴったり10字となる箇所を照合する。
  • 結論: 正答は大事そうに抱きしめるに決定。

問五

  • 手順1(設問要求): 傍線部⑤の忍の「わかったよ」という返答時の心情を55字以内で記述する。
  • 手順2(根拠範囲): 直前の八千代の励まし(「最前線で戦ってください」)と、直後の忍の反応(涙が込み上げる感覚)に限定する。
  • 手順3(論理整理): 八千代の言葉(自分も歩き続けるから、お前も書き続けろという励まし)を肯定的に受け止め、自分も創作から逃げずに書き続けようとする「決意」の因果関係を構築する。
  • 手順4(選択肢比較・条件照合): 「八千代の励ましの受け止め」と「書き続ける決意」の2要素を入れ、句点を含めて55字以内に調整する。
  • 結論: 正答は八千代の励ましを受け止め、どんなに辛くても小説を書き続けようと決意している。(38字)に決定。

問六

  • 手順1(設問要求): 本文の表現技法とその効果を正しく説明した選択肢を特定する。
  • 手順2(根拠範囲): 冒頭の「聞こえたのは。」「近づいてきたのは。」といった未完結に見える描写に限定する。
  • 手順3(論理整理): 通常の語順を入れ替えて結論を後ろに回す「倒置表現」であることを特定する。さらに、これによって「誰が来たのか」という緊張感を生み、八千代の登場を印象づけている効果を確認する。
  • 手順4(選択肢比較): エ以外の選択肢は、本文に実際に用いられている表現技法と効果の組み合わせとして誤っているため排除する。エは技法と効果を正確に説明している。
  • 結論: 正答はに決定。

授業ではここまで扱う:矛盾する感情の「裏側」を読む型

ここまでの解説から、身体反応から緊張の理由を特定する手順や、字数制限(句点トラップ)を回避する記述の文字数調整といった、客観的な処理プロセスを確認できる。しかし、当プラットフォームのベースとなる実際の授業現場では、さらに踏み込み、初見の小説でも迷わず感情の揺れを捉えられるよう、汎用的な手順(型)を身につけさせる。

今回の問三から問四にかけての八千代のように、「激しく怒っている(腹立たしさ)」のに「原稿を大事に抱きしめる」という、一見すると矛盾する行動は入試頻出のパターンである。授業では、こうした「矛盾する感情の裏側」を読み解くため、以下のフレームワークを用いて事実を追跡する。

段階感情追跡のフレームワーク本文への適用例(八千代の心情)
第1段階表面的な感情・行動の抽出原稿を掲げてまくし立てる。主人公が負ける展開への「怒り・反発」。
第2段階無意識の動作・本音の抽出まだ本になっていない紙の束を「大事そうに抱きしめる」。
第3段階感情の「真の理由(裏側)」の統合怒っているのは作品が嫌いだからではなく、自分を重ね合わせるほど「深く感情移入してしまった」ことの裏返しである。

重要なのは、「この人は怒りっぽい性格だ」といった固定的なキャラクター解釈に逃げないことである。状況の変化(表面的な怒りと無意識の動作のズレ)を客観的に捉え、「なぜ相反する行動をとるのか」という因果関係を整理することだ。この読解手順を別の小説文にも転用できるよう固定化することが、安定した得点力へと直結する。

【宮城県公立高校】国語の対策と復習手順

本文のストーリーを読んで「感動した」と満足することと、初見の設問に対して正答までの手順を自力で再現することは、まったく別の次元の作業である。解説を読んで内容を理解するだけでは、本番の極度の緊張感の中で同じ情報処理ができるとは限らない。

宮城県公立高校の国語において上位校を目指すのであれば、小説文を単なる「道徳的な読み物」として処理する習慣を避け、登場人物の行動や台詞の背後にある「反発から共鳴への推移」を、客観的な事実に基づいて説明できる読み方へ切り替える必要がある。復習では、本記事で示した手順(行動の目的の特定、句点を含む字数調整、感情の裏側の統合など)を別の問題でも反復し、なぜその選択肢が正解になるのか、なぜ他の選択肢が排除されるのかを、自らの言葉で明確に説明する練習を重ねてほしい。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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