2005年度同志社大・法学部 国語大問2 解答解説|『枕草子』宮廷のいたずらと主語特定の解剖

古文、とりわけ宮廷文学では、貴族社会における「戯れ」や、それに伴う人間関係の機微が読解の鍵になることがある。和歌を用いた婉曲な皮肉や、身分秩序を前提としたやり取りなど、当時の貴族たちの行動原理(背景知識)を知ることは、読解の大きな助けとなる。

しかし、こうしたテーマや知識を事前に知っているだけでは、入試本番で正答を導き出すことはできない。初見の文章と設問に対し、本番で確実な得点源とするには、省略された主語の追跡や、古語・文法に基づく客観的な「思考手順」の言語化が不可欠である。本稿では、その具体的な解法手順を解剖していく。

目次

『枕草子』の要約と論理構造

本大問の構造的な特徴とマクロな視点を以下の表に整理する。

項目内容
対象年度・学部2005年度 同志社大学 法学部
教科・大問国語・大問2
出典『枕草子』
出題テーマ宮廷のいたずらと、それに対する貴族の心理的反応
論理構造の特徴差出人不明の手紙をめぐる「不審→探索→発覚→悔しさ+誇らしさ」という心情の推移。

【要約と全体構造】

一条天皇の乳母である藤三位のもとに、物忌の最中、差出人不明の奇妙な手紙が届く。不審に思いながらも犯人を探索しようと、藤三位は手紙を持って天皇と中宮のもとへ向かう。しかし会話を進めるうちに、その手紙が宮廷側の「いたずら」に関わるものであり、藤三位が見事にその戯れに巻き込まれていたことが明らかになる。本稿は、見事にだまされた藤三位の「悔しさ」と、高貴な人物から戯れの対象とされた「名誉(誇らしさ)」が交錯する、宮廷文学特有の心情の推移を描き出している。

【大問2】各設問の解答解説と客観的思考プロセス

(一)a「心もとなけれど」

  • 手順1(設問要求):傍線部aの文脈上の意味を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):藤三位が手紙を受け取り、物忌が終わるのを待っている場面。
  • 手順3(論理整理):早く手紙の真相を知りたいが、物忌のため行動できず待たされている、という「期待・焦燥と障害」の論理を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):「心もとなし」には複数の意味があるが、この状況に最も合致する「じれったいけれども」を残す。藤三位が安心しているとする選択肢や、頼りないと感じている場面とする誤答を客観的に排除する。
  • 結論:正答は「3(じれったいけれども)」。

(一)b「つれなく」

  • 手順1(設問要求):傍線部bの文脈上の意味を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):藤三位の話を聞き、中宮が手紙を見たときの態度の描写。
  • 手順3(論理整理):事情を知っている中宮が、素知らぬ顔で手紙を見ている状況である。
  • 手順4(選択肢比較):現代語の「冷酷だ」「薄情だ」という感覚を排除し、特別な反応を示さず「何気なく」振る舞う様子を残す。動作の速さ(さっと)や、熱心さといった文脈に合わないものを切り捨てる。
  • 結論:正答は「3(何気なく)」。

(二)ア「よにかかる事のたまはじ」

  • 手順1(設問要求):傍線部アの現代語訳を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部アの一文。
  • 手順3(論理整理):文全体を感覚で訳さず、「よに(決して〜ない)+のたまふ(おっしゃる)+じ(打消推量)」とパーツに分解して構造を単純化する。
  • 手順4(選択肢比較):「よに」の強い否定、「のたまふ」の発言、「じ」の推量をすべて過不足なく反映しているか照合する。「なさる」と意味をずらしたり、「あってはいけない」と文法の意味を変えたりした誤答を厳密に排除する。
  • 結論:正答は「5(まさかこんな事はおっしゃらないだろう。)」。

(二)イ「おぼめきゆかしがりたまふ」

  • 手順1(設問要求):傍線部イの人物の状態を解釈する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部イの一文。
  • 手順3(論理整理):「おぼめく(不審に思う)+ゆかし(知りたい)+がる(様子)+たまふ(尊敬)」と単語ごとに分解する。
  • 手順4(選択肢比較):「思い出せない」「恐縮する」など、語義を満たさない要素を加えた選択肢を本文と照合して切り捨てる。
  • 結論:正答は「2(不審に思い、知りたがりなさる)」。

(二)ウ「などかくはからせおはします」

  • 手順1(設問要求):傍線部ウの現代語訳を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):いたずらが発覚した直後の藤三位の発言。
  • 手順3(論理整理):「など(どうして)+かく(このように)+はかる(たくらむ・だます)+おはします(尊敬)」と分解する。
  • 手順4(選択肢比較):「準備する」「推し量る」など、この文脈における「はかる」の意味から外れた選択肢を客観的に排除する。
  • 結論:正答は「3(どうしてこのように、だまそうとなさるのですか。)」。

(三)「あさましくねたかりけるわざかな」

  • 手順1(設問要求):藤三位がそのように感じた理由を二つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):差出人不明の手紙を開いた直後の描写。
  • 手順3(論理整理):手紙の「見苦しい筆跡」と「皮肉を含む和歌」の二点が、藤三位の不快感の原因となっている因果関係を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):選択肢3は「風情のない紙」としているが、本文では紙を「あやし(不思議だ)」と感じているだけで、風情がないとは述べていない。本文にない評価や因果関係を付加した誤答を排除する。
  • 結論:正答は「1・5」。

(四)会話文①〜⑤の話者

  • 手順1(設問要求):会話文①〜⑤のそれぞれの話者を確定する。
  • 手順2(根拠範囲):該当する一連の会話と地の文。
  • 手順3(論理整理):「発言の直前に誰がいるか」「敬語が誰を高めているか」を整理する。特に②の直後の「のたまはすれば」の「ば」を、主語を再確認すべきサインとして捉える。そこで中宮以外の人物を候補に戻し、続く発言内容が事件の真相を探っている藤三位の立場と一致することから、③の話者を藤三位と確定する。
  • 手順4(選択肢比較):話者の順序が論理的に破綻している選択肢を排除する。
  • 結論:正答は「1(①藤三位→②中宮→③藤三位→④中宮→⑤天皇)」。

(五)「はべら」の文法的用法

  • 手順1(設問要求):傍線部の「はべら」と文法的用法が同じものを特定する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部「聞きはべらむ」の構造。
  • 手順3(論理整理):「動詞の連用形(聞き)+侍り」という構造であり、補助動詞としての丁寧語であることを特定する。
  • 手順4(選択肢比較):「侍り」自体が存在(おります)を表す本動詞の用法を排除し、「動詞の連用形+侍り(〜ます)」の形を持つものを残す。
  • 結論:正答は「5(求めはべるなり)」。

(六)本文内容一致

  • 手順1(設問要求):本文の内容に合致するものを二つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文全体。
  • 手順3(論理整理):各選択肢と本文の事実関係を照合する。
  • 手順4(選択肢比較):誤答の型である「①事実の逆転(喪服を脱いだ→脱がない)」「②時間の逆転(すぐ返った→返らない)」「③推測の事実化(藤大納言かも→藤大納言だった)」に当てはまるものを客観的に排除する。
  • 結論:正答は「5・6」。

(七)なぜ笑いながら悔しがったのか(記述)

  • 手順1(設問要求):藤三位が、なぜ笑いながら悔しがったのかを30字以内で説明する。
  • 手順2(根拠範囲):物語末尾、いたずらの真相を知った藤三位の描写。
  • 手順3(論理整理):いたずらに見事に引っかかった「だまされた悔しさ(マイナス)」と、天皇・中宮の親しい戯れの対象となった「名誉・誇らしさ(プラス)」の両立という構造を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):記述問題のため、二つの感情を不足なく抽出し、30字以内に圧縮する。
  • 結論:正答例「だまされた悔しさと、貴人の戯れの相手となる名誉を感じたから。」(30字)

授業ではここまで扱う:内容一致における「誤答の型」のシステム化

本記事の解説(六)で示したように、古文の内容一致問題では、誤答選択肢にいくつか共通する情報の改変パターンが見られる。実際の授業では、誤答選択肢で本文の情報がどのように改変されているか、以下の3段階に分けて追跡する汎用的な分析の手順を提示している。

段階思考プロセス古文における具体的な失点パターン
段階1:事実の逆転チェック本文の記述と真逆の事象が書かれていないか照合する。「喪服を脱いだ」という事実に対し、「脱がなかった」と逆転させる。
段階2:時間の逆転チェック事象の前後関係やスピードが改変されていないか確認する。「すぐに返事が来た」事実に対し、「なかなか返ってこなかった」と時間を引き延ばす。
段階3:推測の事実化チェック登場人物の頭の中の想像が、確定した事実として語られていないか見極める。「藤大納言の仕業かもしれない(推測)」を、「藤大納言であった(事実)」にすり替える。

重要なのは、選択肢の文章を雰囲気で読んで判定することではない。誤答選択肢に見られる情報の改変パターンを客観的に捉え、別の初見問題にも即座に転用できる読解手順として整理することである。

同志社大学 古文の対策と復習手順

難関私立大学の国語において、本文の表面的なあらすじを理解することと、初見の設問に対して正答までの手順を試験会場で再現することは、全く別の作業である。なんとなく選択肢を絞り込むのではなく、文法や構造に基づく客観的な処理が求められる。

今後の対策としては、本記事で示した客観的な手順(単語の分解、接続助詞「〜ば・〜れば」による主語の再確認、誤答のパターンの排除など)を別の過去問演習でも繰り返し反復してほしい。なぜその選択肢が消えるのか、文法のどの部分がすり替えられているのかを、自らの言葉で明確に言語化する訓練を重ねることが、初見問題でも判断根拠を再現できる得点力につながる。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

コメント

コメントする

目次