言語と文字の関係、とりわけ「はなしことば」と「かきことば」の性質の違いや、日本語における漢字・ひらがな・カタカナの独自の機能といったテーマは、高校入試の論説文において頻繁に問われる知的な枠組みである。普段私たちが何気なく使っている文字の背後にある歴史や役割を考えることは、本文の問題意識を理解する助けとなる。
しかし、そうしたテーマや背景知識を知っているだけでは、入試本番の問題は解けない。正答の根拠は背景知識ではなく、あくまで本文中の定義・対比・因果関係に置かなければならない。初見の文章と設問に対し、本番で確実な得点源とするには、本文と選択肢を照合する客観的な「思考手順」の言語化が不可欠である。本稿では、その具体的な解法手順を解剖していく。
『日本語と漢字』(今野真二)・『ひらがなの世界』(石川九楊)の要約と論理構造
本大問の構造的な特徴とマクロな視点を以下の表に整理する。
| 項目 | 内容 |
| 対象年度・都道府県 | 2025年度 茨城県公立高校入試 |
| 教科・大問 | 国語・大問3 |
| 出典・著者名 | 【Ⅰ】今野真二『日本語と漢字』/【Ⅱ】石川九楊『ひらがなの世界』 |
| 出題テーマ | 「はなしことば」と「かきことば」の違い、日本語の文字の固有性 |
| 論理構造の特徴 | 【Ⅰ】音声と文字の対比・役割の変化/【Ⅱ】一般的な見方と筆者の見方の対比 |
【要約と全体構造】
【Ⅰ】では、「はなしことば」が時間的・空間的な制限を持つのに対し、「かきことば」はその制限を越えて「ことがら」を記録し、やがて人の「気持ち・感情」を表現する役割まで担うようになったという変遷が語られる。
【Ⅱ】では、日本語を書き表す三種類の文字(漢字・ひらがな・カタカナ)について、「一つの言葉を書き表す記号」という一般論に対し、筆者は三種類の文字それぞれに「それにふさわしい意味、表現、文体」があると対置している。論説文を読む際は、このような対比関係と役割の変化を整理することが、設問処理の前提となる。
【大問3】各設問の解答解説と思考プロセス
(一)空欄A
- 手順1(設問要求):空欄Aに入る文として、前後の内容に最も適切につながるものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):空欄直前の「その言語を文字化するための文字を獲得した言語には『はなしことば』と『かきことば』とがある」という一文。
- 手順3(論理整理):「はなしことば」は文字がなくても成立するが、「かきことば」を成立させるためには記録するための「文字」が必要になるという因果関係を整理する。
- 手順4(選択肢比較):「文字を獲得する → かきことばを獲得できる」という順序に合致するものを残す。録音手段と「はなしことば」を結びつけたり、因果関係を逆転させていたりする誤答を客観的に排除する。
- 結論:正答は「ア」。
(二)傍線①「はなしことばには時間的・空間的な制限がある」
- 手順1(設問要求):傍線部の説明の具体例として最も適切なものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部直前にある「空気振動として伝わる」「声が届く範囲は限られる」「振動がなくなれば消える」という性質の説明。
- 手順3(論理整理):制限を「時間的制限(時間を超えて残らない)」と「空間的制限(一定範囲より遠くへ届かない)」の二つの要素に分解・単純化する。
- 手順4(選択肢比較):昔の「はなしことば」が現在までそのまま残っていないという時間的制限の具体例を示しているものを探す。古典文学の読みづらさ(歴史的変化)や字幕の問題(翻訳)など、制限の種類が異なるものを厳密に切り捨てる。
- 結論:正答は「ア」。
(三)空欄B~E
- 手順1(設問要求):四つの空欄に入る言葉の組み合わせを特定する。
- 手順2(根拠範囲):空欄を含む段落の前後関係。
- 手順3(論理整理):BとCについては「[B]も当初は『[C]』を記録するための手段」という文脈から、記録する側(かきことば)と記録される側(はなしことば)という役割を固定する。DとEについては「『[D]』をさながらに『[E]』に移す」という文脈から、話した言葉(はなしことば)を文字(かきことば)に移す関係であると整理する。
- 手順4(選択肢比較):役割の固定関係に合致する「かきことば → はなしことば → はなしことば → かきことば」の順になっているものを残し、記録する側とされる側を逆転させている選択肢を排除する。
- 結論:正答は「エ」。
(四)【Ⅰ】【Ⅱ】の文章構成・論理展開
- 手順1(設問要求):二つの文章の構成と論理展開の特徴を説明したものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):【Ⅰ】および【Ⅱ】の各段落の役割。
- 手順3(論理整理):細かな内容を追うのではなく、【Ⅰ】は「かきことばの成立・変遷」、【Ⅱ】は「一般論の提示 → 筆者の異論」という大きな枠組みに圧縮する。
- 手順4(選択肢比較):それぞれの論理展開の枠組みを正確に捉えているものを残す。【Ⅰ】を「はなしことばが生まれた背景」としたり、【Ⅱ】を「反論をデータを示して述べている」など、本文の構造を拡大・変質させている誤答を排除する。
- 結論:正答は「イ」。
(五)空欄F
- 手順1(設問要求):【Ⅲ】のFに入る言葉を【Ⅰ】から5字以上10字以内で抜き出す。
- 手順2(根拠範囲):【Ⅲ】の「『かきことば』は[F]をするためだけでなく」という要約文と対応する【Ⅰ】の箇所。
- 手順3(論理整理):【Ⅰ】において、かきことばの当初の役割として説明されている部分を特定する。
- 手順4(選択肢比較):該当箇所から条件に合う文字列を抽出する。原稿用紙の使い方と同様に、かぎ括弧(「 」)もそれぞれ一字として数える点に注意すること。
- 結論:正答は「「ことがら」の記録」(9字)。
(六)空欄G
- 手順1(設問要求):【Ⅲ】のGに入る言葉を【Ⅰ】から11字で抜き出す。
- 手順2(根拠範囲):【Ⅲ】の「人の[G]するためにも」と対応する【Ⅰ】の箇所。
- 手順3(論理整理):【Ⅰ】において、かきことばが単なる記録を超えて担うようになった役割を特定する。
- 手順4(選択肢比較):該当箇所から11字の文字列を抽出する。中点(・)およびかぎ括弧もそれぞれ一字として数える。
- 結論:正答は「「気持ち・感情」を表出」(11字)。
(七)空欄H
- 手順1(設問要求):【Ⅲ】のHに入る内容を、【Ⅱ】の言葉を使って20字以上25字以内で書く。
- 手順2(根拠範囲):【Ⅲ】の「三種類の文字が、[H]ことが分かったね。」につながる、【Ⅱ】の結論部分。
- 手順3(論理整理):設問で「【Ⅱ】の言葉を使って」と指定されているため、自分の言葉だけで答案を作るのではなく、【Ⅲ】の文脈に合う表現を【Ⅱ】から探す。【Ⅱ】では、漢字・ひらがな・カタカナは単なる交換可能な記号ではなく、それぞれにふさわしい意味・表現・文体を持つと述べられている。
- 手順4(答案作成):「それにふさわしい意味、表現、文体」という本文表現を利用し、「三種類の文字が、~ことが分かったね」と自然につながる形に整えて字数を確認する。
- 結論:正答例「それにふさわしい意味、表現、文体をもっている」(22字)。
授業ではここまで扱う:二項対立の整理と空欄補充のシステム化
本記事の解説(三)で示したように、論説文の空欄補充問題では、前後の文脈を感覚で補うのではなく、対立する概念の役割を固定化することが有効である。実際の授業では、こうした情報の整理を雰囲気で行わせず、以下の段階に分けて追跡する汎用的な分析の手順を提示している。
| 段階 | 思考プロセス | 本文における具体的な事象 |
| 段階1:対立概念の抽出 | 文章の中心となる二つの概念を見つけ出す。 | 「はなしことば」と「かきことば」 |
| 段階2:役割の固定化 | どちらが主体で、どちらが客体かという関係性を軸として設定する。 | 「かきことば(記録する側)」が、「はなしことば(記録される側)」を移し替える。 |
| 段階3:空欄への代入 | 固定した役割を空欄前後の述語(動作)と照合し、機械的に当てはめる。 | 「〇〇を記録する手段」→ 記録する側である「かきことば」が入る。 |
重要なのは、特定の語句の組み合わせを固定して覚えることではない。文章の中で概念の関係性がどう構成されているかという状況の変化を捉え、別の問題にも転用できる読解手順として整理することである。
茨城県公立高校入試 国語の対策と復習手順
高校入試の国語において、本文の表面的なあらすじを理解することと、初見の設問に対して正答までの手順を試験会場で再現することは、全く別の作業である。なんとなく選択肢を絞り込んだり、雰囲気で抜き出したりするのではなく、客観的な根拠に基づく処理が求められる。
今後の対策としては、本記事で示した客観的な手順(設問要求の確定、根拠範囲の限定、対比構造の抽出、役割の固定化によるパターンの排除など)を別の過去問演習でも繰り返し反復してほしい。なぜその選択肢が消えるのか、設問の条件が何を要求しているのかを、自らの言葉で明確に言語化する訓練を重ねることが、初見問題でも判断根拠を再現できる安定した得点力につながる。

コメント