【2011年度】上智大学 文学部 国語 大問1主要設問解説|川田順造『文化を交叉させる―人類学者の眼』の論理解剖

今回の文章では、人類学的な視点から、普段の「発話」と「うた」を比較し、「うた」の身体性やコミュニケーションの特質が論じられている。扱われている概念は抽象的だが、本文中の対比・言い換え・否定などの論理関係を追うことで整理することができる。

「なんとなく読めた」という感覚に頼るのではなく、本番で正答を導くには、本文の論理構造を把握し、客観的な「思考手順」を言語化しておくことが重要である。本記事では、大問1の中でも読解手順を一般化しやすい主要設問を取り上げ、その具体的なプロセスを提示する。

目次

『文化を交叉させる―人類学者の眼』(川田順造)の要約と論理構造

本文は、普段の「発話」と「うた」を比較しながら、うたうという行為には、言葉の意味を伝えるだけでは説明できない身体的・伝達的な特徴があることを論じている。

読解の前提として、以下のマクロな視点(全体の構造)を整理しておくことで、各設問が本文のどの部分を根拠としているのかを位置づけやすくなる。

構造の展開内容の要点
前提の提示一度覚えたうたは、意味の分からない外国語であっても長く記憶され再現できるという事実の提示。
特徴の分析①(身体技法)うたでは発声器官を協調的に働かせ、定まった抑揚やリズムを繰り返すという身体技法が働く。
特徴の分析②(三つの性質)「うた」のメッセージには、日常の発話とは異なる「自律性」「自己回帰性」「拡散伝達性」の三つがある。
事象の具体化自分でうたう際に身体器官を高密度で用いることで情動が強く刺激される。また、「うた」のメッセージは自分自身へ回帰するとともに、特定の相手を超えてその場の人々にも共有される。
拡散伝達性と超常性特定の宛先を離れた「うた」の声が、祈りや呪力などの超常的な性格とも結びつくことを示す。
社会的事例への展開イニシエーション儀礼や歓迎会で人前でうたわせる行為を、「自己への享受」と「場での共有」という「うた」の性質から捉え直す。

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

問1:傍線部1「一生楽に反復できる」理由

  • 手順1(設問要求):一度覚えたうたは、言葉の意味が分からなくてもなぜ「一生楽に反復できる」のか、その理由を問われている。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部の直前から直後にかけて、「うた」を条件付けられた身体技法として説明している箇所に範囲を限定する。
  • 手順3(論理整理):本文の因果関係を単純化する。「発声器官を広く協調的に使う」→「抑揚・リズムを伴って繰り返す」→「身体に動作として定着する」→「意味が分からなくても再現できる」という論理の流れを整理する。
  • 手順4(選択肢比較)
    • アは、「一定の所作」という一般的な動作に話をすり替えており、発声器官の協働という要素が欠落している。
    • ウは、「歌詞の正確な再現が二次的になるから」と、記憶の直接的な理由を逆転させている。
    • エは、「第一言語として無意識に感得できる」と、本文にない要素を付け加えている(外国語の歌でも記憶できることが本文で例示されている)。
  • 結論:身体器官の協調と抑揚・リズムの反復という本文の因果関係を正確に捉えているイが正答となる。

問3:傍線部3「自己回帰性」の意味(記述)

  • 手順1(設問要求):傍線部3「自己回帰性」が、本文ではどのような意味で使われているかを説明する。
  • 手順2(根拠範囲):「自己回帰性」が初出する段落、および本文後半の「うたう自分」について説明されている箇所に限定する。
  • 手順3(論理整理):言い換え・要約のマーカーである「つまり」に注目する。ここでは「自己回帰性」を「モノローグ(独語)」として説明し直している。さらに後半の説明から、「自分が声を発する(発信)」と「自分自身がそのメッセージを受け取る(受信)」が同一化(発信者自身が受信者にもなる)している構造であると論理を整理する。
  • 手順4(記述構成の確認):自己の知識での解釈や本文にない要素を排除し、「発信者自身が受信者にもなる」という要素に過不足がないか照合する。
  • 結論:「発信者と受信者が同一となり、自分が発した『うた』のメッセージを自分自身が受け取ること。」を正答の軸とする。

問7:傍線部7「パソコンのメール」の性質(不適選択)

  • 手順1(設問要求):筆者が考える「パソコンのメールによる交信」の性質として、適切でないものを一つ選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部7周辺の、「うた」と「ダイアローグ(対話・メール)」が対比されている段落を確認する。
  • 手順3(論理整理):二つの対象が対比されている場合、「何が共通し、どこが異なるのか」を整理する。メールは「発信者と受信者が特定される双方向のやり取り(ダイアローグ)」であるのに対し、うたは「特定の宛先をもたず拡散する」という対比構造を明確にする。
  • 手順4(選択肢比較)
    • アは、「自律性をもっていない」点においてメールの性質と一致する。
    • イは、「特定の相手との双方向のやり取り」であり本文のダイアローグの特徴に一致する。
    • エは、「第三者が介入しない」特定二者間の交信であり、本文でメールが特定の発信者・受信者によるダイアローグとして扱われていることと矛盾しない。
    • ウは、「文字を媒介することにより、はじめてダイアローグが可能になる」と、本文に存在しない条件を付け加えている。対話は文字によるメールに限らず成立する。
  • 結論:不適切な記述であるウが正答となる。

問9:皆の前で声を出してうたう理由(記述)

  • 手順1(設問要求):新入社員などに、上手にうたうことではなく、皆の前で身体器官を使って声を出してうたうことが求められる理由を説明する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部9を含む最終段落全体に範囲を限定する。
  • 手順3(論理整理):傍線部内の「〜ではなく」という否定の構文に注目する。ここでの筆者の要求は、退けられる条件であるA(上手にうたうこと)ではなく、焦点となる条件であるB(自ら声を出してうたうこと)にある。Bの行動をとることで生じる結果を後続から探すと、「自分自身に享受される(自己回帰性)」と「その場の人々に呪力をもって共有される(拡散伝達性)」の二点が抽出できる。
  • 手順4(記述構成の確認):音楽的な上手さという誤答要素を排除し、「自ら発声すること」「自己への享受」「他者への共有」の要素が欠落していないか本文と照合する。
  • 結論:「自ら身体器官を使って声を発することで、『うた』のメッセージを自分自身で享受すると同時に、その場にいる人々にもある種の呪力をもつものとして共有できるから。」を正答の軸とする。

授業ではここまで扱う:論説文における「否定のフレームワーク」の追跡

本記事で解説した問9のように、「なぜその行動が求められるのか」を問う記述問題では、感覚だけで答えるのではなく、本文から客観的に結果を抽出する手順が必要となる。

実際の授業では、こうした問題に対して、さらに次の3段階に分けて「AではなくB」という否定構文の論理を追跡する手順を身につけさせる。

分析の段階思考手順今回の問題における適用例
段階1:否定構文の検知「AではなくB」の形を探す。「上手にうたうことではなく、皆の前で身体器官を使って声を出して『うたう』という行為」を確認する。
段階2:AとBの切り分け退けられているAと、筆者が焦点を置くBを区別する。A(退けられる条件):上手にうたうこと
B(焦点となる条件):自ら身体を使って声を出すこと
段階3:Bがもたらす結果の追跡Bによってどのような結果が生じるのかを後続部分から探す。「自分自身に享受される」「その場の人々にある種の呪力をもって共有される」の二点を抽出する。

重要なのは、傍線部を漠然と読むことではない。文中の「〜ではなく」といった論理的サインを客観的に捉え、同種の否定・対比を含む問題にも転用しやすい読解手順として整理することだ。

【上智大学】現代文の対策と復習手順

本文のテーマや人類学的な知識を「理解した・知っている」ことと、初見の設問に対して正答までの手順を「再現できる」ことは全く別である。解説を読んで納得しただけでは、初見問題で同じ処理ができるとは限らない。

初見問題でも同じ処理を再現するためには、本記事で示した客観的な手順を徹底することが求められる。理由記述では、本文の論理を先に整理せず、自分の言葉だけで理由を補うと、本文にない内容が入りやすい。失点した問題では、単に正答を覚えるのではなく、「設問要求の確認」「言い換えマーカー(つまり)の特定」「対比による差異の整理」「否定構文の追跡」のどこで処理を誤ったのかを確認する。同じ手順を別の初見問題でも反復して適用し、自らの言葉で明確にできるようになることが、復習の中心となる。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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