2025年度 愛知県公立高校入試 国語 大問1 本江正茂『あらかじめ、つくり方をつくる』解説と解法分析――具体と抽象の往還・要約評価の極性判定手順

目次

建築論を通じた「関係」と「情報」の構造的把握

論説文・説明的文章を読む際の難しさの一つは、身近な具体例と筆者が展開する抽象概念の結び付きを見失いやすいことである。入試国語において求められるのは、筆者が提示した個別の事例(レンガ、住宅、料理、自動車など)が、いかなる概念(関係、秩序、機能、情報、自動化)を論証するために配置されているかを客観的に把握する力である

2025年度の愛知県公立高校入試・国語の大問1で出題された本江正茂の『あらかじめ、つくり方をつくる』(『14歳からのケンチク学』所収)は、モノ同士が意味ある位置や形に配置され、その関係が秩序だてられることで機能が生まれるという建築の捉え方から議論を展開している。さらに、かつて製作者と使用者が同一であった素朴な物づくりから、大規模化に伴って「つくり方」が情報として独立し、その操作を担う「建築家」が誕生する過程、そして人工知能による自動化を経て再び使用者が自らつくる可能性へと、物づくりの構造変化が論じられている。

文章の背景知識を眺めるだけでは、空欄補充、内容整理、理由説明、要約文の評価、論の進め方といった多角的な設問を正確に処理することはできない。本番の試験場では、本文のどの論理関係を根拠とし、設問の要求(特に「適当でないもの」を選ぶ極性判定など)にどう対応するかという客観的な思考手順が必要となる。本稿では、各設問の解法手順に基づき、2025年度愛知県大問1の全問について、その解法プロセスを分解・明示する。

『あらかじめ、つくり方をつくる』(本江正茂)の要約と論理構造

本文は、身近な造形から出発し、物づくりにおける「情報」と「人間」の関わりを歴史的・構造的に考察した文章である。

  • 論理の全体構造
    • 第1段落〜第2段落(建築の本質:関係・秩序・機能)建築家は直接レンガを積むのではなく、「つくり方」をつくる。一個のレンガには存在しないが、二個目を注意深く置くことでモノ同士に「関係」が生まれる。一般に機能はあらかじめ決まっていると考えられがちだが、住宅の部屋を無秩序に置いても機能しない。意味ある位置・形で配置され、「秩序」だてられることによって初めて「機能」が立ち現れる。
    • 第3段落〜第4段落(「つくり方」の非自明性と情報化の必要)「つくり方があらかじめ外部にある」ことは自明ではない。素朴な物づくり(料理や雪だるまなど)では使う人とつくる人が同じであり、つくり方は頭の中にあり、作業中に修正される。しかし、建築のように対象が大規模・複雑化し、「使う人とつくる人が異なる」状況になると、作業前に「つくり方」を外部に記述し、共有する必要が生じる。
    • 第5段落〜第6段落(建築家の誕生と自動化の進展)建築に必要な条件をあらかじめ整理して記述したものが「プログラム」であり、「つくり方」がモノから分離して情報として操作されるようになることで、施工者とは別の設計者である「建築家」が誕生する。さらに人工知能による自動化・機械化が段階的に進み、その先では、かつてモノから離れた情報が再びモノと一体になり、使い手が自ら使いながらつくり続ける関係へ向かう可能性が示される。

個別の具体例を単なるエピソードとして読むのではなく、筆者が提示する「つくる人」と「使う人」、そして「情報」の関係性の推移として捉えることが、設問を論理的に解きほぐすための前提となる。

全問解答一覧

設問正答選択肢内容・答案形式・条件
(一)A=また / B=すなわち接続表現(最も適当なものを1つ)
(二)X機能内容整理
(二)Yモノ内容整理
(二)Z使い手内容整理
(三)モノの製作者が使用者でもある場合、つくり方は頭の中にあり、つくりながら修正される理由説明(最も適当なものを1つ)
(四)ア・エア:利益・不利益を明確に整理している
エ:建築以外のAI自動化の具体例を生かしている
生徒の要約への評価(適当でないものを2つ)
(五)イ・カイ:具体例を示し、それらを一般化・抽象化する
カ:一般的な考えを挙げ、根拠を示して退ける
論の進め方(適当なものを2つ)

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

(一)接続表現

  • 手順1(設問要求):空欄A・Bに当てはまる接続表現の組み合わせとして最も適当なものをア〜エから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):第1段落後半から第2段落中盤。
    • 空欄Aの前後:建築家ミースの「すべてのものを適切な場所に置くことでわれわれは秩序をもちうるはずである」という言葉の提示と、その直後にある「二個のレンガを注意深く置くときに、建築がはじまる」という言葉の提示。
    • 空欄Bの前後:意味ある位置・形で配置され関係づけられることによって機能することと、その直後にある「秩序だてられることによって機能する」という記述。
  • 手順3(論理整理)
    • 空欄Aの判定:前後の文脈は因果関係(原因・理由)ではなく、同じ人物による別の発言の「追加・並立」である。したがって、並列を表す「また」が合致する。
    • 空欄Bの判定:「意味ある位置・形で配置され、関係づけられること」を、直後で「秩序だてられること」と別の表現で言い換えている。したがって、同等・要約の換言を表す「すなわち」が合致する。
  • 手順4(選択肢の照合)
    • ア:A=また / B=でも(逆接の「でも」は不適切)
    • イ:A=また / B=すなわち(文脈・論理関係ともに合致)
    • ウ:A=なぜなら / B=でも(理由説明の「なぜなら」、逆接の「でも」ともに不適切)
    • エ:A=なぜなら / B=すなわち(Aが理由説明になっておらず不適切)
  • 結論

(二)本文内容の整理

  • 手順1(設問要求):第2段落の内容を整理した空欄補充文の[ X ]〜[ Z ]に当てはまる最も適当な語をア〜オ(ア:モノ、イ:関係、ウ:社会、エ:使い手、オ:機能)からそれぞれ選択する。
    • 整理文:「建築は、各部屋がそれぞれの[ X ]を発揮するように配置され、秩序だてられた[ Y ]が適切に置かれて、[ Z ]にとっての快適性が保たれることにより成立する。」
  • 手順2(根拠範囲):第2段落全体。
  • 手順3(論理整理)
    • [ X ]の特定:第2段落では、居間・寝室・書斎などの部屋をばらばらに置き、それぞれに名前を付けただけでは、その役割を十分に果たすことはできないと述べられている。各部屋は、意味ある位置・形に配置され、関係づけられることで「機能」する。したがって、各部屋が発揮するのは「機能(オ)」である。
    • [ Y ]の特定:第2段落末尾にかけて、「秩序だてられた物体」が適切に置かれ、生じる光・熱・風・音の状態が調整されるとある。選択肢の中で「物体」と言い換え可能な語は「モノ(ア)」である。
    • [ Z ]の特定:第2段落末尾において、「そこにいる人間にとって快適な水準で安定していること」と述べられている。建物を実際に利用する人間を指す語は「使い手(エ)」である。
  • 手順4(全体の検証):「各部屋がそれぞれの【機能】を発揮するように配置され、秩序だてられた【モノ】が適切に置かれて、【使い手】にとっての快適性が保たれる」となり、第2段落の要旨と完全に合致する。
  • 結論X=オ、Y=ア、Z=エ

(三)理由説明

  • 手順1(設問要求):傍線部①「これは決して当然のことではない」と筆者が述べた理由として最も適当なものをア〜エから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部①の直前および直後の第3段落。
    • 直前:「つくり方」はつくる前に「あらかじめ」つくられている、という前提。
    • 直後:もともとモノは使いたい人自身が頭の中にあるイメージで作っており、材料(天然素材)の癖やつくりながらの状態に応じて修正されていたという具体例。
  • 手順3(論理整理)
    • 指示語「これ」が指す内容は、「つくり方が製作前にあらかじめ独立して存在していること」である。
    • それが「当然ではない」と言える理由は、原初の物づくりにおいては、製作者と使用者が同一であり、つくり方は外在化されず「頭の中」にあり、作業を進めながら試行錯誤して修正されるものだったからである。
  • 手順4(選択肢の照合)
    • :「モノの製作者が使用者でもある場合には、『つくり方』は製作者の頭の中にあり、つくりながら修正されるものであるから。」は、第3段落の対比構造および本文根拠と完全に合致する。
    • :「天然の材料を使うことが多く、イメージどおりに加工しやすかったから」とあるが、本文では「天然の材料は不均質で癖があって狂ったり暴れたりする」と述べられており、加工しやすかったとする記述は本文の事実と矛盾する。
    • :「つくり手にとってつくりやすい形に変える必要があるから」とあるが、製作者の都合優先で形を変えるべきだという主張は本文に存在しない。
    • :「料理などとは異なり、妥協が許されないから」とあるが、住宅と料理の妥協の有無を対比した記述はなく、不適切である。
  • 結論

(四)生徒の要約文への評価

  • 手順1(設問要求):第4段落以降について生徒がまとめた要約文に対する評価として、「適当でないもの」を2つ選択する(極性の確認:誤った評価を選ぶ)。
  • 手順2(根拠範囲):問題文に提示された「生徒がまとめた文章」、および対応する第4段落〜第6段落。
  • 手順3(論理整理と照合):生徒の要約文は、「素朴な物づくり(つくり手と一体) → 大規模化に伴うつくり方の外部記述と建築家の誕生 → AIによる自動化の進展 → 使い手自身が自分でつくる未来への回帰」という骨子を端的に再構成している。
  • 手順4(各選択肢の評価の真偽判定)
    • ア(適当でない評価 ⇒ 選ぶべき正答):「情報化が建築にもたらした利益と不利益を明確に整理している」とあるが、生徒の要約文は物づくりの主体の変遷を述べており、「利益」と「不利益」を対比的に整理した記述は存在しない。したがって、要約文に対する評価として誤っている。
    • イ(適当な評価):「同じ内容が繰り返されている部分を省略して端的にまとめている」は、本文の細かな言及を省いて主軸をまとめているため正しい評価である。
    • ウ(適当な評価):「本文では別々の文で書かれた部分をつないで流れをよくしている」は、生徒の要約では、本文の複数箇所に分かれて述べられている内容をまとめ、一続きの流れとして再構成しているため、適切な評価である。
    • エ(適当でない評価 ⇒ 選ぶべき正答):「建築以外で人工知能による自動化が進んだ具体例を生かしている」とあるが、本文にある「クルマの自動運転」という建築以外の具体例は、生徒の要約文では完全に省略されている。したがって、具体例を生かしているとする評価は誤っている。
    • オ(適当な評価):「自動化の進行に伴って建築家の仕事が変わる可能性にふれている」は、要約文末尾の展開に合致する正しい評価である。
    • カ(適当な評価):「指示する語句や前後の文と文を接続する語句を適切に用いている」は、生徒の要約では、「しかし」「このとき」などを用いて、内容の関係を明確にしているため正しい評価である。
  • 結論ア・エ

(五)論の進め方

  • 手順1(設問要求):文章全体の論の進め方の特徴として適当なものをア〜カから2つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文全体(第1段落〜第6段落)。
  • 手順3(論理整理)
    • 本文は、「レンガ」「住宅の諸室」「料理や雪だるま」「大規模建築」「自動車の自動運転」といった具体的な事例を配置しながら、「関係」「秩序」「機能」「情報」「自動化」という抽象的な理論へと議論を広げている。
    • また、第2段落冒頭では、「一般に『機能』というものはあらかじめ決まっていると考えてしまいがちだが、それはかならずしも正確ではない」と世間一般の通念を提示した上で、住宅の具体例を根拠としてその見解を修正し、筆者自身の見解(配置と秩序によって機能が生まれる)を確立している。
  • 手順4(選択肢の照合)
    • :問いを立てて自ら答える「問題提起の反復」は本文の主たる構造ではない。
    • イ(適当):「具体例を示し、それらを一般化・抽象化することで、自分の意見を明確にしている」は、レンガや住宅などの具体例から建築論を展開する論法と合致する。
    • :仮説の設定と実験・検証・考察という自然科学論文の形式は取っていない。
    • :筆者個人の私的な体験談によって結論を裏付けているわけではない。
    • :対立する二つの立場を対等に提示し、批評を行って一方を選ぶ論法ではない。
    • カ(適当):「一般的な考えを挙げ、それを根拠を示して退けることで、自分の意見を読者に印象づけている」は、第2段落冒頭における一般的な見方の提示と、その後の具体例による修正の構造と合致する。
  • 結論イ・カ

授業ではここまで扱う:要約文評価問題の判定手順と論の進め方分析

実際の授業では、単に設問の正誤を確認するだけでなく、初見の論説文において「文章の構造」や「要約の妥当性」を問われた際に迷わず処理できるよう、次の3段階の手順を整理・指導する。

処理段階具体的な確認動作本問(2025年愛知・問四/問五)への適用例
第1段階:設問条件と極性の固定設問文の要求が「合致するもの」なのか「誤っているもの(不適切)」なのか、指定解答数とともに確認する問四:「適当でないもの」「2つ選ぶ」を確認し、要約文の実態と食い違っている選択肢を探す姿勢を定める
第2段階:対象テキストの要素照合選択肢が主張する論理要素(対比・具体例・因果関係など)が、対象テキストに実際に存在するかを1対1で照合する問四:選択肢アの「利益と不利益の整理」、エの「建築以外の具体例」が要約文に書かれていない事実を特定する
第3段階:論理展開パターンの識別筆者が意見を述べる際の手法(具体と抽象、一般論の修正、対比など)を本文の段落構造から抽出する問五:第1〜2段落の「レンガ・部屋」から「秩序・機能」への抽象化(イ)と、第2段落冒頭の一般的な見方を住宅の具体例によって修正する流れ(カ)を特定する

重要なのは、選択肢の文章を感覚で眺めることではない。設問の指示(極性)に忠実に従い、本文や要約文の中に「書かれていること」と「書かれていないこと」を境界線を引きながら照合する手順を、別の初見問題でも再現できるようにすることである

【愛知県公立高校入試】国語・論説文の対策と復習手順

本問のような論説文では、本文の内容を大まかに追うだけでなく、接続関係、指示内容、要約、論の展開など、文章の論理構造を正確に捉える必要がある。対策においては、以下の客観的な処理手順を反復し、実戦的な解法として定着させることが重要である。

  • 1. 接続語・指示語の客観的特定 問(一)や問(三)で確認したように、接続詞や指示語の設問は感覚で選ぶものではない。「前の文に対して何が追加されているのか(並列・また)」「前の言葉をどう言い換えているのか(換言・すなわち)」という論理関係を特定し、指示語「これ」が何を指すかを、まず直前の内容から特定し、必要に応じて前の文まで範囲を広げたうえで、指示内容を代入して意味が通るか確認する手順を徹底する。
  • 2. 複数選択問題における極性エラーの防止 問(四)のように「適当でないものを二つ選ぶ」形式は、極性を取り違えると、本文を正しく読めていても正答を選べない。設問文の「適当でないもの」「二つ」に印をつけ、選択肢ごとに「○(要約文に合致)」「×(要約文に不一致)」を余白に書き込み、確実に「×」を回収する手順を習慣づける。
  • 3. 文章の論理展開(マクロ構造)の把握 問(五)の論の進め方を攻略するためには、段落ごとの役割を意識して読むことが有効である。「ここは具体例の提示である」「ここは一般的な見方の修正である」「ここは議論の一般化・抽象化である」といった構造的な役割を意識して読み進めることで、文章全体の論理構成を問う問題にも対応しやすくなる。

過去問演習の復習においては、「正解を選べたかどうか」で終わらせず、「本文のどの接続関係や段落構成を見て正答を絞り込めたか」という手順の妥当性を確認することが重要である。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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