具体例の分析から筆者の抽象的主張を捉える
論説文・説明的文章で起こりやすいつまずきの一つが、具体例の記述に引きずられ、筆者の抽象的な主張を見失うことである。入試国語で求められるのは、筆者が提示した個別の事例や事実を正確に読み取り、それらがどの主張を導くための論証として配置されているかを論理的に捉える力である。
2025年度の静岡県公立高校入試・国語の大問2で出題された中屋敷均の『わからない世界と向き合うために』は、昆虫のアリマキと共生細菌ブフネラの関係という生物学的な具体例を出発点とし、人間や植物を含む生物界全体のあり方を考察した文章である。「独立して」生きる生物という見方を問い直し、不完全な生き物同士が互いに補い合い、つながることで、全体の存在を可能にしているという見方が論じられている。
文章のテーマや背景知識を知っているだけでは、問三〜問六のように本文根拠や複数の条件を正確に処理する設問では、必要な情報を取りこぼす可能性がある。設問が要求する条件を分解し、本文のどの範囲を根拠として選択肢を精査するか、あるいは複数条件をどのように結合して記述答案を組み立てるかという客観的な思考手順が必要である。本稿では、各設問の解法手順に基づき、2025年度大問2の全問について、その解法プロセスを分解・明示する。
『わからない世界と向き合うために』(中屋敷均)の要約と論理構造
本文は、特定の生物に見られる特殊な関係から、生物一般に共通するあり方へと段階的に視界を広げていく論理構造を持つ。
- 論理の全体構造
- 導入(具体例1:アリマキとブフネラの共生)アリマキは植物の師管液を摂取するが、それだけでは生存に必要なアミノ酸が不足する。そこで体内の細菌ブフネラがアミノ酸を合成して提供し、代わりにアリマキから余剰の糖を受け取る。ブフネラは遺伝子の数が大幅に減少し、アリマキの体外では生存・培養できない。
- 展開(問い直しと具体例2:他生物への拡張)ブフネラを「一人前の独立した生物とは認められない」とする見方に対し、筆者は「果たして独立して生きている生物など本当にいるのだろうか」と問題提起を行う。人間もアミノ酸のいくつかを自分で十分な量作れず、食物から得ている点、植物の多くも菌根菌との共生がなければ土壌から養分を吸収できない点を提示する。
- 結論(抽象的主張:生物の相互補完)すべての生物はそれぞれ不完全でいびつな部分を抱えており、単独で完璧に完結して生きているわけではない。互いに不足を補い合い、つながり合うことによって、全体の存在を可能にしている。
具体的な事例(アリマキ・人間・植物)を「根拠」とし、そこから導き出される筆者の「抽象的な主張(生物の相互依存性)」へと抽象化する流れを把握することが、設問を論理的に処理するための前提となる。
全問解答一覧
| 設問 | 正答 | 答案に書く文字 | 形式・条件 |
| 問一(あ) | すいはん | すいはん | 漢字の読み |
| 問一(い) | 認(める) | 認 | 漢字書き取り(「める」は印刷済み) |
| 問二 | ウ | ウ | 動詞の活用の種類 |
| 問三 | 遺伝子の数が約7分の1になっていたこと。 | (左記の通り) | 20字以内記述(20字) |
| 問四 | ア | ア | 空欄補充(陳述の副詞・呼応) |
| 問五 | ブフネラがアリマキにアミノ酸を与え、アリマキから糖をもらっているように、お互い補い合い、つながること。 | (左記の通り) | 50字程度記述/具体例と一般化必須(51字) |
| 問六 | ウ | ウ | 内容一致(本文上の事実との照合) |
【大問2】各設問の解答解説と思考手順
問一(漢字の読み・書き取り)
(あ)「炊飯」
- 手順1(設問要求):二重傍線部(あ)「炊飯」の読みをひらがなで書く。
- 手順2(根拠範囲):本文冒頭付近の「炊飯器」という文脈。
- 手順3(論理整理):「炊」は訓読みで「炊く(たく)」であるが、熟語では音読みの「すい」となる。「飯」の音読み「はん」と組み合わせる。
- 手順4(表記条件の確認):送り仮名のない熟語全体を正しくひらがなに変換する。
- 結論:すいはん
(い)「みと(める)」
- 手順1(設問要求):二重傍線部(い)「みとめる」のひらがな部分を漢字に直す。
- 手順2(根拠範囲):本文中盤「一人前の独立した生物として(い)みとめることはできない」という文脈。
- 手順3(論理整理):「あるものとして受け入れる・判断する」という意味であるため、「認」の漢字を選択する。
- 手順4(解答欄の確認):解答用紙には送り仮名「める」があらかじめ印刷されているため、枠内には漢字「認」のみを記入する。
- 結論:認
問二(動詞の活用)
- 手順1(設問要求):波線部ア〜オの動詞の中から、活用の種類が一つだけ異なるものを記号で選ぶ。
- 手順2(根拠範囲):本文中のア「過ごす」、イ「持つ」、ウ「離れる」、エ「戦う」、オ「思う」。
- 手順3(論理整理):動詞の活用の種類を機械的に判別する型として、語尾に助動詞「ない」を接続させ、直前の音の段を確認する。
- 直前が「ア段」の音になるもの ⇒ 五段活用
- 直前が「イ段」の音になるもの ⇒ 上一段活用
- 直前が「エ段」の音になるもの ⇒ 下一段活用
- 手順4(各語の検証):
- ア「過ごす」 → 過ごさ・ない(直前は「さ」=ア段音:五段活用)
- イ「持つ」 → 持た・ない(直前は「た」=ア段音:五段活用)
- ウ「離れる」 → 離れ・ない(直前は「れ」=エ段音:下一段活用)
- エ「戦う」 → 戦わ・ない(直前は「わ」=ア段音:五段活用)
- オ「思う」 → 思わ・ない(直前は「わ」=ア段音:五段活用)ウのみが下一段活用であり、他はすべて五段活用である。
- 結論:ウ
問三(20字以内記述)
- 手順1(設問要求):日本人研究者の研究によって、ブフネラが大腸菌と比べて「どのようになっていたことが分かったか」を20字以内で説明する。
- 手順2(根拠範囲):大腸菌との比較について言及されている本文箇所。
- 本文該当部:「ブフネラは……大腸菌と比べると持っている遺伝子の数が約7分の1になっていた」
- 手順3(論理整理):設問の要求する比較結果の要素を特定する。
- 主語的要素(何が):遺伝子の数が
- 述語的要素(どうなった):約7分の1になっていた これらを過不足なく結合し、設問要求「どのようになっていたことが分かったか」に対応させて末尾を「〜こと。」で結ぶ。
- 手順4(字数調整と条件確認):
- 答案例は本文の表記に合わせて「7分の1」とする。「約」を入れると20字、「約」を省くと19字となるため、字数条件に応じて調整できる。
- 骨格:「遺伝子の数が約7分の1になっていたこと。」(20字)
- 結論:遺伝子の数が約7分の1になっていたこと。(20字)
問四(空欄補充)
- 手順1(設問要求):本文中の空欄に入る語として最も適切なものをア〜エから選ぶ。
- 手順2(根拠範囲):空欄を含む一文「しかし一方で、[ ]「独立して」生きている生物など、本当にいるのだろうか? とも思う。」
- 手順3(論理整理):文末の表現に着目すると、「〜だろうか?」という疑問の形式が取られている。疑問や反語の表現と結び付いて使われる陳述の副詞(呼応)を特定する。
- 手順4(選択肢の照合):
- ア(果たして):「果たして〜だろうか」と文末の疑問表現と呼応し、「本当にそうなのだろうか」と疑義を投げかける働きを持つため、文意・構文ともに合致する。
- イ(もし):仮定条件を示す副詞であり、「もし〜ならば」などと呼応するため不適切。
- ウ(たぶん):推量を表す副詞であり、「たぶん〜だろう」などと呼応するが、ここでは疑問の問い直しであるため不適切。
- エ(決して):強い否定を表す副詞であり、「決して〜ない」などと呼応するため、疑問文の形式と合致せず不適切。
- 結論:ア
問五(50字程度記述)
- 手順1(設問要求):不完全でいびつな生き物が「どのようにすることで全体の存在を可能にしているか」を説明する。
- 必須指定条件:「ブフネラがアリマキに何を与えるか」「アリマキから何をもらうか」が分かるように記述すること。
- 解答欄の制限:20字×2行+15字=最大55マス。
- 手順2(根拠範囲):アリマキとブフネラの物質の授受が述べられた具体例部分、および全体の存在を可能にしている仕組みを述べた本文末尾付近。
- 手順3(論理整理と必須要素の抽出): 設問要求から答案に必要なパーツを3点に分解する。
- 要素①(ブフネラからアリマキへ):アミノ酸を与える
- 要素②(アリマキからブフネラへ):糖をもらう
- 要素③(全体の存在を可能にする一般化):お互い補い合い、つながる ①②の具体例を「〜ように」で③の一般的な内容へつなぎ、設問の「どのようにすることで〜」に対応して文末を「〜こと。」で結ぶ。
- 手順4(答案作成と字数確認):
- パーツ結合:ブフネラがアリマキにアミノ酸を与え、アリマキから糖をもらっているように、(要素①+②+接続:36字) + お互い補い合い、つながること。(要素③+文末:15字)
- 字数計算:36 + 15 = 51字
- 条件検証:「50字程度」の指定に適合し、最大55マスの解答欄に過不足なく収まる。
- 結論:ブフネラがアリマキにアミノ酸を与え、アリマキから糖をもらっているように、お互い補い合い、つながること。(51字)
問六(内容一致)
- 手順1(設問要求):本文で述べている内容として最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
- 手順2(根拠範囲):本文後半、人間や植物を含む他生物の依存関係について述べている段落。
- 手順3(論理整理):各選択肢の記述内容を本文の客観的な事実と1項目ずつ照合し、主語の取り違え、条件の誤読、因果のねじれを排除する。
- 手順4(選択肢の照合):
- ア:師管液を吸う主体をブフネラとしているが、実際に吸うのはアリマキである(主語の取り違え)。また、約2億年という期間もブフネラ単独の存在期間ではなく、共生の歴史についての説明であるため不適切。
- イ:人工的に栄養を与えれば培養可能であるかのような内容だが、本文ではどのような栄養を与えても培養できないとしているため不適切。
- ウ:人間が不足するアミノ酸を食物から得るという本文の説明に合致する。
- エ:菌根菌が付くと養分を吸収できないとしているが、本文では、菌根菌との共生が植物の養分吸収を支えている。したがって因果関係が逆であり不適切。
- 結論:ウ
授業ではここまで扱う:具体例から抽象的主張への接続と三要素結合の記述手順
実際の授業では、単に設問の正答をなぞるだけでなく、初見の説明的文章において「具体例」と「主張」を正しく接続する手順を、次の3段階に分けて整理・訓練する。
| 処理段階 | 具体的な確認動作 | 本問(2025年静岡・問五)への適用例 |
| 第1段階:設問制約のパーツ分解 | 設問文を読み、指定された条件(具体例・対象など)を個別のチェックリストとして切り出す。 | 「①ブフネラからアリマキへ」「②アリマキからブフネラへ」「③全体を可能にする方法」の3条件に分離する。 |
| 第2段階:具体と抽象の階層整理 | 本文から拾った要素が「個別事例(ミクロ)」なのか「筆者の一般的主張(マクロ)」なのかを識別する。 | ①②は「アミノ酸/糖」という具体的授受であり、③は「補い合い、つながる」という抽象概念であると仕分ける。 |
| 第3段階:答案の統合 | 具体例を「〜のように」で提示した上で、筆者の主張へと着地させ、指定字数に収まるよう接合する。 | 「アミノ酸を与え、糖をもらっているように(具体)」+「お互い補い合い、つながること(抽象)」として51字でまとめる。 |
重要なのは、「具体と抽象」という言葉を暗記することではない。設問で「何を例にして」「どう答えるか」が指示された際に、本文の具体例だけで満足せず、筆者が導き出した抽象的主張まで確実に結び付けて答案を完結させる処理手順を再現できるようにすることである。
【静岡県公立高校入試】国語・説明的文章の対策と復習手順
説明的文章の読解演習において、解説を読んで「意味が分かった」だけで終わらせては実戦力につながらない。初見の問題に対処するためには、本問の分析で確認した客観的な処理手順を過去問演習の中で反復し、再現可能な解法として定着させることが重要である。
- 1. 選択肢問題における「ミクロ照合」の徹底 今回の問六の誤答選択肢には、「主語の取り違え(ア)」「培養条件の誤り(イ)」「因果関係の逆転(エ)」といった、本文との明確なずれがある。初見の選択肢問題でも、選択肢を主語・述語・条件・因果関係などの意味のまとまりに分け、本文と照合するとずれを発見しやすい。漠然と全体感で読まず、本文の記述と食い違っている箇所にチェックを入れて消去する手順を徹底する。
- 2. 複数条件記述における「要素チェックと文末対応」 問五のような「具体例を盛り込む指定記述」では、具体例だけを詳しく書いても、あるいは一般論だけを抽象的に書いても、設問が要求する条件をすべて満たした答案にはならない。設問文に含まれる条件(AとBの関係を明記せよ、等)を箇条書きで把握し、本文根拠をパーツ化して過不足なく盛り込むこと。また、設問の問い方(どのようにすることで〜)に対応し、文末を「〜こと。」で閉じる構文の適合を徹底する。
- 3. 漢字・語句・文法における形式条件の確認問一の「認(める)」のように、解答用紙にあらかじめ送り仮名が印刷されている形式では、指定外の文字を重複して書かずに指定された部分だけを解答する必要がある。また、問二のような動詞の活用では「ない」を付けた直前の音の段を確認する型、問四のような空欄補充では文末の「〜だろうか」という疑問表現から呼応する副詞を逆算する型など、文法的な規則に基づいた客観的アプローチを確立しておく必要がある。
過去問演習の復習においては、「解説に書かれている正解」を確認するにとどまらず、「初見の試験場で、設問のどのサインを見て、本文のどこへ戻れば処理できたか」という観点から、手順の再現性を確認することが重要である。

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