2025年度 島根県公立高校入試 国語 大問3 辻堂ゆめ『山ぎは少し明かりて』解説と解法分析――自己受容の象徴から「二重の心情」の因果把握と情景描写を読み解く手順

目次

自己のあり方の変化から他者の喪失への眼差しと「ふるさと」の再定義を捉える

小説・物語文の読解において、多くの学習者は登場人物の行動や発言を表層的になぞり、一面的で分かりやすい心情語(「悲しい」「嬉しい」など)に当てはめて解釈しがちである。しかし、高校入試の国語において問われるのは、出来事の推移に伴って「主人公の内面がどのように変化したのか」、そして「相反する二つの感情がなぜ同時に生じるのか」という心理の多面的な構造を、本文中の対比や因果関係から客観的にたどる力である。

2025年度の島根県公立高校入試・国語の大問3で出題された辻堂ゆめの『山ぎは少し明かりて』は、留学から帰国した大学生の都(みやこ)が、祖母の家で編み物をしながら過ごす中で、以前の焦燥感が消えていることに気づき、やがて祖母や母の故郷でありダムの底に沈んだ「瑞ノ瀬(みずのせ)」を訪れる姿を描いた文章である。自身が時間をかけて編み上げたセーターを手がかりにした自己受容の自覚、普段は故郷を否定的に語っていた母の意外な提案、自分たちの町の安全と引き換えに故郷を手放した家族への複雑な感情(「ありがとう」と「ごめんなさい」の混淆)、そして美しい人工湖の情景に水底の村を重ね合わせる思索に至るまで、主人公の認識が深まっていく様子が描かれている。

文章の筋に共感するだけでは、入試本番で合格ラインを超える答案を作成することはできない。本問を確実に解き切るためには、語句の意味と心理状況の照合、会話文の空欄に適合する象徴的意味の把握、指定字数(15〜25字、35〜45字)を満たす記述作成、条件に合致する抜き出し箇所の特定、発言と動作から導く心情判定、そして結末の情景描写と人物の思索を結びつける客観的な処理手順が必要である。本稿では、各設問の解法手順に基づき、2025年度島根県大問3の全問について、その思考プロセスを分解・明示する。

『山ぎは少し明かりて』(辻堂ゆめ)の要約と人物関係・心情構造

本文は、都自身の「時間と自己のあり方」に対する見方の変化から始まり、母の意外な発言を経て、ダム湖を訪れた都が家族の過去と自らの町との関係に気づき、「ふるさと」の多面的な意味に思いを巡らせる構造を持つ。

  • 論理の全体構造
    • 発端(留学帰国後の焦燥感とセーターの完成)イタリア留学から帰国した都は、祖母の家で過ごす中で、以前は心を蝕んでいた「焦燥感」が消えていることに気づく。かつては若い自分がのんびり過ごすことに罪悪感を抱いていたが、祖母に教わって編み上げたセーターを介して、現在の時間を「人生の充電期間」として心から楽しめている。恋人の竜太や母もそのセーターを自然に受け入れており、都はありのままの自分を肯定できるようになっている。
    • 展開(母の意外な提案と戸惑い)竜太と瑞ノ瀬ダムへ出かけることを母に伝えると、母から「今度おばあちゃんも一緒に、みんなで瑞ノ瀬に行こうと誘おうかと思っていた」という言葉が返ってくる。普段は瑞ノ瀬についてほとんど語らず、語っても愚痴や批判ばかりだった母が、自分から家族を誘おうとしていたことに都は戸惑いを覚える。
    • 転換(下流の町の安全と水底の村の引き換え関係)かつて退屈だと感じていた自分の町が、いつでも自分を温かく迎え入れてくれる場所であったと感謝しつつ、都は瑞ノ瀬ダムを訪れる。そして、今回の台風で自分たちの暮らす下流の町がダムによって守られたことに気づき、これまでも祖母や母の故郷が多くの人を洪水から救ってきたのかもしれないと考える。その安全が「祖母や母たちがふるさとを手放したこと」と引き換えに成り立っていた可能性に思い至ったことで、都の胸中には感謝(ありがとう)と申し訳なさ(ごめんなさい)が入り混じった感情が渦巻く。
    • 結末(情景描写と水底の村への思索)竜太は目の前の澄み渡った空と紅葉の美しい景観に感動して「綺麗だね」とため息をつく。一方の都は、その美しい湖面を見つめながら、かつて祖母や母が過ごした水底の村で流れていた空気や声に思いを巡らせ、「ふるさととは何か」を深く思考し、小さく頷く。

都における「認識と感情」の深化プロセス

場面都の認識・状況契機となった出来事・対象都の深まった認識・感情
祖母の家のんびり過ごすことに罪悪感や焦燥感を抱いていた。祖母と編んだセーターの完成と、竜太・母の受容。現在の生活を「充電期間」として認め、ありのままの自分を受け入れる。
自宅での会話母は瑞ノ瀬についてほとんど語らず、語っても愚痴や批判が多い。母が「みんなで瑞ノ瀬に行こう」と口にしたこと。その母が家族で瑞ノ瀬へ行こうとしたことを意外に感じ、真意を測りかねる。
ダム湖のほとり自分たちの町を「中途半端で退屈」だと引け目に感じていた。留学や災害時に飛び出せた経験の振り返り。「いつでも自分を温かく迎え入れてくれるあの町」の存在に感謝する。
ダムの役割の想起瑞ノ瀬ダムを訪れ、現在の湖と周囲の景観を目にする。台風で下流の町が守られた仕組みの理解。町の安全と引き換えに家族が故郷を失ったことに思い至り、感謝と申し訳なさが混ざる。
結末の湖面現在の美しい湖面を前にする。竜太の「綺麗だね」という感嘆と、澄んだ湖面。水底に沈む祖母や母の暮らしに思いをはせ、「ふるさととは何か」を省察する。

全問解答一覧

問正答・答案選択肢・答案内容形式・条件
問一ウあせりやいらだちが次第に強まり、苦しんでいる状態。心情説明(最も適切なものを1つ)
問二エゆったりした時間の中でありのままの自分を認めることができ、周囲からも受け入れられている会話文空欄補充(最も適切なものを1つ)
問三母が家族を瑞ノ瀬に誘うつもりだったと言ったこと。(都が戸惑った母の意外な発言内容)記述(15字以上25字以内・24字)
問四いつでも自(抜き出し全文「いつでも自分を温かく迎え入れてくれるあの町」の最初の5字)抜き出し(21字の箇所を探し、最初の5字を書く)
問五都たちの住む町を守ることと引き換えに、おばあちゃんやママがふるさとを手放したということ。(「ありがとう」と「ごめんなさい」が混じる理由)記述(35字以上45字以内・44字)
問六ア美しい自然に感動する気持ち。心情説明(最も適切なものを1つ)
問七ウかつて祖母や母が過ごした村の日々に思いを巡らせ、ふるさととは何かについて考えている。内容説明(最も適切なものを1つ)

【大問3】各設問の解答解説と思考手順

問一 「焦燥感」とはどのような状態か

  • 手順1(設問要求):傍線部①「心を蝕んでいた焦燥感」について、都の心がどのような状態にあったことを示しているか、最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲と文脈):第2段落〜第3段落を精査する。
    • 「留学に行く前も、帰ってきた後もずっと① 心を蝕んでいた焦燥感が、いつしか綺麗さっぱり消えていた。」
    • 直後:「編み物を始めた頃は、若い自分がこんな時間の使い方をしていていいのかと罪悪感に駆られていたけれど、今では人生の充電期間を心から楽しめている。」
  • 手順3(論理整理):
    • 「焦燥」とは、物事が思うように進まずにあせり、いらだつことを意味する語である。
    • 本文の文脈において、都は「若い自分がのんびりと時間を過ごしていてよいのか」と自らを責め、あせりや罪悪感によって心を苦しめられていた(蝕まれていた)ことが確認できる。
  • 手順4(選択肢の照合):
    • ア(不適切):「怒りが収まらないでいる状態」は誤り。他者や社会に対する憤激ではない。
    • イ(不適切):「胸を弾ませている状態」は誤り。「心を蝕む」という苦痛の描写と矛盾する。
    • ウ(適切):「あせりやいらだちが次第に強まり、苦しんでいる状態」は、語義および本文の「罪悪感に駆られていた」という文脈に完全に合致する。
    • エ(不適切):「困難が次々に生じ、無気力になっている状態」は本文にない。
  • 結論:ウ

問二 セーターは現在の都の何を象徴しているか

  • 手順1(設問要求):[会話文]の空欄( A )に入る内容として最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
    • 会話文の着眼点:「都にとってこのセーターが特別なものなのか」「竜太や母親の反応も含めて考えると、『都が( A )ことを示す象徴的なもの』と言ってよさそうだね。」
  • 手順2(根拠範囲):第3段落〜第4段落を精査する。
    • 都自身の受け止め:「若い自分がこんな時間の使い方をしていていいのかと罪悪感に駆られていたけれど、今では人生の充電期間を心から楽しめている。これは私の二か月が詰まった大切なセーターだと、自信を持って言える。」
    • 竜太の反応:「『それいいね!』『意外っちゃ意外だけど、一周回って、今の都らしいよ』と。どういう意味かと尋ねるのはやめておいたけれど、たぶん、褒め言葉なんだと思う。」
    • 母の反応:「普段は娘の選ぶ服や髪型にうるさいママも、今朝、このセーターについて何も言及しなかった。」
  • 手順3(論理整理):
    • セーターを編むというゆったりした時間を通じ、都は焦りや罪悪感を脱して現在の自分のあり方を肯定(自己受容)できるようになった。
    • さらに、そのセーターを着た都を竜太は「今の都らしい」と肯定し、口うるさい母も否定せずに受け入れている。
    • したがって、セーターには「都自身がありのままの自分を認めたこと」と「周囲の人々からもそのあり方が受け入れられていること」の双方が表れている。
  • 手順4(選択肢の照合):
    • ア(不適切):「周囲の目を必要以上に気にしてしまう」は誤り。都は他人の目への怯えを克服しつつある。
    • イ(不適切):「失っていた家族とのつながりを取り戻そうと願い続け」は主題とずれている。
    • ウ(不適切):「家族に対して反発してきたが、結局は周囲に頼りきってしまう」という依存の構図は描かれていない。
    • エ(適切):「ゆったりした時間の中でありのままの自分を認めることができ、周囲からも受け入れられている」は、都の内面の変容と周囲の反応の両方を的確に捉えている。
  • 結論:エ

問三 「あれはいったい何だったのだろう。」とは何に対する戸惑いか(記述)

  • 手順1(設問要求と指定条件):
    • 傍線部③「あれはいったい何だったのだろう。」について、都がどのようなことに対する戸惑いを表すものか、十五字以上、二十五字以内で説明する。
  • 手順2(根拠範囲の特定):傍線部③の直前・直後を精査する。
    • 直前:「『ふうん……あらそう、今度おばあちゃんも一緒に、みんなで瑞ノ瀬に行こうって誘おうかと思ってたんだけど』という、あまりに意外な台詞が返ってきた。」
    • 直後:「ママはいつも、瑞ノ瀬のことをほとんど語らないし、たまに口を開いても愚痴や批判しか出てこないのに、わざわざ家族で行きたいだなんて。」
  • 手順3(論理整理と要素抽出):
    • 都が戸惑っている核心は、「母が家族全員で瑞ノ瀬に行こうと誘うつもりだったと言ったこと」である。
    • 普段の母の言動(瑞ノ瀬について語らず、語っても愚痴や批判が多い)からは予想もつかない発言であったため、その真意を測りかねて困惑している。
    • 答案に必要な要素:①母が家族を瑞ノ瀬に誘おうとした、②そう発言したこと。
  • 手順4(答案の合成と字数確認):
    • 答案:母が家族を瑞ノ瀬に誘うつもりだったと言ったこと。
    • 文字数:句読点を含めて24字(15字以上25字以内の指定を過不足なく充足)。
  • 結論:母が家族を瑞ノ瀬に誘うつもりだったと言ったこと。

問四 都が「あの場所」に感謝している理由(抜き出し)

  • 手順1(設問要求と指定条件):
    • 傍線部④「今では感謝している。」について、「都がためらうことなく外の世界へ向かえたのは、[ ]のおかげだと気づいたから。」の空欄に適合する箇所を文章中から21字で探し、その最初の5字を抜き出して答える。
  • 手順2(根拠範囲の探索):傍線部④の直前を精査する。
    • 「都にとっての故郷とは、いつでも自分を温かく迎え入れてくれるあの町のことだ。」
    • 「中途半端で退屈な町だと引け目に感じていたけれど、イタリアへの留学をしようと簡単に決断できたのも、台風のニュースを見て見境なく長野へと飛び出していけたのも、あの場所があったからこそだったのだと、④ 今では感謝している。」
  • 手順3(字数と接続の照合):
    • 都が「あの場所」と指している具体的な対象を探すと、直前の「いつでも自分を温かく迎え入れてくれるあの町」(21字)が該当する。
    • 設問の要求は「最初の五字を抜き出して答えなさい」であるため、冒頭の5字を抽出する。
    • 該当文字列:「いつでも自」
  • 結論:いつでも自

問五 「ありがとうとごめんなさいともつかない奇妙な感情」が生まれた理由(記述)

  • 手順1(設問要求と指定条件):
    • 傍線部⑤「ありがとうとごめんなさいともつかない奇妙な感情」について、都がどのようなことに思い至ったことで生じたのか、その内容を三十五字以上、四十五字以内で説明する。
  • 手順2(根拠範囲の特定):傍線部⑤の直前(第8段落〜第9段落)を精査する。
    • 「ダム建設の意義の一つは、人が大勢暮らす地域における川の氾濫を防ぐことなのだという。」
    • 「だとすると、ここの下流にある都たちの住む町は、まさに瑞ノ瀬ダムによって守られたということになる。」
    • 「もしかすると、おばあちゃんやママは、これまでに何度も、都を含むたくさんの人たちを洪水から救ってきたのかもしれない。――自分たちのふるさとを、手放すことと引き換えに。」
    • 「そう考えると、⑤ ありがとうとごめんなさいともつかない奇妙な感情が、胸の内で渦巻き始める。」
  • 手順3(論理整理と必須要素の抽出):
    • 「ありがとう」の根拠:瑞ノ瀬ダムによって、下流にある都たちの住む町が洪水から守られたことへの感謝。
    • 「ごめんなさい」の根拠:そのダムをつくるために、祖母や母たちが愛していたふるさとを手放さざるを得なかったことへの申し訳なさ。
    • 関係性:町が守られたことと、家族がふるさとを手放したことが「引き換え」の関係にあること。
    • 答案の骨格:「都たちの町を守ることと引き換えに、祖母や母がふるさとを手放したということ。」
  • 手順4(答案の合成と字数確認):
    • 答案:都たちの住む町を守ることと引き換えに、おばあちゃんやママがふるさとを手放したということ。
    • 文字数:句読点を含めて44字(35字以上45字以内の指定を上限近くで過不足なく充足)。
  • 結論:都たちの住む町を守ることと引き換えに、おばあちゃんやママがふるさとを手放したということ。

問六 「ほうっとため息をついた」ときの竜太の心情

  • 手順1(設問要求):傍線部⑥「ほうっとため息をついた。」について、このときの竜太の心情として最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲と文脈):傍線部⑥の直前直後を精査する。
    • 「写真を撮り終わった竜太が、そばに近づいてきて、⑥ ほうっとため息をついた。」
    • 直前発言:「『綺麗だね』」
    • 直後情景:「冬を感じさせる澄み渡った青い空と、ところどころ紅葉の残る山々が、自分たち二人をゆったりと見下ろしている。」
  • 手順3(論理整理):
    • 動作としての「ため息」は落胆や疲労を表すこともあるが、小説読解では直前の発言や周囲の状況と連動させて判断しなければならない。
    • 竜太は湖と山々の景観の写真を撮り、「綺麗だね」と口にしてから息を吐いている。周囲には澄み渡った空と紅葉が広がっており、目の前の美しい自然景観に深く心を動かされ、感嘆している反応であると判断できる。
  • 手順4(選択肢の照合):
    • ア(適切):「美しい自然に感動する気持ち」は、直前の発言「綺麗だね」および広がる景観の描写と完全に一致する。
    • イ(不適切):「雄大な自然に尻込みする気持ち」は誤り。怯えや後ずさりの描写はない。
    • ウ(不適切):「都の表情にとまどう気持ち」は誤り。竜太は景色に目を奪われている。
    • エ(不適切):「都の反応に落ち込む気持ち」は誤り。落胆の要素は一切ない。
  • 結論:ア

問七 最後の場面で都は何を考えているか

  • 手順1(設問要求):傍線部⑦「光り輝く湖面に目を落としながら、うん、と都は小さく頷いた。」について、このときの都を説明したものとして最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲の精査):傍線部⑦の直前を精査する。
    • 「彼女たちが過ごした水底の村には、いったいどのような空気が流れ、どのような声が聞こえていたのだろう。」
    • 遡行確認:「ふるさとって、何だろう。」「おばあちゃんちの古いアルバムで見た集落は、今はもう跡形もない。」「瑞ノ瀬を愛していた祖母。瑞ノ瀬を時に悪く言う母。」
  • 手順3(論理整理):
    • 竜太が目の前の景観の美しさに素直に感動しているのに対し、都は光り輝く湖面の水底に沈んだ村の生活(祖母や母がかつて過ごした日々)に思いをはせている。
    • 祖母や母の失われた故郷の情景を想像しながら、作中で繰り返し問われてきた「ふるさととは何か」という問いに対する思索を深めている場面である。
  • 手順4(選択肢の照合):
    • ア(不適切):「日々の暮らしが季節の変化とともにあることに気づき、人間の営みとは何かについて考えている」は、水底の村への思いや「ふるさと」という中心主題から逸脱している。
    • イ(不適切):「常に変わらず人間を包み込んでくれる自然の中に身をゆだね」は誤り。湖は人為的に集落を水没させて造られたダム湖であり、「変わらない自然」という捉え方は不適。
    • ウ(適切):「かつて祖母や母が過ごした村の日々に思いを巡らせ、ふるさととは何かについて考えている」は、直前の「彼女たちが過ごした水底の村」の記述と作品全体の問いを的確に捉えている。
    • エ(不適切):「湖を見て、自然とは何かについて考えている」は誤り。都の思索の対象は「自然の定義」ではなく「ふるさと」である。
  • 結論:ウ

授業ではここまで扱う:小説文における「情景・行動と二重の心情」読解手順

実際の授業では、単に正答の記号や模範解答を確認するにとどまらず、心理描写の複雑な小説文において「相反する二重の心情がいかにして生じ、情景描写とどう響き合うか」を客観的に図式化する手順を指導する。

心理変容と認識深化の4段階プロセス

本問では、都自身のあり方への認識から、家族の過去や故郷の喪失へと視点が広がり、終盤では「ふるさととは何か」という思索へつながっていく。

段階本文における事象と描写都の内面・認識の状態読解・解法上の着眼点
① 自己受容の獲得祖母と編んだセーターを完成させ、竜太や母に受け入れられる。焦燥感や罪悪感を脱し、ありのままの自分と現在の時間を肯定する。以前(罪悪感)と現在(肯定)の対比からセーターの象徴性を読み解く(問一・問二)。
② 他者の意外性の発見母が「みんなで瑞ノ瀬に行こう」と自発的に提案する。故郷について語らなかった母の意外な言動に戸惑い、真意を測りかねる。普段の母の言動と今回の提案の落差から戸惑いの原因を特定する(問三)。
③ 構造の自覚と二重の感情自分たちの町を守るダムが、祖母や母のふるさとを沈めて造られたと知る。「町の安全」と「故郷の喪失」が引き換えであることに思い至り、感謝と申し訳なさを抱く。ダムがもたらした利害の二面性から「ありがとう」と「ごめんなさい」の因果を記述する(問五)。
④ 情景の多層化と思索美しい湖面を眺め、その水底にあったはずの村の空気を想像する。竜太の景観への素直な感動(問六)と対比的に、失われた村と「ふるさと」の意味を深く省察する。表面的な風景描写の奥にある「直前の思考」と「通底する主題」を結びつける(問七)。

重要なのは、「登場人物が何を思っているか」を勘で推し量るのではなく、本文中に埋め込まれた「対比(以前と現在)」「因果関係(町の安全と故郷の犠牲)」「視点の差異(竜太の景観への感動と都の水底の村への思索)」という客観的な手がかりを正確に拾い上げることである。

【島根県】国語・小説文の対策と復習手順

2025年度の本問では、心理描写、象徴的意味の把握、因果関係の理解、抜き出し、指定字数記述まで、精緻な読解力を求める設問がバランスよく配置された。対策においては、以下の手順を定着させることが重要である。

  • 1. 心情の多面性を捉える「原因 $\to$ 感情 $\to$ 反応の因果追跡」 問一や問六のように心情を問う問題では、日常的な先入観で決めつけてはならない。問六の「ため息」を落胆と早合点せず、「直前の発言(『綺麗だね』)+周囲の美しい情景 $\to$ 感動の反応」という因果の連鎖から論理的に正答を特定する習慣をつける。
  • 2. 記述問題における「二重の心情の背景要素の漏れなき抽出」 問五のように相反する感情(ありがとうとごめんなさい)の理由を説明する場合、どちらか一方だけの理由を書いても満点は得られない。「下流の町を守った(恩恵)」と「ふるさとを手放した(犠牲)」の双方が「引き換え」になっているという対比・交換の構図を言語化し、指定字数枠(35〜45字)に過不足なく収める記述力を養う。
  • 3. 風景描写と登場人物の思索の「二重写し」の読解 問七のように、結末の情景描写の中で人物が何を考えているかを問う設問では、視覚的な景色の美しさだけに惑わされてはならない。人物がその風景の「奥」に何を見ているのか、直前の内省記述(水底の村への思い)や作品を貫く根本的な問い(「ふるさととは何か」)を照合し、描写に込められた主題の深まりを捉える訓練を積む。

過去問演習の復習においては、「単に正解を選べたか」で終わらせず、「問五で引き換えの関係を正確に盛り込めたか」「問六でため息の根拠を発言と景色から説明できるか」「問七でなぜ自然論の選択肢(ア・イ・エ)が外れるのか」を検証することが、初見の文章でも本文根拠に基づいて安定して得点するための確かな土台となる。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

コメント

コメントする

目次