【2010年度 早稲田大学 政治経済学部】国語 大問3 解説:「嵌め絵」と「モザイク」の対比から読む論理構造

今回の文章では、あらかじめ完成図が決められた「嵌め絵」と、断片どうしの関係によってそのつど形が生まれていく「モザイク」との対比から、歴史や認識のあり方へ議論が展開される。抽象度は高いが、本文を貫く対比構造を追えば、論理そのものは整理できる。

テーマ(知識)を知っているだけでは、入試本番で正答を導き出すことは難しい。実際の試験において確実に得点を積み重ねるためには、本文の論理構造を客観的に捉え、設問の要求に対して正確に応答するための「思考手順」の言語化が不可欠である。

目次

市川浩の文章の要約と論理構造

本論考は、映画に登場するパズルを導入として、完成図が先に決まる決定論的な構造と、断片どうしの関係からそのつど全体が形成される構造とを対比した文章である。

筆者は、あらかじめ完成図が決まっている通常の「嵌め絵」と、配置のたびに次の可能性が限定されつつ新しい形が作られていく「モザイク」とを明確に対比している。そして、この「モザイク」的な構造を、人間の歴史認識(過去の不確定性による現在の再構成)や、生物の認識モデル(環境との能動的・受動的な相互作用)へと拡張していく。

読解の前提として、全体を貫くこのマクロな対比構造を整理することが重要である。

比較対象嵌め絵型モザイク型(筆者の主張)
前提となる状態完成図があらかじめ決定している。最終的な図柄が決まっていない(未完結性)。
部分と全体の関係部分は全体を構成するために配置される。部分(断片)の選択が、次の新たな可能性を生み出す。
歴史的視点現実化した過去を唯一の可能性として捉える。過去の事実は不可逆だが、選ばれなかった可能性も現在との関係で捉え直す。
認識のあり方外部から与えられた情報を一方的に受け取る(受動的)。発信と受信を繰り返し、環境とかかわりながら探索する。

【大問3】各設問の解答解説と客観的プロセス

問二十一

  • 手順1(設問要求):傍線部A「嵌め絵というよりは、モザイクといった方がいいかもしれない」について、筆者がそう述べた理由を50字以上60字以内で説明する。「嵌め絵」を前者、「モザイク」を後者とし、第一段落中の語句を二つカギ括弧付きで使用する。
  • 手順2(根拠範囲):第一段落における「普通の嵌め絵」と「映画の男が作る嵌め絵(モザイク)」の説明箇所。
  • 手順3(論理整理):普通の嵌め絵は完成図が決まっているため「決定論的」である。一方、男の作るものは最後の図柄が決まっておらず、断片が「未完結性」を持つ。
  • 手順4(答案構成):本問は記述式であるため、抽出した要素(前者=決定論的、後者=未完結性)を字数条件に合わせて組み立てる。「なぜモザイクといった方がいいのか」に対する結論として、「男の絵が後者の性質を持つから」と繋ぐ。
  • 結論:前者は完成図が「決定論的」に定まるが、後者は最終的な図柄が決まらない「未完結性」を有し、男の絵も後者の性質をもつから。(59字)

問二十二(空欄B・C)

  • 手順1(設問要求):空欄BおよびCに入る最も適当な語句を選択する。
  • 手順2(根拠範囲):空欄Bは「〜〇〇的全体ではない」という直前の段落全体のまとめ。空欄Cは「過去の〇〇性は、現在の決定にかかわる現実性をもつ」を含む前後の文脈。
  • 手順3(論理整理):モザイクは最初から完成状態が決まっておらず、そのつど全体が形成される。したがって「あらかじめ結果が決まっている状態」を否定する言葉がBに入る。Cについては、「過去の選択とことなった可能性(実際には選ばれなかった別の可能性)を考える」ことが現実性を持つと論じられている。
  • 手順4(選択肢比較):Bについて、あらかじめ調和した完成へ向かうことを意味する「予定調和」(ロ)が文脈に合致する。Cについては、受験生が陥りやすい「不可逆」(ハ)を論理的に排除する必要がある。直後の文で「過去の批判とは歴史の不可逆性をくつがえすことではない」とあり、「AではなくB」の対比構造が用いられている。筆者は歴史の不可逆性を否定しているのではなく、過去の事実は戻せなくとも、当時の未来には複数の可能性が開かれていた(不確定であった)と主張している。したがって「不確定」(ホ)が適切である。
  • 結論:B=ロ(予定調和)、C=ホ(不確定)

問二十三

  • 手順1(設問要求):空欄Dに入る、本来は悪い意味であったが現在は良い意味にも用いられる諺・成句を選択する。
  • 手順2(根拠範囲):空欄Dの直前。偶然の出来事や思いがけない事故(マイナス)が、見方を変えれば新しい発想やチャンス(プラス)を生み出すという具体例の列挙。
  • 手順3(論理整理):「余計なことをして災難に遭う」という本来の否定的な意味から、「行動することで思いがけない幸運に出会う」という肯定的な意味へと解釈が転換される言葉を探す。
  • 手順4(選択肢比較):災難と幸運の二面性を持つ「犬も歩けば棒にあたる」(ニ)が、本文の「一見マイナスな偶然をプラスに変える」という論理に合致する。
  • 結論:ニ

問二十四

  • 手順1(設問要求):傍線部E「〈断片〉は、全体化の運動であることはできても、全体であることはできない」の説明として適当なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部Eの直前。断片は常に「未完結」であり、「他なるもの」とかかわらざるをえないという記述。
  • 手順3(論理整理):断片は他の環境や他者と関係を結びながらまとまり(全体化の運動)を形成していくが、常に外部へ開かれているため、完全に閉じた統一体(全体)として自己完結することは不可能であるという論理。似た言葉の述語の違いを正確に分離して捉える。
  • 手順4(選択肢比較):現代文の鉄則である「本文至上主義」を適用する。選択肢イは「他なるものとかかわることなく」とあり本文と逆。選択肢ロの「失われた部分」や「ちぎれたときに破損して」は本文に一切記述がない過剰な推測であるため排除する。選択肢ニは「完成図にしたがって」と旧来の嵌め絵の論理を持ち出している。
  • 結論:ハ

問二十五

  • 手順1(設問要求):傍線部F「われわれが相互作用においてある中間者であり、断片であるとすれば、われわれ自身、身構え、発信し、探索する」の説明として適当なものを選択する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部の前段。古典的な受動的認識論との対比。
  • 手順3(論理整理):認識とは外部からの情報を一方的に受け取ることではない。自ら働きかけ(発信)、反応を受け取る(受動)という、能動と受動が一体となった相互作用によって世界を捉えることである。
  • 手順4(選択肢比較):選択肢イの「弱者」、ロの「自らを鍛え」、ニの「不安に際して警戒体制をとり」は、いずれも傍線部の認識構造を説明するための本文根拠を欠く。本文から導けない心理的・価値的意味を付加した選択肢は誤答として排除する。
  • 結論:ハ

問二十六

  • 手順1(設問要求):問題文の趣旨と合致しないものを「二つ」選択する。
  • 手順2(根拠範囲):本文全体のマクロな論理構造および筆者の主張箇所。
  • 手順3(論理整理):筆者は、歴史は過去の積み重ねでありゼロに戻すことはできないとした上で、別の可能性を考えることで現在を再構成できると主張している。また、偶然性(予想外の出来事)を排除するのではなく、それを受け入れて自己の枠組みを変化させることを肯定している。
  • 手順4(選択肢比較):選択肢ロの「ゼロから再出発して」は、本文の「ゼロから出なおすということは(中略)歴史から出発することにほかならない」という記述と完全に矛盾する(ファクトの衝突)。選択肢ハの「偶然性に左右されないように、自己の枠組みを確立して」という記述も、偶然を受け入れてパースペクティヴを変えるという本文の主張と正反対である。
  • 結論:ロ・ハ

授業ではここまで扱う:対比構造からの概念拡張手順

本記事で示した解説だけでも、設問の正答を論理的に導き出すことは十分可能である。しかし、当研究所の実際の授業では、単に「この問題が解ける」状態に留まらず、初見の抽象的な評論文に転用できる「読解の型」の習得まで踏み込む。

例えば、今回の文章では「嵌め絵」と「モザイク」という具体的な対比から議論が出発している。授業では、この対比関係がどのように他のテーマ(歴史や認識)へとスライドしていくかを、以下の段階に分けて追跡する訓練を行う。

段階思考手順本文(市川浩の文章)での適用例
第1段階具体例における対立軸の抽出「完成図が決まっている(嵌め絵)」 対 「関係によってそのつど形作られる(モザイク)」
第2段階抽象概念へのスライド(歴史)過去を「現実化した過去を唯一の可能性として捉えるもの」とするか、「選ばれなかった可能性も現在との関係で捉え直すもの」とするか。
第3段階抽象概念へのスライド(認識)人間を「受動的な受信者」とするか、「環境と相互作用し探索する能動・受動の統合体」とするか。
第4段階筆者の主張(イイタイコト)の確定決定論的・固定的な枠組みを否定し、未完結なもの同士の相互作用による「生成(モザイク)」を肯定している。

重要なのは、「市川浩の文章はモザイクの話だ」と知識として固定して覚えることではない。文章の冒頭で提示された対比構造が、後半にかけてどのように形を変えて反復されているか(状況の変化やスライド)を捉え、別の評論文にも転用できる客観的な読解手順として整理することだ。

この大問から確認する現代文の復習手順

今回の文章では語彙や成句の知識も必要になるが、読解問題の中心となるのは、本文の論理構造(因果関係、対比、否定のフレーム)を正確に把握できているかという点である。

「本文の内容を理解すること」と、「初見の設問で正答までの手順を客観的に再現すること」は全く別の作業である。復習では、正誤だけを確認するのではなく、設問要求の確定、対比構造の整理、本文根拠のない意味の排除という手順を自分で再現できたかを確認したい。解答根拠を自分の言葉で説明できる状態まで戻すことで、初見問題でも同じ処理を使いやすくなり、失点を減らすことにつながる。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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