【2025年度岐阜県公立高校・国語】大問3解答解説|三好由紀彦『詩と哲学のあいだ』経験と拡張の論理

目次

導入:言葉の機能拡張と客観的処理

高校入試の国語における論説文では、私たちにとって身近な「言葉」や「文字」の存在意義について、生物学的な視点や歴史的な視点から問い直す文章が出題されることがある。本問(三好由紀彦『詩と哲学のあいだ』)においては、「他の生きものの言葉」と「人間の言葉」の質的な違いを対比させながら、言葉によって個体の限界を超えて経験を共有・拡張し、さらに文字という手段を得ることで、その伝達や蓄積を飛躍的に広げていく過程が論理的に描かれている。このように、一つの機能が段階を経て拡張されていく構造を押さえておくことは、筆者の主張や論理展開を整理する有効な補助線となる。

しかし、そうした論説文のテーマや展開パターンを知っているだけで、記述問題や選択肢問題に正答できるわけではない。本番で過不足のない答案を作成し、精緻な選択肢を判定するためには、対比構造から筆者の論点を抽出し、字数や指定語句といった設問条件を客観的に処理する「思考手順」の言語化が不可欠である。本記事では、言葉の働きを論じた論説文に対する客観的な読解手順を整理する。

三好由紀彦『詩と哲学のあいだ』の要約と全体構造

本文は、言葉が生きものにとって「経験を他者へ伝える」働きを持つことから出発し、人間の言葉が時間や空間を超え、さらに文字の発明によって経験の伝達や蓄積を飛躍的に拡大させ、人間の経験そのものを拡張してきた過程を論じている。

読解の前提として、本文全体が以下のように「言葉の機能拡張(マクロな視点)」で展開していることを整理しておくことで、各設問が文章のどの局面を根拠としているのかを客観的に位置づけやすくなる。

構造の展開具体的な内容該当する設問
他の生きものにもある経験の伝達小鳥の警告のように、一個体の限られた経験を他個体へ伝える働きがある。問一、問二
人間の言葉との質的な違い他の生きものの言葉が直接的・身体的な経験に近いのに対し、人間の言葉は広大な時間的・空間的範囲の経験を扱うことができる。問三
言葉による経験世界の構築人間は世界を分節化し名前をつけることで、複雑な経験世界を作り上げる。(本文全体の前提)
文字による伝達・蓄積の拡大言葉を物理的素材に置き換え、視覚によって伝達できるようになったことで、経験の伝達・蓄積が容易になった。問四
経験そのものの操作・拡張膨大な経験を擬似的に取り込むことで、人間の経験自体が拡張される。問五

このように、本大問は「言葉」という一つの単語だけを追うのではなく、段階を追ってその機能がどのように広がり、人間社会に何をもたらしたのかという論理の連鎖を追跡することが求められる。

【大問3】全問解答一覧

各設問の解答は以下の通りである。

設問解答
問一
問二 A種族や自らの子供の命を守る
問二 B限られた経験の範囲を拡張
問三
問四視覚によって伝達する手段を手に入れたことにより、経験の伝達や蓄積
問五

以下では、このうち他の初見問題にも転用しやすい、対比構造を用いた選択肢の判定、複数の要求を含む条件付き記述、および抽象化された要約語の特定を中心に、解答までの客観的な思考手順を詳しく解説する。

【大問3】各設問の解答解説と思考手順

問三 比較問題における対比軸の整理

  • 手順1(設問要求):傍線部②を踏まえ、人間の言葉と他の生きものの言葉がどのような点で大きく異なるのかを説明した選択肢を選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲):他の生きものの言葉の性質について述べられた段落と、人間の言葉の性質について述べられた段落に限定する。
  • 手順3(論理整理):「他の生きものの言葉」は「その瞬間に起きている身体的経験」に近い。対して「人間の言葉」は、世界を分節化して名前をつけ、「時間的、空間的な範囲があまりにも広大」な複雑な経験世界を構築しているという対比構造を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):アは「他の生きものも分節化・命名している」とする点が誤り。イは直接的・間接的の捉え方が本文と逆である。エは「人間の表現が複雑で世界構築ができない」とする点が逆である。ウは、人間が時間・空間的に広大な範囲を扱う一方、他の生きものは瞬間的・直接的な身体的経験に近いという対比を正確に説明している。
  • 結論:ウを正答とする。

問四 複数の要求を含む条件付き記述の処理

  • 手順1(設問要求):傍線部③「物理的素材に置き換える」ことについて、どのような手段を手に入れ、その結果どのようなことが容易になったのかを30字以上35字以内で記述する。指定語「視覚」を用い、「人間は、言葉を」に続ける。
  • 手順2(根拠範囲):文字の発明によって言葉を物理的素材に置き換えたことによる変化が述べられている段落に限定する。
  • 手順3(論理整理):設問の要求を二つに分解する。第一に「何を手に入れたか」=(視覚によって伝達する手段)。第二に「何が容易になったか」=(経験の伝達や蓄積)。これら二つの要素を抽出して統合する必要がある。
  • 手順4(答案構成と条件処理):書き出しに続けて二要素をつなぐ。「視覚によって伝達する手段を手に入れたことにより、経験の伝達や蓄積」と構成する。指定語「視覚」が含まれており、読点を含めて32字であるため、30〜35字の条件も満たす。
  • 結論:「視覚によって伝達する手段を手に入れたことにより、経験の伝達や蓄積」を正答とする。

問五 空欄補充における要約語の特定

  • 手順1(設問要求):本文末の「すなわち言葉の第二の意義は、[ Ⅲ ]の操作・拡張なのです。」の空欄Ⅲに入る最も適切な言葉を選ぶ。
  • 手順2(根拠範囲):「すなわち」の直前にある、一人の人間が言葉によって何を「擬似的に」摂取しているかを説明した段落に限定する。
  • 手順3(論理整理):直前で「限定された経験」「コンパクトにまとめられた経験」「膨大な経験を擬似的に経験する」と、「経験」という語が繰り返し用いられている。「時間」「空間」は、経験が広がる範囲を示す語であり、この一文をまとめる中心概念ではない。直前で繰り返し述べられているのは、人間が言葉によって得られる「経験」の拡張であるという論理構造を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):ア「時間」やイ「空間」は経験が広がる範囲を示す語であり、空欄に入る中心概念ではない。エ「精神」は本文の当該箇所で論じられていない。ウ「経験」が、直前で反復されている内容の抽象化・要約として最も適切である。
  • 結論:ウを正答とする。

授業ではここまで扱う:条件付き記述における「要素の分解と統合」

本記事で解説した問四のように、複数の要求や指定語句を含む記述問題において、生徒が陥りやすい失点パターンは、いきなり一文を作ろうとして文字数調整に気を取られ、必要な要素(「何を手に入れたか」「何が容易になったか」)を欠落させてしまうことである。

実際の授業では、こうした問題に対して、さらに次の3段階に分けて処理する客観的な手順を身につけさせる。

分析の段階思考手順今回の問題(問四)における適用例
段階1:設問要求の分解設問が求めている内容を分け、探すべき要素を明確にする。①どのような手段を手に入れたか。
②その結果、何が容易になったか。
段階2:本文からの要素抽出分解した要求ごとに本文へ戻り、対応する箇所を抽出する。①視覚によって伝達する手段。
②経験の伝達や蓄積。
段階3:要素の統合と字数調整抽出した要素を論理的につなぎ、指定語句・書き出し・字数に合わせる。視覚によって伝達する手段を手に入れたことにより、経験の伝達や蓄積」と構成し、32字に調整する。

重要なのは、適当に言葉を抜き出して字数を合わせることではない。設問の要求をパーツ単位に分解し、本文から必要な素材を抽出した上で、それらを指定された枠組み(条件)に統合するという手順は、別の問題にも転用できる読解手順として整理することだ。

【岐阜県公立高校】国語の対策と復習手順

「言葉の機能が段階的に拡張されていく」という論説文の論理構造を知っていることと、初見の設問に対して正答までの手順を「再現できる」ことは全く別である。解説を読んで納得しただけでは、本番の緊張状態において同じ処理ができるとは限らない。

初見問題でも確実な処理を再現するためには、本記事で示した客観的な手順を徹底することが求められる。失点した問題では、単に模範解答を書き写すのではなく、「比較問題における対比軸の整理(問三)」や「条件付き記述における要素の分解と統合(問四)」のどこで処理を誤ったのかを冷静に確認する。同じ手順を別の初見問題でも反復して適用し、自らの言葉で明確にできるようになることが、復習の中心となる。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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