2025年度 滋賀県公立高校入試 国語 大問1 岩内章太郎『〈私〉を取り戻す哲学』解説と解法分析――「弱さ」が生む共生関係の把握と条件付き記述の要素抽出手順

目次

ロボット工学の具体例から人間同士の共生関係へ至る論理を捉える

論説文・説明的文章を読解する際、具体例として登場する先端技術や事象そのものの面白さに目を奪われてしまうと、筆者がその具体例を通じて何を論証しようとしているのかという抽象概念の展開を見失いやすい。入試国語において求められるのは、提示された個別事例(本問における「弱いロボット」の挙動)を出発点とし、そこから人間が弱い存在を支えようとする心理や、他者との共生関係へ至る論理の広がりを客観的に把握する力である。

2025年度の滋賀県公立高校入試・国語の大問1で出題された岩内章太郎の『〈私〉を取り戻す哲学』は、「コミュニケーションの認知科学と社会的ロボティクス」を専門とする岡田美智男の「弱いロボット」を題材としている。何でも完璧にこなす一般的なロボット像とは対照的に、あえて不完全さや不器用さを残したロボットが人間の介入余地を引き出し、協働関係を生み出す様子を分析する。さらにその考察を足がかりとして、幼少期に他者の支えを受けた経験と、人が弱い存在を支えようとする感覚との関係を考察し、最終的には、不完全な〈私〉と〈私〉が支え合う人間同士の関係へと議論を広げている。

文章の筋やテーマを大まかに追うだけでは、60字および70字という制限字数の中で過不足なく要素をまとめ上げる記述問題や、指示語の手がかりによる抜き出し、論理の拡張を問う選択問題を正確に攻略することはできない。本文中のどの論理パーツを抽出し、どのような手順で答案を組み立てるかという客観的な思考手順が必要である。本稿では、各設問の解法手順に基づき、2025年度滋賀県大問1の全問について、その解法プロセスを分解・明示する。

『〈私〉を取り戻す哲学』(岩内章太郎)の要約と論理構造

本文は、一般的なロボット観と「弱いロボット」との対比から始まり、ロボットと人間の関係を通じて、人間同士の関係へ考察を広げる構造を持つ。

  • 論理の全体構造
    • 第1段落〜第2段落(一般的なロボット像と「弱いロボット」の対比)一般にロボットは技術進化とともにできることが増え、人間の代わりに役に立つ「典型的」な存在として捉えられている。しかし岡田美智男が提唱する「弱いロボット」は、できることよりも「できないこと」に軸足が置かれ、壁に衝突しながら不器用に掃除を進めるなど、あえて不完全な設計がなされている。
    • 第3段落〜第4段落(不完全さが創出する「余地」と協働性)掃除ロボットの不器用さは、人間が掃除に参加する「余地」を残し、「一緒に部屋を片づけた」という共同性と達成感を生み出す。すべてを独力で完璧に成し遂げる存在に対しては他者の助けが必要ないが、不完全さを留めることで互いの弱さを補い合う「持ちつ持たれつの関係(共生的関係)」が成立する。
    • 第5段落〜第6段落(人が弱さを放っておけない理由:身体の記憶)人間が弱いロボットを思わず助けてしまうのは、自らの内側に弱さや脆さを感じられるからである。人は幼少期に他者の支えを信頼して身を委ねた経験を身体に記憶しており、目の前に不器用で健気な存在が現れると、今度は自分が支えになれると直感する。
    • 第7段落(人間同士の共生関係への拡張)この共生的関係はロボットと人間だけに留まらない。人間同士(〈私〉と〈私〉)においても、何事も一人で完璧にやろうとすれば他者が入る余地はなくなる。〈私〉が不完全な存在であるからこそ他者が介入する余地が生まれ、豊かな関係を築くことができる。

「完璧に自己完結すること=他者が関与する余地がなくなること」「不完全さ=他者が関与する余地が生まれること」という根本的な対比を押さえた上で、ロボットと人間の関係から人間同士の関係へと議論が一般化される流れを捉えることが、すべての設問処理の土台となる。

全問解答一覧

設問正答・答案形式・条件字数(実数/制限)
1ウ(典型的)語句補充(最も適切なものを1つ)――
2不器用であるがゆえに、周囲の人が掃除に参加する余地を残し、一緒に部屋を片づけたという達成感を与えてくれる存在。記述(本文に即して説明)55字 / 60字以内
3人は、幼少期に他者の支えを信頼して身を委ねた経験を身体に残しており、弱いロボットの健気さや不器用さに触れると支えようと直感するから。記述(理由説明)66字 / 70字以内
4持ちつ持たれつの関係抜き出し(本文からそのまま)10字指定
5内容・表現選択(最も適切なものを1つ)――

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

1 語句補充

  • 手順1(設問要求):空欄に入る言葉として最も適切なものをア〜オから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):第1段落の空欄前後。
    • 「ふつう、ロボットは役に立つものである。技術と共に機能が進化して、できることが増えていく存在だろう。[ ]には、人間にできないことが、ロボットにはできる、というイメージだ。」
  • 手順3(論理整理):空欄の後ろでは、「人間にできないことがロボットにはできる」という、世間一般の人々が抱く常識的なロボット像が説明されている。また直前でも「ふつう、ロボットは……」と述べられており、特殊・例外的なロボットではなく、「一般的な型・代表的なイメージ」を示す語が入る。
  • 手順4(選択肢の照合)
    • ア(神秘的):人知を超えて不可思議なさま。文脈に合わない。
    • イ(画期的):時代を画するほど新しいさま。一般的なロボット像の説明には合わない。
    • ウ(典型的):ある類の特徴を代表的によく表しているさま。「ふつう」「イメージ」という文脈と合致する。
    • エ(例外的):通例と異なっているさま。一般的なイメージと逆になるため不適切。
    • オ(排他的):仲間以外の者を排除するさま。文脈に合わない。
  • 結論

2 「弱いロボット」とはどのような存在か(記述・60字以内)

  • 手順1(設問要求):傍線部①「弱いロボット」とはどのような存在か。本文に即して60字以内で説明する。設問が「どのような存在か」と問うているため、答案例では「〜存在。」と着地させる。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部①を含む第2段落から第3段落。
    • 第2段落:「「できる」よりも「できない」に軸足が置かれている」「不器用に掃除を進める」
    • 第3段落:「このロボットの〈弱さ〉は、わたしたちにお掃除に参加する余地を残してくれている」「一緒に掃除をするという共同性のようなものを引きだしている」「「部屋のなかをすっきりと片づけられた」という達成感をも与えてくれる」
  • 手順3(答案に必要な3要素の抽出)
    • 要素①(性質・弱さ):不完全であること/不器用であること(一人で完結できない)
    • 要素②(状況・機能):人間(周囲の人)が関与・参加する余地を残すこと
    • 要素③(結果・価値):一緒にやり遂げたという達成感(共同性)を与えること
  • 手順4(答案の合成と字数調整)
    • 「不器用であるがゆえに(①)、周囲の人が掃除に参加する余地を残し(②)、一緒に部屋を片づけたという達成感を与えてくれる(③)存在。」(55字)
    • 制限字数(60字以内)を遵守し、3要素を因果関係として無理なく結合する。
  • 結論不器用であるがゆえに、周囲の人が掃除に参加する余地を残し、一緒に部屋を片づけたという達成感を与えてくれる存在。(55字)

3 「弱いロボットを思わず助けてしまう」のはなぜか(記述・70字以内)

  • 手順1(設問要求):傍線部②について、人が「弱いロボットを思わず助けてしまう」のはなぜか。本文に即して70字以内で説明する。理由関係が明確になるよう「〜から。」で結ぶ。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部②を含む第5段落から第6段落。
    • 第5段落:「〈私〉が自らの内側に弱さや脆さを感じられる存在だからである」「自分の中の類似の体験がそれに呼応してしまうからである」
    • 第6段落:「誰もが幼少期には他者の支えを信頼し、そこに身を委ねる」「身体がそれを覚えている」「弱いロボットの健気さや不器用さを目の前にしたとき、今度は〈私〉がその存在の支えとなりうる、ということを直感してしまう」
  • 手順3(答案に必要な3要素の抽出)
    • 要素①(心理的背景):幼少期に他者の支えを信頼して身を委ねた経験が、身体に残っている(記憶されている)こと
    • 要素②(現在の契機):弱いロボットの健気さ・不器用さ(弱さ)を目の当たりにすること
    • 要素③(行動の動機):今度は自分がその存在を支えられる(支える側になれる)と直感するから
  • 手順4(答案の合成と字数調整)
    • 「人は、幼少期に他者の支えを信頼して身を委ねた経験を身体に残しており(①)、弱いロボットの健気さや不器用さに触れると(②)支えようと直感するから(③)。」(66字)
    • 制限字数(70字以内)を満たし、過去の経験から直感的な援助行動に至る因果の連鎖を整理する。
  • 結論人は、幼少期に他者の支えを信頼して身を委ねた経験を身体に残しており、弱いロボットの健気さや不器用さに触れると支えようと直感するから。(66字)

4 抜き出し(10字指定)

  • 手順1(設問要求):傍線部③「このような共生的関係」について、この関係を簡潔に表現した箇所を十字で本文から抜き出す。
  • 手順2(指示語の探索):傍線部③の冒頭にある指示語「このような」に着目する。「このような」の指示内容を確認するため、まず直前の文脈へ戻る。本問では直前の一文に、その関係を直接表した語句がある。
  • 手順3(該当箇所の照合):直前の一文:「人とロボットは持ちつ持たれつの関係にあるのだ。」直前において、ロボットと人間が互いの弱さを補い合い、支え合う関係が「持ちつ持たれつの関係」と端的に表現されている。
  • 手順4(字数・表記の一致確認):「持・ち・つ・持・た・れ・つ・の・関・係」で過不足なく10字である。
  • 結論持ちつ持たれつの関係

5 文章の内容・表現について

  • 手順1(設問要求):文章の内容や表現についての説明として最も適切なものをア〜オから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):文章全体、特に第6段落後半から第7段落(結論部)。
  • 手順3(各選択肢の照合と消去)
    • ア(不適切):「いわゆる“ロボット”」を「機能が未熟で、人間の役に立たないと思われているロボット」と説明しているが、本文冒頭の記述(役に立つもの、技術とともに機能が進化するもの)と正反対である。
    • イ(不適切):筆者と岡田美智男の間に対立関係は描かれておらず、筆者が岡田とは異なって記号を使って概念を正確に表そうとしたという事実もない。
    • ウ(不適切):岡田の開発したロボットに筆者が疑問を投げかけ、最終的に反論する構成ではない。筆者は岡田の「弱いロボット」についての考えを踏まえ、そこから人間同士の関係へ考察を広げている。
    • エ(不適切):筆者は高性能ロボットや人工知能の研究を危険視し、「科学技術に関する研究を遅らせるべきだ」などという主張は一切行っていない。
    • オ(適切):選択肢オは「筆者は、弱いロボットと人間の間に生じる共生的な関係を、〈私〉と〈私〉の関係に広げて説明し、人間にも〈弱さ〉があるからこそ、他者が介入し、豊かな関係を築く余地が生まれると考えている」と述べており、第7段落の論理展開(ロボットと人間の関係から人間同士の関係への一般化)と完全に合致する。
  • 結論

授業ではここまで扱う:記述答案の3要素分解と字数適合化手順

実際の授業では、単に模範解答を覚えるのではなく、初見の記述問題において「必要な要素をどうやって取りこぼさず拾い、制限字数に収めるか」という作成手順を、次の3段階に分けて整理・指導する。

処理段階具体的な確認動作本問(問2・問3)への適用例
第1段階:設問末尾から骨格を決定する設問の問い方(「どのような存在か」「なぜか」)に応じて、文末の着地と主語の骨格を定める。問2:「〜存在。」(体言止め)
問3:「〜から。」(理由説明)
第2段階:本文から「答案に必要な3要素」を抽出する傍線部の前後を精査し、「前提(性質)」「媒介(現象)」「帰結(価値・直感)」の3パーツを抜き出す。問2:①不器用 → ②参加の余地 → ③達成感の付与
問3:①幼少期の記憶 → ②弱さとの遭遇 → ③支えうると直感
第3段階:因果関係を整えて字数調整する3つの要素を因果関係が分かるように結び、不要な重複や修飾を削って制限字数以内に収める。問2:55字(60字以内)にまとめる
問3:66字(70字以内)にまとめる

重要なのは、「なんとなくまとめる」ことではない。本文から答案に盛り込みたい「必要要素」を客観的に分解し、それらを過不足なく接続する手順を別の問題でも再現できるようにすることである。

【滋賀県公立高校入試】国語・論説文の対策と復習手順

本問のような論説文では、身近で具体的なトピックから筆者独自の哲学的一般化へと議論が展開される構造を正確に追跡する力が求められる。対策においては、以下の客観的な処理手順を反復し、実戦的な解法として定着させることが重要である。

  • 1. 条件付き記述における「要素の網羅性」の確認問2や問3のような記述問題では、傍線部の直近にある一文だけを切り取って記述しても十分な答案には届かない。問2であれば「不完全さ」という特徴だけでなく「人間の参加余地」「達成感」という帰結まで含める必要があり、問3であれば「助けたい」という直感の背景にある「幼少期の身体的記憶」まで遡る必要がある。原因と結果の連鎖を本文から広く捉え、複数の要素を答案に盛り込む習慣を徹底する。
  • 2. 指示語を手がかりにした探索範囲の確定問4の抜き出し問題のように、「このような〜」という指示語を含む語句の換言を問われた場合、本文全体を漫然と探しては時間を浪費する。指示語があればまず直前を確認し、見つからなければ必要な範囲まで前へ広げるという基本手順に立ち返り、傍線部の直前の一文から指定字数(10字)と完全に一致する表現を機械的に特定する。
  • 3. 具体例から一般論への昇華パターンの把握問5の選択問題のように、文章全体の構成を問う設問では、筆者が「具体例(お掃除ロボットなど)」を何のために持ち出し、最終的に「どのような結論(人間同士の共生関係)」へ着地させたかというマクロな視点が不可欠である。一段落ごとの要約にとどまらず、論理が一段抽象化される接続部分(「さて、このような共生的関係は、人間とロボットの間に限定されない」など)を見逃さない読解を心がける。

過去問演習の復習においては、「解説を読んで納得した」で終わらせず、「記述答案に盛り込むべき要素を本文から自力で過不足なく抽出できたか」という観点から、解法の客観的な再現性を点検することが重要である。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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