Introduction
本文は、信原幸弘の論考を素材として、「わかるとはどのような状態か」という認識の問題を扱っている。日常的に用いる「わかる」という現象を、数学の証明、バナナの知覚、音楽の理解を例として解き明かし、「知覚」と「直観」の共通構造と差異を提示する文章である。
このような抽象度の高いテーマに出会ったとき、関連する知識を持っているだけでは、入試問題の正答には直結しにくい。必要なのは、本文中の比較対象を分け、共通点と相違点を整理し、設問がどちらを要求しているのかを判定する手順である。
さらに、記述問題では、本文から必要な要素を抽出し、指定語句・字数・空欄前後とのつながりを満たす形に再構成しなければならない。
本記事では、2025年度福岡県公立高校入試・国語大問1を題材として、正答へ至る処理手順を設問ごとに分析する。
Macro Analysis
本文全体を貫く論理の骨格は、「知覚」と「直観」における「共通点(重なり)」と「相違点(対照)」である。
| 比較項目 | 共通点 | 相違点 |
| 知覚 | 成立までの情報処理は意識されず、結果だけが意識に現れる | バナナの姿など具体的な内容が現れる |
| 直観 | 成立までの情報処理は意識されず、結果だけが意識に現れる | 証明や音楽の核心という抽象的な内容が現れる |
このマクロな枠組みを設問処理の前に整理しておくことが、特に問三から問五を処理する土台となる。
Micro Analysis
問一
- 手順1(設問要求):空欄X・Yに入る、「わからない」「わかる」の適切な組み合わせを特定する。
- 手順2(根拠範囲):空欄X・Yが含まれる段落全体における、前後の文の論理関係を確認する。
- 手順3(論理整理):Xの前には「答えを見てもなお」という逆接表現があり、Xには「腑に落ちない状態(納得できない状態)」が入ることが論理的に推測できる。一方、Yは「〜のだが」と続くため、部分的な手順の確認はできている状態(表面的には理解している状態)が入る。
- 手順4(選択肢比較):Xが「わからない」、Yが「わかる」となっている組み合わせ以外は、前後の論理展開に合致しないため排除する。
- 結論:正答は「2」である。
問二
- 手順1(設問要求):空欄Zに入る、前後の文をつなぐ適切な接続語を特定する。
- 手順2(根拠範囲):空欄Zの直前と直後の文脈を限定して確認する。
- 手順3(論理整理):前の文では「式の並びを思い浮かべることは核心の直観ではない」と主張し、後ろの文で「暗記によって式の並びは再現可能だから」と、前の主張の理由・根拠を述べている。
- 手順4(選択肢比較):理由を示す「なぜなら」以外の選択肢(話題転換の「ところで」、逆接の「だが」、累加の「さらに」)は、文脈上の役割を果たさないため排除する。
- 結論:正答は「4」である。
問三
- 手順1(設問要求):「知覚」と「直観」の「よく似た点(共通点)」を、「情報処理」という指定語句を用いて25字以上30字以内で記述する。
- 手順2(根拠範囲):知覚と直観の共通点が明確に述べられている段落(「知覚と同様のことが、直観でも生じている」以降)に範囲を絞る。
- 手順3(論理整理):「知覚は形成の過程が意識にのぼらず、結果だけが意識にのぼる」「直観においても、形成過程は意識されず結果だけが意識にのぼる」という共通構造を抽出する。
- 手順4(条件照合・答案構成):抽出した共通構造に指定語句「情報処理」を組み込み、字数内にまとめる。
- 結論:正答は「情報処理の過程は意識されず、結果だけが意識に現れる」となる。
問四
- 手順1(設問要求):Aの段落(音楽の例が書かれた段落)が、文章全体においてどのような役割を果たしているかを特定する。
- 手順2(根拠範囲):Aの段落の内容と、直前の段落(数学の証明の例)からのつながりを確認する。
- 手順3(論理整理):筆者は、それまで式や命題の系列を中心に説明してきた直観の働きが、視覚に関わる事柄だけに限られないことを示すため、聴覚に関わる音楽の例を加えている。
- 手順4(選択肢比較):異なる問題を提起しているとする「1」、これまでの具体例の整理とする「2」、他者の意見の引用とする「3」は、いずれも本文の展開と合致しないため明確に排除する。
- 結論:「書き手の考えを補強する別の具体例を提示している」とする「4」が正答である。
問五
- 手順1(設問要求):直観の特徴をまとめた文の空欄ア(本文から6字抜き出し)と、空欄イ(「理解」を用いて15字以上20字以内)を特定する。
- 手順2(根拠範囲):アは知覚と直観の違いが書かれた段落に、イは直観の重要性が書かれた最終段落にそれぞれ範囲を限定する。
- 手順3(論理整理):アについて、知覚との違いとして直観では「抽象的な内容しか現れない」と述べられている箇所を抽出する。イについて、直観によって物事の核心を「一挙に捉える」ため、結果として「理解」が「深められる」という因果関係を整理する。
- 手順4(条件照合・答案構成):アは抜き出しの条件(6字)に合わせ「抽象的な内容」を確定させる。イは指定語句「理解」と字数(15〜20字)に合わせて「一挙に捉え、私たちの理解を深める」と過不足なく構成する。
- 結論:アは「抽象的な内容」、イは「一挙に捉え、私たちの理解を深める」を正答とする。
授業ではここまで扱う:対比構造を三段階で分解する
実際の授業では、今回の正答を確認して終わるのではなく、別の文章にも転用できる比較読解の手順として整理する。文章中に二つの似た概念が登場した場合は、次の三段階で処理する。
| 段階 | 思考手順 | 本文への適用 |
| 第1段階 | 比較対象を明確に分ける | 「知覚」と「直観」を二列に整理する |
| 第2段階 | 共通する仕組みを抽出する | 形成過程は意識されず、結果だけが意識に現れる |
| 第3段階 | 異なる対象・結果を特定する | 知覚は具体的内容、直観は抽象的内容が現れる |
重要なのは、「知覚」「直観」という語の定義を固定して暗記することではない。二つの概念が何を共有し、どの一点で分かれるのかを、本文中の述語や対比表現から整理することが重要である。
さらに設問を、
- 共通点を問う問題
- 相違点を問う問題
- 具体例の役割を問う問題
- 筆者の結論を問う問題
に分類することで、同じ本文箇所からどの要素を取り出すべきかを判断しやすくなる。
Conclusion
本文の抽象的な内容を理解することと、初見の設問で正答までの手順を自力で再現することは同じではない。解説を読んで納得するだけでは、自分が共通点と相違点のどちらを取り違えたのか、どの条件を見落としたのかを確認しにくい。
復習では、次の手順を自分の言葉で説明できるようにしたい。
- 設問要求を確認し、何を答える問題かを確定する。
- 根拠として使う本文の範囲を限定する。
- 比較対象を分け、共通点と相違点を整理する。
- 具体例が筆者のどの主張を支えているかを確認する。
- 指定語句・字数・文のつながりを満たす答案へ再構成する。
- 選択問題では、接続関係や内容の過不足を本文と照合する。
今回の文章では、
「知覚と直観は、成立過程が意識されず結果だけが現れる点では共通するが、意識に現れる内容が具体的か抽象的かという点で異なる」
という構造を押さえることが、問三から問五を処理する土台となった。
重要なのは正答を覚えることではない。どの設問要求に対して、本文のどの要素を使い、どの条件に合わせて答案を構成したのかを説明できるようにすることである。
こうした手順を別の問題でも反復することで、根拠のない判断が減り、得点の安定につながる。

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