【2025年佐賀県公立入試】国語大問2「コミュニケーション論」解法アナトミー|具体と抽象の共通構造

目次

Introduction

本文は、山崎武也の論考『気くばりがうまい人のものの言い方』を素材とし、慣れによって生じる小さな変化と、それを放置することで生まれるずれを扱っている。

筆者は、日常業務の手順や効率化という具体的な話から、人間関係における意思疎通の問題へと論を展開する。ビジネスにおける「日常業務の変化や効率化」と、私たちの「人間関係」という、一見異なる二つの領域を結びつけ、その背後にある共通構造を浮かび上がらせる文章である。

また、筆者は、商品の配達を効率化した例から、一つの目的だけに集中すると、それまで同時に得られていた対話や情報収集といった別の価値を失う場合があることも示している。

この文章を「コミュニケーションは大切だ」という一般論だけでまとめると、具体例がどの主張を支えているのかを見失う。正答を導くには、具体例の過程を抽象化し、それを後半の人間関係へ重ねる手順が必要である。本記事では、2025年度佐賀県公立高校入試(一般)・国語大問2を題材として、その処理手順を設問ごとに分析する。

Macro Analysis

本文全体を貫く論理の骨格は、以下の二つの構造で整理できる。このマクロな枠組みを設問処理の前に視覚化しておくことが、本文読解に関する設問を処理する土台となる。

【第一の構造:慣れによるずれ(類推)】

段階日常業務(具体例)人間関係(本題)
初期状態本来の目的に沿った手順 互いの考えが通じている
変化方法が少しずつ変わる考え方が少しずつ変わる
問題本来の趣旨から外れる 意思がかみ合わなくなる
対策原点へ戻って再点検する 言葉を交わして確認する

【第二の構造:一つの目的への集中による損失】 配達の効率だけを高める ↓ 顧客と直接会う機会が減る ↓ 対話・情報収集・関係形成という別の価値を失う。

Micro Analysis

問一

  • 手順1(設問要求):日常業務において「ときどき再点検をしておく必要がある」のはなぜか、その理由を問う。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部①の直前・直後に展開されている、日常業務の性質についての段落を確認する。
  • 手順3(論理整理):同じ作業であっても人や時間の経過によって少しずつ方法が変わり、その変化が本来の趣旨から逸脱している場合があるという因果関係を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):ア(理解力の個人差)、ウ(定められた手順が機能しない)、エ(より良いやり方を考案する)は、いずれも「少しずつ変化し、目的から外れる」という本文の指摘からずれているため排除する。
  • 結論:業務の方法が変化し本来の趣旨と異なってくることを指摘した「イ」を正答とする。

問二

  • 手順1(設問要求):商品を届ける行為における「副次的、というよりも同じように重要な、いくつかの目的ないしは効用」が失われた状態とはどういうことか特定する。
  • 手順2(根拠範囲):商品を運送業者に任せたことによる「効率化」のメリットと、失われた「顧客との密なコミュニケーション」等のデメリットが対比されている段落に限定する。
  • 手順3(論理整理):配達という「主要な行為」の効率を求めた結果、それに付随していた顧客情報やコミュニケーションという「別の価値(効用)」を失ってしまったという構造を抽象化する。
  • 手順4(選択肢比較):ア(資格の取得不可)、イ(似た人材の偏り)、ウ(他の業務の停滞)は、いずれも「付随していた価値の喪失」という本文の構造と合致しないため排除する。
  • 結論:主要な部分の効率化によって価値あるものが失われたとする「エ」が正答である。

問三

  • 手順1(設問要求):思い込みから生じる状況を示す空欄X(25字以内の抜き出し)と、その落とし穴に潜む危険性を示す空欄Y(対話文に合わせて四十字以内で記述)を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):本文後半の、人間関係における「当然の存在」「以心伝心」への思い込みを指摘する段落に範囲を絞る。
  • 手順3(論理整理):Xは、「自分が相手を思っているように、相手も自分を思ってくれているはずだ」という思い込みから生じる、コミュニケーションの省略を指す。Yは、会話が減ることで互いの考えが変化し(原因)、「意思疎通ができなくなる」(結果)という危険性を指す。
  • 手順4(条件照合・答案構成):Xは条件に合うよう「わざわざ特別にコミュニケーションを図る必要はない」を抜き出す。Yは「自分都合の決めつけ」が原因で「意思疎通ができなくなる」という因果関係をまとめ、字数内に構成する。
  • 結論:Xは「わざわざ特別にコミュニケーションを図る必要はない」、Yは「相手に対する思いを自分の都合がよいように捉え、意思の疎通がまったくできなくなる」等とする。

問四

  • 手順1(設問要求):言葉を使わずに心から心へ考えを伝えることを表す四字熟語(Ⅰ・Ⅱ心〇心)を完成させる。
  • 手順2(根拠範囲):本文中の「言葉の手段を使わないで心から心へと考えていることを伝える」という定義を確認する。
  • 手順3(論理整理):定義に直接該当する語彙を想起する。
  • 手順4(語句確定・字形確認):定義に合う四字熟語が「以心伝心」であることを確認し、Ⅰに「以」、Ⅱに「伝」を入れる。
  • 結論:Ⅰに「以」、Ⅱに「伝」を入れる。

問五

  • 手順1(設問要求):本文の表現上の特徴(比喩)と筆者の主張のまとめとして適切なものを特定する。
  • 手順2(根拠範囲):最終段落の「回線」「錆びつく」といった表現と、筆者が最終的に求めている行動(言葉を交わすこと)を確認する。
  • 手順3(論理整理):目に見えない人間関係を「通信回線」にたとえることで、日常的なコミュニケーションを怠ると関係が途絶えることを視覚的に説明している。
  • 手順4(選択肢比較):アは業務の再点検を人間関係へ応用する点では本文に近いが、「いつも毎日言葉を交わし合う必要がある」と過剰に限定しているため不適切である。イは業務中と私生活との違いや、言葉に頼らず表情から気持ちを読むことを主題としており、論旨に合わない。エは「原点へ戻ること」を、初めてのコミュニケーションを最も重視することへすり替えているため不適切である。
  • 結論:比喩表現を用い、思い込みに気をつけながらコミュニケーションを図る重要性をまとめた「ウ」が正答である。

授業ではここまで扱う:類推の共通構造を抽出する

実際の授業では、今回の正答を確認して終わるのではなく、初見の評論文にも転用できる読解手順として整理する。文章中に、一見異なる二つの事象が並べられている場合は、次の三段階で処理する。

段階思考手順本文への適用
第1段階比較されている対象を分ける「日常業務」と「人間関係」を分ける。
第2段階具体例の過程を抽象化する「方法の微細な変化」→「本来の目的からの逸脱」→「原点での再点検」という流れを取り出す。
第3段階抽象化した過程を本題へ重ねる「対話不足による認識のずれ」→「意思疎通の困難」→「言葉による再確認」という構造を重ね合わせる。

重要なのは、日常業務と人間関係の内容を別々に覚えることではない。筆者がなぜ前半の具体例を置いたのかを考え、後半の本題と共通する述語や因果関係を抜き出すことが重要である。

Conclusion

本文の一般的な主張に納得することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは同じではない。

復習では、次の処理を自分の言葉で説明できるようにしたい。

  • 設問形式と解答条件を確認する。
  • 根拠として使う本文の範囲を限定する。
  • 具体例の出来事を、原因・変化・結果に分ける。
  • 具体例から一般化できる仕組みを取り出す。
  • その仕組みが後半の本題へどう重ねられているかを確認する。
  • 記述問題では、原因と結果を字数内で結合する。
  • 選択問題では、本文にない追加・過剰な限定・論点のすり替えを排除する。

今回の文章では、 日常業務の方法が少しずつ変化する ↓ 本来の目的から外れる ↓ 原点へ戻って点検する という構造が、 人間関係で互いの考えが少しずつ変化する ↓ 意思がかみ合わなくなる ↓ 言葉を交わして考えの基盤を確認する という構造へ重ねられている

重要なのは、「コミュニケーションは大切だ」という結論だけを覚えることではない。前半の具体例が、後半の主張をどのような共通構造によって支えているのかを説明できるようにすることである。こうした手順を別の問題でも反復することで、主観的な読み込みが減り、根拠に基づく判断の安定につながる。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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