Introduction
本文は、松原隆彦の論考『目に見える世界は幻想か?――物理学の思考法』を素材とし、物理学的な視点から「未来の予測」と「人間の意志」の関係を考察している。
評論文では、「筆者はおそらくこう言いたいのだろう」という感覚だけに頼ってはならない。入試問題で必要なのは、筆者が提示した対比を抽出し、どの状態が否定され、どの状態に積極的な意味が与えられているかを、本文に基づいて仕分けることである。
本問では、「全く予測できない世界」「完全に予測できる世界」「ある程度予測できる現実世界」という三つの状態が示されている。
全く予測できなければ、目的をもって行動することが困難になる。一方、未来を完全に予測できれば、人間が判断したり、よりよい行動を選んだりする必要がなくなる。現実の世界は、そのどちらでもない。一定の秩序があるため未来をある程度予測できるが、完全には分からない。だからこそ、人間には判断し、行動を改善する余地がある。
本記事では、この三層構造を設問ごとの客観的な「思考手順」へ変換し、正答に至る根拠を分析する。
Macro Analysis
本文全体を貫く論理の骨格は、「未来の予測可能性」に関する三層の対比構造である。このマクロな枠組みを設問処理の前に整理しておくことが、特に問三から問五を処理する土台となる。
| 予測の状態 | 本文における評価・結果 | 人間の行動への影響 |
| 全く予測できない | 次に何が起こるか見通せない | 目的に向かった行動が困難になる |
| 完全に予測できる | 起こることがすべて分かっている | 判断や意志が必要なくなる |
| ある程度予測できる(現実世界) | 不確実性を残しつつ、一定の秩序がある | 判断し、よりよい行動を選ぶ余地が生まれる |
Micro Analysis
問一
- 手順1(設問要求):漢字の読み書き(a. のぼって、b. 着く、c. 単純)を正しく行う。
- 手順2(根拠範囲):各空欄を含む一文の文脈を確認する。
- 手順3(論理整理):aは「太陽が上方へ現れること」、bは「目的地へ到達すること」、cは「構造や考え方が複雑ではないこと」を意味する。
- 手順4(語句確定・字形確認):文脈に合う漢字を確定する。
- 結論:aは「のぼって」、bは「着く」、cは「単純」となる。
問二
- 手順1(設問要求):ことわざ「後悔先に立たず」の使い方として最も適切なものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):選択肢ア〜エの各文脈を確認する。
- 手順3(論理整理):「後悔先に立たず」とは、「物事が終わってから悔やんでも、過去へ戻ってやり直すことはできない」という意味である。
- 手順4(選択肢比較):アは結果後の弁解であり後悔の意味がない。ウは成功しており後悔の状況ではない。エは「後悔しないように練習しなかった」となり意味が逆転しているため排除する。
- 結論:過去の行動を悔やんでいる状態を正しく表した「イ」を正答とする。
問三
- 手順1(設問要求):「歩いて目的の場所へ移動できる」理由として最も適切なものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部②の直前にある、「人間はある程度予測しながら行動している」という段落に範囲を絞る。
- 手順3(論理整理):人間は、右足と左足を交互に出せば前に進めるというように、「これから起こることをある程度予測している」からこそ、目的に向かって行動できるという因果関係を整理する。
- 手順4(選択肢比較):ア(目的の場所がわからなくても行動できる)、イ(あらゆる動きを完全に予測できる)、エ(予測不能な結果にならないよう人間が規則正しく行動する)は、いずれも本文が示す「ある程度の予測」という前提から外れているため排除する。
- 結論:これから起こることをある程度予測しながら行動しているとする「ウ」が正答である。
問四
- 手順1(設問要求):「そこに人間が生きている意味すらないだろう」と言える理由を三十五字以内で記述する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部③の直後にある、「来るべき未来が完全に予測できるならば」から「人間の意志はなくなってしまう」までの因果関係を抽出する。
- 手順3(論理整理):未来が完全に予測できる(原因)→人間が判断して行動する必要がない(結果1)→人間の意志がなくなる(結果2)という連鎖を整理する。
- 手順4(条件照合・答案構成):「判断して行動する必要がなくなること」と「意志が失われること」の二要素を結合し、三十五字以内の理由の文として構成する。
- 結論:「人間が判断して行動する必要がなくなり、その意志も失われてしまうから。」とする。
問五
- 手順1(設問要求):筆者の考えを説明したものとして最も適切なものを特定する。
- 手順2(根拠範囲):最終段落の「そこで、人間の望みとしては…」から「その仕組みや原理を理解することが必要だ」までの結論部分に限定する。
- 手順3(論理整理):人間には完全な予測はできないが、できる限り予測精度を上げてよりよい行動をするために、世界の秩序や法則を理解すべきであるという結論を抽出する。
- 手順4(選択肢比較):ア(あらゆることに対応する手立て)、イ(全く予測できないもどかしさ)、ウ(あらゆる物事をすべて把握する)は、いずれも「予測精度を上げるために世界の仕組みを理解する」という最終的な主張から論点がすり替わっているため排除する。
- 結論:正しい順序や道筋に目をつけ、仕組みや法則を理解すべきであるとまとめた「エ」が正答である。
授業ではここまで扱う:対比の「三層構造」を分解する
実際の授業では、今回の正答を確認して終わるのではなく、初見の評論文にも転用できる読解手順として整理する。文章中に二つの極端な状態が示され、その中間に筆者の主張が置かれている場合は、次の三段階で処理する。
| 段階 | 思考手順 | 本文への適用 |
| 第1段階 | 対極にある二つの状態を特定する | A=全く予測できない、B=完全に予測できる |
| 第2段階 | 両極の問題点を整理する | Aでは目的ある行動が困難、Bでは判断や意志が不要になる |
| 第3段階 | 中間の状態が持つ意味を抽出する | ある程度予測できるからこそ、判断・選択・改善の余地が生まれる |
重要なのは、「未来の予測」というテーマの知識を覚えることではない。筆者が二つの極端な状態を提示し、それぞれの問題点を示すことで、中間にある現実の意味をどのように浮かび上がらせているかを捉えることが重要である。
Conclusion
本文の主張に納得することと、初見の設問で正答までの手順を再現することは同じではない。
復習では、次の処理を自分の言葉で説明できるようにしたい。
- 設問形式と解答条件を確認する。
- 根拠として使う本文の範囲を限定する。
- 対極に置かれた二つの状態を特定する。
- それぞれの状態がなぜ否定されるのかを整理する。
- 筆者が積極的な意味を見いだす第三の状態を確認する。
- 記述問題では、原因と結果を字数内で結合する。
- 選択問題では、「全く」「完全に」「すべて」などの過剰な表現を本文と照合する。
今回の文章では、「全く予測できない」→「目的に向かった行動が困難になる」という一方の極と、「完全に予測できる」→「判断や意志が必要なくなる」というもう一方の極が示されている。
その両者の間にある、「一定の秩序があり、未来をある程度予測できるが、完全には分からない世界」だからこそ、人間が判断し、よりよい行動を選ぶ余地が生まれるのである。

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