この大問を解くための2つの分析軸
2026年度の熊本県公立高校入試・国語の大問5は、江戸時代の随筆『閑度雑談』を題材に、武士の家で起きた怪異と人々の反応の変化を読み解く古文の読解問題であった。
古文の読解において、最初から全文を一語一句現代語訳しようとすると、未知の語句に足を取られて全体の論理関係を見失いやすい。問題文と設問から確認できる客観的な構造は、主に以下の2つの軸で整理できる。
- 指示語・動作の主体・語句注釈の対応関係本文中の「その事」などの指示語が具体的にどの現象を指しているのかを直前から特定し、さらに問題冊子に付された注釈(「妖怪」や「武勇」の定義)と後続の文脈を組み合わせて、動作の主体や記述の要素を確定させる処理が求められている。
- 「已然形+ば」による確定条件・因果関係の把握主人が外出した際に怪異が起こる条件(問4)と、最終的に怪異がやんだ理由(問5)の双方において、「已然形+ば」という文法構造が前後の文脈をつなぐ重要な手掛かりとして機能している。
古文のあらすじを大まかに追うだけでは、各設問へ正確に答えるには十分ではない。本文・注釈・設問・選択肢をどの順序で照合するかという、客観的な思考手順を再現することが有効である。
『閑度雑談』の要約と論理構造
本文は、堀某という武士の家で起きた怪異について、主人の在宅・外出による違いと、時間の経過に伴う家の人々の受け止めの変化を描いている。場面ごとの展開と因果関係は、下表のように整理できる。
| 場面・展開 | 本文の記述と客観的事実 | 動作の主体・人々の反応 | 怪異の状態(結果) |
| 発端(怪異の発生) | 衣服が自然に衣厨(たんす)を出て家の中を動き回り、さまざまな道具も勝手に動いた。 | 妖怪(不思議な現象を起こすもの)が怪異を引き起こす。 | 家の中で怪異が発生する。 |
| 前半(主人の在宅と外出) | あるじは強く勇ましい人物(武勇の人)であった。 | 妖怪もあるじを恐れたのか、あるじが家にいらっしゃる間は怪異がない(問2・問3)。 | 在宅時:昼夜とも怪異なし。 外出時:あるじが外に出ると(「出でぬれば」)、必ず怪異を起こす(問4)。 |
| 後半(1か月間の経過と変化) | このような状態が約1か月余り続いた。 | 当初:一家全体(挙家)が驚き恐れ、気を失うほどであった。 経過後:日がたつにつれて皆が慣れ、子どもまでも恐れず、茶わんや盆が動くのを見てかえって面白がるようになった(「思ふやうになりしかば」)。 | 家の人々が慣れて面白がるようになった結果、その怪異は終わった(「その妖怪やみけるとなり」)(問5)。 |
全問解答一覧
| 設問 | 正答・答案 | 形式・条件 | 設問条件の概要 |
| 問1 | ア「いろいろな道具」 | 記号選択 | 傍線①「よろづの器」の文章中での意味として最も適当なものを1つ選ぶ。 |
| 問2 | いらるる | 記述(現代仮名遣い) | 傍線②「ゐらるる」を現代仮名遣いに直して、ひらがなで書く。 |
| 問3 | イ「妖怪」 | 記号選択 | 傍線③「その事」を引き起こしている主体として最も適当なものを1つ選ぶ。 |
| 問4 | 強く勇ましいあるじが家にいないから。 (別解:武勇のあるじが家の外に出ているから。) | 記述(10〜20字 / 18字) | 傍線④「かならずその妖怪をなす」理由を10字以上20字以内で書く。 |
| 問5 | ウ | 記号選択 | 傍線⑤「その妖怪やみけるとなり」とあるが、その理由として最も適当なものを1つ選ぶ。 |
【大問5】各設問の解答解説と思考手順
問1(語句の意味・記号選択)
手順1(設問要求の確定)
傍線部①「よろづの器」の文章中での意味として、最も適当な選択肢を1つ選ぶ。
手順2(根拠範囲の限定)
傍線部を含む冒頭の一文「衣服おのれと衣厨をいでて、家のうちをめぐりあるき、よろづの器も動きはたらきける。」を確認する。
手順3(論理整理:古語の語義と文脈の確認)
- 語義の確認:「よろづ(万)」は、数が多いこと・さまざまなもの・すべて、といった意味を表す古語である。
- 文脈の確認:直前に「衣服が自然にたんすを出て家の中を動き回り」とあり、それに続けて「よろづの器も」動いたと述べられている。ここでの「器」は特定の食器だけに限らず、家の中にある道具・器物を広く指している。
手順4(設問形式に応じた処理:選択肢の照合)
- ア「いろいろな道具」(適切):「よろづ(さまざまな・多くの)」の意味と「器(道具)」の意味の双方に合致する。
- イ「大切な道具」(不適切):「よろづ」に「大切な」という意味はない。
- ウ「大きな道具」(不適切):「よろづ」は大きさを表す語ではない。
- エ「金属製の道具」(不適切):材質に関する記述は本文にない。
- オ「並んだ道具」(不適切):「よろづ」に「並んでいる」という意味はない。
結論
正答は ア(いろいろな道具) である。
問2(歴史的仮名遣いの変換)
手順1(設問要求の確定)
傍線部②「ゐらるる」を現代仮名遣いに直して、ひらがなで記述する。
手順2(根拠範囲の限定)
傍線部②「ゐらるる」の表記そのものを対象とする。
手順3(論理整理:仮名遣い変換の規則と文法的意味の区別)
本問で求められているのは「現代語訳(現代の話し言葉への変換)」ではなく、「歴史的仮名遣いから現代仮名遣いへの書き換え」である。
- ワ行の歴史的仮名遣い「ゐ」は、現代仮名遣いではア行の「い」に直す。
- 後半の「らるる」は歴史的仮名遣いの変更対象を含まないため、そのまま「らるる」と書く。現代語の可能表現「いられる」などに変えてはならない。
なお、文脈理解の補足として、本文の「家にゐらるるうちは」の「らるる」は、主語である「あるじ」を高める尊敬の助動詞「らる」の連体形(「家にいらっしゃる間は」)として使われている。これを押さえておくと、直後の「あるじ外に出でぬれば(あるじが外に出ると)」との対比関係が明確になる。
手順4(設問形式に応じた処理:表記確認)
「ゐらるる」 $\rightarrow$ 「いらるる」(ひらがな4字)。
結論
正答は いらるる である。
問3(動作の主体・記号選択)
手順1(設問要求の確定)
傍線部③「その事」について、「傍線③の部分『その事』は[ ]によって引き起こされている」の空欄に入る最も適当なものを選択肢から1つ選ぶ。すなわち、「その事」を引き起こしている主体(何によって起こされているか)を特定する問題である。
手順2(根拠範囲の限定)
傍線部③の前後の文脈、および問題冊子の語句注釈(「妖怪」の項)を確認する。
手順3(論理整理:指示語の内容と注釈の照合)
- 指示語「その事」の特定:直前の文に戻ると、「ふと妖怪おこりて、衣服おのれと衣厨をいでて、家のうちをめぐりあるき、よろづの器も動きはたらきける」とある。したがって「その事」とは、衣服や道具がひとりでに動き回る怪異現象を指す。
- 注釈による定義の確認:問題文の注釈には、「妖怪=ここでは、人の知恵では理解できない不思議な現象や、その現象を起こすもの。」と明記されている。つまり、本文における「妖怪」は現象そのものだけでなく、「現象を引き起こす主体」も意味する。
- 前後の文脈からの裏付け:直前に「妖怪もおそれしにや、家にゐらるるうちは、昼夜ともその事なし」とあり、直後に「あるじ外に出でぬれば、かならずその妖怪をなす」と続く。あるじを恐れたのか、あるじの不在時に怪異を起こしている主体は「妖怪」である。
手順4(設問形式に応じた処理:選択肢の照合)
- ア「堀某」(不適切):冒頭で「堀某といへる士の家に」と紹介される家の関係者であり、怪異を引き起こす側ではない。
- イ「妖怪」(適切):注釈で「不思議な現象を起こすもの」と定義され、本文でも怪異を起こす主体として描かれている。
- ウ「あるじ」(不適切):あるじは妖怪から恐れられたのか、家にいる間は怪異が起きない。
- エ「挙家」(不適切):注釈に「挙家=一家全体」とある。家の人々は怪異に驚き恐れる側である。
- オ「子」(不適切):子どもは後半で怪異に慣れて面白がる人物であり、怪異を起こす主体ではない。
結論
正答は イ(妖怪) である。
問4(理由説明記述:10字以上20字以内)
手順1(設問要求の確定)
傍線部④「かならずその妖怪をなす」について、その理由を10字以上20字以内で記述する。
手順2(根拠範囲の限定)
傍線部④の直前「されどあるじは武勇の人なるゆゑ、妖怪もおそれしにや、家にゐらるるうちは、昼夜ともその事なし。あるじ外に出でぬれば、」の範囲、および語句注釈(「武勇」の項)を確認する。
手順3(論理整理:「已然形+ば」と注釈の統合)
- 文法的接続(「已然形+ば」)の確認:直前の「あるじ外に出でぬれば」は、動詞「出づ」の連用形「出で」+完了の助動詞「ぬ」の已然形「ぬれ」+接続助詞「ば」で構成されている。 「已然形+ば」は確定条件を表し、ここでは「あるじが外に出ると」という確定条件を示している。
- 対比と因果関係の整理:
- 在宅時:あるじは「武勇の人」であり、妖怪もそのあるじを恐れたためか(「妖怪もおそれしにや」)、家にいる間は怪異が起こらない。
- 外出時:そのあるじが外に出て(「出でぬれば」)家にいなくなると、必ず怪異が起こる。
- 注釈の活用:問題文の注釈に「武勇=強く勇ましいこと。」とある。古文の記述問題において、注釈で現代語訳が示されている語句は、その現代語を答案に利用すると意味が明確になり、安全にまとめやすい。
手順4(設問形式に応じた処理:要素抽出と字数調整)
- 必須要素①:強く勇ましい(武勇の)あるじが
- 必須要素②:家にいないから(家の外に出ているから)。
- 本命答案:強く勇ましいあるじが家にいないから。(18字)
- 別解:武勇のあるじが家の外に出ているから。(18字)
いずれも10字以上20字以内の条件を満たし、本文の因果関係を過不足なく表している。
結論
答案例:強く勇ましいあるじが家にいないから。(18字)
(別解:武勇のあるじが家の外に出ているから。/18字)
問5(理由説明・記号選択)
手順1(設問要求の確定)
傍線部⑤「その妖怪やみけるとなり(その不思議な現象は終わってしまったということである)」となった理由として、最も適当な選択肢を1つ選ぶ。
手順2(根拠範囲の限定)
本文後半の「かくのごとくなる事、およそ一月あまり〜」から傍線部⑤までの記述を確認する。
手順3(論理整理:時間経過による変化と「已然形+ば」)
家の人々の反応は、時間の経過とともに次のように変化している。
- 初期:「はじめは挙家おどろきおそれ、気を失ふにいたりしに」(最初は一家全体が驚き恐れ、失神するほどであったが)
- 変化後:「日久しくして後は、みなその事になれて、子までも、おそるる事なく、茶わん、盆など、おのれとあるきめぐるを見て、かへつて面白く、興ある事に思ふやうになりしかば」(日数が長くたってからは、皆そのことに慣れて、子どもまでも恐れることはなく、茶わんや盆などが自然と動き回るのを見て、かえって面白く、趣が深いことに思うようになったので)
ここで直前の「思ふやうになりしかば」に注目する。
「しか」は過去の助動詞「き」の已然形であり、「已然形+ば」の形で「〜と思うようになったので」という原因・理由を表している。問4の「出でぬれば(〜すると〔条件〕)」に対し、問5の「なりしかば」は「〜ので〔原因・理由〕」として機能しており、文脈に応じて訳し分けることができる。すなわち、「最初は驚き恐れていた家の人々が、日がたつにつれて慣れ、面白がるようになったこと」が、怪異がやんだ直接の理由として書かれている。
手順4(設問形式に応じた処理:選択肢の照合)
- ア(不適切):「人に危害を加えるよりも、子どもを楽しませた方が、愉快だと感じるようになったから」とあるが、妖怪が人に危害を加えていたという記述も、子どもを楽しませようと考えたという妖怪の心理も本文には存在しない。
- イ(不適切):「ほんのいたずらのつもりでやっていたが……強く反省したから」とあるが、妖怪の意図や反省といった内面描写は本文に一切書かれていない。
- ウ(適切):「最初は家の人たちが、強く驚いたり恐れたりしていたが、日がたつにつれて、すっかり慣れて面白がるようになったから。」は、本文の「はじめは挙家おどろきおそれ」から「みなその事になれて……かへつて面白く、興ある事に思ふやうになりしかば」までの因果関係を正確にまとめている。
- エ(不適切):「子どもが……夜も眠れないので、どうにかしてほしいとあるじに相談したから」とあるが、本文では「子までも、おそるる事なく……かへつて面白く」とあり、子どもの反応が逆である。
- オ(不適切):「自分の存在に気づかせるだけのつもりでいたが、家の人が予想以上に反応するのを見て、満足したから」とあるが、これも本文にない妖怪の目的や心情を推測した誤答である。
結論
正答は ウ である。
授業ではここまで扱う:古文読解における「已然形+ば」と注釈・指示語の検証手順
古文の設問では、本文に書かれていない登場人物の気持ちを想像したり、文法的なつながりを無視して単語の断片だけで意味を作ったりすると、本文根拠から外れやすい。
実際の授業では、初見の古文を感覚で読むのではなく、以下の3段階の手順で根拠を絞り込む練習を行う。
【第1段階:指示語と注釈による前提情報の確定】
傍線部や設問に含まれる指示語(その〜)は直前の具体的内容へ戻って特定する。
同時に、問題冊子の「注釈」で定義されている現代語を確認し、動作の主体や記述の材料を揃える。
↓
【第2段階:「已然形+ば」などの接続関係による条件・因果の特定】
理由や条件が問われている場合、傍線部の直前にある「已然形+ば(〜すると/〜ので)」や「ゆゑ(〜ため)」に着目し、条件や原因と結果の対応関係を確定させる。
↓
【第3段階:本文にない主観・推測の排除(選択肢・記述の検証)】
選択肢に「反省した」「満足した」など本文に記述のない内面推測が含まれていれば除外し、本文の事実変化と一致するものだけを残す。
今回の2026年熊本県公立高校入試・大問5における各設問をこの手順に当てはめると、下表のように整理できる。
| 設問 | 問われている内容 | 着目した文法・注釈・手掛かり | 導き出される判断・処理 |
| 問1 | 「よろづの器」の意味 | 古語「よろづ(多くの・さまざまな)」+直前の「衣服が動く」との並列関係 | 材質や大きさなどの限定を排し、「いろいろな道具」(ア)を特定 |
| 問2 | 「ゐらるる」の仮名遣い | 歴史的仮名遣い「ゐ $\rightarrow$ い」の規則(文脈上は尊敬「らる」の連体形) | 現代語訳(いられる)と混同せず、「いらるる」へ変換 |
| 問3 | 「その事」を起こす主体 | 直前の怪異描写+注釈「妖怪=現象を起こすもの」+後続の「その妖怪をなす」 | 怪異を引き起こしている主体として「妖怪」(イ)を確定 |
| 問4 | 外出時に怪異が起きる理由 | 注釈「武勇=強く勇ましいこと」+「妖怪もおそれしにや」+「あるじ外に出でぬれば(已然形+ば)」 | 「強く勇ましいあるじが家にいないから。」(18字)を構成 |
| 問5 | 怪異がやんだ理由 | 「はじめは(驚怖) $\rightarrow$ 日久しくして後は(慣れ・興味)」+「思ふやうになりしかば(已然形+ば)」 | 妖怪の心理推測(ア・イ・オ)や逆内容(エ)を排し、ウを確定 |
重要なのは、「已然形+ば」を丸暗記の公式として唱えることではなく、前後の文脈において「どの事実が確定条件・原因となり、どの結果を引き起こしているか」を別の古文でも再現できるようにすることである。
熊本県公立高校入試 国語(古文)の対策と復習手順
古文の演習において、「解説の現代語訳を読んで話の筋が分かった」という状態と、「初見の古文で設問の根拠を自力で特定できる」という状態は異なる。
今後の過去問演習や復習では、以下の手順を意識して反復することが重要である。
1. 問題冊子の「注釈」を最初にチェックし、記述にも活用する
高校入試の古文では、本文中の難しい語句などに注釈が付されることがある。今回の問3における「妖怪(現象を起こすもの)」や、問4における「武勇(強く勇ましいこと)」のように、その注釈が正答根拠や記述答案の材料になる場合もある。本文を読む前に注釈に目を通し、記述問題では注釈の現代語を積極的に利用して分かりやすい答案を作る練習をしておきたい。
2. 「已然形+ば」や「ゆゑ」などの条件・因果マーカーに印をつける
古文の理由説明問題(なぜ〜か)では、傍線部の直前に「ゆゑ(〜ため)」や「已然形+ば(〜すると/〜ので)」といった確定条件・因果関係を示す表現が置かれている場合がある。今回の大問5でも、問4(「出でぬれば」=外に出ると〔条件〕)と問5(「なりしかば」=〜ようになったので〔原因・理由〕)の両方がこの形を手掛かりとして解くことができる。読解時には接続助詞「ば」の直前の活用形を確認し、前後の論理関係を整理する習慣をつけること。
3. 本文に書かれていない「心情や目的の推測」を選択肢から切る
問5の誤答選択肢(ア・イ・オ)のように、古文の選択問題では「いたずらのつもりだった」「反省した」「満足した」といった、本文に一切書かれていない心理や動機を付け加えた選択肢が作られることがある。「妖怪ならこう思ったはずだ」と自分の感覚で補うのではなく、本文に明記された事実(家の人々が慣れて面白がるようになった)だけと照合して判断する姿勢を徹底すること。
今回の大問5では、歴史的仮名遣いの基本規則、指示語の直前探索、注釈の定義、および「已然形+ば」による条件・理由の把握を組み合わせることで、すべての設問を客観的に処理できる。全文の完璧な現代語訳にこだわるのではなく、設問要求に応じて必要な根拠を本文と注釈から正確に拾い上げる手順を身につけることが、安定した得点につながる。

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