今回の文章では、過去の「故事」を現在の人物に示すことで、その行動を改めるよう説得する構成が用いられている。『浮世物語』(浅井了意)では、晋の大王の逸話を通して、国主に求められる「仁政」のあり方が示される。
しかし、テーマや古文単語についての知識だけで安定して得点できるわけではない。本番で正答を導くには、因果関係の整理や、故事と現在の状況を構造的に対応させる客観的な「思考手順」の言語化が不可欠である。本記事では、大問3の中から読解手順を一般化しやすい主要な設問を抜粋し、その具体的なプロセスを提示する。
『浮世物語』(浅井了意)の要約と全体構造
本文は、浮世房が主君に対して晋の大王の故事を語ることで、主君に政治のあり方を改めさせる過程を描いた文章である。
読解の前提として、以下のマクロな視点(全体の構造)を整理しておくことで、各設問が本文のどの部分を根拠としているのかを位置づけやすくなる。
| 構造の展開 | 内容の要点 |
| 主君の現状 | 主君は鷹狩りを楽しみ、農民が雁や鴨を追い払うことを禁じて農民を苦しませていた。 |
| 故事の導入 | 浮世房が主君をいさめるため、中国の晋の大王と雁の故事を語り始める。 |
| 故事の展開 | 大王は雁の餌である糠の高騰に対し、米と糠を交換して雁に糠を与え、米を人民へ回した。 |
| 故事の結論 | 大王は雁を飼い続けながらも、人民の食物である米を犠牲にせず、国中が喜んだ。 |
| 説得と変化 | 国主の楽しみのために人民を苦しめないのが「仁政」だと説かれ、主君は年貢の取り立てを緩めた。 |
【大問3】各設問の解答解説と思考手順
(二)「糠を餌にあたへらる」の意味
- 手順1(設問要求):線部(1)「糠を餌にあたへらる」の意味として、最も適当なものを選ぶ。
- 手順2(根拠範囲):「あたへらる」の直前にある、晋の大王が雁をおもしろがって多数飼っている場面に限定する。
- 手順3(論理整理):助動詞は形だけで判断せず、動作主を確認する。直前の文脈から動作の主体は「大王」である。「らる」には受身・可能・自発・尊敬の意味があるが、ここでは大王という身分の高い人物の動作であるため【尊敬】と判定する。「あたふ(与える)」+尊敬で「お与えになる(おやりになる)」と論理を整理する。
- 手順4(選択肢比較):
- ア・エは、「持て余しなさった」「お売りになった」としており、「あたふ」の語義と一致しない。
- ウは、「召し上がった」としており、大王自身が糠を食べたことになり文脈と矛盾する。
- 結論:「あたふ」の語義と「らる」の尊敬の用法を正しく反映しているイが正答となる。
(三)「米と糠との値段おなじ物になる」理由
- 手順1(設問要求):線部(2)「米と糠との値段おなじ物になる」理由として、最も適当なものを選ぶ。
- 手順2(根拠範囲):大王が雁を多数飼い始めてから、傍線部に至るまでの出来事に限定する。
- 手順3(論理整理):出来事の因果関係を時系列に追う。「大王が多数の雁を飼う」→「餌の糠が大量に必要になる」→「市場で糠が大量に買われる」→「市場の糠が少なくなり貴重になる」→「米と同じ値段まで値上がりする」という流れを整理する。米の価格が変わったのではなく、糠の需要増による価格高騰が原因である。
- 手順4(選択肢比較):
- イは、「米」が多く買われたと対象を誤認している。
- ウ・エは、大王が米や糠の値段の上げ下げを「命じた」という本文にない事実を付け加えているため排除する。
- 結論:市場で糠が多く買われて量が減ったため、もともと安かった糠の値段が上がったとするアが正答となる。
(四)臣下の言葉に対して大王が命じたこと(記述)
- 手順1(設問要求):線部(3)の臣下の提案に対し、大王がどのようなことを命じたのかを15字以内で記述する。
- 手順2(根拠範囲):臣下の「糠を求めずともすぐに米をくはせよ」という提案と、それに対する大王の「米にかへて雁にあたへよ」という命令部分に限定する。
- 手順3(論理整理):臣下と大王の考え方を対比する。臣下は「値段が同じなら米を直接与えればよい(値段重視)」と考えたが、大王は「米は人間の食べ物、糠は雁の餌(役割重視)」と考えた。そのため、米をそのまま与えず「米を糠に替え、その糠を雁に与える」よう命じたと整理する。
- 手順4(記述構成の確認):古文の記述では、ゼロから言葉を作るのではなく本文の表現を活用する。「米にかへて(替えて)」「雁に与える」という要素をつなぎ、設問の「どのようなこと」に合わせて末尾を「〜こと。」で結ぶ。
- 結論:「米にかえて糠を雁に与えること。」(15字)を正答の軸とする。
(五)主君が感服した政治のあり方(記述)
- 手順1(設問要求):線部(4)について、主君がどのような政治のあり方に感服したのかを65字以内で記述する。
- 手順2(根拠範囲):浮世房が故事を語り終え、その意味を一般化して語る場面(「国主の好み給ふ物〜」から「仁政ともいふべき」まで)に限定する。
- 手順3(論理整理):故事の中の大王(雁を好むが人民の米は守る)と、現実の主君(鷹狩りを好んで農民を苦しめている)の状況を対応させる。主君が感服したのは、「国主自身の楽しみがあっても、それを人民の負担や苦しみにつなげない情け深い政治(仁政)」というあり方であると論理を整理する。
- 手順4(記述構成の確認):「国主に好む物があっても」「国家に無駄な費用をかけない」「人民を苦しませない」「情け深い政治のあり方」という要素が過不足なく構成されているか確認する。
- 結論:「国主に好む物があっても、それを行うことで国家に無駄な費用をかけたり、人民を苦しませたりしない、情け深い政治のあり方。」(58字)を正答の軸とする。
授業ではここまで扱う:古文における「故事と現状の構造的対応」
本記事で解説した(五)のように、教訓や説得のために「故事」が引用される古文では、故事を単なる昔の出来事として訳すだけでは、筆者の意図や説得の構造を正確に捉えることができない。
実際の授業では、故事を現代語訳しただけで終わらせず、さらに次の3段階に分けて「故事と現状の対応関係」を客観的に追跡する手順を身につけさせる。
| 分析の段階 | 思考手順 | 今回の問題における適用例 |
| 段階1:共通項の抽出 | 故事の登場人物と、現実の登場人物の共通する立場や状況を確定する。 | 晋の大王も、現実の主君も、「趣味や楽しみ(鳥)を持つ国主」であるという共通項を確定する。 |
| 段階2:行動の違いの明確化 | 共通の状況下で、故事の人物が取った行動と、現実の人物が取っている行動の違いを対比する。 | 大王は「自分の趣味を続けながらも、人民の生活を損なわない方法を選んだ」が、主君は「自分の趣味のために農民を苦しませている」と対比する。 |
| 段階3:説得の意図の言語化 | その違いを示すことで、語り手が現実の人物に何を促そうとしているか(教訓)を確定する。 | 自分の楽しみのために人民を苦しめないのが「仁政」であるという教訓を読み取り、主君に政治のあり方を改めるよう促していると確定する。 |
重要なのは、あらすじを何となく想像することではない。上記のように、共通する状況と相反する行動を対比させ、物語の構造から説得の意図を論理的に組み立てることである。このように、故事と現在の人物・状況の対応関係を整理することは、同種の古文を読む際にも使いやすい手順となる。
【新潟県公立高校】国語(古文)の対策と復習手順
本文のあらすじを「理解した・知っている」ことと、初見の設問に対して正答までの手順を「再現できる」ことは全く別である。解説を読んで納得しただけでは、初見問題で同じ処理ができるとは限らない。
初見問題でも同じ処理を再現するためには、本記事で示した客観的な手順を徹底することが求められる。失点した問題では、単に正答や現代語訳を覚えるのではなく、「動作主の確認から敬語の意味を確定する処理(二)」「時系列から因果関係を整理する処理(三)」「人物の考え方を対比して記述を構成する処理(四)」「故事と現実の対応関係を読み解く処理(五)」のどこで処理を誤ったのかを確認する。同じ手順を別の初見問題でも反復して適用し、自らの言葉で明確にできるようになることが、復習の中心となる。

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