2025年度 三重県公立高校入試 国語 大問4 『今昔物語集』・『列子』解説と解法分析――古漢対比の論理構造と反語構文の処理手順

目次

共通する説話の比較から論理の差異と構文を正確に読み解く

古文・漢文の読解において、単に一文ごとの逐語訳を追うだけでは、複数テキストの比較問題や文脈に応じた空欄補充に正確に対処することは難しい。本問で求められるのは、登場人物ごとの「主張」とそれを支える「根拠」を論理的に整理し、呼応表現などが果たす文法的な役割を正確に捉えることである。

2025年度の三重県公立高校入試・国語の大問4で出題された問題は、日本の説話集である『今昔物語集』(文章I)と、中国の古典である『列子』(文章II)を取り上げ、古文と漢文を組み合わせて比較させる形式をとっている。両文章とも、孔子が旅の途中で二人の子どもに出会い、日の出と真昼の太陽のどちらが近いかをめぐって議論する、ほぼ同じ筋の説話を扱っている。

二人の子どもは相反する主張を展開するが、文章Iと文章IIでは、自説を論証するための「根拠」の配置に明確な差異が存在する。文章全体の筋を知っているだけでは、返り点の正しい同定や、反語構文によって否定されている主張を見抜く空欄補充を解き切ることはできない。本稿では、各設問の解法手順に基づき、2025年度三重県大問4の全問について、その解法プロセスを分解・明示する。

『今昔物語集』・『列子』の要約と対比構造

文章I・文章IIともに、「日の出の太陽が近い」とする立場と、「真昼の太陽が近い」とする立場の対立を描いているが、論証に用いている観察事実が異なる。

  • 論理の全体構造
    • 共通する基本設定孔子が旅の途中で二人の子どもに出会い、議論している理由を尋ねる。一方は「日の出=近/真昼=遠」、他方は「日の出=遠/真昼=近」と主張し、最後に孔子は判断を下すことができない。
    • 文章I(『今昔物語集』)の論理先の子どもは「日の出は熱く(湯を探るが如し)、真昼は涼しい」という体感を根拠に「日の出=近」と主張する。これに対し、後の子どもは「日の出は涼しく、真昼は熱い」という体感を根拠に「日の出=遠」と主張し、反語を用いて先の子どもの説を退ける。
    • 文章II(『列子』)の論理最初の子どもは「見かけの大きさ」(日の出は大、真昼は小)を根拠とし、「遠いものは小さく、近いものは大きい」という原理から「日の出=近」と主張する。もう一人の子どもは「体感温度」(日の出は涼しく、真昼は熱湯のよう)を根拠とし、「近いものは熱く、遠いものは涼しい」という原理から「日の出=遠」と主張する。

文章I・文章IIにおける主張と根拠の対比

文章子ども主張(太陽との距離)論証の根拠本文中の具体的表現
文章I(古文)先の童日の出=近 / 真昼=遠体感温度(日の出が熱い)日の出づる時は熱くして……日中に至りぬれば涼し
後の童日の出=遠 / 真昼=近体感温度(真昼が熱い)日の出づる時は涼し。日中に至りぬれば熱くして
文章II(漢文)最初の子日の出=近 / 真昼=遠見かけの大きさ日の始めて出づるや、大いさ車蓋の如し。日の中するに及ぶや、則ち盤盂の如し
もう一人の子日の出=遠 / 真昼=近体感温度(真昼が熱い)日の始めて出づるや、滄滄涼涼たり。その日の中するに及ぶや、湯を探るが如し

この対比構造をあらかじめ視覚的に整理しておくことが、後半の内容比較・空欄補充設問を迷わず処理するための土台となる。

全問解答一覧

設問正答答案・選択肢内容形式・条件
(一)いわんやいわんや現代仮名遣い(すべてひらがな)
(二)見二両小児弁闘一返り点(最も適当なものを1つ)
(三)太陽の大きさ内容比較(最も適当なものを1つ)
(四)①近 ②遠 ③近 ④遠空欄補充(最も適当な組み合わせを1つ)

【大問4】各設問の解答解説と思考手順

(一)歴史的仮名遣い

  • 手順1(設問要求):傍線部分(1)「いはむや」を現代仮名遣いに改め、すべてひらがなで書く。
  • 手順2(根拠範囲):文章Iの末尾付近、「豈に、……といはむや」という一節。
  • 手順3(論理整理):歴史的仮名遣いから現代仮名遣いへの変換規則を確認する。
    • 「いは」の語中の「は」は「わ」に改める(いは → いわ)。
    • ここでの「む」は助動詞「む」であり、現代仮名遣いでは「ん」と表記する(む → ん)。
  • 手順4(表記条件の確認):すべてひらがなで指定されているため、「いわんや」と記述する。
  • 結論いわんや

(二)返り点

  • 手順1(設問要求):書き下し文「両小児の弁闘するを見て」に従い、白文「見両小児弁闘」に付す返り点として最も適当なものをア〜エから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):文章IIの冒頭「孔子東遊。見両小児弁闘、問其故。」
  • 手順3(論理整理):白文の漢字の並びと、書き下し文における読む順序を対照する。
    • 白文の語順:見(1番目) → 両(2番目) → 小(3番目) → 児(4番目) → 弁(5番目) → 闘(6番目)
    • 実際の読み順:「両(1)小(2)児(3)の弁(4)闘(5)するを 見(6)て」「見」は直下の一字を読んですぐ返るのではなく、「両小児弁闘」全体を読んだ後に戻る。そのため、直下へ返るレ点ではなく、一・二点で読む順序を示す。
  • 手順4(返り点規則の適用と選択肢照合)
    • 目的語である「両小児弁闘」の末尾である「闘」の左下に「一」、戻り先である動詞「見」の左下に「二」を付す。
    • したがって、「見二 両小児弁闘一」となる。
    • 選択肢ア(見一……闘レ)、ウ(見レ……)、エ(見一……闘二)は語順の規則と合致しない。
  • 結論

(三)I・IIの内容比較

  • 手順1(設問要求):会話文中の空欄[ A ]に入る言葉として最も適当なものをア〜エから一つ選択する。
    • 会話文の条件:「日の出の時の太陽が近く、真昼の太陽が遠い」という同じ主張について、文章Iでは「気温の違い」を根拠にしているのに対し、文章IIでは「子どもの見た[ A ]の違い」を根拠にしている。
  • 手順2(根拠範囲):文章IIにおける最初の子どもの発言箇所。
  • 手順3(論理整理)
    • 文章IIの最初の子どもは、「日の始めて出づる時……近くして、日の中する時遠し」と主張している。
    • その直後の根拠部分を見ると、「日の始めて出づるや、大いさ車蓋の如し。日の中するに及ぶや、則ち盤盂の如し」と述べている。
    • 注釈より、「車蓋」は馬車を覆う大きな傘、「盤盂」は小さな食器(鉢や椀)である。
    • すなわち、日の出時は大きく見え、真昼は小さく見えるという「見かけの大きさ」を根拠としており、「遠き者は小さく、近き者は大きい」という認識に基づいている。
  • 手順4(選択肢の照合)
    • ア(太陽の動き):運行や移動速度には言及していないため不適切。
    • イ(太陽の明るさ):光量や輝度についての比較ではないため不適切。
    • ウ(太陽の大きさ):「大いさ車蓋の如し」「盤盂の如し」という記述と完全に合致する。
    • エ(太陽の方角):方角を根拠にした論述ではないため不適切。
  • 結論

(四)「近・遠」の補充

  • 手順1(設問要求):文章I・II中の空欄①〜④に入る「近」「遠」の組み合わせとして最も適当なものをア〜エから一つ選択する。
  • 手順2(根拠範囲):文章Iの「後の童」の発言部分、および文章IIの「もう一人の子」の発言部分。
  • 手順3(論理整理)
    • 文章Iの空欄①・②の判定
      • 後の童の立場:直前で「日の出づる時は涼し。日中に至りぬれば熱くして……」と述べているため、この子自身の主張は「日の出=遠/真昼=近」である。
      • 文法構造の識別:直後に「豈に、日の出づる時は[ ① ]く、日中を[ ② ]しといはむや」とある。「豈に〜いはむや」は「どうして〜と言えようか、いや、言えない」という反語の構文である。
      • したがって、反語の枠内に入るのは「後の童自身の主張」ではなく、否定すべき相手(先の童)の主張である「日の出=近い/真昼=遠い」となる。
      • よって、①=、②=
    • 文章IIの空欄③・④の判定
      • もう一人の子の立場:「日の始めて出づるや、滄滄涼涼たり(ひんやりしている)。その日の中するに及ぶや、湯を探るが如し(熱い)」と述べる。
      • 直後の論理:「此れ[ ③ ]き者熱くして[ ④ ]き者涼しきが為ならずや(これは、〜なものが熱く、〜なものが涼しいからではないか)」と続く。
      • 体感温度の事実(真昼=熱い、日の出=涼しい)と距離を結び付ける一般的原理を述べているため、「熱いもの=近い」「涼しいもの=遠い」が入る。
      • よって、③=、④=
  • 手順4(選択肢の照合):①=近、②=遠、③=近、④=遠の組み合わせとなっている選択肢はアである。
  • 結論

授業ではここまで扱う:古漢比較問題における対比整理と反語構文の識別手順

実際の授業では、単に正答を解説するにとどまらず、初見の複数テキスト比較問題や反語を含む古典設問に対処できるよう、次の3段階の手順を整理・指導する。

処理段階具体的な確認動作本問(2025年三重・問三/問四)への適用例
第1段階:論点の二項対立の固定登場人物が何を論争しているのか、対立する二つの主張を記号的に確定させる。主張A(日の出=近/真昼=遠)と主張B(日の出=遠/真昼=近)の対立軸を先に固定する。
第2段階:テキスト間の論証根拠の分離主張が同一であっても、それを支える根拠(視覚情報・体感温度など)がテキストごとに異なっていないかを切り分ける。文章Iは二人とも「気温」だが、文章IIは最初の子が「見かけの大きさ」、もう一人が「気温」を用いていることを整理する。
第3段階:反語構文による極性の反転処理「豈に」「何ぞ」「〜や」などの反語マーカーを検知し、反語で提示された命題が肯定されているのか否定されているのかを判定する。文章Iの「豈に〜いはむや」を検知し、空欄①②には話者自身の意見ではなく「否定される相手の説(日の出=近/真昼=遠)」が入ることを見抜く。

重要なのは、古文や漢文の言葉を現代語の感覚だけで流し読みしないことである。「誰が何を主張しているか」を固定した上で、反語などの文法マーカーによって、反語で提示された命題が肯定されているのか、否定されているのかを検証する手順を、別の問題でも再現できるようにすることである。

【三重県公立高校入試】国語・古典(古文・漢文)の対策と復習手順

本問では、歴史的仮名遣いや返り点といった基礎的な知識に加え、古文と漢文の主張・根拠を比較し、反語による論理の反転を正確に処理する力が問われている。対策においては、以下の客観的な処理手順を反復し、実戦的な解法として定着させることが重要である。

  • 1. 現代仮名遣い・返り点の機械的ルールの定着問(一)の歴史的仮名遣いや問(二)の返り点問題は、感覚で解くものではない。「語中の『は』は『わ』に改める」「本問の『いはむや』のように、助動詞『む』が現代語の『ん』に当たる場合を正確に処理する」といった知識を確実に適用すること。また、返り点では、まず書き下し文から実際の読む順序を確定する。本問の「見両小児弁闘」のように、直下へ返るレ点だけではその読み順を示せない場合には、一・二点の位置を確認する手順を徹底する。
  • 2. 複数テキストにおける「主張と根拠」のマトリクス整理問(三)のように、古文と漢文で共通する説話が出題された場合、登場人物の結論(距離の近遠)だけでなく、「何を論拠にしてその結論を導いているか(大きさなのか、熱さなのか)」を明確に区別して整理する習慣をつける。問題用紙の余白に簡単な対比マトリクスを作ることで、設問ごとの混同を防止できる。
  • 3. 呼応表現(反語)の論理判定問(四)の「豈に〜いはむや」に代表される反語表現は、文面と話者の主張が逆になるため、古典読解で注意したい構文の一つである。反語文に出会った際は、単に「〜だろうか、いや〜ない」と訳すだけでなく、「反語として提示されている命題は、話者が退けようとしている内容である」という論理構造を正確に捉え、空欄に当てはめる語の極性を確認する。

過去問演習の復習においては、「訳を読んで理解した」で終わらせず、「文法上のマーカー(返り点や反語)に正しく反応できたか」「登場人物ごとの論拠の差異を本文から客観的に特定できたか」という観点から、解法の再現性を確認することが重要である。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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