【2011年度上智大外国語学部・現代文】大問1解答解説|具体と抽象の包摂関係と個人言語の逆算処理を解剖

目次

Introduction:現代文における「感覚」の排除

上智大学の現代文では、文章の大意をつかめるだけでは正答に届かない。特に本問のように、日常語である「実物」「影」が本文内で概念的に整理され、さらに「オブジェ」「イマージュ」という語に本文固有の意味づけ(個人言語)が与えられている場合、一般的な語義を知っていることと、本文中での意味を正確に確定できることは別問題である。

事前知識や主観的イメージは文章理解の補助にはなっても、正答を確定する根拠にはならない。必要なのは、本文中の定義・対比・具体と抽象の関係をたどり、設問要求に合わせて根拠を照合することである。本記事では、その処理を「具体と抽象の包摂」と「個人言語の逆算」という二つの手順から分析する。

『20世紀美術』(高階秀爾)の要約と論理構造

本文は、単に「本物と絵は違う」という事実を述べているのではない。「三次元の実物」と「二次元のイマージュ」という二つの世界を厳密に区別し、それぞれの性質を対比させている。 読解の前提として、以下のマクロな視点(全体の構造)を整理しておくことで、各設問が本文のどの部分を根拠としているのかを客観的に位置づけやすくなる

比較軸実物(本物の将軍など)影(肖像画など)
次元三次元二次元
実体重さ・厚み・物質性を持つ重さ・厚み・物質性を持たない
人間との関係主として「触覚的」な働きかけを受けとめる主として「視覚的」な働きかけを受けとめる
存在のしかた現実に存在する「もの」実体を持たない「影」
本文中の呼称オブジェの世界イマージュの世界

この「オブジェの世界」と「イマージュの世界」という対比構造が、本文全体を貫く基本フレームとなっている。

【大問1】全問解答一覧

各設問の解答は以下の通りである。

問一問二問三問四問五問六問七(A)問七(B)問八問九問十問十一
dabcabdacdad

以下では、このうち他の初見問題にも転用しやすい主要設問を中心に、解答までの客観的な思考手順を詳しく解説する。

【大問1】各設問の解答解説と思考手順

問一:傍線部1「空しいものはない」理由

  • 手順1(設問要求):傍線部1「世に絵画ほど空しいものはない」とパスカルが考えた理由を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部の直後から、当時の人々が絵画をどのように評価していたか(評価基準)を説明している部分へ範囲を限定する。
  • 手順3(論理整理):当時の評価基準は「実物によく似ている → 絵画として評価される」であった。しかしパスカルは、「実物そのものには感心しない人間が、実物に似せただけの絵には感心する」という事実の矛盾を指摘している。この落差に「空しさ」を感じていると論理を整理する。
  • 手順4(選択肢比較):a「現実の世界の問題点を表現」は本文にない。b「実物の豊かさに気づかせてくれる」は、本文で示された評価基準(実物との類似)から逸脱している。c「現実世界の驚きを提出」も同様に不適。
  • 結論:「実物に似ていれば感動を与える」という本文の因果関係をそのまま保っているdが正答となる。

問六:傍線部6「比喩的な意味ではなしに」の具体的内容

  • 手順1(設問要求):傍線部6「絵画が、比喩的な意味ではなしに現実のものの影である」とは具体的にどういうことか特定する。
  • 手順2(根拠範囲):直後にあるプリニウスによる絵画誕生の伝説(コリントスの娘のエピソード)の記述を確認する。
  • 手順3(論理整理):「比喩的な意味ではなしに」という強い限定表現に注目する。「人物 → 壁に実際の影ができる → 影の輪郭を線でなぞる」という、文字通りの物理的な「影」を利用したプロセスであると整理する。
  • 手順4(選択肢比較):a「面影を思い浮かべる」は頭の中の想像であり物理的な影ではない。c「人物などを燈火で照らしてその影を作る」は、影を生じさせる段階までしか述べていない。本文で絵画につながる決定的な処理は、壁に落ちた実際の影の輪郭を線でなぞって描くことであるため不十分である。d「人物の影に現実の人物を感じる」は鑑賞者の心理である。
  • 結論:伝説の記述にそのまま対応するb「実際に人物などの影をかたどること」が正答となる。

問八:傍線部8「現実の部分」が指すもの(具体と抽象の包摂)

  • 手順1(設問要求):傍線部8「現実の部分」が具体的に何を指しているかを特定する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部を含む段落の、《モナ・リザ》について説明している部分(眼、鼻、唇、肌の色合い、頬の翳り、髪の毛のうねり)を確認する。
  • 手順3(論理整理):列挙されている複数の具体例(眼・鼻・唇・肌・髪など)に共通する特徴を抽出し、それらを包み込む(包摂する)一段階抽象度の高い概念へとスライドさせる。
  • 手順4(選択肢比較):a「内面」は外見的要素の列挙と矛盾する。b「輪郭の正確な再現」は原始的な影絵にも存在し、《モナ・リザ》で加わった要素を説明しきれていない。d「顔の陰影」は頬の翳り等には該当するが、眼や唇などの具体例を包摂できず範囲が狭い。
  • 結論:列挙された具体例をすべて広くまとめているc「人物の顔や身体の細かい要素」が正答となる。

問十:筆者のいう「オブジェの世界」の意味(個人言語の逆算・確定)

  • 手順1(設問要求):筆者のいう「オブジェの世界」とはどのようなものかを特定する。
  • 手順2(根拠範囲):「オブジェ」という語を説明している段落と、最終段落の「イマージュ」との対比部分を確認する。
  • 手順3(論理整理):前半の「物質的存在」「手に取ることができる」という記述に加え、最終段落の「オブジェ=人間の触覚的働きかけを受けとめる」↔「イマージュ=人間の視覚的働きかけを受けとめる」という明確な対比構造を照合する。後段の明示的な対比・説明から前段の意味を逆向きに照合して確定する「逆算」の処理を行う。
  • 手順4(選択肢比較):bは本文が否定している「美術上の特殊な意味」である。c「重さや厚みを持たない」はイマージュ側の性質である。dは、「人間がどのように対象を認識するか」という認識する側の働きに焦点を移している。一方、ここで定義されている「オブジェの世界」は、人間に認識された像ではなく、重さや厚みを持って外界に存在する物質的な「もの」そのものを指すため不適。
  • 結論:本文前半の「物質的存在」という説明と、最終段落の「触覚的」という対比上の説明の両方に合致するa「私たちが触覚的に働きかける対象としての『もの』の世界」が正答となる。

問十一:傍線部11「オブジェを主としてイマージュのかたちで把握」の意味

  • 手順1(設問要求):傍線部11「それらのオブジェを主としてイマージュのかたちで把握している」の意味を特定する。
  • 手順2(根拠範囲):傍線部直前にある、オブジェとイマージュの本文上の定義(対比)を確認する。
  • 手順3(論理整理):傍線部内の二つの個人言語を、本文の定義に置き換える(代入する)。「オブジェ(触覚的な『もの』)」を、「イマージュ(視覚的な像)」として把握している、という文法構造を崩さずにつなぎ直す。
  • 手順4(選択肢比較):aは触覚と視覚の方向が逆転している。bは本文が採用していない特殊な意味を混入させている。cは「聴覚」という無関係な要素が入っている。
  • 結論:二つの定義を正確に代入・結合しているd「触覚的に捉えられる『もの』を、主に視覚的なもので受け取っているということ」が正答となる。

授業ではここまで扱う:現代文における「個人言語」の後段からの逆算と確定

本記事で解説した問十や問十一のように、筆者独自の言葉(個人言語)の意味を問う問題では、自身の辞書的知識に頼ることは極めて危険である。

実際の授業では、こうした問題に対して、さらに次の3段階に分けて「対比からの逆算・確定」を行う手順を身につけさせる。

分析の段階思考手順今回の問題における適用例
段階1:個人言語の検知「ここでは~という意味で用いる」「~と呼ぶことにしたい」などの宣言、または一般的な辞書的意味から外れた語の使用を検知する。「オブジェ」「イマージュ」という語を、日常的な価値や美術上の特殊な意味から離れて用いるという筆者の宣言を確認する。
段階2:対立項の特定その個人言語が、本文中でどのような概念と「対比」されているか(A ↔ B)の構造を特定する。「オブジェ」に対し、対立項として「イマージュ」が配置されている構造を特定する。
段階3:後段からの逆算・確定前段で与えられた説明が抽象的な場合、後段に現れる対比や言い換えへ進み、そこから前段の意味を逆向きに照合して確定する。前段の「物質的存在」「手に取ることができる」という説明を、後段の「オブジェ=触覚的/イマージュ=視覚的」という明示的な対比と照合し、「オブジェ」の意味を確定する。

重要なのは、言葉の意味を感覚で当てに行くことではない。文章の構造を利用し、後段の明示的な対比・説明から前段の概念を客観的に逆算・確定させるという汎用的な読解手順として整理することだ。

【上智大学】現代文の対策と復習手順

「オブジェ」や「イマージュ」といった美術史・認識論のテーマを事前に「知っている」ことと、初見の設問に対して正答までの手順を「再現できる」ことは全く別である。解説を読んで納得しただけでは、本番の緊張状態において同じ処理ができるとは限らない。

初見問題でも確実な処理を再現するためには、本記事で示した客観的な手順を徹底することが求められる。失点した問題では、単に正解を覚えるのではなく、「具体例を包摂する抽象概念へのスライド(問八)」や「後段からの逆算と確定(問十)」のどこで処理を誤ったのかを冷静に確認する。同じ手順を別の初見問題でも反復して適用し、自らの言葉で明確にできるようになることが、復習の中心となる。

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この記事を書いた人

千葉県・習志野市を拠点とする「習志野受験研究所」所長。10年以上の指導現場から得た知見をもとに、全国の入試問題を分析・発信しています。

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