導入:2026年度 熊本大学(前期)大問Ⅰの分析軸
2026年度の熊本大学(前期)英語・大問Ⅰ(出典:2026年度 熊本大学 前期日程 英語 大問Ⅰ)は、人間の記憶が脳内でどのように形成・保持・想起されるのかを神経科学の視点から解説した論説文(全13段落)である。
本文は、69歳で円周率を11万1700桁暗記した日本人(原口證氏)のエピソードを導入とし、そこから「人間の記憶容量の大きさ」$\rightarrow$「記憶形成が脳に与える物理的変化」$\rightarrow$「長期記憶を作る4つの基本ステップ(符号化・固定化・貯蔵・想起)」$\rightarrow$「記憶の固定化を担う海馬(hippocampus)の機能と損傷時の影響」$\rightarrow$「固定化に要する時間と外部衝撃による記憶喪失の具体例」へと段階的に展開する構成をとっている。
設問構成は、全6問(小問を含めると計11箇所)であり、内訳は以下の通りである。
- 日本語記述問題(3問):
- 問1:下線部(1)の内容説明(指示語
thisの特定を含む・50字以内) - 問5:下線部(3)の指示語
thisの内容説明(40字以内) - 問6:最終段落(第13段落)の内容要約(50〜60字)
- 問1:下線部(1)の内容説明(指示語
- 空所補充・選択問題(2題・計7箇所):
- 問2:文脈・語法に基づく単語(形容詞・分詞・動詞)の4択問題(3箇所)
- 問4:記憶形成の4段階を平易な表現で言い換えた動詞句の選択問題(6択・4箇所)
- 語句整序問題(1問):
- 問3:10語の並べ替えによる空所補充(不要語なし)
この大問Ⅰに共通する特徴は、「構文の反復(同形反復)」「専門的な説明と平易な表現の言い換え(パラフレーズ)」「指示語による照応関係」および「具体例(エピソード)と抽象的な結論(メカニズム)の切り分け」が、選択問題と記述問題の両方でそのまま解答の根拠になっている点にある。
したがって、単語の意味や本文の大意をなんとなく把握しているだけでは、記述問題の字数制限内で必要な要素を過不足なく揃えたり、語句整序で正確な修飾関係を組み立てたりすることは難しい。本番で着実に得点するためには、英文・設問・選択肢をどの順序で確認し、どの根拠から答えを確定させるかという客観的な思考手順が必要である。
【大問Ⅰ】「記憶形成の4段階と海馬の役割」の論理構造とパラグラフ整理
設問を解く前提として、全13段落の論理展開と、本文中で定義される重要概念・対比・因果関係を整理する。
パラグラフ別の要点と論理的役割
| 段落 | 論理的役割 | パラグラフの要点と本文中の対応表現 | 関連設問 |
| 第1段落 | 導入(具体例) | 69歳の原口證氏が円周率を11万1700桁まで暗記した事例を提示。彼は神童や数学の天才、特定の分野で突出した能力を持つサヴァンではなく、健康で年を重ねつつある脳を持つ普通の人物であり、読者の脳にも同様の潜在能力があることを示す。 | 問1 |
| 第2段落 | 具体例の列挙 | 日常の記憶から、平均的な大人の語彙(2万〜10万語)、チェス名人の指し手(約10万通り)、ピアニストが記憶している3万近い音符を演奏するための一連の動きや連携まで、人間の記憶の具体例を列挙する。 | — |
| 第3段落 | 導入のまとめ | 人間の記憶は「深い意味のある情報や無意味な情報(deeply meaningful or nonsensical)」「単純な情報や複雑な情報(simple or complex)」を保持でき、その容量は無限であるように思われる(appears to be limitless)とまとめる。 | 問2(ア) |
| 第4段落 | 問題提起 | 神経学的に見て記憶とは何か、どう作られ、どこに保存され、どう取り出されるのかという問いを立て、以降の展開を予告する。 | — |
| 第5段落 | 核心命題の提示 | 記憶を作ることは文字通り脳を変化させることである。あらゆる記憶は、経験したことに応じて生じる「脳内の永続的な物理的変化(a lasting physical alteration in your brain)」の結果であると定義する。 | 問3 |
| 第6段落 | プロセスの導入 | 変化の第一歩として、経験の感覚的・感情的・事実的要素が五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の入り口を通して知覚されることを示す。 | — |
| 第7段落 | 4段階の定義(専門的説明) | 記憶形成の4つの基本ステップを定義する。 ① Encoding(符号化):知覚・注目した情報を捉え、神経学的言語に翻訳する。 ② Consolidation(固定化):無関係だった神経活動を単一の関連付けられた結合パターン( associated connections)に結びつける。③ Storage(貯蔵):神経細胞の持続的な構造的・化学的変化によってパターンを維持する。 ④ Retrieval(検索・想起):結合の活性化を通じて、学び経験したことを思い出し認識する。 | 問2(イ) 問4 |
| 第8段落 | 4段階の言い換え(平易な要約) | 第7段落の4ステップを You have to ~ の反復構造で平易に言い換える。① 情報を脳に入れる $\rightarrow$ ② 一緒に編み上げる $\rightarrow$ ③ 脳内の安定した変化を通じて保存する $\rightarrow$ ④ アクセスしたいときに取り出す。 | 問4 |
| 第9段落 | 海馬の導入 | 無関係な神経細胞群が結合して単一の記憶(神経回路網)になる場所として「海馬(hippocampus)」を導入する。 | 問5 |
| 第10段落 | 海馬の機能説明 | 海馬は記憶の固定化(consolidation)に不可欠な「記憶の織り手(memory weaver)」であり、脳の各部位からの別々の情報を結びつけ、関連付けられたデータ(associated data)の検索可能な単位へと編み上げる。 | 問2(イ) 問4 |
| 第11段落 | 海馬損傷の影響(具体例) | 海馬が損傷すると新しい記憶を作る能力が損なわれる(will be impaired)。具体例としてアルツハイマー病を挙げ、海馬が損なわれることで数分前のことを忘れるなど、新しい記憶の形成が困難になる(have trouble creating new memories)ことを示す。 | — |
| 第12段落 | 固定化の時間依存性と妨害 | 海馬が仲介する記憶の固定化は時間を要するプロセスである。その途中に何かが記憶処理の過程を妨げる(interferes with)と、記憶は劣化し、失われる可能性がある。 | 問2(ウ) 問6 |
| 第13段落 | 結論(具体例による説明) | ボクサー等の頭部への打撃を例に挙げる。打撃の直後は出来事の詳細を話せても、海馬で新しい永続的な記憶として結びつけられる過程が妨害され完全に固定化されないため、翌日には記憶が失われていることがある。 | 問6 |
【大問Ⅰ】全問解答一覧
| 設問番号 | 正答・解答例 | 条件・備考 |
| 問1 | 69歳の原口氏が円周率を11万1700桁まで暗記したことが全く驚異的に思えるなら、私も同感だ。 | 50字以内(解答例:47字) |
| 問2 (ア) | (B)(meaningful) | 単一選択 |
| 問2 (イ) | (A)(associated) | 単一選択 |
| 問2 (ウ) | (D)(interferes) | 単一選択 |
| 問3 | a lasting physical alteration in your brain in response to | 全10語・不要語なし |
| 問4 [ 1 ] | (C)(put the information into your brain) | 単一選択 |
| 問4 [ 2 ] | (F)(weave the information together) | 単一選択 |
| 問4 [ 3 ] | (D)(store that woven information via stable changes in your brain) | 単一選択 |
| 問4 [ 4 ] | (B)(fetch the woven information when you want to access it) | 単一選択 |
| 問5 | 機能的に無関係な神経細胞群が結合して神経回路網となり、単一の記憶になること。 | 40字以内(解答例:38字) |
| 問6 | 頭部に衝撃を受けると、直後は出来事を覚えていても、海馬での記憶の固定化が妨げられ、翌日には記憶が失われることがある。 | 50〜60字(解答例:58字) |
【大問Ⅰ】各設問の解答解説と客観的な読解手順
問1:下線部(1)の内容説明(指示語特定+日本語記述)
- 手順1(設問要求) 下線部(1)
If this sounds completely mind-blowing, I'm with you.の内容を、指示語thisが指すものを明らかにしながら、句読点を含めて50字以内の日本語で説明する問題である。文全体の和訳をベースにしつつ、thisの部分に具体内容を代入して1文に収める必要がある。 - 手順2(根拠範囲) 指示語
thisは前方の内容を受けるため、下線部(1)の直前にある第1段落の第1文〜第3文を確認範囲とする。 - 手順3(論理・構文・文法整理)
- 下線部(1)の骨格確認:
- 条件節:
If this (S') sounds (V') completely mind-blowing (C')sound + 形容詞は第2文型(SVC)で「SがCのように聞こえる・思える」を表す。completely mind-blowingは「完全に(全く)心が吹き飛ぶような $\rightarrow$ 全く驚異的な・衝撃的な」という意味である。 - 主節:
I (S) 'm (V) with you (C/M).相手の意見や感想に対するI'm with you.は「私もあなた(読者)に賛成だ・同感だ(同じ気持ちだ)」を表す定型表現である。
- 条件節:
- 指示語
thisの範囲と具体例・注釈の除外: 50字以内という制限があるため、第1文〜第3文のすべての修飾語を訳し込むことはできない。ここで英文の構造規則を適用する。- 第1文の2つのダッシュに挟まれた箇所(
— an age most of us associate with ... —)は、直前のsixty-nine years oldに対する挿入(注釈)である。 piの直後のコンマに挟まれた箇所(, a nonrepeating, infinite number with no pattern,)は、円周率の性質を補足する同格の注釈である。- 第2文(
That's the number 3.14159...)も、第1文の111,700 digitsの言い換え補足である。 これら注釈・補足部分を除外すると、第1文〜第3文の主節の骨格は以下の通りに抽出される。When Akira Haraguchi ... was sixty-nine years old, he memorized pi ... to 111,700 digits. ... From memory!(69歳の原口氏が円周率を11万1700桁まで暗記したこと)
- 第1文の2つのダッシュに挟まれた箇所(
- 下線部(1)の骨格確認:
- 手順4(設問形式に応じた処理:記述答案の構築) 抽出した以下の3つの要素を結合し、50字以内に整える。
- 要素①(
thisの中身):69歳の原口氏が円周率を11万1700桁まで暗記したこと(または「高齢の原口氏が約11万桁の円周率を暗記したこと」) - 要素②(
If ~ sounds completely mind-blowing):〜が全く驚異的(衝撃的)に思えるなら - 要素③(
I'm with you.):私(筆者)も(読者と)同感だ
- 要素①(
- 結論(正答・解答例)69歳の原口氏が円周率を11万1700桁まで暗記したことが全く驚異的に思えるなら、私も同感だ。(47字) (別解:高齢の原口氏が約11万桁の円周率を暗記したことが全く衝撃的に思えるなら、私も読者と同感である。[47字])
問2:空所補充(語彙選択:ア・イ・ウ)
- 手順1(設問要求) 本文中の空所(ア)・(イ)・(ウ)に入る最も適切なものを、それぞれ(A)〜(D)から1つずつ選び記号で答える。
(ア) の思考手順
- 手順2(根拠範囲) 第3段落第1文の空所前後
information [that is deeply ( ア ) or nonsensical, simple or complex]を確認する。 - 手順3(論理・構文・文法整理) 関係代名詞
thatが導く節の中で、isの補語(C)となる形容詞が並んでいる。等位接続詞orの前後には文法上同じ働きをする語が並び、さらに直後のsimple or complex(単純な、あるいは複雑な)が「対義語のペア(A or B)」を作っている。したがって、同形反復の規則からdeeply ( ア ) or nonsensicalも対義語のペアになる。 - 手順4(選択肢の照合)
nonsensical(無意味な・ばかげた)と対義関係になり、かつ直前の副詞deeply(深く)と自然に結びつく形容詞を選ぶ。- (A) identical(同一の):「無意味な」との対比にならず、
deeply identicalとも結びつかない。 - (B) meaningful(意味のある):
deeply meaningful(深い意味のある)として、nonsensical(無意味な)と明確な対義ペアを作る。 - (C) sensitive(敏感な・繊細な):対義関係が成立しない。
- (D) trivial(些細な・つまらない):
nonsensicalに近いマイナス方向の語であり、orによる両極の対比構造に合わない。
- (A) identical(同一の):「無意味な」との対比にならず、
- 結論:(B)
(イ) の思考手順
- 手順2(根拠範囲) 第10段落最終文、および同じ概念(Consolidation=固定化)を説明している第7段落の対応表現を確認する。
- 第10段落:
links all these separate pieces of information ... together, knitting them into a retrievable unit of ( イ ) data - 第7段落:
links the previously unrelated collection of neural activity into a single pattern of associated connections
- 第10段落:
- 手順3(論理・構文・文法整理) 第10段落の主節で「海馬はこれらすべての別々の情報の断片を結びつけ(
links ... together)」と述べ、続く分詞構文knitting them into a retrievable unit of ( イ ) dataで「それらを(イ)データの検索可能な単位へと編み上げる」と結果を示している。 「別々の(separate)情報を結びつけ、1つの単位に編み上げた後」の状態を表す形容詞(分詞)が入る。これは第7段落のlinks ... into a single pattern of associated connectionsの言い換えになっている。 - 手順4(選択肢の照合)
- (A) associated(関連付けられた):バラバラの情報が結びつけられた後の状態を表し、第7段落の表現とも一致する。
- (B) collapsed(崩壊した):情報を編み上げて記憶単位を作る文脈と逆である。
- (C) improbable(ありそうもない):データの性質として文脈に合わない。
- (D) irrelevant(無関係な):結びつけられる前の状態であり、編み上げた結果としては矛盾する。
- 結論:(A)
(ウ) の思考手順
- 手順2(根拠範囲) 第12段落第1文の
a time-dependent process that can be disrupted(妨害されうる時間依存のプロセス)と、最終文のif something ( ウ ) with the processing of a developing memory ..., the memory can be degraded and possibly lost.を確認する。 - 手順3(論理・構文・文法整理)
- 文法(語法)条件:空所の直後に前置詞
withがあるため、V with ~の形で機能する自動詞が必要である。 - 論理(因果)条件:主節の結果が
the memory can be degraded and possibly lost(記憶は劣化し、失われる可能性がある)というマイナスの事態であり、第1文のcan be disrupted(妨害されうる)の言い換えになっている。
- 文法(語法)条件:空所の直後に前置詞
- 手順4(選択肢の照合)
withと結びつき、「(記憶の処理過程)を妨げる・干渉する」という意味になる動詞を選ぶ。- (A) corresponds(
correspond with/to ~:〜と一致する・文通する):記憶が劣化・喪失する原因にならない。 - (B) disagrees(
disagree with ~:〜と意見が合わない・体質に合わない):主語がsomething、目的語がthe processing(処理過程)であり意味が通らない。 - (C) engages(
engage in ~:〜に従事する /engage with ~:〜と関わる):記憶処理が妨害されるという因果関係に合わない。 - (D) interferes(
interfere with ~:〜を妨げる・邪魔する):語法・因果関係ともに完全に合致する。
- (A) corresponds(
- 結論:(D)
問3:語句整序(下線部(2)の空所補充)
- 手順1(設問要求) 与えられた10語
[ a / alteration / brain / in / in / lasting / physical / response / to / your ]を並べ替えて、下線部(2)を埋める適切な表現を完成させる(不要語なし)。 - 手順2(根拠範囲) 第5段落第1文
Making a memory literally changes your brain.と、第2文Every memory you have is a result of (2) what you experienced.を確認する。 - 手順3(論理・構文・文法整理)
- 空所前後の接続条件の確認:
- 空所の直前は前置詞
ofであるため、空所の先頭にはofの目的語となる名詞句がくる。 - 空所の直後は関係代名詞
whatが導く名詞節what you experienced(あなたが経験したこと)であるため、空所の末尾にはこの名詞節を目的語にとる前置詞がくる。
- 空所の直前は前置詞
- 選択肢の品詞分類:
- 冠詞・代名詞(所有格):
a,your(2語) - 形容詞(分詞含む):
lasting(永続的な)、physical(物理的な)(2語) - 名詞:
alteration(変化)、brain(脳)、response(反応)(3語) - 前置詞:
in,in,to(3語)
- 冠詞・代名詞(所有格):
- 空所前後の接続条件の確認:
- 手順4(意味の塊の作成と接続手順)
- 末尾の固定(熟語の特定): 空所直後の
what you experienced(経験したこと)につながる群前置詞(熟語)として、前置詞in,toと名詞responseを組み合わせたin response to ~(〜に応じて・〜に反応して:3語)が確定し、これが空所の末尾に配置される。 - 先頭の名詞句の構築: 残りの7語は
[ a / alteration / brain / in / lasting / physical / your ]である。 第1文のchanges your brain(あなたの脳を変化させる)の言い換えとして、a result ofの直後にくる中心名詞はalteration(変化)である。 「冠詞a+ 形容詞 + 名詞」の規則に従い、lasting(永続的な:性質・評価)とphysical(物理的な:種類・材質)を並べてa lasting physical alteration(永続的な物理的変化:4語)を作る。 - 残りの前置詞句の配置: 残った3語
[ brain / in / your ]で場所を表す前置詞句in your brain(あなたの脳内の:3語)を作り、直前の名詞alterationを後置修飾させる。 - 全体の結合と語数確認:
a lasting physical alteration(4語)+in your brain(3語)+in response to(3語)= 計10語。 完成文:Every memory you have is a result of a lasting physical alteration in your brain in response to what you experienced.
- 末尾の固定(熟語の特定): 空所直後の
- 結論(正答)a lasting physical alteration in your brain in response to
問4:空所補充(4段階の言い換え選択:[1]〜[4])
- 手順1(設問要求) 第8段落の空所
[ 1 ]〜[ 4 ]に入る最も適切なものを、(A)〜(F)の6つの選択肢からそれぞれ1つずつ選び記号で答える(2つはダミー選択肢)。 - 手順2(根拠範囲) 第7段落で定義されている4つの基本ステップ(Encoding, Consolidation, Storage, Retrieval)と、第8段落の空所前後
All four steps have to work ... You have to [ 1 ]. You have to [ 2 ]. You have to [ 3 ]. And then you have to [ 4 ].(および第10段落のmemory weaverの説明)を確認する。 - 手順3(論理・構文・文法整理)
- 段落間の言い換え(パラフレーズ): 第8段落第1文の
All four steps have to work...を受け、続く4つのYou have to ~の文は、第7段落で示された4段階(① Encoding $\rightarrow$ ② Consolidation $\rightarrow$ ③ Storage $\rightarrow$ ④ Retrieval)を順番通りに平易な動詞句で言い換えたものである。 - 選択肢内の指示語・修飾語による順序確認(リレー構造): 選択肢の動詞の目的語となる名詞句に注目すると、情報が加工される段階に応じて表現が変化している。
- 未加工の情報:
the information(選択肢(C)・(F)) - 加工(編み上げ)された後の情報:
that woven information/the woven information(選択肢(D)・(B))weave(編む)という動詞が登場した後にしかthat woven information(その編み上げられた情報)という指示表現は使えないため、[ 2 ]にweaveを含む選択肢が入り、[ 3 ]・[ 4 ]にwoven informationを含む選択肢が入ることが文法・情報構造の面からも確定する。
- 未加工の情報:
- 段落間の言い換え(パラフレーズ): 第8段落第1文の
- 手順4(各段階と選択肢の照合)
[ 1 ](第1段階:Encoding=符号化): 知覚した情報を脳が捉えて神経学的言語に翻訳する段階(captures ... and translates all this into neurological language)である。したがって、(C) put the information into your brain(情報を脳の中に入れる)が対応する。[ 2 ](第2段階:Consolidation=固定化): 無関係だった神経活動を単一のパターンへと結びつける段階(links ... into a single pattern)であり、第10段落でも海馬をmemory weaver、その働きをlinks ... together, knitting themと表現している。したがって、(F) weave the information together(情報を一緒に編み上げる)が対応する。[ 3 ](第3段階:Storage=貯蔵): 持続的な構造的・化学的変化を通じてパターンを維持・保存する段階(maintained over time through persistent structural and chemical changes)である。[ 2 ]のweaveをthat woven informationで受け、persistent ... changesをstable changes(安定した変化)と言い換えている (D) store that woven information via stable changes in your brain が対応する。[ 4 ](第4段階:Retrieval=検索・想起): 学び経験したことを再び訪れ、思い出す段階(revisit, recall, know, and recognize)である。したがって、(B) fetch the woven information when you want to access it(アクセスしたいときに、編み上げられた情報を取り出してくる)が対応する。- ダミー選択肢の除外確認:
- (A) combine emotions with woven memories(感情を編み上げられた記憶と結合させる):感情(
emotion)は第1段階(Encoding)で他の情報と同時に捉えられる要素の1つであり、独立したステップではない。 - (E) strengthen the connections through repetition(反復によって結びつきを強化する):第7段落の4段階の説明に「反復(
repetition)による強化」という記述はない。
- (A) combine emotions with woven memories(感情を編み上げられた記憶と結合させる):感情(
- 結論(正答)[ 1 ]:(C) / [ 2 ]:(F) / [ 3 ]:(D) / [ 4 ]:(B)
問5:下線部(3)の指示内容説明(日本語記述)
- 手順1(設問要求) 下線部(3)
thisが指す内容を、句読点を含めて40字以内の日本語で説明する問題である。出来事や過程を指す指示語の内容説明であるため、文末は「〜こと。」という形式でまとめる。 - 手順2(根拠範囲) 第9段落の第1文〜第2文を確認する。How does a cluster of functionally unrelated neurons become bound together into a connected neural network that we experience as a singular memory? We’re not entirely sure of how this happens, …
- 手順3(論理・構文・文法整理)
- 問いと指示語の照応関係による指示範囲の特定: 第1文では「機能的に無関係な神経細胞群が、どのように結びついて1つの記憶になるのか」を問うている。続く第2文の
how this happensは、「このことがどのように起きるのか」という意味で、その問いを受けている。したがって、下線部(3)のthisは第1文で述べられた神経細胞群の結合と記憶形成を指している。 - 第1文の構文骨格の分解:
- 主語(S):
a cluster of functionally unrelated neurons(機能的に無関係な神経細胞[ニューロン]の集まり/群)※注にneuron ニューロン(神経細胞)あり。 - 動詞+補語・結果(V+C+M):
become bound together into a connected neural network(互いに結合して、つながった神経回路網になる) - 関係代名詞節:
[that we experience O as a singular memory](私たちが単一の記憶として経験する[神経回路網])
- 主語(S):
- 問いと指示語の照応関係による指示範囲の特定: 第1文では「機能的に無関係な神経細胞群が、どのように結びついて1つの記憶になるのか」を問うている。続く第2文の
- 手順4(設問形式に応じた処理:記述答案の構築) 分解した以下の3要素をすべて含め、40字以内の名詞表現に圧縮する。
- 要素①:機能的に無関係な神経細胞群(神経細胞)が
- 要素②:結合して(つながって)神経回路網となり
- 要素③:単一の記憶になる(単一の記憶が形成される)こと
- 結論(正答・解答例)機能的に無関係な神経細胞群が結合して神経回路網となり、単一の記憶になること。(38字) (別解:機能的に無関係な神経細胞がつながって神経回路網となり単一の記憶が形成されること。[40字])
問6:最終段落の要約(日本語記述)
- 手順1(設問要求) 最後の段落(第13段落)の内容を、句読点を含めて50〜60字の日本語で要約する問題である。
- 手順2(根拠範囲) 最終段落(第13段落)の第1文〜第5文を確認する(あわせて、この段落が例証している第12段落の主題も参照する)。
- 手順3(論理・構文・文法整理)
- 具体例(例示)と一般化された事実の切り分け: 最終段落の第1文は
Say you're a boxer, a football player, or a soccer player, ...(たとえばあなたがボクサーやアメフト選手、サッカー選手だとして…)という仮定の例示(Say SV)から始まっている。また第2文のinterview、the punch, the playなどもその具体例に沿った細部表現である。 50〜60字の要約では、こうした個別の職業名や場面設定(ボクサー、パンチ、インタビューなど)は削ぎ落とし、「どのような条件のときに、記憶にどのような変化と結果が生じるか」という一般化された因果関係を抽出する。 - 段落内の対比と因果の整理:
- 発端(条件):
sustain a blow to the head(頭部に打撃・衝撃を受ける) - 対比の前半(直後の状態):
immediately after you got clocked, you would be able to tell me about ... the details of what was happening.(直後は、起きていたことの詳細を話せる=出来事を覚えている) - 対比の後半(時間経過後の状態):
But if I were to ask you the next day, you might have no memory of what happened. ... Those memories are gone.(しかし翌日には、何が起きたかの記憶がない可能性があり、記憶は失われてしまう) - 原因・メカニズム(なぜそうなるか):
The information [that was in the process of becoming linked by your hippocampus to form a new, lasting memory] was disrupted and was never fully consolidated.(新しい永続的な記憶を形成するために海馬によって結びつけられている最中だった情報が妨害され、完全に固定化されなかった)
- 発端(条件):
- 具体例(例示)と一般化された事実の切り分け: 最終段落の第1文は
- 手順4(設問形式に応じた処理:要約答案の構築) 抽出した4つの必須要素を「条件 $\rightarrow$ 譲歩(直後) $\rightarrow$ 原因(海馬での固定化の妨害) $\rightarrow$ 結果(翌日の記憶喪失)」の順で論理的につなぎ、50〜60字に収める。なお、第3文の
might have no memory(記憶がないかもしれない)という可能性のニュアンスを反映させると、さらに原文に忠実な記述となる。- 要素①:頭部に衝撃(打撃)を受けると
- 要素②:直後は出来事(状況)を覚えていても
- 要素③:海馬での記憶の固定化(記憶を固定化する過程)が妨げられ
- 要素④:翌日には記憶が失われることがある(忘れてしまう)
- 結論(正答・解答例)頭部に衝撃を受けると、直後は出来事を覚えていても、海馬での記憶の固定化が妨げられ、翌日には記憶が失われることがある。(58字) (別解1:頭部に衝撃を受けると、直後は出来事を覚えていても、海馬で記憶を固定化する過程が妨げられ、翌日には記憶が失われる。[56字]) (別解2:頭に打撃を受けると、直後は状況を覚えていても、海馬で長期記憶として固定化する過程が妨げられ、翌日には忘れてしまう。[57字])
授業ではここまで扱う:具体例・注釈を除外して骨格を抽出する「日本語記述・要約」の4段階手順
今回の2026年度・大問Ⅰでは、問1(50字以内)、問5(40字以内)、問6(50〜60字)と、字数制限を伴う日本語記述問題が3問出題された。
限られた字数の中で、設問が求める要素を漏れなく盛り込むためには、思いついた日本語を場当たり的に削るのではなく、英文の構造に基づいて「残すべき骨格(主節・因果の核)」と「削るべき枝葉(挿入・同格注釈・個別具体例)」を機械的に選別する手順が有効である。実際の授業では、次の4段階に分けて記述答案を構築する。
字数制限つき日本語記述・要約の4段階構築手順
- 【段階1】設問要求と文末形式の確認
- 下線部全体の説明・和訳(問1)や段落要約(問6)であれば「〜だ。/〜る。」の文形式でまとめる。
- 指示語の内容を説明する問題では、指示対象に合った名詞表現でまとめる。今回の問5のように出来事や過程を指す場合は、「〜こと。」という形式が適切である。
- 【段階2】該当範囲の特定と照応関係の整理
- 指示語が含まれる場合は、直前文の主節や疑問文の問いとの照応関係から、指示範囲を過不足なく特定する。
- 【段階3】注釈・挿入・個別具体例の除外(情報の選別)
- 文単位の記述(問1・問5):ダッシュ(
— ... —)による挿入句や、コンマ(, ... ,)による同格の補足説明など、主節のSVOCから外れる注釈を優先的に除外する。ただし、字数に余裕がある場合や、動詞の目的語・補語として不可欠な修飾語(問5のthat we experience as a singular memoryなど)は残す。 - 段落単位の要約(問6):
Say SV(たとえばSVとしよう)や個別の職業名・数値などの「例示」を除外し、その例が証明しようとしている「一般的な条件・原因・結果」の文を抽出する。
- 文単位の記述(問1・問5):ダッシュ(
- 【段階4】必須要素の結合と字数調整
- 残った必須要素を論理的につなぎ、指定字数の範囲内で過不足なく説明する。字数に上限と下限がある場合は、その両方を満たす必要がある。一方、「○字以内」の設問では、必要な要素が揃っていれば、上限近くまで文字数を増やす必要はない。
この4段階手順を、今回の大問Ⅰの記述3問に当てはめると以下のようになる。
| 設問 | 【段階1】文末形式と字数 | 【段階2】根拠範囲の特定 | 【段階3】除外する要素(枝葉) | 【段階4】残す必須要素(骨格)と完成字数 |
| 問1 下線部(1)説明 | ・文形式(「〜同感だ。」) ・50字以内 | ・第1段落第1〜3文(this)+第4文(下線部自体) | ・ダッシュ内の挿入(シニア割引や記憶力低下の連想) ・ pi の同格注釈(規則性がなく繰り返さない無限の数)・第2文の小数点以下の桁数補足 | ①69歳の原口氏が円周率を11万1700桁まで暗記したこと ②それが全く驚異的に思えるなら ③私も同感だ (47字) |
| 問5 下線部(3)説明 | ・名詞表現(「〜こと。」) ・40字以内 | ・第9段落第1文の疑問文と、その問いを受ける第2文 how this happens の照応関係 | ・除外要素なし(第1文全体が主節+不可欠な関係詞節で構成されているため、表現のみ圧縮) | ①機能的に無関係な神経細胞群が ②結合して神経回路網となり ③単一の記憶になること (38字/別解40字) |
| 問6 最終段落要約 | ・文形式(「〜ることがある。/〜われる。」) ・50〜60字 | ・第13段落全文(第1〜5文) | ・ボクサー、アメフト選手、サッカー選手の例示 ・インタビュー、パンチ、プレーなどの個別表現 | ①頭部に衝撃を受けると ②直後は出来事を覚えていても ③海馬での記憶の固定化が妨げられ ④翌日には記憶が失われることがある (58字/別解56字・57字) |
重要なのは、この4段階という名称や枠組み自体を固定して覚えることではなく、「どの条件(文単位の説明か、段落要約か、どの部分が挿入・例示か)を見て、どの処理を選択するか」を別の初見問題でも再現できるようにすることである。
【熊本大学】英語の対策と復習手順
過去問演習において最も注意すべきなのは、「解説や全訳を読んで本文の内容を理解できたこと」と、「試験本番で初見の英文から同じ正答を自力で導き出せること」は全く別であるという点だ。
2026年度の大問Ⅰで確認した通り、正答を導くためには以下の客観的な処理が求められる。
- 設問要求と条件の正確な確定 日本語記述であれば「指示語を含めるのか」「何字以内(または何字〜何字)か」、選択問題や語句整序であれば「何を選ぶか・何語すべてを使うか」を最初に確認する。
- 構文規則に基づく根拠範囲の限定 感覚で前後を広く訳すのではなく、ダッシュの挿入・同格のコンマ・疑問文の問いと指示語による照応関係(第9段落第1文の疑問文 $\leftrightarrow$ 第2文の
how this happens)など、文法・構文上の目印を使って根拠箇所を特定する。 - 同形反復・言い換え(パラフレーズ)の照合 問2(ア)の
deeply (meaningful) or nonsensical$\leftrightarrow$simple or complex(対義語ペアの同形反復)や、問4の第7段落(専門的定義)$\leftrightarrow$ 第8段落(平易な言い換え)のように、英文中で同じ構造・同じ順序で繰り返されている箇所や言い換え表現を見つけて照合する。 - 文法・語法による検証 問2(ウ)の
interfere with ~や、問3のa + 形容詞 + 名詞 + 前置詞句およびin response to + 名詞節のように、文脈の意味だけでなく品詞・語法・前置詞のつながりから選択肢や語順を検証する。
別の問題へ転用するための復習ステップ
過去問や演習問題を復習する際は、答え合わせの後に次の3つの作業を反復してほしい。
- ステップ1(構造の印付け): 本文中の等位接続詞(
and,or,but)、ダッシュ(—)、コロン(:)、および反復されている構文や言い換え表現に印をつけ、「どこが対比・並列で、どこが具体例・言い換えか」を視覚的に確認する。 - ステップ2(記述要素の分解トレーニング): 記述問題の模範解答をただ写すのではなく、「本文のどの英語表現が、解答のどの日本語パーツに対応しているか(逆に、本文のどの部分が字数制限のために削られたか)」を1対1で照合する。
- ステップ3(白紙からの再現): 解説を閉じた状態で、問題文だけを見て「なぜその空所にその語が入るのか」「なぜその語順になるのか」「記述答案にどの要素を入れるべきか」を自分の言葉で説明し、解答を再現できるかを確認する。
この手順を日頃の演習から徹底することで、題材や設問形式が変わってもぶれない読解力と解答構築力を身につけることができる。

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