技術観の対立から身体的記憶の再生と心情変容を捉える
小説・物語文の読解において、登場人物の内面変化を捉える際、直接的な心情語(「悲しい」「嬉しい」など)だけを探していては、複雑な葛藤や心理の深層に迫ることは難しい。特に、価値観や技術に対する考え方の対立を契機として人物が自己の思いに目覚めていく現代小説では、対話における論理の食い違い、過去の記憶の喚起、そして聴覚や嗅覚といった感覚描写と行動の連動を客観的に追跡する力が求められる。
2025年度の鳥取県公立高校入試・国語の大問2で出題されたまはら三桃の『鉄のしぶきがはねる』は、工業高校を舞台に、祖父の鉄工所閉鎖という過去から職人技と距離を置き、「コンピューターによる数値化やデータ管理」を重視する高校1年生の心(しん)と、旋盤技術の向上に打ち込み技術を「身体感覚」として捉える3年生の原口との対話を描いた文章である。身体感覚として身につき、言葉では説明できないという原口の技術観を「あてにならない」と考える心が、原口の「ものづくりは、楽しいからだ!」という一言を契機に、かつて自らが体験した鉄を削る身体感覚をよみがえらせ、ものづくりへの本心に向き合っていく姿が描かれている。
文章の筋や登場人物の言動を大まかに追うだけでは、入試本番で合格ラインに達する解答を作成することはできない。本問を確実に解き切るためには、文脈に合致する語句の意味判定、二重の対話における相反要素を抽出する記述力、指示語が指す抽象的な対象の客観的限定、対比構造に基づく空欄補充、そして感覚描写が果たす表現効果の分析を処理する明確な手順が必要である。本稿では、各設問の解法手順に基づき、2025年度鳥取県大問2の全問について、その思考プロセスを分解・明示する。
『鉄のしぶきがはねる』(まはら三桃)の要約と人物関係
本文は、技術のあり方をめぐる主人公・心の問いかけから始まり、原口との価値観の衝突を経て、心の奥底に眠っていた感覚と情熱が身体全体でよみがえる構造を持つ。
- 論理の全体構造
- 発端(心の背景と小松さんの技術に対する疑問)心は幼少期に祖父の鉄工所で職人の技を眺めるのが好きだったが、技術流出による閉鎖と祖父の死を機に職人気質のものづくりと距離を置き、工業高校では「コンピューター研究部」に所属している。ものづくり研究部の指導者・小松さんが見ただけで寸法や製作者を見抜く技量について、心は原口に尋ねるが、原口から「本人に聞け」と言われていったん突き放されたように感じた直後に、「本人も分からないだろう」と続けられ、さらに困惑する。
- 展開(「数値・データ」と「身体感覚」の対立)原口は、身についた技術とは「自分の中の感覚」であり、言葉や数値では他人に説明できないものだと語る。心はこれに対し、コンピューターであれば数値や言葉として安全に保存・出力できると反発する。さらに原口が「コンピューターはプログラム以外のことには対応できない」と指摘すると、心は過去にコンピューターが微細な差異で動かなかった苦い経験を思い出しつつも、悔し紛れに「臨機応変に対応できるようになる」と言い返す。
- 転換(「ものづくりは、楽しいからだ!」という一喝)原口は、旋盤のような技術が古臭いと言われようと、ものづくりはなくならないと言い切る。その理由は単純明快に「楽しいからだ!」というものであった。その言葉を聞いた心は強い衝撃を受け、しばらくぼんやりと立ち尽くす。
- 結末(身体感覚の想起と工場への疾走)一人になった心の手のひらに、かつて祖父の工場で初めてフライス盤を使って鉄を切ったときの強烈な手ごたえがよみがえる。心の中で何かが動き出し、足は無意識に工場へと向かう。漏れ聞こえる機械音や切削の高音、機械油と焼けた鉄の匂いに全身を包まれた心は、体ごと工場の扉を開けて飛び込み、「私にもやらせてください」と叫ぶ。
心と原口における「技術とものづくり」の対比マトリクス
| 比較項目 | 心(コンピューター研究部・1年) | 原口(ものづくり研究部・3年) |
| 技術の定義 | 数値や言葉に置き換えて客観的に保存・出力できるデータ。 | 測定器やセンサーを自分の体の中に入れるような「自分の中の感覚」。 |
| 技術への信頼 | 数値や言葉として保存でき、必要なときに取り出せ、適切に管理すれば盗まれにくい。 | 言葉で他人に説明することはできないが、職人の身体に深く宿るもの。 |
| 柔軟性への認識 | いずれプログラムの進化により、あらゆる不都合に臨機応変に対応できる。 | プログラムされたこと以外には対応できず、人間の技のほうが数段上。 |
| 動機・背景 | 祖父の鉄工所をめぐる経験を背景に、身体感覚に依存する技術より、数値やデータとして扱える技術を信頼している。 | 損得や合理性を超えた「ものづくりは、楽しいからだ!」という純粋な情熱。 |
| 最終的な変化 | 記憶・身体感覚・複数の感覚が刺激され、ものづくりへの本心に気づき行動を起こす。 | 心に対して職人技の身体性とものづくりの原点を突きつけ、去っていく。 |
全問解答一覧
| 問 | 正答・答案 | 選択肢・答案内容 | 形式・条件 |
| 問一 | ウ | 不思議で訳の分からない様子。 | 語句の意味(最も適切なものを1つ) |
| 問二 | 原口が、小松さんの技術のことは本人に聞けと言ったあと、本人も分からないと相反することをつけ足したから。 | (心が「今度は混乱した」理由) | 記述(理由説明・60字以内・51字) |
| 問三 | 技術を自分の体の中に感覚として身につけるということ。 | (心が「あてにならない」と考えた内容) | 記述(内容説明・30字以内・26字) |
| 問四 | エ | 臨機応変にあらゆる不都合に対応できる | 空欄補充(最も適切なものを1つ) |
| 問五 | ウ | ものづくりに対する自分自身の本当の気持ちに気づきはじめている。 | 心情説明(最も適切なものを1つ) |
| 問六 | ア | 聴覚や嗅覚を通した描写により、心の体全体がものづくりにひきつけられていることを印象づける。 | 表現効果(最も適切なものを1つ) |
【大問2】各設問の解答解説と思考手順
問一 「怪訝」の意味
- 手順1(設問要求):傍線部1「怪訝」の意味として最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
- 手順2(根拠範囲と文脈):本文冒頭の対話場面を精査する。
- 「『あの。ひとつきいてもいいですか』……『小松さんは、どうして見ただけで部品の寸法とか、つくった人がわかったりするんでしょうか』原口は1 怪訝そうに振り返る。原口はちょっと考えるように黙ったあと、首をひねってから答えた。『本人にきいてくれ』」
- 手順3(論理整理):
- 心はコンピューター研究部の生徒であり、普段から旋盤に向き合っているわけではない。その心が突然、熟練技術者・小松さんの感覚的な能力の根拠を尋ねてきたため、原口は「なぜそんなことを聞くのか」「どういう意図なのか」と事情が呑み込めず、いぶかしく思って振り返っている。
- したがって、「事情が分からず、不思議に思う」という意味を表す語が適合する。
- 手順4(選択肢の照合):
- ア「機嫌が悪く面倒くさがる様子。」:不機嫌や面倒を意味する語句(億劫など)であり不適切。
- イ「恐ろしくて不安を感じている様子。」:恐怖や不安を表す文脈ではない。
- ウ「不思議で訳の分からない様子。」:辞書的語義および前後の文脈に合致する。
- エ「恥ずかしさを感じている様子。」:羞恥を表す語句(照れくさいなど)であり不適切。
- 結論:ウ
問二 心が「今度は混乱した」理由
- 手順1(設問要求):傍線部2「今度は混乱した」とあるが、心が混乱したのはなぜか。60字以内で記述する。
- 手順2(根拠範囲の特定):傍線部2の直前文および前後の対話の流れを精査する。
- 心の質問:「小松さんは、どうして見ただけで……わかったりするんでしょうか」
- 原口の発言①:「本人にきいてくれ」 $\to$ 心は「突き放されたような気持ち」になる。
- 原口の発言②:「でも、小松さん、自分でもわからんやろうなあ」 $\to$ 心は「今度は混乱した」。
- 手順3(論理整理):
- 前提の推移:「今度は」という言葉から、直前の「突き放された気持ち(答えを教えてもらえない不満)」から次の感情へ段階的に移行したことがわかる。
- 混乱の直接的原因:原口の発言①(小松さん本人に聞けばわかる)と、発言②(小松さん本人にも分からないだろう)という、論理的に両立しない相反する内容が立て続けに提示されたことにある。
- 答案に必要な要素:
- 要素①:原口が小松さんの技術について「本人に聞け」と言ったこと。
- 要素②:その直後に「本人も分からないだろう」と相反する内容を付け足したこと。
- 文末:理由を問われているため「〜から。」で結ぶ。
- 手順4(答案の合成と文字数計算):
- 合成:「原口が、小松さんの技術のことは本人に聞けと言ったあと、本人も分からないと相反することをつけ足したから。」
- 文字数:句読点を含めて51字(60字以内の指定を過不足なく充足)。
- 結論:原口が、小松さんの技術のことは本人に聞けと言ったあと、本人も分からないと相反することをつけ足したから。
問三 心が「あてにならない」と考えた内容
- 手順1(設問要求):傍線部3「あてにならない」とあるが、心は原口の話を聞いて、どのような内容が「あてにならない」と言っているのか。30字以内で記述する。
- 手順2(根拠範囲の特定):傍線部3の直前の原口の発言と、心の思考を精査する。
- 原口の発言:「それが身についた技術っていうもんやろ。自分の中の感覚やけん、人には説明できんのやないか? 『測定器もセンサーも自分の体の中に入れろ』ってよく言っとる」
- 心の反応:「『体の中に』心は繰り返してみる。……とたんに砂の塊をかんだような気分になった。そのとおり、体の中だけに詰めていたらよかったのに。」
- 傍線部直後:「『いいえ。3 あてにならない話だなと思って。コンピューターなら必要なデータはきちんと数値や言葉にして保存できるし、出したい時にはいつでも出せる。……』」
- 手順3(論理整理):
- 心が批判しているのは、原口という人物そのものではなく、原口が語った「技術のあり方」である。
- 原口の主張の核心:技術とは、客観的なデータではなく「自分の体の中に感覚として身につけるもの」である。
- 心の姿勢:技術は「数値や言葉として保存できるデータ」であるべきであり、個人の身体感覚に頼る技術観は確かな根拠をもたない曖昧なもの(=あてにならない)に思える。
- したがって、「技術を自分の体の中に感覚として身につけること」を答案骨格とする。
- 手順4(答案の合成と文字数計算):
- 合成:「技術を自分の体の中に感覚として身につけるということ。」
- 文字数:句読点を含めて26字(30字以内の指定を過不足なく充足)。
- 結論:技術を自分の体の中に感覚として身につけるということ。
問四 空欄に入る言葉
- 手順1(設問要求):本文中の空欄にあてはまる内容として最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
- 手順2(根拠範囲と文脈):空欄の前後を精査する。
- 原口の発言:「コンピューターにはプログラム以外のことには、対応できん。人は技を鍛えてさえおけば、どんな仕事にも対応できる」
- 心の内面:「さっきのパソコン画面が思い出されて、痛いところをつかれたような気分になった。微細な差異に反応して、作動しなかったのは、精密さの裏返しではあるけれど、いざという時には確かに困る。」
- 心の発言:「悔し紛れに言い返すと、……『そのうち、[ ]コンピューターもできますよ。っていうか、もうできるかもしれんし』」
- 手順3(論理整理):
- 原口の主張:「コンピューターはプログラムされた既定の処理しかできず、予期せぬ不都合に対応できない」。
- 心の心理:コンピューターが微細な差異で作動しなかった弱点(臨機応変さの欠如)を自覚し、「痛いところをつかれた」と感じている。
- 心の反論:その弱点を突かれた悔しさから、原口の主張に対抗して「プログラム以外の不測の事態や予期せぬトラブルにも柔軟に対応できる」という対極の能力をコンピューターに期待して言い返している。
- 手順4(選択肢の照合):
- ア「自由自在にどんなものでも製作できる」:製作できる製品のバリエーションの問題ではなく、不都合への対応力が論点である。
- イ「以心伝心で人の思いを察知して作動できる」:人間の感情を察知することについての議論ではない。
- ウ「不眠不休でテクノロジーの進化に貢献できる」:稼働時間や技術革新への貢献は論点とずれている。
- エ「臨機応変にあらゆる不都合に対応できる」:原口の「プログラム以外のことには対応できん」および直前の「微細な差異で作動しなかった」という弱点に直接呼応し、正面から反論する内容として合致する。
- 結論:エ
問五 「体の中で何かが揺れた」ときの心情
- 手順1(設問要求):傍線部4「体の中で何かが揺れた」とあるときの心の心情として最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
- 手順2(根拠範囲):傍線部4の前後の展開を精査する。
- 原口の発言:「ものづくりはなくならんよ。なぜなら」「ものづくりは、楽しいからだ!」
- 直後の描写:原口が立ち去った後、心は「小一時間ほどもぼんやりしていた」。自転車のハンドルを握った瞬間、「手のひらに硬い手ごたえを感じた」。
- 過去の想起:「初めてフライスで鉄を切った時以来、何度となくあの時の感触がこの両手によみがえってきていたのだった。」
- 傍線部4の直前直後:「風もないのに、4 体の中で何かが揺れた。心は駆け出す。どこへ行くかは、頭より先に足が了解しているらしい。」
- 手順3(論理整理):
- 原口の「楽しいからだ!」という言葉と、手のひらに残る「鉄を切った感触」が引き金となり、心の中に押し込められていた感覚が刺激されている。
- 心は祖父の工場の閉鎖以来、ものづくりに対して複雑なわだかまりを抱え、合理的なコンピューターの世界に身を置いていた。しかし、原口の一言によって、頭で考えていた理屈を超えて「自分自身もものづくりの感触や楽しさに強くひきつけられている」という本心に気づき始めた瞬間を表している。
- 手順4(選択肢の照合):
- ア(不適切):「ものづくりは時代遅れだと思っていた」「原口に負けないような技術を身につけたいという強い願望」は本文にない。勝負意識ではなく、ものづくりへの引力が描かれている。
- イ(不適切):「原口を受け入れようとする気持ちが芽生えている」は焦点がずれている。対人関係の受容ではなく、心自身のものづくりへの愛着の自覚が主題である。
- ウ(適切):「ものづくりに対して複雑な思いを抱いていたが、原口とのやりとりがきっかけとなって、ものづくりに対する自分自身の本当の気持ちに気づきはじめている」は、心の心理的変容を的確に捉えている。
- エ(不適切):「自分の考えが間違っていたことに気づき動揺を隠せなくなっている」は不適切。単なる自説の否定やうろたえではなく、「頭より先に足が了解しているらしい」という本文表現に表れているように、理屈より先に行動が動き出している(前向きに工場へ駆け出す行動に直結している)。
- 結論:ウ
問六 本文末の感覚描写の表現効果
- 手順1(設問要求):本文末の表現の効果を説明したものとして最も適切なものをア〜エから一つ選択する。
- 手順2(根拠範囲の特定):本文最終段落の感覚描写を精査する。
- 聴覚の描写:「『シュルーン、シュルルーン』工場からもれる機械音に、心は耳を澄ます。……バイトが鉄に触れる瞬間の挑むような高音が。……心の中のいちばん深いところにまっすぐ響く。」
- 身体の反応:「旋盤で挽く、削る、ドリルで揉む、平面をきさぐ。まだ充分にできない技術を手が欲しがるように震えた。」
- 嗅覚の描写:「匂い立つ機械油と、焼けた鉄の酸っぱいような匂いが鼻腔をさす。激しいほどに強い鋼の気配がどうしようもなく体を包んだ。」
- 結びの行動:「心は体ごと、工場の扉を開けて飛び込んだ。『私にもやらせてください』」
- 手順3(論理整理):
- 結末部では、「私はものづくりがしたい」といった説明的な心情語を排し、工場の機械音(聴覚)、機械油や焼けた鉄の匂い(嗅覚)、手の震え(身体反応)を具体的に描写している。
- これらの描写を通じて、心が理屈や計算ではなく、体全体で抗いようもなくものづくりの現場へひきつけられ、突き動かされている様子を印象づけている。
- 手順4(選択肢の照合):
- ア(適切):「心が聴覚や嗅覚をとおして感じたことを表現することで、体全体がものづくりにひきつけられていることを印象づけている」は、本文末の感覚描写と行動の一致を的確に説明している。
- イ(不適切):「原口に思いを理解してもらえないもどかしさやいらだち」を中心とした描写ではない。原口とのやり取りはすでに終了している。
- ウ(不適切):「ものづくりに距離を置いていたことに後悔を感じていること」を強調しているのではない。後悔ではなく、現在の情熱と行動への跳躍が主題である。
- エ(不適切):「長い時間が経過していたことを強調」「二人の感情的なへだたりの大きさ」は明確な誤り。時間経過は場面転換の背景にすぎず、主眼は心の身体的衝動にある。
- 結論:ア
授業ではここまで扱う:小説文における「対立から身体反応・行動への変容」読解手順
実際の授業では、単に設問の正答を照合するにとどまらず、価値観の対立を扱った小説文において「理屈の葛藤が身体反応や行動へと昇華されるプロセス」を客観的に図式化する手順を指導する。
心理変容の4段階プロセス
小説において登場人物の認識が動く場面では、抽象的な議論の対立から、身体的な感覚の想起、そして行動へと段階的にエネルギーが移動していく。
| 変容段階 | 本文における具体的な事象・対話 | 主人公・心の内面と身体の状態 | 読解・解法上の着眼点 |
| ① 理屈の対立 | 小松さんの技術をめぐり、数値化(心)と身体感覚(原口)が衝突する。 | 祖父の工場の閉鎖を背景に、感覚に頼る技術を「あてにならない」と考える。 | 原口の発言の矛盾(問二)や、批判対象の客観的特定(問三)を行う。 |
| ② 痛烈な指摘と動揺 | 原口から「プログラム以外に対応できない」「楽しいからだ!」と一喝される。 | 弱点を突かれて悔し紛れに反論しつつも、言葉の強さに圧倒されて呆然とする。 | 心の反論の背景にある「痛いところをつかれた」自覚を捉える(問四)。 |
| ③ 身体的記憶の再生 | 自転車のハンドルを握り、フライス盤で鉄を切った感触が両手によみがえる。 | 頭の理屈が揺らぎ(「体の中で何かが揺れた」)、足が勝手に工場へ向かう。 | 直接的心情語ではなく、手の感触の想起から本心への気づきを捉える(問五)。 |
| ④ 感覚刺激と行動の直結 | 機械音(聴覚)、機械油と鉄の匂い(嗅覚)に包まれ、手が震える。 | それまでの理屈だけでは抑えきれない衝動に動かされ、工場の扉へ飛び込んでいく。 | 複数の感覚描写が「体ごと飛び込む」という行動を支える効果を見抜く(問六)。 |
重要なのは、「技術への反発から理解へと変わった」という表面的な筋書きをなぞることではない。理屈を重視していた主人公が、どのような感覚的契機(手のひらの記憶、音、匂い)によって自己の本心を取り戻し、最終的な行動へと跳躍したのか、その因果の連鎖を本文の具体的な描写から客観的にたどることである。
【鳥取県】国語・小説文の対策と復習手順
2025年度の本問では、技術観をめぐる対話劇から、感覚描写を伴う情熱の奪還へと至る小説文が出題され、語句・記述(51字・26字)・空欄補充・心情把握・表現効果まで、客観的な読解力を問う設問がバランスよく配置された。対策においては、主観的な感情移入を排し、以下の手順を定着させることが重要である。
- 1. 対話文における「相反する発言の対比と二段階の心情追跡」問二のように「混乱した理由」を問われた場合、直前の会話を丹念に精査する。原口の「本人に聞け」と「本人も分からない」という論理的矛盾を正確に対比させ、さらに「突き放された気持ち $\to$ 食い違いへの混乱」という感情の二段階の推移を捉えた上で、因果関係の骨格を過不足なくまとめる訓練を積む。
- 2. 批判・評価表現における「指示対象の客観的限定」問三のように「あてにならない」の内容を問われた際、感情的に人物(原口)を主語にしてはならない。指示語や文脈を手がかりに、心が何を疑っているのか(=技術を体の中に感覚として身につけるという考え方)を、本文の言葉を客観的に組み合わせて名詞節(「〜ということ。」)にまとめる手順を確立する。
- 3. 直接的心情語に頼らない「感覚描写・身体反応からの内面復元」問五・問六のように、登場人物が心情を独白していない場面では、聴覚・嗅覚・視覚などの感覚描写や、身体の無意識の動き(手の震え・足の疾走・扉への飛び込み)に着目する。描写がどのような心理的エネルギーを表現しているのかを客観的に結びつけ、選択肢の安易な言い換え(「後悔」「いらだち」など)に惑わされずに正答を射抜く読解力を養う。
過去問演習の復習においては、「単に正解を選べたか」で終わらせず、「問二の記述で二つの発言の食い違いを漏れなく書けたか」「問四で心の悔し紛れの心理を読み取れたか」「問六で感覚描写と行動の結びつきを説明できるか」を徹底的に検証することが、初見の文章でも揺るぎない得点力を発揮するための確かな礎となる。

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